宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)と株式会社 電通グループは、2022年7月1日に共同リリースを発信。両者の連携で新たな取り組みを進めていくことを明らかにしました。
そこで本記事では、電通グループ側で本連携事業を進めているメンバー、岸本渉氏にインタビューを実施。リリースだけでは見えにくい連携の内容や、その先にどのようなゴールを見据えているのかを深掘りしました。「JAXAと電通グループ」の組み合わせから何が生まれるのか、その可能性についてお伝えします。
人工衛星画像が、需要と供給の予測精度を高める
Q.先日発表されたリリースには、「株式会社 電通グループと宇宙航空研究開発機構は、人工衛星データ活用による、広告の高度化を通じた需要の創出と需給の最適化の実現に向け、共創活動を開始しました」とあります。しかし「電通グループとJAXAが連携」と言われても、いったい何をするのかイメージが湧かない人も多いのではないでしょうか。あらためて、どのような取り組みにチャレンジしているのか教えていただけますか?

ラジオテレビビジネスプロデュース局 テレビ市場開発部 岸本渉 氏
Q.葉物野菜の価格予測にJAXAの衛星画像が使える、ということはどこで知ったのでしょうか?
日々の予測精度が上がれば、動的なマーケティングと「より良い社会」が実現する
Q.需要と供給の高度な予測を用い、それに応じた広告展開にすることで、企業にとっては非常に効率的なマーケティングが可能になりますね。しかし、単に「広告展開の効率が上がる」ということで片付けてしまうにはもったいないような取り組みにも感じます。
例えば、「気温が上がればアイスが売れる」という事実があります。これまでは、「夏にマーケティングリソースを集中投下する」という状況の中で、「次の夏はどういう仕掛けをしようか」と事前にプランニングし、夏にそれを実践する、というパターンだったかと思います。それに対し、動的にマーケティングを展開するということは、「夏」ではなくて「○月○日くらいから気温が上がってくる」「この1週間は気温の低い日々が続く」といったことが事前に一定の精度で予測できる中で、それに対応した生産体制を組んだり、流通計画を立てたり、店頭でのイベントを企画したりして、あらゆる企業活動を連動させていく、ということになります。そして今、企業にあるさまざまなデータを連動させていけば、こういった精度の高い動的なマーケティングは可能です。
これは実は株価の世界では当たり前になっていると思います。昔は『会社四季報』などを見ながら株価を予測するといったスタイルだったところから、今ではそれらの情報に加え、リアルタイムにソーシャルメディア上の動向を見ながら今日の株価予測に生かす、というようなスタイルになってきている。つまり、さまざまなデータを集められるようなテクノロジーが発達して、それらを瞬時に分析できるAIのような頭脳が揃っていくことで、「最適化」が日々進化していく時代になってきていて、そのためのマーケティング基盤の1つが、今回私たちがチャレンジしているものだと考えています。
もちろん、これを実現するためには、量子コンピュータのような高度な計算システムやAIの活用が不可欠です。ですから、データを集め連動させながら「頭脳を進化させる」ということも同時に進め、マーケティングを発展させていく必要があります。今回のJAXAとの連携は、そのためのフラッグシップ的な取り組みであると考えています。
あらゆる企業にとって、リスク回避は重要なテーマです。つまり「たくさん作ったのに売れない」「マーケティングコストをかけたのに売れない」といったことです。将来のリスクをなるべく瞬時に精度高く予測して、避けていくということができれば、それはきっと顧客企業を支援することになるでしょう。そして何より、こういった取り組みによって需要と供給がしっかり合致していけば、例えば食品ロスが減り社会にとっても良いことになります。
もちろん、「マーケティングプラン」ができても、それを実践する力がなければ意味がありません。例えば日々の予測ができるとして、それに合わせてCM出稿プランを変えることができるのか。これはまさに私たちが進めなければいけないチャレンジです。CMバイイングにもさまざまなプロセスがあるので、メディアと連携しながらバイイングのシステムも新しくしていく必要があります。逆に言えば、それこそ私たちの強みのある領域ですから、ここは先駆的かつ積極的に取り組んでいます。
未来予測の力で、ビジネスはどう進化するのか
Q.なるほど、岸本さんが言うように「動的なマーケティング基盤」が重要であるとすれば、広告領域でも「動的」に実践できるような進化が求められますよね。そうなってくると、例えばメディアのビジネスも進化していくかもしれません。岸本さんが考えるメディアビジネスの未来のイメージはどのようなものでしょうか?

例えば、私たちの提供しているサービスの1つに「SHAREST」(シェアレスト)というものがあります。これはAIによる視聴率予測システムで、元々は広告主のために、視聴率予測の精度を高め、事前期待に沿った広告効果を得られるよう開発したものです。しかし、これによって視聴率予測の精度が上がり、かつ「どういう要素が視聴率を左右するか」ということが見えてくれば、実はテレビ番組制作サイドにとっても有益な情報になるはずです。それはつまり「視聴者が求めていることは何なのか」ということに迫っていくことでもあり、ひいてはコンテンツの質を高めていくことにもなります。もちろん、視聴者が求めるものというのは、世代によって違ったり時間帯によって違ったり、さらには最近どんな出来事があったかによっても変わってくる。そういったことをしっかりつかむことで、生活者とメディアとの良い関係をつくる橋渡しのような役割も果たせるのではないかと考えています。
これまで「マーケティング」とは、あくまでも「特定期間における販売促進のためのリソース投下」という活動だったかもしれません。しかし、未来予測を核とした動的なマーケティングが実現すれば、それは開発・生産からデリバリーに至る、あらゆる企業活動の精度を高めていく力になります。企業の生産活動による無駄がなくなることは、結果的に社会における膨大なロスを予防することになり、さらに進化した社会を実現することができるでしょう。
また、こういったスケールの大きな話の出発点が「調味料」という身近な商材であることも興味深い点です。「宇宙の力で、調味料を売る」。一見、関係が薄そうな両者ですが、それをつなげると見えてくるものがたくさんあるのです。身近な商材やサービスにこそ、現代テクノロジーで大きく進化するチャンスが眠っているかもしれませんし、それはきっと、これまでの常識を変える大きな力になるのではないでしょうか。あらためて目の前のものを見直してみる大切さを感じたインタビューとなりました。
その他にも、電通グループには「マーケティングの新しい手法について知りたい」「最新のテクノロジーを活用した、面白い企画を提案してほしい」といったさまざまなご相談が寄せられています。こうしたテーマについても、興味・関心のある方はぜひ一度本サイトのCONTACTからお問い合わせください。
※ Agriculture(農業)とTechnology(技術)を掛け合わせた造語。AIやIoT、ロボットなどのテクノロジーを活用して農業の課題を解決することを目指す取り組み。