アパレルや化粧品、家電製品などさまざまなジャンルで活用事例が増えている、ライブコマース。特に、近年注目されているD2C(Direct To Consumer)ブランドと相性が良いと言われています。リアルな場やECでの買い物と比べて、ユーザーへの働きかけ方にどのような違いがあるのか?D2Cとライブコマースを掛け合わせることで生まれる強みと、今後の可能性について考えます。
ライブコマースはD2Cブランドとユーザーの絆を強める武器になる

ライブコマースとは、SNSや専用プラットフォームを使ったライブ配信で商品を紹介し、ユーザーに直接、販売・PRを行うこと。まずは、ライブコマース市場の現状や、D2Cブランドとの相性について見ていきましょう。
ライブコマース市場の現状
世界に先駆けてライブコマースが盛り上がりを見せている中国では、企業とタイアップしたKOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるインフルエンサーがライブ配信を行うと、数時間で億単位の売上を叩きだすこともあるほど。2016年頃にサービスが開始されて以降、市場規模は年々拡大し続けています。2021年には中国のライブコマース市場は前年比90%増の1兆9,950億元(約33兆9,150億円、1元=約17円)に達する見込みです。
日本でも、コロナ禍による外出自粛の影響も手伝って、SNSでフォローする芸能人や好きなブランドの動画配信を見る習慣が広がり、若い世代を中心にライブコマースが浸透し始めていると言われています。
ライブコマースがD2Cブランドと相性が良い理由
D2Cとは、企業や個人が自ら企画・製造した商品を、問屋や小売店を挟まずに、ECサイトなどを通じて直接ユーザーに購入してもらうビジネスモデルのこと。SNSを最大限に活用しながら、販売戦略や商品開発を行うのも特徴の1つです。ライブコマースはデジタルを介してユーザーに直接アプローチできるため、D2Cブランドが持つ強みをより発揮できると期待されています。
ブランドの思想や商品にまつわるストーリーまで届けられる
D2Cブランドにとって重要なことの1つは、オンライン上でブランドの世界観を提示し、ユーザーに共感してもらうことでしょう。商品そのものだけでなく、ブランドの想いやストーリーといった商品に付帯する「イミ」までを価値として届けるのです。
ライブコマースであれば、ユーザーに直接語りかけることができ、「この商品はこんな想いから生まれました」「実は環境にも配慮して素材を選んでいます」など、写真やテキストだけでは伝えきれない情報や、ブランドの世界観などもしっかりと届けることができます。それは商品の直感的な理解を促し、短時間での購入決定につながることが期待できるでしょう。
双方向のコミュニケーションでユーザーとのつながりを深められる
ライブコマースは、ライブ配信を通じて企業とユーザーがリアルタイムで、双方向にコミュニケーションを取れるというのが大きな特徴です。ブランド側が一方的に商品を売り込むのではなく、ユーザーからも質問をしたり、意見や感想などをコメントしたりできるので、ブランドに対しても親しみや信頼感を感じやすいと言えます。それによってユーザーとのつながりを深め、エンゲージメントを高めていくことができるでしょう。
購入前の不安や疑問点を解消できる
アパレルや化粧品などを扱うD2Cブランドは多いですが、これらの商品は「購入前にサイズ感や使用感などを試したい」というニーズが高いため、それらの不安がインターネットで購入する際の障壁となることがあります。ライブコマースであれば、ユーザーは、その場で気になることを質問することが可能。「サイズ感がわかるように、広げて見せてください」「後ろ側がどうなっているかも見たいです」「手触りはどんな感じですか?」といったリクエストにも応えることができるので、ユーザーは実店舗を訪れた時のように、細かな部分まで確認することができます。このようにオンラインでの買い物に感じていたもどかしさや不満などを解消できれば、顧客体験の向上も図れるでしょう。また、そのやりとりは視聴者全員に共有されるため、結果として多くのユーザーの商品理解が深まることになります。
インフルエンサーなどを通じてファン層を広げることができる
D2Cブランドにとって、継続購入してくれるファンを獲得することも成功の秘訣です。ファン獲得に効果的とされるのが、インフルエンサーの存在です。ターゲット層に人気の高いインフルエンサーをライブ配信に起用することで、その拡散力によって商品の認知が広がり、ブランドを支えるファン層も拡大します。さらに、ブランドに対する愛着や信頼感も高まるでしょう。
