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2022/10/21

ビジネスメディア事業統括が語る、オウンドメディア運用のコツ

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ある程度の事業規模を持つ企業であれば、その多くが自社Webサイトを開設しているのではないでしょうか。中には、PRリリースはもちろんのこと、さまざまな情報を積極的に発信している企業や、SNS運用が盛んな企業もあるでしょう。多くの企業がこうした「オウンドメディア(自社が保有するメディア)」を持ち、それを活用して多様なステークホルダーに対してコミュニケーションを展開しています。オウンドメディアにおいて財務情報を積極的に展開することは、投資家から支持を得るための最低限のアクションと言えるかもしれません。

一方で、本当にオウンドメディアを有効に活用できているか自信がない、という企業も多いのではないでしょうか。最低限のことしかできていない、あるいはコストをかけていろいろ取り組んではいるものの、目に見える成果に結びつかない、といった課題を多くの企業が抱えています。そこで本記事では、「Z・ミレニアル世代向けビジネスメディア」として多くの若手ビジネスパーソンに支持され、月間1700万PVを超えるAMP(アンプ)の渡邊雄紀事業統括にインタビュー。ビジネスメディアを運営しているプロの立場から、どうしたら企業のオウンドメディアを有効に活用できるか、さまざまなアドバイスをもらいました。

オウンドメディアは「自社の課題解決の手段」である

Q.そもそも「オウンドメディア」とは何でしょうか?言葉そのものは浸透しているとは思うのですが、あらためて渡邊さんの捉え方を教えてください。

渡邊:「オウンドメディア」というと、いわゆる自社のWebサイトやリード獲得サイトなどをイメージする人が多いと思いますが、基本的には「自社で持っているメディアの全て」を指します。自社のWebサイトはもちろんのこと、ソーシャルメディアやパンフレット等も含めて、自社で運用し内容をコントロールできるものが該当します。その運用目的は「自社企業の課題解決のため」ですが、課題解決とは具体的に何かと言えば、「認知拡大」「ブランディング」「サービス利用者の増加」「リード顧客の獲得」「採用」など、役割はさまざまです。

あらゆる企業が自社のWebサイトを持つ時代になりました。続いてソーシャルメディアもメジャーとなり、企業も運営するようになった。ペイドメディア(企業が広告費を払って広告を掲載するメディア)とは異なり、社内リソースを活用できるため、成果が出ればコストパフォーマンスが高いことや、自社の中長期的なアセットとしていけることから、「オウンドメディアを上手に運用し、自社のファンを広げていく」ことが重要だと言われてきました。しかし、いざやってみるとなかなか目に見える効果が出ないと感じる企業も多く、オウンドメディアに対する意識は、世の中としても低調になった時期があったように感じます。人々の嗜好が多様化し、情報もコミュニティも分散していく中で、ユーザーを獲得することがとても難しくなってきました。Yahoo!ニュースやSmartNewsに代表されるキュレーションメディアに自社の発信が取り上げられてバズることはあるかもしれませんが、それはレアケースです。近年は、自社のストロングポイントをどう打ち出していくかを考え、会社の立ち位置やスタンスを発信していかなければいけないのではないか、という考え方がまた強くなってきています。その流れでオウンドメディアへの注目が再び高まってきているように感じますね。
株式会社 電通PRコンサルティング 渡邊雄紀氏

成功のためには「目的がブレない」ことが重要。その視点から冷静な判断を

Q.オウンドメディアの運用を成功に導くためには、どのようなゴール設定をするといいのでしょうか?

渡邊:オウンドメディアを運用する目的は、各企業それぞれの課題に合わせて設定されるものだと思います。重要なのは、当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、短期ではなく中長期的な視点からブレイクダウンしたマイルストーンと意味のあるKPIをもって、目的をぶらさず運用することです。ターゲット設定をしっかり行い、その人たちから適切な認知を得る。そこで得たノウハウや価値を新しいお客さまへ訴求する強みにする、という道筋をきちんと設定し、その中でKPIをしっかりとマネジメントしていくことが基本的なスタンスです。ところが、「コンテンツ閲覧数が伸びない」「コンバージョンに結び付かない」といったことが数字で上がってくると、結果が出るまでこらえ切れずに目先の数値へ執着してしまうことがよくあります。それによって、ターゲットがぼやけてしまったり、発信する内容が目的とブレたりと、本来必要のない多大な労力やコストを割きながら、結果として最短距離を進むことができなくなります。

