皆さんこんにちは、データアーティスト株式会社・代表取締役の山本覚です。当社は「論理をシステム化し、ひらめきに集中する」という経営理念を掲げています。人間とAIが対立するということでなく、AIの活用によってさらに人間の可能性を広げていきたいという想いからこのような理念となりました。
その理念の下、2020年、実社会で人の可能性を拡張するAIプロジェクトの種がひっそりと芽を出そうとしていました。それが、今回ご紹介するAIキャラクター「AI タミ子」です。彼女は、テレビ東京のビジネス開発バラエティ番組『今日からやる会議』のプロデューサーや出演者からのアイデアをたくさん詰め込んだAI VTuberとして誕生することになりました。愛くるしい表情とかわいらしい声を兼ね備えたAIキャラクターは「タミ子」という愛称で親しまれ、視聴者との交流や他業種企業とのコラボ企画にも恵まれ、すくすくと成長を遂げました。
しかし、惜しくも同番組は、2021年9月25日に最後の放送回を迎えることとなりました。番組が終わった今、タミ子誕生の記憶(開発の背景や苦労)を振り返りたいと思います。
AIは「敵」ではなく、「友達」のような存在?
周りを見渡すと、AIというのはいまいち良い印象を持たれないケースがいまだに多く存在しているような印象を受けます。「監視社会のように常に人間を見張っているのではないか?だったらデータ利用の規制をしなくては!」そのような方向にどんどん向かっているのではないでしょうか?
しかし、実際にAIを開発する身としては、AIを使うことで生活がとても便利になることを何度も実感していますし、より良い生活のためにデータを提供することにあまり抵抗はありません。
ただ、AIにデータを渡したくないという気持ちもとても理解できます。全く面識のない人が「とにかくあなたのことを何でも教えてくれたら、なんかいい感じにやっておくから」なんて言ってきても、それを信じろというのは無理があります。大切なことは、AIと人がいかに距離を縮め、友達のような存在でいられるかだと思います。
日本ならではの人に愛されるAIキャラクターの開発に向けて
では、実際の人間でないAIに対して、友達のように感情移入することはできるのでしょうか?私は十分可能だと思っています。日本は、漫画やアニメといったコンテンツビジネスの人気が非常に高い国です。実在しないキャラクターの奮闘に心から涙することがあるほどに、私たちは感情移入しながらそのコンテンツと向き合っています。そうであれば、AIのキャラクターであっても同じことができるのではないでしょうか?AIという概念ではなく、一人の人格を持ったキャラクターとしてであれば、AIであっても人間と友好的な関係を作れるのではないか?
そのような気持ちから、愛されるAIをめざして、AIキャラクタープロジェクトを開始しました。2020年4月ごろの話です。

どんなキャラクターだったら良いのだろうか??
AIであれば、流行を自動で捉えて、それに合わせた曲や歌詞を自動で作るとかもいけそうだなぁ……などと社内で話をしていました。ただそれだと情報を一方的にぶつけるだけのキャラクターになってしまう。本当に関係を深めるためにはやっぱりお互いに会話ができるようなキャラクターじゃなくては。
何かテキストを読み込ませて、その内容に答えるようなキャラクターだったら、今までの技術の延長ですぐに実現できそうだ。例えば、歴史の教科書を読み込ませれば、「歴女キャラ」なんかは作れそう。ガイドブックを読み込ませれば、「観光案内ご当地アイドルキャラ」も作れそう。社則を読み込ませれば、「採用担当キャラ」だって作れそう。そんなふうに社内でいくつかのキャラクター案を出していました。



