プライバシー保護の厳格化が進む昨今、Web広告やアプリ上でCookieを利用してユーザーの行動をトラッキング(追跡)することが問題視され、「Cookieレス」や「アンチトラッキング」が叫ばれるようになりました。そんな中、Cookieに代わる手法として注目されているのが「FLoC」です。FLoCへの代替によりWeb広告はどのように変化していくのでしょうか。
Cookieレス時代目前!近年の個人情報保護をめぐる動向

インターネット広告は、ユーザーの属性や行動履歴、位置情報などを用いてターゲティングを行えることが大きなメリットの1つでした。その際、主に利用されてきたのが「3rd Party Cookie(サードパーティクッキー)」。
Cookieは、Webサイトを訪問したユーザーの情報を一時的にブラウザに保存する仕組みですが、ユーザーが訪問しているWebサイトのドメインが自ら発行するものを「1st Party Cookie(ファーストパーティクッキー)」、第三者(訪問しているWebサイト以外)から発行されるものを「3rd Party Cookie」と呼びます。3rd Party Cookieは、複数のサイトを横断して閲覧した履歴をトラッキングすることができるので、ターゲティング広告などに活用されてきました。ターゲティング広告では、サイトやドメインを横断して、ユーザーがどのようなサイトを訪問したかを見ることで、興味・関心を掴み、それに応じた広告を配信することができます。
プライバシー保護の観点からCookieレスへ
しかし、近年はインターネット上のユーザーのプライバシー保護に関する機運が高まってきています。2018年5月にはEUで「一般データ保護規制(General Data Protection Regulation:GDPR)」の適用が開始され、ユーザーから取得した氏名やメールアドレス、クレジットカード番号などの個人データをEEA(EUを含む欧州経済領域)から持ち出すことが原則禁止となりました。2020年1月にはアメリカ・カリフォルニア州でCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)が発効され、この中には、個人情報を収集する場合には事前に消費者へ収集する内容や目的などを通知する義務を課すことなどが盛り込まれています。さらに同年6月には日本でも「改正個人情報保護法」が成立し、より厳格な個人情報の取り扱いが求められるようになりました。
こうした流れを受けて、Cookieについても規制が強化され始めています。3rd Party Cookieを利用すると、ユーザーは知らない間に自分のWeb上での行動を企業に把握されてしまうことになり、それに不快感を覚えるという人が増えてきたのです。そのため最近では「Cookieレス」への移行が加速し、インターネット広告のありようが大きく変化しようとしています。
Apple社は2017年、Webブラウザ「Safari」においてトラッキングを防止する機能「ITP(Intelligent Tracking Prevention)」を発表。その後、アップデートを重ね、Cookieによるトラッキングの制限を強化しています。2020年1月には、Google社も同社の「Chrome」において、3rd Party Cookieの利用規制と2022年中の廃止(その後、2023年に延期)を発表しました。
Cookieレス時代の新技術「FLoC」とは?

このような「Cookieレス」「アンチトラッキング」の潮流を受け、Googleが「ポストCookie」技術として発表したのが「FLoC(フロック、Federated Learning of Cohorts)」です。
先述の通り、Googleは2023年までにChromeでの3rd Party Cookieのサポートを終了(廃止)することを発表しました。さらに、2019年には3rd Party Cookieの代替手段として、「Privacy Sandbox(プライバシーサンドボックス)」という構想を提唱。これは、プライバシーを守りながらも、ユーザーにとって最適な広告を表示する仕組みを作る、一連の取り組みのことです。Privacy SandboxではCookieの代わりとなるような複数の技術の開発が行われていますが、その中でも広告業界に関わりの深い技術の1つが「FLoC」です。
FLoCでは、ユーザーを数千人単位の「コホート(Cohort、同じ属性を持つ集団)」に分類し、コホート単位で興味・関心などのデータ分析を行うことで、個人を特定せずターゲティングすることが可能に。コホートごとにIDが割り振られ、そのコホートIDはユーザーがどのようなサイトを訪問するかによって、定期的に更新されます。
これまで、Cookieに保存されたユーザーデータは広告サーバーに送られていましたが、FLoCでは個人を特定できるユーザーデータはブラウザ上でのみ保存され、広告サーバー側には送信されません。これによって、興味・関心に基づいたターゲティングを行いながらも個人情報保護が可能になるのです。
なお、FLoCに対しては「FLoC自体ではユーザーを特定することはできないが、ほかのトラッキング技術と組み合わせることで、ユーザーを絞り込むことは可能。かえってトラッキングを助長することにつながるのでは」といった指摘もあります。現状では賛否両論ある技術ではありますが、Cookieレス時代に突入する中で、その代わりを担うものとして、注目されている取り組みの1つであることは確かです。では、CookieからFLoCなどの新たな技術へ移行することで、広告コミュニケーションはどのように変化するのでしょうか?
Cookieレス時代にマーケティング施策はどう変化する?
Cookieレスへの流れが加速する中、今後はFLoCをはじめ、個人情報保護と広告効果を両立させる技術の採用を検討する必要があるでしょう。実際、こうした流れを受けて、「ポストCookie」と呼ばれるアンチトラッキング対策のソリューションの開発が各社で進められています。例えば、株式会社電通デジタルは2021年7月よりCookieに依存しない新しい計測基盤「X-Stack Connect(クロススタック・コネクト)」の提供を開始しました。サーバー側のアクセスログやフォームの入力情報を使って計測することで、ユーザーのプライバシーを守りながら、ユーザーのWeb上の行動計測を行うことができます。このように、Cookieレスに対応した新しいソリューションを取り入れることも、今後の広告戦略において有効な一手となるかもしれません。
また、FLoCに限らず、「Cookieレス」の時代における広告コミュニケーションでポイントとなるのは、「ユーザーフレンドリー」の視点です。そもそもCookieが規制されるようになった要因の1つに、消費者にとって行動データなどを外部で用いられることが、プライバシー面での不信感につながったということがあるでしょう。ユーザーに配慮しながらも、広告効果を高めるために必要なターゲティングを可能な限り行うことを目指しているのが「Privacy Sandbox」と言えます。
つまり、Cookieレスの時代においては、企業側がユーザー個人の属性を特定して追いかける、といった手法ではなく、ユーザー側がどのようなニーズ・課題を抱えているかを分析し、ユーザーの方から関心を持ってもらうための仕組みをつくることも重要になるのではないでしょうか。そのため、商品あるいはサービス自体の価値はより一層問われることになりますし、広告クリエイティブでいかにターゲット層の関心を集められるかも大きなポイントになります。
厳しい時代ではありますが、ユーザー視点を重視することは、マーケティングの本質に立ち返ることでもあります。ユーザーが自ら情報を探すのが当たり前になった現代では、企業目線の一方的な情報発信ではなく、消費者との信頼関係を構築した上でのより深いコミュニケーションが求められるでしょう。
Cookieレス時代には、従来のインターネット広告のあり方は大きな変化を迎えることになるでしょう。今後はプライバシー保護と広告効果の両立を図る必要があり、そのための技術やアイデアも生まれてきています。そのための1つの方法がFLoCです。Cookieレス時代に備えて、まずはこうした新しい取り組みに目を向けてみてはいかがでしょうか。