オウンドメディアの目的は「認知拡大・ブランディング」「リード獲得」「採用ブランディング」など、企業によってその形はさまざまです。その中で結果を出しているのは、読者の課題(ニーズ)を鋭く読み解き、その解決策として自社のソリューションへと結び付けるという、“切り口による課題設定”と“文脈による解決”を、目的と符合させながら運用ができているところが多いと感じます。もちろん読者に飽きられずに、価値を提供し続けなければいけないのがオウンドメディアなので、トレンドなども取り入れながらあらゆる手を考えなければいけません。しかし、それが目的と外れたものになってしまっては、得られる結果は満足のいくものではないですよね。

Q.企業においてオウンドメディアを運営しているのは、どういった部署の人が多いのでしょうか?

渡邊:一般的には、広報を管轄する部署が多いかと思います。そのため、コンテンツ制作や発信のための戦略策定について、十分な知見やリソースがないケースが散見されます。だからこそ、外部の制作会社などに制作から運営までの全てを頼ってしまう、という状況が生まれやすい。しかしそうではなく、企業の担当者自身が在りたき姿を明確化した上で、実現に必要な体制を構築することが重要です。そのためには、発注・受注の垣根を取り払ったチームとなってパートナーと協業することが大切。他社の成功事例などのモデルケースを定め、施策ごとのKPIをはっきりさせながらPDCAを回していっていただきたいですね。

テクノロジーの進化に伴い、発信形態も変わってきています。動画の形もバラエティに富んできていますし、今後VRやメタバースの活用なども広がるでしょう。だからといって、テキストの重要性が失われることは直近ではないはずなので、今後もテキスト発信による価値創造の可能性はまだまだあると思います。情報がどう流通しているのかをさまざまな角度から見極めながら、目的を果たすための最短ルートを常に考え、最適なコンテンツを最適な場所で配信することを目指すことが重要だと思います。

Q.オウンドメディアは、最近どのような変化をしているのでしょうか?そして今後の未来像はどのようにイメージしていらっしゃいますか?

渡邊:正直なところ「オウンドメディア特有のトレンド」といったものは今のところないと感じています。どちらかといえばデジタルマーケティングの潮流がいろいろとあって、その流れの中でオウンドメディアのリーチ手法が変化している、という関係にあるんだと思います。最近は、UGC(※1)注目されたり、インフルエンサーを活用したりすることが増えてきていますが、これらもマーケティング施策のトレンドを活用したものなので、おそらくメタバースやWeb3.0といったテクノロジーが大きく進化しない限りオウンドメディア自体が劇的に変化するということはあまりないのではないかと思います。ただ、今後は「オウンドメディアの中の人」が積極的に外に出ていくことでインフルエンサー化するということも増えると思いますし、サステナビリティの視点が求められる今、いかに自社をブランディングするのか、という観点も重要になってきそうです。

ソーシャルメディアについては、活用方法に悩んでいる企業も少なくないかもしれません。「制作した記事を配信する」ということにのみ陥ってしまい、シナジーを生めていないケースが多くあります。あらためて目的に立ち返った時に、本当にソーシャルメディアまで手を広げることが必要なのか、実施するのであればどの媒体をなぜ活用するかの判断をした方がいい。プラットフォームが増えたからあれもこれもとやっていくのではなく、限られたリソースの中で生産性を最大化するための引き算も必要です。

 

オウンドメディア運用で重要な点は、目的に応じた体制を構築できるかどうか

Q.あらためて、オウンドメディアを上手に運用するためには、どのような点が重要だとお考えですか?