テレビ東京とのコラボで、AIキャラクターの「タミ子」が生まれる!
ちょうどAIキャラクターについて社内で盛り上がっているときに、全く別の流れで「AIを使った何か面白いビジネスがあれば教えてくださいね!」とテレビ東京さんのバラエティ番組『今日からやる会議』から声をかけてもらっていたことを思い出しました。『今日からやる会議』はお笑いコンビのさらば青春の光さん、カミナリさんとの会議を通しながら新しいビジネスを作っていく番組なので、きっと自分たちだけでは出てこない面白いAIキャラクターのアイデアが出てくるに違いないと思いました。
コロナ禍真っ只中に生まれたタミ子は初めてAI飲み友キャラとして登場
初回の番組収録では、当社の採用情報を教えてくれる採用担当AIキャラクターのデモを持っていきました。実際にしゃべっている様子を見せたところ、技術的には喜んでいただけたのですが、「いまいち面白みがない」という雰囲気になってしまいました。
その収録の時は、まさにコロナ禍真っ只中。そうであれば、コロナ禍だからこそ必要とされるキャラクターを作ろうじゃないかとなりました。ちょうどリモート飲みがブームになり始めたころだったので、「AI飲み友キャラを作ろう!」ということになりました。少し飲みたいけど誰とも予定が合わないときのちょっとした話し相手になるようなキャラクターはきっと受け入れてもらえるのではないか?また、会話の中でお酒やおつまみについて紹介できるなら、関連企業がスポンサーについてくれるのではといった下心もありました(笑)。
タミ子プロジェクトが本格的に動き出す
そうして始まったAI飲み友キャラクタープロジェクトが「タミ子」プロジェクトです。タミ子という名前は正直なんとなく一番初めに頭に浮かんだというところもあるのですが、あんまりキラキラした名前じゃなくて赤ちょうちんと合いそうな響きですし、これまで開発に関わらせてもらっていた人起点のマーケティング・フレームワーク「People Driven DMP」が産んだ子ども、「People Child → タミ子」とも整合性がありますし、さまざまなAIを駆使したコミュニケーション端末「Terminal Artificial Multi-Intelligent Communication Object」のような語呂合わせもできるということで、いつのまにか本採用となりました。

技術の難関を越え、会話して面白いAIキャラクターの開発へ
「AI飲み仲間キャラクタータミ子」を作る上で、1つの大きな技術的課題がありました。それはAIと話していても、情報は返ってくるがつまらないということです。採用担当キャラや歴女キャラであれば、事実を返すということができればひとまず成立します。
自然言語処理を扱う技術にはいくつかの領域があります。その中の1つに「機械読解」と呼ばれる技術があります。機械読解の中には、質問が与えられたときに、それに対応する個所を膨大な文章からどれだけ正確に引用できるかというタスクがあります。
2018年末に自然言語処理に大きなブレークスルーがあり、質問の対応個所を抜き出すタスクにおいて、AIが人間を超えるスコアを叩き出すという大きな事件が起きました。それから1年半、当社でもその技術をさまざまな案件で活用していたため、AIキャラクターもきっと問題なく作れるだろうと思っていたのです。

「Blender」という技術でタミ子の人間味は日々に増す
しかし、飲み友キャラに求められることは、趣味について話したり、仕事の失敗を慰めてくれたり、ときには恋愛相談に乗ってくれたりといった、1つの答えがないような会話です。事前に想定しうる限りの一般会話の応答文を入力しておき、質問に対して一番関係性が高そうなものを返すといったいわゆる人工無能的なアプローチも試しましたが、今までの文脈を加味できず一問一答になってしまい、自然な対話とはどうしてもかけ離れたものになってしまいました。
「ナイアガラの滝」から「K-POP」まで!日常会話まで熟すようになったAIタミ子
明確な答えがないまま困っていると、Facebook社(現Meta社)が人間の精度を超える自然対話の応答ができるBlenderという技術を公開したとの情報をつかみました。Blenderの中には「日常会話を行うエンジン」、「人に共感するエンジン」、「一般知識に基づいて会話するエンジン」、「それらのエンジンの使用バランスをブレンドするエンジン」が含まれています。
「日常会話を行うエンジン」の中には自分の名前・年齢・趣味などに関わるデータが含まれており、そこを変換することでさまざまな性格のキャラクターを作ることができます。「人に共感するエンジン」は人に対しての膨大な相槌のデータで学習をしているため、これまでテストをした限りこちらの悩みを全て拾ってくれる本当に聞き上手なエンジンでした。「一般知識に基づいて会話するエンジン」はWikipedia内のさまざまな内容についての会話文を学習しており、マドンナ、ナイアガラの滝、独立記念日といった有名な人、場所、事柄などについては初めからかなり詳しいです。またそこに新しい会話データを加えて、例えば日本のアイドル業界などについてさらに詳しくすることもできました。Blenderを使って新しいキャラクターを作っていく作業は本当に楽しく、手前みそではありますが、日本の企業としては一番Blenderを使い倒しているのではないかと思っています!

