SDGsは、企業が優秀な人材を獲得するためにはもちろん、株価への影響や、金融機関やVC(ベンチャーキャピタル)などからの融資や出資を募る際にも重要視される項目になりつつあります。あるいは、地域企業が積極的にSDGsに取り組むことが地域の持続的発展につながることからも、企業による主体的かつ積極的なSDGsの取り組みが期待されています。あらゆるステークホルダーから選ばれる企業であるために、企業がSDGsに取り組み、その活動内容を発信することの重要性は、極めて高いと言えるでしょう。
そうした中、株式会社広島銀行、株式会社 電通西日本、株式会社広島ホームテレビの3社は、SDGsを起点に企業成長と地域活性化を後押しするプラットフォーム『変わるけん。』プロジェクトを共同で開発しました。このプロジェクトは、広島県の企業が一丸となってSDGsプロジェクトを推進・発信することで、SDGsへの取り組み機運の醸成や活性化を目指すものです。プロジェクト名は「未来に向けて変わっていく県」という意志を宣言し、1つひとつの企業が未来へ飛んでいくイメージのキービジュアルが設けられています。
本記事では、広島銀行法人企画部の佐藤健司氏と電通西日本プロジェクト推進部の頼本高成氏の対談を実施。今回の協業に至った背景やプロジェクトの詳細、今後目指す形などについて、お話しいただきました。前編と後編の2回に分けてお届けします。
内と外から見た、広島県が抱える課題とSDGs的なポテンシャルとは
頼本:まず、広島が抱えている近年の課題について、佐藤さんはどのように認識していらっしゃいますか?
佐藤:広島の主要産業は自動車で、県内には自動車関連の下請け会社も山ほどあります。近年はロックダウンによる部品調達の停滞や国内生産の落ち込みがあり、厳しい状態でした。ただ、その辺りはだいぶ改善されてきているので、持ち直しが見込めると考えています。
企業の設備投資は回復傾向にあり、コロナ前過去3年と比べてもかなり高い水準です。今年度は雇用面で新規求人数も増加傾向にあり、また観光面でも、まん延防止法の解除以降は人流が戻ってきました。この2022年9月には新たに世界的チェーンホテルもできましたし、観光者数だけでなくホテル宿泊者数も増えてきている状況です。
このように、広島の経済は全体的に持ち直しの傾向にありますが、世界経済はかなり不安定ですよね。ウクライナ情勢や為替の動向、中国のゼロコロナ政策など、世界全体で見ると不安定な要素が多いので、そういった影響は受けると思っています。特に今は円安による輸入業績の下押しの可能性がありますよね。
株式会社広島銀行 法人企画部 佐藤健司氏頼本:そうですよね。それらに加え、広島は人口の流出超過が他のエリアよりも多いんですよね。後継者不足も課題だと思います。広島には優良企業やオンリーワンの企業がたくさんあるのに、あまり知られていないのも、非常にもったいないです。その辺りを何とかできれば、地域課題の解決につながると考えています。
また、今の若者は、就職する際、SDGsに取り組んでいるかどうかを私たちが思っている以上に重視していて、実に70%以上もの学生が就職活動においてSDGsを意識しているというデータもあります。これは逆に言えば、SDGsに取り組んでいない企業や、取り組んでいることを発信していない企業は、今後の採用活動でも苦戦することが予想されます。
「広島にもしっかりSDGsに取り組んでいる魅力的な企業があるんだ」と県外に出た大学生に伝えることができれば、地元に人が戻ってくる流れを作れるだろうし、地元で働いている人たちに対しても、自分たちの会社の本当の魅力に気付いてもらうきっかけになるのではないかと考えています。
佐藤:私も同意見です。今、大学の授業でSDGsを取り入れているところもあるんですよね。実際、『変わるけん。』プロジェクトについて教えてほしいと、東京の大学生から連絡がありました。ゼミで扱ったらしいんですね。そんなふうにニーズがあるし、就職活動の際に重視するポイントにもなっている。そういう中で、広島の企業がしっかりやっていることをPRできれば、東京や大阪など県外に行った学生がUターンして地元に就職し、結果として地域企業の活性化に貢献できるんじゃないかと考えています。
頼本:私は、広島のポテンシャルは非常に高いと考えているんです。そもそも「平和都市」という点で世界的に認知度が高く、SDGsに取り組んでいるということが他県に比べて理解されやすい。SDGsの活動は、最終的には地球の平和といった概念につながりますから。そこの見せ方と企業の思いをいかに作っていくかが重要なのかなと。
