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2022/08/04

3D広告が広げる、次世代のOOH(屋外広告)の可能性。ユーザーの心をつかむ、本質的なアプローチとは

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近年、日本でも見られるようになった「3D広告」。街頭ビジョンから飛び出すような迫力ある映像は、見る人に大きなインパクトを与えます。テレビやSNSなどで取り上げられているのを見たことがある人もいるのではないでしょうか。

屋外の看板や交通広告、街頭ビジョンなど、消費者が家の外で接する広告を「OOH(Out Of Home:屋外広告)と言いますが、これは最もシンプルな広告の1つであり、古くから存在していました。そんなOOHの歴史に新たな1ページを刻む3D広告ですが、今後、広告の世界にどのような影響を与えていくのでしょうか。今回は、「3D広告はOOHの可能性を広げ、ユーザーへの本質的なアプローチに回帰するヒントとなるか?」をテーマに、これまでのOOHの歴史をひもといた上で、3D広告が持つ価値や今後の可能性について考えます。

長きにわたり人々の興味関心を集めてきた「OOH」

「世界最古の広告」がどんなものか、ご存じでしょうか。一説によると、およそ4500年前にエジプトでパピルスを用いて掲出された、化粧品広告だったといわれています。さらにさかのぼること4万年前には、インドネシアでも壁画による情報伝達が行われていたという説も。人の往来がある場所に情報やメッセージを掲げる。こうしたOOHは、人類が古くから用いてきた、いわば「最古の広告フォーマット」です。特に人口の多い都市圏では、多くの人に効率良くメッセージを届けられることから、長い間活用され、時代とともにさまざまな形が生まれてきました。

OOHの定義は広く、消費者が「家庭以外の場所で接触する広告メディア」であれば、それは全てOOHに該当します。代表的なのは街中の看板やポスター、電車内の中吊り広告、さらに最近ではデジタルサイネージを活用したものも多くなっています。タクシーの車内やエレベーター内で映像が流れているのを目にすることも増えたのではないでしょうか。

また、OOHは、紙やディスプレイなど平面による表現だけにとどまりません。立体的な加工をしたパネルや、ポスターにノベルティや商品のサンプルを貼っておき、自由に剥がして持ち帰ってもらう「ピールオフ広告」。あるいは、センシング技術により、デジタルサイネージの前に立った人の顔を認識し、年齢や性別に応じて広告を出し分けるといったインタラクティブな広告も可能になりました。技術革新やプロモーション手法の変化とともに、OOHには多彩な表現が取り入れられてきたのです。

OOHの新たな形である「3D広告」は、話題を広げながら「自走」していく

このようにOOHは、時代の潮流に合わせながら技術革新とともに形式や表現を自在に変え、多くの消費者へのアプローチを実現してきました。その中でも近年、注目を集めている新たなOOHが3D広告です。ここからは3D広告の有用性をひもときながら、今後のOOHの可能性について見ていきましょう。まずは、話題となった3D広告の代表例を挙げます。

事例1:新宿東口駅前の「巨大猫」広告
2021年7月、JR新宿駅東口駅前のビルの屋上に登場した、大型の街頭ビジョン。高精細のLEDディスプレイを湾曲させた、独特な形状のビジョンに4K相当の鮮明な3Dコンテンツを放映することができます。その設置と同時に公開された、「巨大な猫が飛び出す映像」は、人々の注目を集め、次回の放映までその場にとどまって「撮影待ち」をする人が続出するほどの人気に。計画よりも放映頻度を増やし、その時間をSNSで事前に告知するなど、観覧者数の抑制対策を行う事態となりました。

事例2:スポーツメーカーによる「飛び出すスニーカー」広告
2022年3月には、同じ新宿東口駅前のビジョンで、大手スポーツメーカーが自社のスニーカーブランドの誕生35周年を記念して「飛び出すスニーカー」の広告を掲出。こちらも大きな話題となり、瞬く間にSNSで拡散され、海外からも反響を呼びました。

この2つの事例から見えてきたのは、3D広告による迫力ある表現は、人を引きつける効果が強く、広告にもかかわらず、それ自体が「集客」さえ生み出す可能性を秘めていること。さらに、こうしたインパクトある広告は「人に伝えたい」という気持ちもかき立てます。上記2つの広告の放映時、多くの人がその様子をスマートフォンで撮影し、家族や友人に共有したり、SNSに投稿したりして話題を広げていきました。つまり、3D広告は、その場で多くの人の目を捉えるだけではなく、そこからさらに話題を拡散させ、「自走」させていくこともできるのです。