渡邊:これは企業経営も同じだと思いますが、良い成果を出すために一番重要なのは「視線をそろえた体制構築」だと思っています。良質なコンテンツを定期的に出していくには、やはり外部のリソースも含めた制作体制を整えなければいけません。ただその時に、社内体制が不十分だからといって制作会社に全てを任せることになってしまうとうまくいかない。運用において、どのような人材やスキル・ノウハウが足りないかを見極めて、主体性を持ってディレクションしていくことが必要です。オウンドメディア運用の外注=制作会社や編集プロダクションに頼む、というのが発想としては第一に来るとは思いますが、今は多様な働き方が浸透しているので、フリーランスの個人や副業の方であっても、自社に見合った能力を持っていれば積極的にパートナーシップを築くべきです。その上で、パートナーを含めたチームの「ここを目指すんだ」という視線がそろえられれば、うまくドライブしていくと思います。

続いて、狙ったターゲットにきちんと届けられているかどうか。アプローチする方法論として、最適なプラットフォームがあるのならソーシャルメディア展開も必要でしょうし、noteとの連携なども選択肢になるでしょう。その上で、広告もうまく使うことをお勧めします。広告を使うと聞くと「お金でPVを買う」というイメージを持たれる方もいるかもしれませんが、ユーザーにとって有用な情報なのであれば、広告経由であろうとなかろうと関係ありません。また、広告の配信結果によってその記事の価値を見極めることもできます。費用は少なくてもいいので、「きちんとターゲットに届け、数値分析によるコンテンツのブラッシュアップを行う」ということを実践していきましょう。

制作体制が整い、ターゲットに一定数アプローチできて、初めて「成果」を議論する段階に入れます。その時に陥りがちなのは「流入数だけを見て評価してしまう」ことです。しかし、今はターゲットに対して、狙い通りの届け方ができているかどうかが何より重要な時代です。

私もAMPというビジネスWebメディアを運営していますが、体制づくりが最も大変でした。まず、何よりもメディアとしてあるべき記事量を確保しなければいけない。当然、その上で良質な記事を出していかなければならない。それを生み出していくだけの体制を固めるまでは非常に苦労しました。
AMPは「メディア事業」ですので、売り上げが重要になるのですが、多くの企業にとってオウンドメディアは事業ではなく「ツール」です。ほとんどの企業が自社のWebサイトを持っているため、Webにおけるブランディングやリード獲得などを考えた際、オウンドメディアは「取り入れなければならない取り組み」になってきています。そしておそらく、自社の情報やスタンスを発信する手段としての重要性は今後ますます高まっていくでしょう。

個人的な予測ですが、オウンドメディアにも「企業連携」という動きが生まれるかもしれないと思っています。あるターゲットに対して、そのニーズに応える複数の企業が集まって展開するようなオウンドメディアです。自社の提供する商品やサービスだけだと、ターゲットとの接点はどうしても限定的になる。しかし、複数社が集まることで、そのターゲットに「一体となってアプローチし続けられる」という状態が実現し、マーケティングチャンスも拡大します。そんな新たな可能性のある「ジョイント・オウンドメディア」のようなものが広がっていくことも1つの未来像ではないかと思っています。

 


 

オウンドメディア成功のポイントは「体制構築」という示唆は、やや当たり前なものと感じられるかもしれません。しかし、これは本質的なアドバイスです。情報発信機能そのものは、メインの事業領域とは距離がある企業も多いため、自社のリソースだけではメディア運用をやり切れず、外部に「丸投げ」するもうまくいかない、という状況に陥るケースはたくさんあるはずです。

特に昨今は、企業ガバナンスの強化や投資家のプレゼンス向上、脱炭素社会への取り組み、あるいは人的資本経営といったさまざまな流れの中で、企業存立の根幹を支えるコーポレート機能が、企業価値を大きく左右する要因になる傾向が高まっているように感じます。企業価値を高めていくためには、自社が取り組んでいる事業そのものの価値を高めることはもちろんですが、「企業としての理想的な姿」をどれだけ実現できているか、という目線で自社をチェックすることで、成長につながる課題や解決策が見えてくるかもしれません。

渡邊氏には、オウンドメディアで数字が出ない時のテコ入れや、ユニークなコンテンツを継続的に生み出すための体制づくりなど、メディア関連の相談が数多く寄せられます。また、20〜30代のビジネスパーソンのインサイトから行動に導く施策などもお手伝い可能。ぜひ一緒に考えてみませんか?お問い合わせは本サイトのCONTACTから。

 

※1 UGC:User Generated Contentsの略語。ユーザー生成コンテンツ:ユーザーの手によって制作・生成されたコンテンツの総称

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※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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