佐藤:そうですね。広島銀行は、広島、山口、岡山、愛媛を地元4県として営業活動を行っているんですが、4県の人口を合算すると約742万人、事業所数は34万2,000件で全国3位の数字なので、大都市並みの経済規模のポテンシャルを十分に持っていると認識しています。地元経済に深く関わる金融機関としては、個別プロジェクトの成功も大事ですが、やはり、地域全体の活性化という観点から、地元4県の地域価値向上に貢献していきたいと考えています。
頼本:とはいえ、現時点ではなかなか地域で長期的な目標を描けていないのも実情なんですよね。
佐藤:そうなんです。ただ、広島は産業構造や石炭火力発電所の数から、1人当たりCO2の排出量が全国でもかなり高い数字の地域なので、この地域が率先してカーボンニュートラルなどに対応していくことは重要だと考えています。
頼本:それにSDGsの16番目の目標である「平和と公正をすべての人に」に直結する平和都市でもありますからね。
佐藤:おっしゃる通りで、そういったメッセージを世界に発信することも重要です。現在、広島県は広島駅南口の再開発や北口の高層ビル計画、サッカースタジアムの移転計画など、広島市を中心に再開発がめじろ押しな上、来年には広島サミットがあります。世界的にも注目を浴びるので、地元の金融機関として存在感を出していければと考えています。
SGDsの取り組みを紹介するだけでなく、各企業の事業内容をどう世の中に伝えていくか
『変わるけん。』キービジュアル頼本:今回のSDGsプロジェクト『変わるけん。』は、まず広島銀行さんと電通西日本とでお話をさせていただきました。というのも、やはり広島銀行さんは日頃から地元企業と多くの接点を持たれていて、企業の課題を真っ先に吸い上げているからです。そのあたりのコミュニケーションのノウハウやコンテンツと私たちの事業解決力を組み合わせることによって、さまざまな課題が解決できると思ったんですね。その後、広島ホームテレビさんにもこのプロジェクトの考えに共感いただき、参画いただけることになりました。
佐藤:昨今メディアについてはいろいろなことが言われていますが、やはり、多くの人に知ってもらえる点や流行を生むという点で、テレビの力はまだまだ非常に強いと感じています。
頼本:多くの県民の皆さんに認知してもらうことで、この『変わるけん。』プロジェクトはドライブしていくと考えているので、やはりテレビ局の存在は大切ですね。
広島銀行さんと当社とで、地元企業に課題意識などをお伺いしつつ、その中でこのプロジェクトをご案内していくのですが、やはり重要なのは、その企業がどういう事業に取り組み、それをどう世の中に伝えていくか、をしっかり議論することです。
株式会社 電通西日本 プロジェクト推進部 頼本高成氏佐藤:場合によっては自分たちが何をすればいいか分からないという企業もあるので、事業内容をヒアリングし、その企業の良いところを引き出していくというプロセスも大切になります。その際には、単なるSDGsの取り組みだけでなく、それぞれの企業の事業内容に触れることが重要だと考えています。自社の企業理念やそれまでの歴史、SDGsへの貢献ポイントなどを丁寧に整理して、社内の皆さんの見解を統一してもらうんです。
頼本:そういったヒアリングや議論を踏まえて、私たちの方でCM動画を作成します。作成したCM動画は専用Webサイトで発信するとともに、テレビCMとしてもオンエアして、県民の皆さんに広く伝えていきます。また、プロジェクトとしては年3回のイベントを実施しますので、参画いただいた企業にはそちらにもご参加いただき、地域のステークホルダーと接点を作っていただいています。
単にSDGsの取り組みを紹介するだけでなく、それが各企業の事業や理念とどう結びついているか、SGDsへの貢献ポイントがどこなのかを整理して、それぞれの事業内容と結び付けて発信する。それが『変わるけん。』プロジェクトの大きな特徴と言えそうです。続く後編では、『変わるけん。』プロジェクトを通して両社が目指すビジョンや、より具体的な取り組みについてお話しいただきます。
また、『変わるけん。』プロジェクトは本記事で紹介した内容以外にも、さまざまなプロジェクトを実施しています。このプロジェクトにご興味のある方はもちろん、SDGsへの取り組みや地域経済の活性化についてもっと知りたいという方は、ぜひ一度本サイトのCONTACTよりお問い合わせください。
https://transformation-showcase.com/articles/206/index.html
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。