株式会社 電通において、社会課題を起点としたコミュニケーションのプランニングを行う社内横断チーム「新!ソーシャル・デザイン・エンジン」は、全国10〜70代の男女計2500名を対象に、「エシカル消費 意識調査2022」を実施しました。その調査結果の概要については、こちらの記事にてレポートしています。今回は、この調査の担当者である電通の稲野辺海氏に、調査結果のポイントやそこから見えてくる今後の展望などについて聞きました。
SDGsを中心に「ソーシャルグッド」な領域に対する関心度が高まってくる中で、「エシカル消費」というのも重要なキーワードになっています。しかし一方で、まだまだエシカル消費というものになじみがない人もたくさんいるのではないでしょうか。本記事を、エシカル消費の普及に対し、自社はどのような取り組みをしていけばいいかを考える参考にしていただければ幸いです。
「エシカル消費」の認知は確実に浸透しているが、実践にはまだハードルが存在
Q.稲野辺さんは「エシカル消費 意識調査2022」を担当されていますが、「エシカル」をテーマに仕事を始めた経緯は何だったのでしょうか?
入社後、幾つかのクライアント企業を担当する中で、SDGsをテーマにしたキャンペーンに携わったり、社会課題解決目線で商品開発を行ったりといった経験をさせていただいたのですが、なかなか思うようにはいかないな、というのが正直な感想でした。テーマだけが先行してなかなかファクトが伴わなかったり、短期的な販促につながりにくいものはテーマにならなかったりする中で、まずは何よりも自分が正しい知識やファクトを身に付けなければ、クライアント企業の課題に応えきれないのでは、という問題意識を持つようになりました。
そこで、一般社団法人エシカル協会が実施している「エシカル・コンシェルジュ講座」を受講して、エシカルというテーマでさまざまなことを学びました。すると、たまたま電通の先輩社員が同じ講座を受けていて、その方といろいろなことを話す中で「エシカルというテーマで仕事をしていくためには、そもそもエシカルというテーマに対して、世の中は本当に興味を持っているのか・理解はどの程度進んでいるのか、といった基本的なファクトを押さえなければいけないのでは」という考えに至りました。そこで2020年に初めて「エシカル消費 意識調査2020」を実施したのです。そこから2年経ち、情報更新の必要を感じ、2022年版の調査を実施、その結果を2022年6月に発表しました。
Q.2020年、2022年と、2回にわたって調査を行ったわけですが、特に今回の調査結果の中で気になったのはどのような点でしょうか?
ただ、その中でも幾つか「変化の萌芽」のようなものは見られました。例えば、エシカル消費に「関心がある」という人の割合は、2022年の調査でもそれほど多くなっていません。しかし、2020年の調査では「関心がない」という回答者が最も多かったのに対し、今回は「どちらでもない」という回答者が最大ボリュームでした。つまり、エシカル消費という言葉が徐々に浸透していく中で「関心がない」とは言えないけれど、どうしたらいいか分からない、という人が増えてきているのではないでしょうか。
一方で、エシカル消費に対して「実施意向がある」という人を見てみると、食品ロス対策など、日々の生活の中で取り組めて、価格的にもハードルが低いようなところから取り組みが進んでいるようです。やはり、エシカル消費を広げていくためには、どれだけ実施のハードルを下げられるかが重要であることが分かります。
購入するものの「背景を知る」ことが重要。その商品は、本当に課題解決につながっているか?

Q.そもそも、「エシカル消費」とはどういうことでしょうか?稲野辺さんはどのように定義をしていますか?
Q.エシカル消費をテーマにしたお仕事に取り組む中で、最近こんな相談が増えている、ということはありますか。
業界によっても、取り組みに対して大きな差があります。「食品ロス対策」は取り組みが先行して進んでいる領域です。例えば、大豆ミートは随分と普及していて、選択肢も増えてきています。それ自体はいいことなのですが、よく見ると、添加物が多いものや、生産過程でエネルギー効率が非常に悪い、というプロダクトもあります。健康という観点も加えてみると、より良い選択肢はもっとあるのかもしれません。
また、再生可能エネルギーへの興味はかなり高まってきていますが、価格が不安定であることから、実施意向の増加にはつながっていません。特に最近は物価が上がってきていますし、ただエシカル消費が良いから、というだけでは選べない消費者もたくさんいるでしょう。流れが変わってきているのは感じるので、ここでもう少し頑張りたいところです。例えば「環境にいい=機能も高い」というように、高機能であることを示すことで価格のハードルを乗り越えられるかもしれません。今が過渡期だと思いますし、企業間でも消費者間でも二極化が進んでいると思います。
Q.今、稲野辺さんが一番やってみたいと思っていることは何ですか?
それを踏まえて、今はファクトの先のアクションに積極的にチャレンジしたいです。エシカル消費意識の高い人たちにきちんと選んでもらえるようなプロダクトやサービスを開発したいですし、何よりもまずは、その人たちと相互でコミュニケーションができるようにアプローチしたいと思っています。全員が同じ意識・関心を持っているわけではないので、まず意識の高い人をしっかりとターゲティングできるような環境を生み出すこと。そして、お互いが求める情報や体験を受け取り合える関係になることを目指していきたいと考えています。
「認知は広がっているが、具体的なアクションにはまだ踏み出せていない消費者が多い」という状況は、まさに稲野辺氏が言うように「過渡期」ということなのではないでしょうか。つまり、ここから一気に社会の流れが変わる可能性があるというタイミングでもあります。今のうちから準備をしておき、社会の変化に取り残されないようにしたいものです。
また「プロダクトやサービスの裏側を知りたい」という消費者のニーズは、今後ますます高まっていくことが予測されます。社会課題解決をうたいながら、実はその裏側では別の課題を生み出していた、ということがあれば、それは企業にとって致命的なダメージになりかねません。「売れるかどうか」という視点だけではなく、「自社にリスクをもたらすかどうか」という視点からも、自社の生産活動を見直してみてはいかがでしょうか。