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2022/06/30

BOPビジネスを成功に導く仕組みづくりとは?成長の好循環を生む「サーキュラーモデル」がカギ

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低所得者層の生活水準向上と企業の利益創出を両立させる手法として、近年ますます注目を集めているBOPビジネス。SDGsの文脈からも重要性が高いと考えられ、今後、急速に成長が見込まれる市場として期待を寄せられています。社会貢献はもちろん、企業価値の向上や新たなビジネスチャンスの創出など、さまざまな観点から、自社でもBOPビジネスに取り組みたいと興味を持っている企業も増えてきているのではないでしょうか。

一方で、BOPビジネスには文化や商習慣、経済の仕組みの違いなど、先進国向けのビジネスとは違った難しさがあるのも事実です。しかし、それらを乗り越えて発展してきたBOPビジネスの成功例からは、ビジネスのさまざまなシーンで応用できる知見を得ることができるかもしれません。今回は「サブスクリプション方式などを用いた仕組みによって、当事者と協働することで成長していくBOPビジネスは、さまざまなビジネスにおける組織づくり・仕組みづくりのヒントとなるのか?」という観点から、今後のビジネスの成功のヒントを探ります。

BOPビジネスは、社会課題の解決を促すサステナブルなビジネスモデル

BOPは「Base of the(Economic)Pyramid=ピラミッドの下層部」の略語で、年間所得が3,000ドルを下回る低所得消費者のこと。現在、その数は開発途上国(以下、途上国)を中心に全世界で約40億人におよび、世界の人口の約7割を占めているといわれています。都市部から遠く離れた農村部で暮らす人も多く、交通機関が整備されていないために買い物に行くのに徒歩で数時間かかる、選べる商品の選択肢が少ない、輸送コストで食料品や日用品の価格が高いなど、低所得者ほど生活コストが高くなる「BOPペナルティ」という問題を抱えています。

途上国の発展を促し、世界経済に大きく貢献できるサステナブルなビジネスとして注目が高まっているBOPビジネスは、BOP層が直面しているさまざまな問題を解決するための商品やサービスを提供し、現地の生活水準の向上に貢献するビジネス手法です。途上国を支援する慈善事業ではなく、貧困問題に革新的・効率的なビジネスの手法でアプローチして市場を開拓していくことで、社会貢献と企業の発展を両立させる点が大きな特徴。SDGs達成の有効な手段とも考えられており、貧困だけでなく、途上国の人々の健康や福祉、教育などに関する多様な問題を改善していくことが期待されています。

企業がBOPビジネスに取り組むメリットはいろいろとあります。途上国の支援によって社会的価値を創造する企業として認知されることは、グローバル市場におけるブランドイメージの向上につながるでしょう。また、途上国でビジネスを広げていくためには、宗教的戒律や民族的な慣習、先進国とは異なる価値観などを理解した上でそれに合わせた展開を考える必要があり、単に既存の商品やサービスを安く売るといったやり方は必ずしも通用しません。その国や地域ならではの事情に合わせて新たな企画を立てたり、工夫したりすることで、今までにない革新的なアイデアやビジネスモデルが生まれやすいと言えるでしょう。

世界の半数以上の人口を占めているBOP層は、途上国の急速な経済成長によって将来的に中間所得層に上昇していく「ネクストボリュームゾーン」ともいわれています。BOPビジネスによって、早くから新興国や途上国のユーザーと関係を深め、信頼性を築いておくことは、将来的に大きな利益につながるかもしれません。

BOPビジネス成功のポイントは、その国や地域の事情にあった持続可能な仕組みづくり

BOPビジネスの特徴を踏まえた上で、次は代表的な事例を見ながらBOPビジネスの成功のポイントについて考えていきます。

事例1:エアコンのサブスクリプションサービス

大手空調機メーカーは、経済的な理由で空調を使えない人が多い東アフリカのタンザニアで、初期本体費用の負担なく利用できるエアコンのサブスクリプションサービスを展開。現地のモバイルマネーで定額の利用料を支払う仕組みと、省エネ性能の高いエアコンの導入によって電気代を安く抑えることで利用者を増やし、環境への負荷低減にも貢献しています。さらに、据え付けや修理などのサービスも技術トレーニングによって現地化することで、雇用創出や品質向上につなげました。

事例2:インド農村部で低価格の使い切り石鹸を販売

イギリスに本拠地を置く消費財メーカーは、インドの農村部で低所得者層でも購入しやすい金額の1回使い切りのせっけんを販売。並行して、衛生環境の悪い地域で手洗いの啓発教育を行うことで、現地の人たちの健康促進にも力を入れています。農村の女性たちが個人事業主として製品を販売できるシステムをつくり、女性の自立や社会進出も促しました。

事例3:船外機で現地の漁業の発展に貢献

BOPビジネスの黎明期にいち早く事業に取り組んでいたのが、漁船に装着する船外機を新興国向けに開発・販売した日本の輸送機器メーカーです。沿岸漁業に出る漁師が、船上でも自力で修理できるシンプルで頑丈な構造にするなど、現地での用途や事情に合わせた船外機の開発によって成功を収めました。販売するだけではなく、魚の取り方や鮮度の保ち方、加工方法や販売方法などのアドバイスも行うことで、現地の漁業の発展に貢献しています。