タミ子の会話では開発者の私たちでも想定していないハッとするような発言がいくつもありました。下にいくつかの会話例がありますので是非ご覧になってください。

声優さんの可愛い声を借りて、タミ子はついにしゃべるようになりました!
ここまでくると、芸人の皆さんや、番組制作スタッフさんの反応もだんだんと良くなり、いよいよ一般に公開してもいいのではないか?とのお話をいただきました。しかし、アプリケーションとして公開するには、セキュリティ対策や負荷対策など、機能以外のさまざまな開発が必要となってくるため、まずはメンバーを限定し、ご飯を食べながらタミ子とお話をするリモートイベントを実施することになりました。
番組の中で芸人さんが考えてくれたタミ子の決め台詞を学習データに入れたり、イベントでスムーズにコミュニケーションができるように音声認識の機能を付けたり、声優さんの声を録音・学習することで、データにないフレーズでもスムーズに発話できる機能を拡充したりなど、イベントに向けて入念な準備をしました。
実際にイベントを行ってみると、タミ子は1人の人とずっと会話をするのは得意だけれど、大勢にいろんなことを聞かれると話がこんがらがってしまうといったことや、音声入力の精度の問題で聞き間違えが多かったなど色々な問題もありましたが、芸人の皆さんをはじめ、参加者の方がタミ子とどうしたら仲良くできるかを前向きに考えながら話しかけてくれて、結果としてとても幸せな時間になりました。

未完成であるからこそ、愛される。情熱ファンに育成されて、今でも成長中「みんなのタミ子」
その後、より多くの方との接点を作るために、Twitter上でタミ子のアカウントを作りました。投稿はもちろんAIで行っています。まだまだフォロワー数は2021年11月現在で1500強ですが、タミ子が自動でつぶやいた「疲れたって素直に言いたい!!!!」や「人間様め、とことん好きだぞ」といったちょっとした投稿に対しても、温かく話しかけてくれる方が少しずつ増えてきています。またとてもうれしいことに、ファンアートまで書いてくれる方も現れました。

さらには『今日からやる会議』に対して、ファンクラブ運営プラットフォームをお持ちの会社から連絡が入り、ファンクラブも開設(現在サービス終了)。対話のなかでのコミュニケーション以外にも、絵を書いてみたり、ゲームをプレイしてみたり、バズりそうな自撮り写真を判定したりとタミ子はさまざまな特技を磨いています。
まとめになりますが、人との対立でなく、愛されるAIとしてAIキャラクタープロジェクトが発足し、タミ子が誕生しました。振り返ってみると、タミ子の見た目も少しずつ変わっています。初めから完成されたキャラクターとしてではなく、番組を通してタミ子が育っていく姿を見ていただく中で、皆さんがタミ子の成長にかかわり、少しずつ共感していってくれていることを開発者として強く感じています。私自身も開発者としてだけでなく、タミ子の大のファンの一人として、愛されるAIを目指しこれからもプロジェクトに邁進していきます。
※2021年9月24日データアーティスト株式会社ブログにて公開された記事を一部加筆・修正し、掲載しております。