購買意欲のある層にアプローチすることで購買率が高まる
ライブ配信を視聴するのは、ブランドのSNSをフォローしている人や、すでにそのブランドや商品に興味を持っている人たちがほとんどです。つまりライブコマースは、ある程度の購買意欲を持った層にピンポイントで商品を訴求できる「プッシュ型」の手法と言えます。そのため、より確実に購買率アップを期待できます。
顧客データを分析し、商品開発やマーケティングに活かせる
ライブ配信を行うと、ユーザーの視聴履歴や購入履歴などさまざまな情報を得ることができます。自社で企画や製造を行うD2Cにとって、こうした情報は商品開発やマーケティングに有効なデータとなります。
国内外の事例に学ぶ、D2C×ライブコマース成功のポイント
実際にライブコマースを活用し、成功を収めているD2Cブランドの例を紹介します。
スキンケアブランド
アメリカのあるスキンケアブランドは、ライブストリーミングのプラットフォームを利用したライブ配信を行っています。SNSのフォロワーを数百万人かかえる人気モデルが、スキンケア商品を使ったデモンストレーションを披露するなど、商品を魅力的に伝えることで、ブランドの支持層の獲得につなげています。
女性向けアパレルブランド
コロナ禍でも好調な売上を記録している国内の某女性向けアパレルブランドは、インスタラブをほぼ毎日配信。ターゲット層と同じ体型の一般女性を「ライバー」と呼ばれる配信者として起用することで、着用時のサイズ感やシルエットをイメージしやすいように工夫しています。
人気家具ブランド
D2Cによって売上を拡大している国内の家具ブランドも、定期的にライブ配信を行い、写真では伝えきれない商品の特徴や使用感などを詳しく紹介しています。視聴者からの質問に答えたり、逆に配信者から「どんな色のソファがほしいですか?」など視聴者に呼びかけて商品ニーズを集めたりと、双方向のコミュニケーションによって、視聴者がコミュニティの一員として参加している実感を得られるような効果も生み出しています。
変化する社会や新しいテクノロジーとの結びつきで、ライブコマースの未来は広がる

コロナ禍の巣ごもり需要もあり、ECを利用した商品購入は増加傾向にあります。2021年7月に経済産業省が発表した「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、2020年の物販系のEC(BtoC-EC)市場規模は12兆円超(前年比21.71%伸張)にも上りました。
また、発信力のあるインフルエンサーが台頭し、「企業の広告よりも彼らがレコメンドするものを購入したい」と考える人も増え、ユーザーが商品を選ぶ動機も変化してきていると言われています。株式会社ネオマーケティングが2021年8月に実施した調査では、全国20〜50歳の男女1000人のうち、SNSでインフルエンサーをフォローしている人は40%以上。そのうち、インフルエンサーの紹介により商品を購入したことがある人は約20%と、インフルエンザーが消費行動に一定の影響を与えていることが分かります。今後もインフルエンサーとの結びつきにより、ライブコマースはますます広がっていくことが予想されます。
さらに、5Gの普及により、多くの人が高速通信でより快適にライブ配信を楽しめる環境が整うでしょう。高精細な映像で商品を紹介したり、ARで試着するサービスと連携したりすることで、より実店舗を訪れるのに近い買い物体験を提供することも可能になるはずです。
こうした社会の変化やテクノロジーの進化とも結びついて、ライブコマースの市場は今後、ますます発展していく可能性を秘めています。
加えて、「モノ消費」「コト消費」を経て、社会貢献やサステナビリティを重視した「イミ消費」の時代へと移行しつつある中で、ユーザーの共感を呼ぶブランドの「想い」をいかに提示できるかは、D2Cブランドにとって今後ますます重要性を増していくでしょう。その実現のためには、ライブコマースをはじめ、最新のデジタルテクノロジーを積極的に活用しながら、ユーザーとのコミュニケーションを深め、ファンと共にブランドやプロダクトを育てていく姿勢が重要になると言えそうです。
EC利用の拡大やユーザーの意識の変化などによって、今後ますます活性化することが予想されるD2Cビジネス。事業を着実に成長させるためにも、デジタルテクノロジーの活用は欠かせません。ライブコマースは、ユーザーとの共創関係を築くコミュニケーションツールとして、D2Cブランドの強い味方になるでしょう。