CX
2022/03/11

ITPやCookie規制で変わるコミュニケーション。プライバシーに配慮しつつカスタマーサクセスを実現するテックタッチ施策とは

INDEX

「今後はCookieが使えないからターゲティングや効果測定が難しくなる」という話題を聞いたことはないでしょうか。顧客との幅広い接点を効果的に活用するためには、それぞれの属性に合わせた最適化が必須と言えます。そのキーとなるのは、個人情報を含めたデジタル上での行動履歴です。

しかし、世界的な個人情報保護の機運の高まりから、訪問先ドメイン以外の第三者が発行する「3rd Party Cookie」の利用規制が進んでいます。中でも「ITP」と称されるトラッキング抑止機能のインパクトは絶大で、企業から顧客へのWebを通じたアプローチは変化を余儀なくされました。プライバシー保護と、テックタッチ起点でのカスタマーサクセス達成を両立するにはどうすべきか?個人情報を取り巻く流れを振り返りながら、テックタッチの基本を押さえることで、そのポイントや注意点を探っていきましょう。

ITPやCookie規制でどう変わる?Web広告を取り巻く現状

Cookieは、訪問したWebサイトの情報を一時的にパソコンやスマホのブラウザに保存する仕組みです。これにより、一度ログインしたWebサイトでIDやパスワードなどの入力を省略できたり、ユーザーの行動履歴から関連性が高いと思われる情報を優先表示させたりすることが可能になります。また、Web広告においてもその特性を活かし、ユーザーの好みや属性などに合わせた内容を表示させるためにCookieが活用されてきました。

このように利便性を提供するCookieですが、その一方で、ユーザーのプライバシー侵害も懸念されています。特に、複数サイトを横断してユーザーの行動を記録する「3rd Party Cookie」の利用については、ECサイトでの購入に応じて関連商品のバナー広告が表示されるなど、「自分の行動履歴や個人情報が勝手に第三者に知らされているようで不快」との意見も多く、近年徐々に規制が強化されてきています。

個人情報保護規制の流れから登場した「ITP」

近年、個人情報保護に対する意識が高まり、各国でさまざまな法令や規制が設けられています。中でも、2018年に欧州で施行された「GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)」は世界に大きなインパクトを与えました。GDPRは、EUを含む欧州経済領域(EEA)域内で取得した個人データをEEA域外に移すことを禁止するなど、個人情報の保護を目的としたルール。Cookieなどのオンライン識別子も個人情報と定め、取得の際はユーザーからの同意を得ることを規定として設けています。

同様に日本でも、2020年に「改正個人情報保護法」が成立・公布されました(2022年4月施行予定)。これにより、国内でもCookieなどの情報を個人が識別できるデータ(氏名や住所、生年月日、メールアドレスなど個人を識別できる情報)とひも付けて利用する場合、第三者へ提供する際は本人の同意を必要とする、というように規制が強化されたのです。

同じく2020年1月には、Google社がWebブラウザ「Chrome」で段階的な3rd Party Cookieの排除を宣言し、大きな話題となりました。

また、スマートフォン市場で大きな影響力を持つApple社は一足早く2017年9月に、「ITP(Intelligent Tracking Prevention)1.0」というトラッキング防止機能を、自社の標準Webブラウザ「Safari」に実装しています。ITPでは、Cookieの働きを制限、あるいは無効化することによって、ユーザーの望まないトラッキングを防ぎます。

ITPの登場以降、バージョンが上がるたびにプライバシーの保護は強固となり、Cookieを利活用する企業はさまざまな影響を受けてきました。そして、2020年3月のITP2.3に対する追加機能で、ついにiOS上のアプリ全てにおける3rd Party Cookieの利用が完全にブロックされる形となりました。

Chrome、およびITP2.3での3rd Party Cookie利用制限により、Web上でのユーザー行動は把握しづらくなり、興味関心などに応じたターゲティング広告や、自社サイトを訪問したユーザーへのリターゲティング広告を配信する場合も、従来の手法では精度の低下が避けられないため、アッパーファネルでの接点をどのように解決するかが課題となっています。

プライバシーに配慮しながらテックタッチ施策でカスタマーサクセスに導くには?

