データアーティスト株式会社は、AIを中心にデジタル領域のソリューションの提供やマーケティング課題の解決などに取り組んでいます。同社は、AIモジュールを組み合わせてソリューションを構築するサービス「KEY RING」を開発。AIの専門家でなくても簡単に活用できること、AIモジュールの組み合わせによって多様な使い方があることなどが特徴です。Transformation SHOWCASEでは、この「KEY RING」を活用するとどんなことができるのか、複数回にわたって記事を発信しています。
第1回は、「KEY RING」の開発背景から概要、特徴などを解説。第2回は、主に「画像処理系のモジュール」を活用した事例についてご紹介しました。第3回となる今回は、「自然言語処理機能がもたらすもの」について、データアーティストの山本覚氏がご紹介します。本記事をきっかけに、自社でのAI活用の可能性について、検討されてみてはいかがでしょうか。
「KEY RING」には、7つの「自然言語処理系モジュール」が備わっている
今やAIはさまざまな分野で活用されていますが、「興味はあっても使い方が分からない」「自社のビジネスで活用するのは難しそう」などと感じている方も少なくないでしょう。「KEY RING」には、そういった課題感に応える多種多様な企画に使える“汎用モジュール”が用意されていることは、当社の山田健が登場した第1回でも説明しています。その中でも今回は、「自然言語処理系モジュール」についてご紹介します。
自然言語処理系モジュールは、以下の7つで構成されています。
<自然言語処理系モジュール>
・FAQモジュール(チャットボット)
・キャッチコピー生成モジュール
・自然対話モジュール
・文脈理解モジュール
・キーワードネットワーキングモジュール
・関係性可視化モジュール
・Tweet分析モジュール
自然言語処理系モジュールの中で最もキャッチーな機能と言えば、「自然対話モジュール」を生かしたもの、いわゆる「対話エンジン」ではないでしょうか。これによって、相手が人間ではないのに、まるで人間と自然に会話をしているような体験が可能になります。
また、「Tweet分析モジュール」というものもあり、これを活用した例として、「Twitter分析」を提供しています。こう書くと、リサーチ会社やPR会社が提供しているような「ソーシャルリスニング」機能かと思われがちなのですが、私たちはTweetをAIで分析することで、「投稿者が男性なのか女性なのか、何歳くらいなのか」「ポジティブなのかネガティブなのか、どちらの感情でTweetしているのか」を推定することができます。大量のTweet内容から推計するので、「世論を可視化する」と言えるかもしれません。テキストデータを人力で分析するには限界がありますので、AIを活用する意義は大きいと思います。
「自然言語処理」は、データドリブンなマーケティングの基本機能

「自然対話モジュール」を活用して対話エンジンを展開する1つの例として、「AIタミ子」というキャラクターが存在します。この「AIタミ子」は、もともとはあるテレビ局の番組企画と連動する形で生まれ、「愛されるAIになろう」という、非常にハードルの高い目標を掲げて開発を進めました。最終的には、ファンとリモート飲み会を開催するまでに成長し、一定の成果は上げたのではないかと思っています。また、AIでありながら「キャラクターの性格を必要に応じて調整する」ことができますので、さまざまな企業とコラボして、受付窓口や接客担当、Web上での説明員として活躍してもらう、といった幅広いシーンでの活用を現在でもご検討いただいています。
電通ジャパンネットワークの中では、視聴率予測のシステムに私たちのAI技術を活用しています。どのようなタレントが出演するのか、そのタレントについて最近どのようなことが話題となっているか、最近の検索上昇ワードは何か、過去の視聴率はどのくらいか、放送時間やジャンルは何か、番組表にどんなことが書かれているか……など、多種多様な「番組に関するデータ」をピックアップして分析することで、視聴率を予測しています。
つまり、「自然言語処理」というのは、データドリブンなマーケティングの基本と言えるでしょう。今、世の中がどうなっているか。どんなものが流行して、支持されていて、どういう空気になっているのか。そういったことが、大量のテキストデータを分析することで見えてきます。「言語処理」とは、人間の話す言葉やテキストを分析して「それに続く、最も確からしいもの」を出していくということです。
例えば対話エンジンやチャットボットは、入力された言語に対して、「そういう会話の次にはこういうフレーズが来る」と予測して返しており、その精度が非常に高いので、やりとりが自然な会話のように感じられます。言葉のつながりについて大量の学習を経た上で、「この条件ならこうなるのが最も確からしい」と導き出す。視聴率予測で言えば、単純に「人気アイドルが出るから視聴率が上がりそう」と推察するのではなくて、「そのアイドルについて最近こんなことが言われていたり、SNSで語られていたり、メディアで取り上げられていたり、ニュースが流れている」というさまざまな情報を踏まえて、視聴率に与える影響を予測します。まさにマーケティングそのものです。
さらに、最近ではこれらの機能を企業のマーケティングにダイレクトに生かす取り組みも始めています。「Microscope」というAIパーソナライズツールでは、自社のWebサイトに訪問するお客さまの過去サイト訪問履歴から、AIが自動でクラスタリング(データの類似性によってグループ分けする手法)し、その上でそのクラスタに「最適と思われる」広告メッセージを提示する、という取り組みを進めています。自然言語処理機能を生かすことで、過去訪問サイトの内容が分析できるため、そこから「自社サイトを訪問したのはどういったタイプのお客さまか」をAIが分析してくれます。結果的に、投げかける広告メッセージも最適化できるというわけです。
