携帯電話の普及が一気に進み、ドローンやキャッシュレス決済などICT(情報通信技術)を用いたさまざまなイノベーションが生まれているアフリカ。その超ハイスピードな発展は、「リープフロッグ(Leap Frog)」型の発展として近年にわかに注目を集めています。
なぜ今アフリカで、革新的なイノベーションの数々が起こっているのか。そして、アフリカでの大変化は、私たちにいかなる影響を及ぼすのか。そうした疑問に答えるべく、本記事では「アフリカでのリープフロッグ現象は、世界全体のビジネスをどう変えていくか?」というテーマについて考察。アフリカをマーケットとした新しいビジネスの可能性について探りたい方はもちろん、グローバル市場の最新動向を押さえておきたい方も、参考にしてみてください。
開発途上国が一足飛びに発展する「リープフロッグ現象」とは
アフリカとカエル、というと意外な組み合わせに思えるかもしれません。「リープフロッグ」とは日本語に訳すと「カエル跳び」のこと。まるでカエルが勢いよく跳躍するように、欧米や日本などの先進国で見られるイノベーションプロセスを飛び越えて、社会インフラが整備されていない新興国で新しいテクノロジーやICT、デジタルサービスなどが一気に広まる現象を指します。ルワンダやケニアなどアフリカ大陸の国々において、近年このリープフロッグと呼ばれるタイプの発展が目覚ましく、テクノロジー市場において大きな注目を集めています。
リープフロッグ型発展の典型例としては、別の記事でもご紹介しているスーパーアプリがあります。スーパーアプリとは、さまざまな機能を集約した統合型アプリケーションのこと。日本や欧米では、モバイル端末の普及に伴って個別の機能に特化したアプリやWebサービスが次第に充実していくというプロセスをたどりましたが、中国や東南アジア各国ではそういったプロセスを飛び越えて、スーパーアプリが急速に普及しています。
もちろん、新興国や途上国に限らずとも、サービスやビジネスがリープフロッグ型の発展を遂げる可能性はあります。しかし、現時点では先進国での具体例はまだないのではないでしょうか。そればかりか、新興国や途上国で生まれた優れた製品やサービスが、先進国へ「逆」輸入されるというリバースイノベーションが近年よく見られるようになりました。
リープフロッグ型の発展に沸き、先端テクノロジーを利用したサービスの震源地となりつつあるアフリカの国々。新興国はもちろん、先進国のイノベーションにも影響を与え得る存在として今、世界中から大きな関心が寄せられています。
急成長を遂げるアフリカこそ、リープフロッグ型発展の中心地

ではここから、アフリカの国々におけるリープフロッグ現象の背景を見ていきましょう。あまりイメージがない方もいるかもしれませんが、実は今、アフリカは、先端テクノロジーを使った新規ビジネスが続々と生まれるマーケットとして知られるようになっています。
代表的な例が携帯電話の爆発的な普及。現在、アフリカにおける携帯電話の普及率はおよそ80%に達し、若い世代を中心にスマートフォンを所持する人も急増。それに併せて、電子決済や暗号資産などの活用もどんどん進んでいます。
アフリカ最大の暗号資産市場とされるナイジェリアでは、銀行口座を持たずに他の国に働きに出ている労働者など、海外在住の国民が母国に送金する暗号資産の額が、世界の上位に位置しています。この背景には、ナイジェリアでは政府による為替管理制度や外貨規制があり、海外との取引の際に外貨支払いが困難になるため、暗号通貨による決済が好まれるという事情もあります。
こうしたアフリカの経済成長を的確に捉え、固定電話の普及を飛び越して、携帯電話やスマートフォンを爆発的に普及させた企業がいくつかあり、その中でも代表的なのが中国の企業です。中国のある携帯端末メーカーは廉価で電池が長持ちする端末を販売し、これまで携帯電話とは無縁だった層をも取り込むことで市場の急拡大を実現しました。このメーカーは中国国内に拠点を持ちますが、最初からアフリカをメインターゲットにして携帯電話を販売しています。アフリカの超加速経済現象は、海外企業による携帯電話やスマートフォンの市場拡大が大きな要因の1つだと言えるでしょう。
リープフロッグ型の発展は、なぜ新興国特有の現象なのか?
