2020年9月、経済産業省から公開された「人材版伊藤レポート」(※1)。これをきっかけに、企業においては、人的資本に関する課題認識が進むとともに、2021年6月、「コーポレートガバナンス・コード」改訂においても、人的資本に関する記載が盛り込まれるなど、ステークホルダーへの情報開示の流れも強くなっています。そして2022年、経済産業省では、「人的資本経営という変革を、どう具体化し、実践に移していくかを主眼とし、それに有用となるアイディアを提示するもの」として、実践事例集と共に「人材版伊藤レポート2.0」(※2)を公開。人材を「資源」から「資本(Human Capital)」として捉え返し、成長ファクターとしての「人材」の価値を最大限に引き出すことを通じて、中長期的な企業価値向上につなげようという経営の在り方が、より具体的に問われるようになりました。
このことを広報視点で捉えるならば、単なる「人」に関する(形式的な)情報開示を行うのではなく、経営戦略やパーパスなどと連動し、戦略性を持った「人材」に関する情報発信が期待されていると言っても良いでしょう。今回は、「人材」という資本を起点とした、企業価値の情報発信やESGコミュニケーションについて、ご紹介していきます。

魅力豊かな企業のカギこそが「人材」
そもそも「人」を起点とした情報発信は、企業ブランディングにおける重要なファクターの1つであることが分かっています。2016年以降、企業広報戦略研究所(株式会社 電通PRコンサルティング内)で実施している「魅力度ブランディング調査」(※3)のデータでは、企業の魅力伝達の起点となる「人」「財務」「商品」の3つの中で、「人的魅力」の構成比が、過去7年の毎年の調査結果いずれにおいても最も高いという結果となっています。さらに細かくこのデータを見てみると、生活者に伝わっている企業の魅力トップ5項目のうち、4項目が人的魅力となっており、「人」が魅力ある企業のカギと言えそうです。

人的魅力と「ESGアクション」発信の相関性
人的資本経営とは、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営の在り方」(※4)のこと。もちろん、企業のガバナンスにも大きく影響しています。
ESG関連のデータ(企業広報戦略研究所)による「第2回ESGレピュテーション調査(2022年7月実施)」の結果を見てみると、一般生活者におけるESGの認知率は37.9%にまで高まっています。(2021年6月から4.8pt増)。

さらに年代別に見ると、企業の「ESG」活動の認知率については、20代・30代において高く、特に20代において約半数近く(46%)が、企業のESG活動を認知している事が分かります。今後、企業ブランディング活動、企業価値発信活動において、「ESGアクション(ファクト)」に関わる情報発信の重要性はますます高まっていくであろうと考えられます。
また、同調査によると、ESG活動が伝わっている企業の「人的魅力」の構成比は、全体平均値よりも高いことが判明しています。つまり、企業価値の発信を支える「ESGアクション(ファクト)」の認知・理解と「人材的魅力」の浸透には、何かしらの相関性があると考えられます。かつ、ESGにおけるコミュニケーション活動が、企業ブランド全体の理解促進や関心喚起を円滑にするであろうという事は、言うまでもないことでしょう。企業の成長ファクターである「人的資本」の在り方と、そこから生み出される経営の在り方、そして、その企業ならではの「ESGアクション(ファクト)」、それらを周知・理解させ、企業の価値として昇華させるコミュニケーションなどについて、今一度、思考を巡らせてみてはいかがでしょうか?
パートナーシップで推進するESGアクション~「3つのP」で情報発信設計を
本稿では、これまで、ESG起点の企業コミュニケーション活動においては、「人材」の視点が重要であることを説明してきました。またさらに、これに加えて、発信した情報の流通を円滑に媒介する「メディア」視点も欠かせない事は言うまでもありません。
私たち電通PRコンサルティングでは、さらに効果的な企業価値の情報発信を目的に、「パートナーシップ」による「ESGアクション(ファクト)」プログラムの形成を提案しています。例えばNPO・NGOなどをはじめとした、社外の組織と連携した「パートナーシップ」での「ESGアクション」などはいかがでしょうか。外部の専門的な社会活動家や協力者とともに、社会課題を解決に導く本質的な取り組みを企画し、ファクトを創出していくアプローチ。このことは、「人的資本」の積極的な育成にも効果的だと考えました。私たちはこのアプローチを、ESGブランディングに求められる「3つのP」(People、Partnership、PESO)と称して、皆さんにご提案しています。

「自社は(ESG活動に関して)さまざまな結果を残しています」と声高に発信しても、なかなかメディアに取り上げられない、生活者に伝わらないという企業の声をよく聞きます。そのような場合、この「3つのP」の視点を広報戦略に取り入れてみてください。志のある「社員」が起点となり、社外の「協力者」を巻き込んで活動を育み、大きくし、その過程と成果をさまざまな「メディア」に取り上げられるように積極的に発信していく。そうした社会を巻き込む広い視点からのプロデュース力が、これからの企業には、より重要になると考えています。
※1 出典:「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」2020年9月経済産業省
※2 出典:「『人材版伊藤レポート2.0』を取りまとめました」2022年5月経済産業省
※3 出典:2022年「第7回魅力度ブランディング調査」概要はこちらからご覧いただけます
※4 出典:「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」2022年11月 経済産業省
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