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2022/02/18

理想と現実のギャップを埋める「モメンタム」とは。変化する時代の中でクリエーティブ本来の役割を追求する

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「広告会社のクリエーティブ」というと、皆さんはどのようなものを想像されるでしょうか?おそらく、CMやグラフィック、Webプロモーションのような広告にひも付くものとして、イメージされる方が多いのではないでしょうか。実のところ、それらは成果物の1つにすぎません。ここではクリエーティブ本来の役割について改めて考えていきたいと思います。

クリエーティブとは

私たちがクリエーティブを作るとき、多くの場合、ユーザーとサービスが存在します。サービスそのものをデザインすることもありますし、既に存在するサービスの価値を見いだし、より多くの方に届ける役割を担うこともあります。

一般的に、ユーザーとサービスの間には以下のようなギャップが存在しています。

このギャップを埋めるために私たちが行っているのがクリエーティブです。

ユーザーとサービスとの間にあるギャップを埋めるために、CMを作ったり、キャンペーンを実施したりすることはもちろん、さまざまなサービスデザインをしていくわけです。

つまり、クリエーティブが作っているのは、CMやキャンペーンというアウトプットそのものではなく、ユーザーとサービスとの間を埋める熱量のデザイン。クリエーティブを通じて「モメンタム」を作っているのです。ここで言うモメンタムとは、「理想と現実の間を埋める姿勢、熱量」のことを指します。

手段は無限大。モメンタムにコミットする

コロナ禍を機に、私たちの生活やビジネス環境は大きな変革を迫られています。それに伴い、DX(Digital Transformation)やCX(Customer Experience Transformation)という言葉を見聞きしない日は無いほど、あらゆるメディアで話題に上っています。

社会状況が変わったのですから変革が必要なのは当然で、私個人としては変化を前向きに受け止めています。一方で、DXやCXといった言葉が先行し、まるでツールの導入が変革であるかのように捉えられている側面があることも事実ではないでしょうか。

私がコロナ禍で一番心が動いた事例は、福岡のカレー屋さんがデザインした「黙食」のポスターです。当時、あらゆるチャネルから「静かに食べましょう」「人と話すときはマスクをつけましょう」といったメッセージが発せられていましたが、世の中に響いていたかというとそうではなかったと思っています。そのような社会状況にあって、元デザイナーの店主がデザインした「黙食」のポスターは、間違いなく世の中を動かしました。デザインしたアウトプットはたった1枚のポスターですが、それが日本全国の人々にモメンタムを起こしたのです。

モメンタムさえデザインできれば、手段は何でも良いのです。ポスターでも、手紙でも、Webサイトでも、映像でも、SNSでも、アプリケーションでも、イベントでも、とにかくアプローチ方法は何でも良い。文脈をデザインし、モメンタムを起こすことがクリエーティブの仕事です。実現に向けて、組織、役職、職種、手段、それらの垣根を越えて、クイックに、かつ、時に泥臭く、自分の領域を拡張して覚悟を持って動くことがクリエーティブに関わる1人ひとりに求められるのです。

変革とは固定概念を捨て、「あるべき姿」を見いだすこと

コロナ禍によって多くの業界で変革が急務となっていますが、まだまだ過去の正解にとらわれている現場が多いのが現状ではないでしょうか。

私がプライベートで関わらせていただいているプロジェクトに「テクノ法要」があります。これは「若者の宗教離れをテクノロジーで解決したい」という課題意識から生まれた取り組みで、福井市にある浄土真宗本願寺派・照恩寺の住職・朝倉行宣さんによる、テクノのトラックに乗せてお経を読み上げる新しいスタイルの法要です。

2021年12月20日 (月)に実施した「仏教美術×テクノロジーアート@TUNNEL TOKYO」イベントの様子。筆者はトークセッションと映像演出に参加。2020年4月18日(土)に実施した「リモート超テクノ法要×向源」ではリアルタイムで8万人以上が視聴。

 