リープフロッグ型の発展がアフリカなどの新興国で起こる理由として、まず社会インフラが整備されていない中、先端テクノロジーが先に入ってきたことが挙げられます。先端テクノロジーの導入は、同時に規制や既得権益などとの摩擦を生み出します。多くの先進国でリープフロッグ型の発展が起こりにくいのは、これらのハードルが原因と考えられます。一方、開発途上国では先端テクノロジーそのものが未知の領域であり、先行する企業やサービス、規制が存在しないため、前述のスーパーアプリのように生活を豊かにする新しいものやサービスを比較的柔軟に取り入れやすいのです。
そのほか、先進国より新興国の方がリープフロッグ型の発展を遂げやすい理由としては、以下の点も考えられます。
先進国より新興国の方がリープフロッグ型の発展を遂げやすい理由
1.先進国によって既に開発された技術を利用するため、コストや時間の節約ができる。
2.インフラや教育環境が十分でないことが多く、最新技術によるイノベーションが強く求められている。
3.市場が未成熟で消費者のニーズも複雑化していないため、機能を抑えた低価格な製品をリリースできる。
既存のテクノロジーを輸入し、すぐに生活インフラに変えることができる余白の広さと、比較対象が少ないために、砂が水を吸うようにサービスが国民へと一気に浸透していく土壌。それが、アフリカで起こっているリープフロッグ型発展の特徴と言えるでしょう。
アフリカでのリープフロッグ現象を、グローバル市場全体の発展へとつなげるには

ここからは、アフリカにおけるリープフロッグ型発展の代表例を見ていくとともに、そこから示唆されるグローバル市場の発展について考察していきます。まずはケニアとルワンダの例をご紹介します。
事例1:モバイルバンキング(ケニア)
ケニア最大の通信事業者が2007年に開始した、モバイル送金サービスの事例です。銀行口座を持っていない人でも、携帯電話のSMSを通じて金融取引を簡単に行える仕組みを開発。サービス誕生からわずか4年間で約80%の世帯に浸透し、今ではインフラに欠かせない存在となりました。銀行口座よりも携帯電話が先に国民に普及したことから、サービスが短期間で爆発的に浸透する結果となりました。
事例2:医療分野におけるドローンの活用(ルワンダ)
アメリカのスタートアップ企業が医薬品などをドローンで届けるサービスを2016年に開始。携帯電話のメッセージ機能で輸血用の血液や医薬品を注文すると、ドローンが時速120kmで現地へ配達します。トラックで輸送するよりも、平均30分ほどの時間短縮を実現。先進国では法制度をはじめとしたさまざまな制約により、ドローンによる商品輸送は進んでいませんが、アフリカでは道路整備が進んでいないことから、逆にドローン配送が先に根付くことになりました。
では、アフリカ各国で全国的なリープフロッグ現象を巻き起こしたこうした事例から、私たちはどのような気付きを得ることができるでしょうか。かつてアフリカは、最新のテクノロジーからは比較的縁の遠い場所でした。しかし、これらの事例から分かるように、先進国によって開発された先端テクノロジーがこの地で新しい使われ方をされたり、既存の事業や取引が先端テクノロジーの介入によって一気に拡張されたりするケースが、近年では目立って増えてきています。
今後、アフリカではどのようなサービスやビジネスが登場し、次なるリープフロッグ現象を巻き起こすのか。そして急成長が見込める市場に、私たちは何を提供したら良いのか。それを探る上では、こちらの記事でもご紹介しているように、BOP層(年間所得が3,000ドルを下回る低所得消費者のこと)を対象にした地域発展ビジネスと組み合わせることで、有効なヒントが見えてくるかもしれません。
開発途上国を中心に世界人口の約7割を占めるBOP層は、将来的に有力なボリュームゾーンになると考えられています。新興国に向けたビジネスを検討する際には、人や組織が成長の好循環を成す「持続可能なBOPモデル」を念頭に置くことが1つのポイントになるのではないでしょうか。
BOPビジネスが活性化してリープフロッグを起こすことができれば、現地の人々は自らの努力で経済的な成功を得ることができ、それを支援する先進国も、先端テクノロジーやビジネスの活用モデルをリバースイノベーションすることが可能になります。このように、BOPビジネスにおけるリープフロッグと先進国へのリバースイノベーションによって、より良い成功の循環をつくることも期待できるかもしれません。
2022年8月には、日本政府が主導し、国際連合などと共に開催する「アフリカ開発会議(TICAD)」の第8回を開催しました。事業展開の次の一手を探るにあたってのベンチマーク対象としてのみならず、ポテンシャルのあるマーケットとして、さらには持続可能な経済成長を目指すSDGsの文脈においても、「最後の成長大陸」と呼ばれるアフリカの動向は引き続きマークしておく必要があるでしょう。
アフリカがリープフロッグ型の発展を遂げた主な理由として、スマートフォンなどの先端テクノロジーを導入するにあたって規制などの摩擦がない上、インフラが十分でないためイノベーションが早急に求められていたことなどを見てきました。近年、世界中から注目を集め、グローバル市場に確かな影響を及ぼしつつあるアフリカの国々。近い将来、開発途上国における先端テクノロジーの活用をモデルとしたリバースイノベーションの活発化など、アフリカにおけるリープフロッグ型発展が、途上国と先進国のビジネスを大きく変えてゆくかもしれません。
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