「脳を育てる」段階はもう終わっている。これからは「脳をどう使うか」の段階へ
かつてAIは「学習させるもの」で、予測するために大量のデータを入力して学習させてからでないと有効には使えませんでした。そしてデータが少なければ精度も低いため、期待外れということも。しかし今では、アメリカの人工知能を研究する非営利団体「OpenAI」が、大量のデータで学習済みのAIを開発しています。データアーティストでも、1億円以上の計算コストをかけて学習が終わっている状態にある「GPT-3」というAIを開発し、活用を始めています。私たちは、もうAIをゼロから育てる必要はなく、この学習が済んでいるAIを「どう活用するか」という段階に入っているのです。
例えば、この「GPT-3」を活用すると、ある商品の仕様を入力するだけで、その説明文をAIが書く、ということができます。「こういう仕様の商品はどのような特徴を持っているか」が既に学習されているので、そこから推測される「最も確からしい」説明文を自動で書くことができるのです。
これを応用すると、「日本に旅行に行こうと思っている人が感じる悩みは何か」という問いにも、AIが回答してくれます。質問者からすると、「分からない」と思っていることに回答してくれるので、まるで無から有を生み出しているような気がしてしまいますが、実際にはAIが、世の中にある大量のデータから、「日本旅行」や「悩み」といったキーワードに付随してどのようなことが語られているかを把握し、そこから最も確からしいことを返しているのです。つまりこの回答は統計から導かれているのですが、一度に大量のデータを読み解くのが難しい人間にとっては、まさにAIは「私たちの能力を超えた予測値」を返してくれる存在なのです。
「KEY RING」のモジュールの1つに、「キャッチコピー生成モジュール」もあります。ある商品やサービスのキャッチコピーを自動で書いてくれるのですが、このモジュールにおいて「AIならではの面白さであり、不十分さ」を示した例があります。「カードローンが申し込みたくなるコピーは?」と入力したところ、返ってきた答えは、「このカードローンは、借金を返さなくてもいい」というものでした。確かに、返さなくていいなら誰でも借りたいですよね(笑)。でも、返さなくていいカードローンなんてあり得ないので、AIはそこが分かっていない、という評価もあります。ですが、これはこれでばかにできないな、と思うところもあります。もし本当に「返さなくていいローン」があれば、それはきっと最強のローンになります。いったんそれを受け入れてみると、「抽選で〇人は返さなくていい」「最初の1年間は返さなくていい」「初回利用は返さなくていい」とか、そこから刺激されるアイデアや施策がいろいろと見えてきて、中には実際に成立するものもあるかもしれません。しかし人間は、「返さなくていいローン」なんてあるわけないと決めつけてしまうので、最初からその方向性で考えないかもしれません。ですから、AIの出す回答は完璧ではないものの、その指し示す方向には、正解に近い何らかの可能性がある、と言えるのではないでしょうか。
AIの進化は、これからの日本の成長を支えていく
ここまでの話で、自然言語処理と呼んでいるものがどういう世界観なのかを少しでも感じていただけたら幸いです。ちょっと「KEY RING」から話はそれてしまうのですが、この「自然言語処理」を今後どのように進化させようとしているのかを最後にご紹介します。
テキストデータの学習分析は進んでいますが、さらにこのテキストデータを画像データとひも付ける取り組みが進んでいます。これが進めば、ある画像に対して、その画像がどのようなものなのかを言葉で詳細に説明することができますし、逆に文字で指示を出せばその通りの画像を自動生成する、ということも可能になります。既に「AIが絵を描く」取り組みは進んでいて、ある作家風の絵を自動で生成する、といったことは可能になっています。さらにそこから進んで、指示通りに絵を描いたり、絵の内容を説明したり、といったこともいずれはできるようになっていきます。そうして、またAIでできることがどんどん広がっていくのです。AIの進化についても、ご興味を持っていただけると嬉しく思います。
かつて18世紀後半にイギリスで産業革命が起こり、それによって「先進国」と「開発途上国」という区別が生まれたともいわれていますが、今でもその流れは続いています。今、私たちが向き合っているAIの進化は、これからの国の成長力そのものを大きく左右するような影響をもたらすかもしれません。日本がこれからも成長し続けられるかどうかは、AIの進化を取り入れられるかどうかにもかかっているのではないでしょうか。私たちはそう信じて、これからもAIの進化に向き合いながら、皆さまのお役に立ちたいと考えています。
本記事では、「KEY RING」の中でも「自然言語処理系モジュール」についてご紹介しました。個々のモジュールの機能や特徴もさることながら、「自然言語処理」が、これからのマーケティングの土台の1つとなる、という根本を認識いただけると、AIに対する視点や期待も大きく変わってくるのではないでしょうか。
Transformation SHOWCASEでは、引き続きこの「KEY RING」を活用して構築したAIソリューション事例をご紹介していきます。そちらの記事もぜひご一読ください。