これら3つの事例から読み取れるポイントを整理してみましょう。BOPビジネスを成功させるためにはまず、低所得者層でも手が届く価格設定にすることで、製品を利用するハードルを下げることが重要です。初期費用の負担を減らせるサブスクリプション方式も非常に効果的な手段と言えるでしょう。費用面の効果だけでなく、例えば事例1で紹介したエアコンのサブスクリプションサービスでは、最終的に製品が企業のもとに戻ってくるため、廃棄で発生する環境汚染の影響も減らせるといいます。

その上で、ビジネスを持続可能なものにしていくには、販売して終わりではなく、継続して利用してもらうための経済的・社会的な仕組みづくりを行うことも大切です。事例にあるように、現地の人が販売して利益を得られるようにしたり、メンテナンスができるような技術指導を行ったりする方法は有効でしょう。こうした仕組みづくりは、現地の雇用創出や所得の向上へとつながり、より良い社会を実現する基盤となっていきます。

BOP層が参加できる仕組みを設計し、所得だけでなく教育水準なども向上していけば、現地の人たちが主役となって「自分たちはどうありたいか」「どんな社会にしたいのか」といった将来像を描いていく力を培う手助けになるでしょう。その力が、より良い社会を実現するための商品・サービスを現地の人が主体となって開発していくことに結び付き、その商品・サービスによってまた多くの人が恩恵を受ける……といった好循環が生まれていくかもしれません。それは「人や組織におけるサーキュラーモデル」とも呼べる、持続可能な経済システムとなり得るのではないでしょうか。

もちろん、商品・サービスを販売して利益を得ることが先行する従来のビジネスでも、企業が現地の人とパートナーシップを結び、結果的に社会や環境に良い影響を与えることは多くあります。BOPビジネスに求められるのは、より能動的に、強固な関係性を築き、より良い社会を実現するための努力を共に行うことであると言えるでしょう。

BOPビジネスに見られる仕組みづくりを、自社ビジネスに生かすには

BOPビジネスの成功のポイントは、ビジネス全般へと広げて考えることもできるでしょう。

先述の通り、途上国で成功しているBOPビジネスは、現地の人の成長につながり、学ぶことで利益を得られるような仕組みをつくること、それによってビジネスが大きくなるだけではなく地域全体が良くなっていくような好循環を生み出していくことが重要でした。

こうした手法は、組織の運営においても良い効果をもたらすと考えられます。極端に考えれば、組織において「うまく利益を生み出せていない」とされる人材や部門は切り捨てる、というのも1つのやり方です。しかしそうではなく、「現状の組織の仕組みが人を生かしきれていない」と考え、人材の配置や教育体制を見直すこともできるのではないでしょうか。むしろ、企業の成長につながり、その人の利益にもなるようなスキルや知識を身に付けてもらうことで、人材の「ロス」を生み出さない「サーキュラーモデル」のような仕組みを考える方が、長期的には企業全体の利益につながるかもしれません。

その際に重要なのは、いかにモチベーションを保ってもらうかを考えることです。BOPビジネスにおける技術トレーニングや啓発活動は、貧困という苦しい環境の中で損なわれがちな人々のモチベーションや将来的なビジョンを描く力を取り戻すことにもつながります。組織においても、教育や技術習得のチャンスを設けてその人が持つ意欲や能力をうまく引き出すことができれば、それが企業と人との信頼関係を強め、1人ひとりが主体的により良い組織、より良いビジネスの在り方を考えて実現していくという、成長の好循環を生み出せるかもしれません。

また、BOPビジネスでは、ターゲット層の価値観や現地の事情などに合わせてサービスを展開することで、革新的なアイデアやシステムを生み出している事例があります。こうした成功例から、自社がこれまでターゲットにしてきた人たちとは異なる文化圏・経済圏の人たちが抱える課題や価値観を学び、そこから新たなビジネスモデルを発想していくこともできるでしょう。社会課題や価値観の違いにどのように向き合い解決するか。そうした視点を持つことは、BOPビジネスに限らず、イノベーティブな発想の源泉となるはずです。

 

自社がBOPビジネスに取り組んでいなくても、その事例を知り、社会貢献と利益創出の両立を考えることは非常に有意義です。社会的な課題を解決するためにはどのような商品や体験を提供すればいいのか。事業を持続させていくにはどのような仕組みが必要か。BOPビジネスを成功に導くポイントは、新しいビジネスや組織の在り方を考えるための示唆に富んでいます。

BOPビジネスのほか、「SDGs」や「ESG経営」「ソーシャルビジネス」なども、持続可能なビジネスを象徴する重要なキーワードです。事業を通じて社会課題の解決を目指す企業のみなさま、私たちと一緒に考えていきませんか。 お問い合わせはページ下部「CONTACT」から。

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Transformation SHOWCASE 編集部

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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