Web広告のあり方が変化する中で、企業はユーザーにどのようにアプローチをしていけばいいのでしょうか。それを考える上で、まずは企業と顧客がデジタルを通じて接点を持つ「テックタッチ」について説明します。

テックタッチとは、製品やサービスを通じて顧客を成功に導く「カスタマーサクセス」における手法の1つで、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が低い多数の顧客に対してテクノロジーを活用してアプローチを行うことを指します。LTVとは、1人または1社の顧客が、ある企業と取引を初めてから終わるまでの全期間で、企業にどれだけの利益をもたらすかを示す指標であり、一般的には「平均顧客単価 × 購買頻度 × 継続期間」などで計算されます。

カスタマーサクセスの考え方では、LTVなどを軸として、顧客へのアプローチ方法を「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」という3つの階層に分類します。「ハイタッチ」は大口顧客などLTVが高いと思われる少数の顧客に対して、個別最適な手厚いサポートを実施します。「ロータッチ」は、大口とは言えずとも収益に影響を与える層に対して、ある程度の人員と工数をかけた丁寧なサポートを行います。「テックタッチ」は、低単価のサービスの利用者や取引規模が小さい顧客など、LTVが低めとされる不特定多数の顧客に対して、自動応答メールやチャットボット、オウンドメディアやFAQサイトなど、少人数で対応が可能となる、テクノロジーを用いたアプローチを中心に実施します。

ターゲティング広告を打つことや、サイトを訪問したユーザーの情報を収集し、マーケティング施策に生かしていくことも、テックタッチ施策となります。ITPに代表される規制の影響が最も色濃く反映されるこの階層において、プライパシー保護とカスタマーサクセスを両立させるためには、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。

1st Party Cookieや代替技術の活用が進む

まず、今後は1st Party Cookieの活用も重要なポイントとなってくるでしょう。1st Party Cookieは、訪問しているWebサイトのドメインから直接発行され、ログイン情報や購入履歴などはこちらに保存されます。一方、3rd Party Cookieは訪問しているWebサイト以外のドメインから発行されるCookieで、これによって複数サイトを横断してユーザーをトラッキングすることが可能となっていました。個人情報保護の観点では、身に覚えのないところで、自分とひも付く情報が伝わってしまうことが問題となりますが、1st Party Cookieであれば訪問したサイトにのみデータが残るため、現時点では3rd Party Cookieほど厳しい規制はありません。そのため、今後は1st Party Cookieによって、顧客の好みや消費動向をより丁寧に分析し、適切なタイミングでクーポンの配信や割引、ポイント還元の案内を行うなど、自社で得られたデータをLTVの向上に積極的に生かす施策が増えていくでしょう。

また、テックタッチにおけるデジタル施策の最適化は必須と言えます。また、自社のサービス利用履歴から丁寧なプロファイリングを行うことによって、得られたデータをロータッチ、ハイタッチにも生かせるでしょう。1st Party Cookieと登録情報に基づいた属性情報・行動履歴をフル活用して適切な情報を提示するなど、真にユーザーに寄り添ったターゲティングの設計はエンゲージメントの向上にも寄与する施策となります。

さらに、Cookieレス時代に向けて、プライバシーを保護しながら広告効果を高める新たな取り組みも生まれています。代表的なものでは、Google社によりCookie活用の代替技術として開発された「FLoC」があります。FLoCではCookieを使用せず、ユーザーの行動データを興味・関心などによってグループ化し、そのグループに基づいて広告を配信するという手法を取っていました。グループIDごとにターゲティングを行うことで、個人は識別せず、プライバシーに配慮しながら、興味に応じた広告を配信するというものです。

FLoCそのものは2022年1月に開発の停止が発表されていますが、このFLoCで培われたノウハウを引き継ぎ、さらにプライバシーの保護に重きを置いた技術として「Topics」への移行が宣言されました。Topicsでは、「フィットネス」や「旅行」などユーザーの閲覧履歴に基づいて関心の高いトピックを選び、Webサイトや広告主に共有。情報は3週間だけ保存され、古い項目は削除されます。さらに、トピックの選定をユーザー自身のデバイス上で行うことで、外部サーバーに伝える情報を抑え、個人の特定をより困難なものとしました。

このように、Cookie活用の変化とともに、各社の運用するサービスではユーザー理解を精緻なものへ、広告配信では個人情報を守った上でのアプローチへと目まぐるしく変化を続けています。

Cookieレス時代のテックタッチ施策関連サービスで、顧客との信頼関係を築く

今後は、ITPをはじめ、トラッキング防止に向けた動きが加速し、企業はプライバシー保護に配慮したテックタッチ施策が一層求められるようになると予想されます。今までは当たり前に行っていたリターゲティング広告の配信などが規制されることで、マーケティング施策の変更を余儀なくされることは厳しい面もありますが、ルールを遵守し、利用者のプライバシーに配慮した対応を行うことが、結果的に顧客との信頼関係の構築にもつながるでしょう。

最後に、プライバシーに配慮しながらテックタッチ施策を行うための関連サービスの事例を2つご紹介します。

携帯会社によるプライバシーに配慮したデジタル広告配信

大手携帯会社は、顧客の趣味嗜好に関連性の高い広告をプライバシーに配慮して配信できる、次世代型デジタル広告配信プラットフォームを開発。Webサイトやアプリの利用ごとに一時的に発行する広告配信用IDと、同時に取得したIPアドレスを用いて顧客を識別する仕組みにより、プライバシーに配慮しながら、顧客に関連性の高い広告を届けることが可能になりました。

