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2022/07/06

BNPLはZ世代になぜ人気?後払いの新しい決済スタイルとは。魅力的なCXのヒントにも

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後払いといえばこれまでクレジットカードが定番でしたが、近年、ECアプリなどを経由して手軽に後払い・分割払いができる新しい決済方法「BNPL」が、Z世代を中心に世界中で人気を集めています。ECサイトやQRコード決済サービスのテレビCMで目にした方も多いのではないでしょうか。

本記事では、フィンテックの中でも急速に伸びているこのBNPLに焦点を当て、「BNPLは今後、Z世代の主要な決済スタイルになるか?」を考察します。BNPLの仕組みや利点、Z世代と相性が良い理由について考えることは、Z世代の購買行動への理解と彼らの心に刺さる顧客体験の提供にもつながるはずです。「Z世代をターゲットにしたマーケティングで効果を上げるにはどうすればいいの?」「Z世代にとって魅力的なサービス設計とは?」という課題をお持ちの方はぜひ参考にしてみてください。

BNPLは、クレジットカードに代わる新しい「後払い」決済スタイル

皆さんは、「後払い」にどのような印象をお持ちでしょうか?クレジットカード決済の分割払いやボーナス払いを思い浮かべたり、翌月の支出が心配になったりする方が多いかもしれません。しかし近年、クレジットカード決済に代わる新しい後払いの決済スタイルとして、「BNPL」が注目されています。

BNPLとは「Buy Now, Pay Later」 の略で、文字通り「今買って後で払う」形式の決済スタイルのこと。欧米各国やオーストラリアで急速に拡大しているほか、クレジットカード保有率が低く、スマートフォン所有率の高い東南アジアでも広まっています。特に浸透が進んだのは2020年ごろからで、アメリカのAffirm社、オーストラリアのAfterPay社、スウェーデンのKlarna社などが中心となって成長してきました。日本でも、ZOZOTOWNの「ツケ払い」やメルペイ(メルカリ)の「メルペイスマート払い」、楽天ペイの「後払い決済」など、ECサイトを中心に続々と登場しています。

BNPLもクレジットカードも、購入後に支払いを行う後払いのサービスであることには変わりませんが、BNPLは以下2点を大きな特徴としています。

  1. 事前審査が不要、または非常にシンプル
  2. 分割払いでも手数料が発生しない

クレジットカードでは、住所や名前のほか、勤務先や年収などの個人情報を細かく記入しなくてはならない上、申し込みからカードが届くまで数週間かかることもあります。ところが、BNPLでは、その多くがメールアドレスや電話番号だけでの登録で済み、たった数分で審査が完了するものも。またクレジットカードと異なり、分割払いでも手数料がかからないのも大きなメリットの1つで、年会費も不要。

これらのメリットを享受できる一方、BNPLでは付与される与信枠が数万円程度と小さいのが特徴です。クレジットカードならセットでついてくる付帯サービスやポイントプログラムも存在しません。

ではなぜ、BNPLは事前審査の簡素化を実現できているのでしょうか。それは与信において独自の手法を用いているから。大きくは以下の2通りに分けられます。

1.初期の限度額を低く設定
前述したように初期の限度額を低く設定し、利用状況に応じて実績を増やしていくことで、代金未回収のリスクを防ぎます。

2.AI与信
EC機能を持つスマートフォンアプリで浸透しつつある手法。アプリ内での売買履歴など、返済能力と関連しそうなデータをAIが分析して与信枠を決定します。

AI与信では、アプリに登録されたアカウント情報に加え、アプリ内のユーザーの中長期的な行動データが与信審査の対象になります。つまりアカウントにひも付くさまざまな情報が、年収や資産、家族構成といったクレジットカードの個人情報と同等の信用情報に値するというわけです。この手法を使えば、信用機関との連携に基づいて簡易与信が5分程度で完了します。

「今、これが欲しい!」BNPLがZ世代の消費行動にマッチする理由とは

前章ではBNPLの基礎知識に加え、EC機能を持ったスマートフォンアプリの急成長を受けて決済インフラが整ったことで、BNPLのシステムが確立した経緯を見てきました。ここからは、BNPLとZ世代の相性について見ていきましょう。

メルペイが2021年に行った「消費と支払手段に関する調査」によれば、Z世代の約7割(67.2%)が3,000円未満のモノやサービスについて「自分が欲しいと感じるときに購入する」、半数以上(54.4%)が「30分以内に購入を決断する」と答えています。「5分以内に購入を決断する」と回答した人も、4人に1人(22.8%)に上ります。

購入を決断した理由は、「いち早く利用したい」「時間が経つと欲しいものが購入できなくなってしまうかもしれない」から。Z世代の消費行動の特徴の1つに、自分が価値を感じたものにはしっかりとお金をかけるという「メリハリ消費」がありますが、価値の感じ方は彼らにとって必ずしも一定ではなく、瞬間ごとに異なると捉えた方が妥当かもしれません。