私がテクノ法要を知ったのは2017年12月までさかのぼります。築地本願寺でテクノ法要が行われるという情報を偶然SNSで知り、リサーチを兼ねて同僚と築地本願寺へ体験に行ったことがきっかけでした。

正直なところ、最初は「話題先行の取り組みだろう」と、はすに構えた見方をしていたのですが、参加してみて考え方が180度変わりました。「当時のお寺は絢爛豪華な装飾によるアミューズメント施設のような存在だった」「今では当たり前になっている仏像も、お釈迦様が亡くなってから500年間は作ってはダメだとされていた」「ろうそくは今でいうプロジェクター」といった事実を聞くとともに、五感から感じるあらゆる情報から「なんて自然なのだろう」「伝統とは、変化しないことが美徳ではなかったのか?」などの気付きを得て、今まで自分が抱いていた固定観念が溶けた瞬間でした。「伝統という言葉にあぐらをかいて、変化しようとすることを怠ることは甘えにすぎず、常にアップデートを続ける姿勢が必要なのだ」と衝撃を持って学んだのです。以降、朝倉さんとたくさんのコラボの機会をいただいており、柔軟な発想力やチャレンジを続ける姿勢から、回を重ねる度に沢山の学びを得ています。

この例からも分かる通り、私たちは多くの場面で固定観念にとらわれて生きています。固定観念にとらわれない自由な発想で新たな体験をデザインし、モメンタムを作ることこそ、クリエーティブの仕事ではないかと考え、日々、行動しています。

審美眼を疑う

とはいえ、新しいことはなかなか受け入れられない面があるのも事実だと思います。理由は簡単で、新しいことは一見するとクオリティーが低く見えるからです。

QシフトとNシフトという考え方があります。下の図の縦のラインがQシフト=「品質」を表しています。横のラインがNシフト=「新しさ」です。

既存領域では、既に存在するフォーマットの中で、縦のラインの「クオリティー合戦」が行われます。テレビCM、車やPCなどのプロダクトが分かりやすいですね。フォーマットが同じであるからこそ、差を出すために、より高みを目指してクオリティーで勝負していきます。

 そんな中、突如としてNシフトが起こります。

Nシフトの場合はフォーマット自体が違うので、古い市場で戦っている人からすると、一見すると品質が下がっているように見えます。

Nシフトの価値が認められたころには、そのフォーマットの中でクオリティー合戦が起こっていきます。

Nシフトが起きた瞬間を見て「クオリティーが低い」の一言で切り捨ててしまうと、そこからイノベーションは起きなくなります。

Netflixが映画やドラマを作った当初、既存業界からは冷ややかな見方がありましたが、今では品質が上がってきていて目を見張るばかりです。

車でいうところの電気自動車を始め、暗号資産、新エネルギー、ロボットやバーチャル活用、これらが注目されるのはNシフトだからに他ならず、マイナス面ばかりを見ていると流れに取り残されてしまいます。日本が得意としていたガラケーが、iPhoneの登場で氷塊したように、今後、あらゆる業界でNシフトによって登場人物が置き換わっていくわけです。この一見するとクオリティーが低く見える状態を前向きに受け止め、楽しめるかどうかが非常に重要です。古いモノサシで測らない、自分の審美眼を疑う謙虚さを持ち、常に価値観をアップデートしていく。こうした視点が次世代のデザインを行う上では大切なのです。

 

 

広告会社のクリエーティブというと、メディアありきで考えられる方も多いと思いますが、私たちの本来の目的はモメンタムを起こすことにあります。広告で培ったエグゼキューション力と、その品質を武器に、これからもさまざまな領域で変革にチャレンジしていきます。

不確実性の高い時代です。だからこそ、固定観念にとらわれない自由な発想で新たな価値を提供していくことが求められます。小さな発見と改善の積み重ねがお客さま満足につながり、ひいては社会全体に人々の笑顔が満ちていくのでしょう。

クリエーティブの可能性は無限大。共にステキな未来を作りましょう。

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株式会社電通デジタル

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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