Twitterと構築したデータクリーンルーム

データクリーンルームとは、Web上での行動データを、個人を特定しない形でつなぎ合わせることにより「良い顧客体験の提供」と「プライバシー保護」を両立しながらデジタルマーケティングを可能にするデータ基盤のことです。

Twitter社と株式会社電通デジタルが共同構築した「Twitter Data Hub Omusubi」はその一例です。Twitter社の広告配信データと、企業の持つ1st Party Data、電通デジタルの2nd Party Data(合意の上で利用する他社の1st Party Data)を掛け合わせて分析できます。SNS上で誰でも見られるデータを活用することで、プライバシーに配慮しながらマーケティング施策を打ち出すことが可能に。まさにSNS時代に適したサービスと言えるでしょう。

このような顧客のプライバシーに配慮したサービスが増えていけば、顧客のプライバシーを守りながら、同時に高い広告効果を実現していくことも可能になるのではないでしょうか。

さらに、テックタッチの在り方自体も変化してきています。テックタッチは、オンラインで幅広く接点を設けるというイメージが強くありますが、従来はロータッチやハイタッチの場と捉えられていた店舗やイベントなどのリアルにおいても、各種センサーやRFIDタグ(電波によって、非接触でID情報などを読み書きする技術)などの設置によって、顧客の情報を収集することが可能になりつつあります。加えて、IoTデバイスの進化やAIによる学習と分析によって、テックタッチの機会が広がっています。

既にいくつかのイベントで、プライバシーに配慮した形で、顧客との接点を持つ試みも生まれています。例えば、本人の同意の元でビーコン(Bluetoothの信号によって情報を受信・発信する端末)を配布することで、来場者の行動統計を取得し、人気のエリアや滞在時間、興味関心のボリュームを測定・分析しているケースがあります。3rd Party Cookieとひも付かない、リアルの場におけるデータ獲得の動きは顧客理解の質を格段に高め、LTV向上に大きく役立てることができるでしょう。

 

「Cookieで広告配信の信頼性が損なわれる」「行動データの取得が難しくなる」といった意見は、一面だけを見れば間違いではありませんが、従来型のアプローチにこだわりさえしなければその限りではありません。ITPなどプライバシー保護の動きが高まる中でも、代替技術の活用や今取り組んでいるテックタッチそのものの見直しで、効果の高いマーケティング施策を打ち出すことは十分に可能です。今後はプライバシー保護に配慮したテックタッチ施策を積極的に行うことで、顧客との信頼関係を築き、結果的にLTVを高めることにもつながるのではないでしょうか。

この記事の企業サイトを見る
Transformation SHOWCASE 編集部

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

RELATED CONTENTSあわせて読みたい
AX
Cookieレス時代に備えて、押さえておくべき「FLoC」。プライバシー保護と広告効果を両立する時代へ
CX
メタバースがもたらす消費行動の変化とは。新しい顧客体験によって生まれるビジネスチャンスを考える
DX
ユニークなAIパーツを組み合わせてソリューションを作成する。モジュールAIサービス「KEY RING」とは?
データアーティスト株式会社 取締役山田 健 Ken Yamada
CX
愛されるAIをめざして。AIキャラクター「タミ子」誕生物語
データアーティスト株式会社 代表取締役山本 覚 Satoru Yamamoto
CX
カスタマーサクセスに不可欠なテックタッチ・ロータッチ・ハイタッチのポイントと、「デジタル・ハイタッチ」の考え方とは?
AX
サステナビリティ・ネイティブなZ世代。キーワードは「意味」と「透明性」
株式会社電通 第2クリエーティブプランニング局 Future Creative Center / ブランディングディレクター用丸 雅也 Masaya Yomaru
BX
電通ジャパンネットワーク、第6回「カーボンニュートラルに関する生活者調査」を実施
DX
医療・ヘルスケアビジネスのDXには、ヒューマニズムの視点を
株式会社 電通メディカルコミュニケーションズ 執行役員尾方圭司 Keiji Ogata
AX
インフルエンサー・マーケティングの最前線 トレンドとニーズをつかんだ、次の一手とは(前編)
株式会社KAIKETSU 営業本部 / 部長高橋 昂太郎 Kotaro Takahashi
BX
ファッション業界のSDGs最前線。フィロソフィーに立脚した、ブランドのあるべき姿とは?(前編)
株式会社 ザ・ゴール コーポレート部牛尾 雄大 Yudai Ushio , 株式会社 ザ・ゴール 戦略プランニング部川崎 莉奈 Rina Kawasaki , 株式会社 ザ・ゴール ビジネスプロデュース部増野 朱菜 Ayana Masuno
VIEW MORE POSTSCLOSE
RECOMMEND CONTENTSTSCからのおすすめ
VIEW MORE POSTSCLOSE