そうしたことを踏まえると、Z世代のユーザーが「これは今、いくらで買えるの?」と興味や欲求を感じたそのタイミングに、適切な購入手段と価格を提示することで、「この値段なら買いたい」と購入を決断させ、その場ですぐに決済までできるBNPLは、彼らにマッチしていると言えそうです。

BNPLとZ世代の相性が良い理由は、それだけではありません。前述のメルペイの調査データでは、後払いを利用する理由として「支払うタイミングを調整できるから(54.0%)」「利用金額を把握しやすいから(32.0%)」との回答が寄せられました。この回答から、彼らは「欲しいものを今すぐ買える」ことを重視しつつも、「自分の出費をコントロールしながら、欲しいものを手に入れたい」という堅実さも併せ持っていることがうかがえます。

BNPLを提供しているECアプリの多くは、利用上限額をユーザーが自ら設定できたり、総利用額をスマートフォンから逐一チェックできたりなど、管理機能と見やすいインターフェースに力を入れています。それが功を奏してか、ユーザーの中には10万円が限度額であっても目いっぱい購入せず、2〜3万円など無理のない範囲でやりくりする人も多いよう。「どれだけ使ったか分かりにくく、使い過ぎが心配」「金利がかさむのが怖い」など、クレジットカードに負のイメージを持つZ世代は多いようですが、BNPLはこれらを解消する決済スタイルとして有力であることが分かります。

「Buy Now, Pay Later」は、行動経済学で言うところの「時間選好」と「損失回避」に当たります。「1万円を今あげる」と言われた場合と「1万円を1カ月後にあげる」と言われた場合では、ほとんどの人が今もらえる方を選びます。しかし、「1万円を今支払うように」と言われた場合と「1万円を1カ月後に支払うように」と言われた場合では、ほとんどの人が1カ月後に支払う方を選ぶそうです。利益を今すぐ得られる場合よりも、損失が先延ばしになったうれしさの方が大きいことが行動経済学でも証明されており、そういった点からもBNPLは理にかなっていると言えるのではないでしょうか。

Z世代の心に刺さる、新しいCXのカタチとは?

これまでのBNPLとZ世代をめぐる内容を踏まえ、ここからはZ世代にとって魅力的な顧客体験のあるべき姿を考えていきます。

「若者の○○離れ」などといわれるように、Z世代は物欲に乏しいイメージがありますが、決してそうとは言い切れません。例えば、SHIBUYA109 lab.が2021年に行った「若者のお金に対する意識・実態調査」によると、「応援消費、親近感消費」に代表されるように、Z世代は自分が好きなアーティストやエンターテインメントコンテンツにはお金も時間も熱量もかけることが分かっています。その一方で、松井証券が2022年に行った調査「世代別『お金事情』に関する実態調査」によると、若い世代ほど人生の早い段階でお金の不安を感じており、そのうち約半数が支出の節約、貯蓄に励んでいるそうです。

これからの時代、Z世代にとって魅力的な顧客体験、購買体験を考えるには、「欲しいものをすぐ購入できる手軽さを実現すること」「安全かつ分かりやすい購入手段を提供すること」は重要なポイントと言えそうです。具体的には「体験消費、参加型消費」「応援消費、親近感消費」など彼らの価値観に響く商品訴求の工夫や、欲しいと思ったその時に購入できるフローの工夫。その他、個々のユーザーに合う多様な決済方法の用意や、超過債務リスクを未然に防ぐフォローなども挙げられます。

「月々のお小遣いからすればちょっと高くて一括払いでは買えないものを、手数料なしの分割払いで買いたい」といったZ世代のリアルなニーズに応えるためには、彼らの消費意識に寄り添い、そこを起点にしてCX(カスタマーエクスペリエンス)を組み立てることが重要です。Z世代を対象としたマーケティングで効果を高めるために、BNPLをはじめとした「決済方法」までを視野に入れ、戦略を練ってみてはいかがでしょうか。

 

BNPLはクレジットカードと異なり、審査が簡単で分割手数料が不要である代わりに、ポイントプログラムなどの付帯サービスが付かない後払いサービスとして登場しました。主にZ世代を中心とした若年層の間で人気ですが、これはZ世代の「今すぐ購入したい」「多少高額でも、価値を感じたモノやサービスにはお金をかけたい」「出費をコントロールしながら、安心してショッピングがしたい」といった消費感覚とマッチしているからではないしょうか。Z世代をターゲット層とした顧客体験の創出においては、決済方法までを含めた設計を念頭に置いてCX向上を模索してみてください。

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Transformation SHOWCASE 編集部

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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