もちろん、3D広告であれば、どんなものでもこうした効果を生み出せるわけではないでしょう。話題を自走させるためには、「SNSで拡散しやすいか」を考慮することが重要だと考えられます。「巨大猫」の広告が人気を集めたのも、以下の2つが奏功したからではないでしょうか。

  • 1回の放映時間が15秒と短く、撮影もSNSへのアップロードも容易
  • 時間帯や季節によって猫の動きが変わり、何度も撮影したくなる工夫がされている

このように、「驚き・感動」を起点に話題を拡散させ、自走させていくことができるのは3D広告の強みです。ですが、こうしたアプローチは、何も3D広告にしかできないことではありません。そもそもOOHは、古くから、多くの人の目に触れるところに設置され、見た人がその情報や感じたことを周囲の人に伝えることで、拡散されていくものだったはずです。技術が飛躍的に向上した現代においても、その本質は変わりません。むしろ、3D広告の特性を考えることで、「人の心を動かすことで、メッセージを伝播していく」というOOHの原点を、見つめ直すことになるのではないでしょうか。

3D広告から学び、人々の心を瞬時につかむ広告づくりを

人々の心を瞬時にとらえ、話題の自走を促す、3D広告。この性質を踏まえた上で、今後の広告の在り方について考えてみましょう。

多くの人に感動や驚きを与える広告がある一方、ネガティブなイメージを抱かれる広告も残念ながら存在します。例えば、一部のインターネット広告にそのような声が寄せられることも。一般社団法人日本インタラクティブ広告協会の「2020年インターネット広告に関するユーザー意識調査」によると、「広告表示のされ方(広告を消去する×ボタンが小さすぎる、画面下部などに表示されてスクロールしても付いてくるなど)」によってインターネット広告に不快感を抱いている人は54%、「表現内容(誇張の強い内容、不快なクリエーティブなど)」によって嫌悪感を覚える人は41.8%にものぼります。また、表示される広告が「興味がない内容」「自分が対象ではない内容」と感じているなど、ターゲティングの面で不満を感じる人も多いようです。

こうした意見がある中で、いかにして嫌悪感を持たれることなく、商品・サービスの訴求ができるか、頭を悩ませている企業は多いでしょう。「最初の数秒で興味を引きつける構成」「ストーリー性を持たせ、続きを見たいという気持ちを起こさせる」「ターゲット層に好まれるタレントやインフルエンサーを活用する」といったアプローチなどによって、各社広告効果を高めようとさまざま工夫をしています。

重要なポイントの1つは、的確なターゲティングを用いた「広告の出し分け」。街中の看板や駅貼りのポスターといった従来のOOHは、不特定多数の人にアプローチができる一方で、ターゲットとなる人が確実にその場所を通るとは限らないため、ある条件によって絞り込み、「本当に届けたい人」に限定して訴求するということは難しい面があります。また、天候や時間帯などの条件によって、適した情報を掲出するということも基本的にはできませんでした。しかし、OOHでも各種のセンシング技術を用いたデジタルサイネージによって、年齢・性別や気候などの環境変化を考慮して、そこにいる人、あるいはその時の状況にマッチした広告を出すことが可能になってきています。3D広告においても、適切なターゲティングによる出し分けができれば、広告を見た人に「自分のための情報」だと感じてもらえ、より好意的に受け取られるようになるのではないでしょうか。なお、気象情報に基づいた広告のターゲティングについては、こちらの記事でも紹介しています。

また、「メタバース」をはじめとする仮想空間においても、3D広告の手法が取り入れられていくかもしれません。こちらの記事でも紹介していますが、今後メタバースがさらに普及すれば、日常生活やビジネスなど多様な分野で、より日常的に利用されるようになると考えられます。メタバース上での広告の掲出が一般的になっていくことも想像に難くありません。仮想空間上においては、大きさや形状などの物理的な制限から解放され、より自由な広告表現が生まれることも期待されます。画面からものが飛び出したり動き回ったりするようなダイナミックな表現や、ユーザーを巻き込む没入感のある表現なども可能になるでしょう。そうなれば、「人を引きつける」「周囲に拡散したくなる」といった3D広告が持つ強みをさらに発展させていくかもしれません。

 

人々の心を動かし、話題を自走させていく、3D広告。その特性をひもとくと、「見る人に新鮮な驚きを与える」という広告の原点とも言える考え方が根底にあることが分かりました。「いかに人の心を動かすか」という本質的な部分を追求しながら、センシング技術やメタバースといった最新のテクノロジーとうまく掛け合わせていく。それがこれからの広告の可能性を広げる、有効なアプローチの1つになるのではないでしょうか。

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Transformation SHOWCASE 編集部

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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