近年、教育現場で広がりを見せているのが、デジタルテクノロジーを活用した教育コンテンツやサービスです。教育とテクノロジーを融合させた「EdTech」は、デジタルとの親和性が高いZ世代以降にとって、身近なものになっています。時代とともに変化する教育の変遷をたどった上で、今後、EdTechによって教育のあり方がどのように変わるのかを考えます。
Z世代以降の教育を大きく変えた、EdTechの存在
1990年代半ばから2010年代頃に生まれた「Z世代」は、幼少期からインターネットが日常の中にあり、デジタルテクノロジーを享受しながら成長してきました。それは、教育においても例外ではありません。2000年代頃からeラーニングなどの教育手法が浸透しはじめ、学習スタイルにも変化が起こり、さらに、教員からの一方的な講義を中心とした教育ではなく、学生が能動的に授業に参加する「アクティブラーニング」の手法も登場。主体的に考える力や、自分で課題を見つけて解決する力を育む教育に力が注がれるようになりました。
こうした教育環境をめぐる変化のもとで登場し、近年、大きな盛り上がりを見せているのがEdTechです。EdTechとは、「Education(教育)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語で、デジタルテクノロジーを活用した新しい形の教育サービスを指すものです。
日本におけるEdTech市場の現状
近年、EdTechの市場規模は大きく拡大しています。野村総合研究所「ITナビゲーター2020」では、2019年におよそ2,000億円と推計されたEdTech市場が、2024年には3,000億円を超えると予測しています。また、コロナ禍による休校、自宅学習の増加などをきっかけに、オンライン学習は学校現場でも当たり前のものとなり始めています。
EdTechの新しいサービスや仕組みも続々と登場。スマートフォンで楽しく学べる学習アプリや、ビッグデータを活用し効率的な学びをサポートするツールなど、多種多様なサービスが展開されています。
政府もEdTech導入を支援
日本政府も、EdTechの普及拡大には積極的な姿勢を示しています。「全ての小中学校を対象に、パソコンやタブレットなどの学習端末を1人1台整備する」とした文部科学省の「GIGAスクール構想」も、デジタルを活用した学習を広げる1つのきっかけとなりました。
経済産業省は、2018年度より全国の学校と連携しながら、EdTechを活用した新しい学び方を実証する「未来の教室」実証事業に取り組んでいます。さらに、EdTechツールを取り扱う事業者に対して、導入経費を補助する「EdTech導入補助金2021」も、EdTech普及を後押ししています。こうした国の姿勢から見ても、EdTechが今後、教育の現場に広く浸透していくことが予想されます。
デジタルを駆使し、教育のあり方を変革するEdTechサービス

EdTechサービスは、教員や学生にとっての利便性の向上だけではなく、教育における社会課題の解決や、教育のあり方そのものを見直す契機としても期待を寄せられています。国内外の事例から、EdTechサービスが教育にどのような効果をもたらしているのか見ていきましょう。
無料のオンライン授業で教育の格差を解消
EdTechを代表するサービスの1つが、アメリカで始まったMOOC(Massive Open Online Course:大規模公開オンライン講座)です。大学の講義を誰でも無料で受講できるオンラインサービスで、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学などをはじめ、世界トップクラスの大学・機関によってさまざまなコースが提供されています。
MOOCは、インターネット環境さえあれば、時間や場所を選ばずに学習できることから、地理的な要因などで高等教育を受けるのが難しい子どもの受け皿にもなり得ます。さらに、無償のため、家庭の経済状況などによって生じる、教育機会の不平等を解消する糸口となることも期待されています。
アダプティブラーニングで最適な学習をデザインする
教育のデジタル化が進むことで、学生1人ひとりの過去の回答や学習履歴などのデータを蓄積することが可能になりました。「教育ビッグデータ」とも呼ばれるこのデータを活用することができれば、アダプティブラーニング(適応型学習)の実現にもつながるでしょう。アダプティブラーニングとは、個々の能力や適性に応じて、最適な学習を進めていく方法です。蓄積した教育ビッグデータから、個人の理解度や思考パターンを分析することで、その人に合った学習法をカスタマイズしていくことができるため、自分では気づきにくい弱点を発見できる、ポイントを押さえて効率的に学習を進められるというメリットがあります。
日本のある教育関連企業は、1人ひとりの習熟度・理解度に合わせたレベルや進度で学ぶことができるアダプティブなICT教材を提供しています。目標の達成状況や進捗率、学習時間などを管理する機能がついており、集計されたデータを教員や保護者が一目で把握できるのが特徴です。小・中・高校だけではなく、学習塾や家庭学習での活用も広がっています。
自宅学習中の疑問点をオンラインですぐに解決
わからない問題をスマホで撮影して投稿すると、チャットや通話で講師が教えてくれる教育コンテンツも登場しています。自宅学習中など、質問できる人が身近にいない場合でも、いつでも疑問点を解消することができるため、わからないところをそのままにしておくことなく、苦手克服につながります。
EdTech教育の力は、Z世代から社会へ

Z世代以降の教育に大きな変革をもたらしたEdTechですが、今後はより幅広く、さまざまな世代に影響を与えていくことが考えられます。
EdTech教育は大人の教育にも活用されている
EdTech教育の恩恵を受けているのは、学生だけではありません。「もう一度学び直したい」と考える大人にも学びの場を提供してくれます。近年、学校教育を卒業して一旦社会に出た後に、再び教育を受け直す「リカレント教育」の需要が高まっています。EdTechを活用したオンライン学習であれば、時間や場所を問わないため、仕事との両立にも適していると言えるでしょう。
また、ビジネスの現場でもEdTechツールの活用は広がっています。コロナ禍の影響もあり、研修などにオンラインツールを導入する企業は増えています。従業員の学習状況を把握しやすく、交通費や教材費などのコストの削減にもつながるでしょう。
EdTechに親しんできたZ世代も社会人へ
ここ数年、Z世代も学校を卒業し、社会で働き始めています。彼らと一緒に働き、その能力を伸ばしていくためにも、EdTechの活用はカギとなる可能性があります。
例えば、Z世代の多くはデジタルツールを使って自ら情報を調べることが得意だと言われています。また、動画コンテンツにも慣れ親しんでいることから、テキストを読み込む学習より、動画を見て短時間で直感的に捉えられる学習のほうが向いているかもしれません。こうしたZ世代の特性を掴んでおくと、従業員教育などもより効果的なプログラムを考えられるのではないでしょうか。
テクノロジーの進歩によって、より自由で多様な学びを実現できるEdTech。学ぶ側にとっても教える側にとってもメリットが多く、新たな可能性を切り開く分野と言えるでしょう。Z世代のみならず、仕事をしながら学びを深めたい社会人の需要にも応える市場として、今後も目が離せません。