インターネット上に作られた3Dの仮想空間「メタバース」では、リアルな世界とは違った新しい体験を顧客に提供できることから、プロモーションやマーケティング、ブランディングでの活用にも大きな期待が集まっています。また、これまでにない消費行動が生まれ、新たなビジネスチャンスを獲得できる可能性も。メタバースがもたらす、マーケティングや消費行動の変化について、国内外の事例を交えながら解説します。
メタバースは新たな体験やコミュニケーションを生む
「メタバース(metaverse)」は、「meta(超越)」と「universe(宇宙)」を組み合わせてできた言葉で、まだ発展途上のため正確な定義は難しいところですが、「大人数が同時に参加し、体験を共有できる、インターネット上に作られた仮想空間」と理解しておけば良いでしょう。多くの場合、参加者は自身の分身であるアバターを使って仮想の3D空間を自由に行動し、他者と交流したり、エンタメを楽しんだりすることができます。
このような空間自体は、ゲームの世界では以前から存在していましたが、コロナ禍で人との接触が制限される中、メタバース上で交流する人や、バーチャルなコンサートやイベントに参加する人が増えました。その結果、改めてさまざまな分野から大きな注目が集まるようになったのです。
企業がメタバースへの参入を進める理由とは?
世界各地のテック企業が、メタバースのプラットフォーマーとなるべく、激しい競争を始めています。2021年11月にはFacebookが社名を「Meta(メタ)」に変更。メタバース事業を推進していくことを表明し、話題となりました。日本でも、さまざまな企業が出展し、メタバース上でショッピングや体験を楽しめるVRイベントなどが開催されています。
メタバースは、マーケティングやブランディングにおいても大きな可能性を秘めています。例えば、気候の問題や感染症の流行などによって外出しにくい時期でも、バーチャル空間において顧客とリアルに近いコミュニケーションを取ることが可能になります。また、遠方に住んでいる人など、地理的な条件によってリーチしにくかった層と接点を持つことも容易になるはずです。VR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Augmented Reality:拡張現実)、MR(Mixed Reality:複合現実)などの最先端テクノロジーを活用すれば、非日常的かつ新鮮な体験を顧客に提供した上で、商品やサービスを訴求することもできるでしょう。
メタバースをいかにビジネスで活用するか。国内外で始まる新しい試み

実際にメタバースはビジネスでどのように活用されているのでしょうか。
・オンラインゲーム上でコンサートを開催
海外でメタバースムーブメントを牽引しているものの1つと言われているのが人気オンラインゲーム。仮想空間の中でバトルゲームを楽しめるだけでなく、有名アーティストがゲーム内でコンサートを開催し、1,000万人以上もの視聴者を集めるなど、大きな話題を呼んでいます。
・国内自動車メーカーによる自動車の展示会
日本でも、自動車メーカーが実在する自動車ギャラリーを、VR空間上に再現。ユーザーは現実のギャラリーに立ち寄ったような感覚で、実際のCADデータをもとに作られた車両を見たり、カフェコーナーで過ごしたりできます。また、VR空間の中で電気自動車に乗って地球を巡りながら、環境問題について考えるツアーなども開催され、仮想空間であることを生かした、ユーザーとの新たなコミュニケーションの場となっています。
・人気キャラクターによるVR音楽フェス
非日常的な体験の提供という意味では、キャラクター会社が開催したVR音楽フェスも話題となりました。会場として、実在のテーマパークを忠実に再現し、その地下に広がる空間で、キャラクターとの交流やアーティストのライブを楽しむことができるというものです。有名なボカロPやVTuberなども多数出演したこのイベントは、キャラクターのファンはもちろん、音楽ファンやVR好きのユーザーをも惹きつけました。キャラクターの世界観を生かした空間の中で、自分のアバターにキャラクターの衣装を着せたり、限定のデジタルグッズを購入したり、他の参加者と語り合ったりと、まさにメタバースを活用した新しいエンターテイメントの形と言えるでしょう。
こうしたメタバースならではの多彩なコンテンツや新鮮な体験は、ユーザーの満足感につながり、今まではよく知らなかった商品への興味を喚起したり、「誰かに共有したい」という気持ちをかき立てたりして、マーケティング効果を高めることが期待されています。
メタバースによる消費行動の変化が、新たなビジネスチャンスをもたらす

これまで紹介してきたように、国内外で大きな注目を集めているメタバースですが、日常的に利用しているユーザーは、日本ではまだ一部の層です。ただ今後、5Gが普及し、VRゴーグルなどのデバイスも、より安価で使いやすいものが登場すれば、メタバースはより一般的になっていくでしょう。デジタルデータの資産性を担保できるNFT(非代替性トークン)などの普及により、人々がメタバース上で買い物をしたり、物を売ったり、お金を稼いだりすることも当たり前になると言われています。
メタバースは買い物の仕方や、商品の選び方を変える
メタバースが普及すると、消費行動も従来とは大きく変わる可能性があります。例えば、今は欲しいものがあれば店舗もしくはECサイトで購入する人が多いと思いますが、今後は、メタバース上で製品やサービスを体験・試用し、そのままオンラインで購入するようなスタイルも広がるかもしれません。それに応じた、新しいプラットフォームやサービスも登場することでしょう。
さらに重要なポイントが、メタバース上では人々は年齢や性別、身体的特長などの制約から解放されたアバターとして行動していることです。例えば若い男性のアバターを使っている女性が、男性向けのファッションやアクセサリーのデジタルデータを購入するといった、リアルな世界ではなかった消費行動が生まれる可能性があります。そうなれば、これまでの属性に当てはまらなかった新規顧客獲得が狙えるはずです。あるいは、身体能力に衰えのある高齢者であっても、メタバース上ではアクティブに行動できることから、今までにない高齢者向けサービスが展開される可能性もあります。
メタバースの活用がサステナビリティへの貢献に
仮想空間のメタバース上では、リアルな製造や流通を伴わないため、輸送のエネルギー資源やコストが抑えられるというメリットもあります。新製品をメタバース上でテスト販売し、その反響から生産量を検討するなど、過剰生産の削減にも貢献できそうです。今後は、そのようなサステナビリティの観点から、事業活動の一部にメタバースを活用する流れも生まれるかもしれません。
空間や人々の制約を解き放すメタバースには、計り知れない可能性があります。自社の事業とメタバースをいかに結びつけて付加価値を生み出すか。それが企業にとって大きな競争力となる時代がやってきそうです。
メタバースは、今後ビジネスのさまざまなシーンでの活用が期待されています。ユーザーの性別や年齢、身体的特長といった制約を解き放ち、今までにない消費行動を生み出す可能性を秘めています。従来のマーケティングのあり方を変え、新たなビジネスチャンスをもたらすことでしょう。