DX
2022/05/17

DAOとNFTの先にある未来とは? 非中央集権的な発想で、新たな価値が生まれる可能性も

INDEX

最近、ビジネスシーンでも耳にすることが増えてきた「DAO」と「NFT」。非中央集権的な発想によって生み出されたこれらの手法は、特定の管理者を持たず、ユーザー同士のフラットな関係性の下で成り立つ仕組みとして注目されています。この記事では、今後急速な勢いで広がることが予測されるDAOとNFTについて解説。さらに、「NFTとDAOは、フラットな社会を実現するトリガーとなり得るか?」という観点から、これらがビジネスや社会の在り方に与える影響についても考えます。 

NFTは、「みんなで価値を共有・所有する」というフラットな関係を実現する技術

皆さんは「ボウイ債」をご存じでしょうか?ロックミュージシャンのデヴィッド・ボウイ本人が1990年代に発行した資産担保証券で、自身の楽曲が将来生み出す利益を証券化するという、世界初の取り組みです。ボウイはこの証券をアメリカの金融機関に売却し、5,500万ドル(約65億円)の資金調達に至りました。

作品の売り上げから発生するロイヤルティ収入を長年にわたって少しずつ受け取るのではなく、将来的に得られる利益を担保として一括で大きな収入を得るという手法は、当時としては画期的なものでした。この手法であれば、印税が入ってくるのを長い期間待つこともなく資金を調達し、新たな創作活動に充てることが可能になるため、その後、ボウイに追随する形で同様の証券を発行するアーティストも登場。しかし、CDやレコードの売り上げ低下に伴って、徐々に下火となっていきました。

このボウイ債は、自分の活動が生み出す価値や可能性を提示して資金を調達するという面において、クラウドファンディングの先駆けと見ることもできるのではないでしょうか。さらに、作品が証券の価値を左右する点や、個人が生み出す作品の価値を、多くの人が「資産」として分散所有できるという点では、「NFT(Non Fungible Token:非代替性トークン)」に通ずるものがあります。

NFTは、デジタルコンテンツが唯一無二であることを証明できる技術。これまで、インターネット上の情報や、デジタルで作成されたものは、誰でも手軽にアクセスできる反面、コピーや書き換えも簡単で、本物と偽物の区別がつきにくいという問題がありました。そのため、デジタル上のイラストや音楽などの作品は、現物の作品のように資産的な価値を評価しくいと考えられていました。このような問題を解消するのがNFTです。デジタルコンテンツをNFTにひも付け、固有のIDを発行することで、コンテンツの唯一性や希少性を担保。所有権が誰にあるのか、制作者は誰なのか、これまでの取引履歴までも明確にすることができるのです。

最近では、特にエンターテインメント業界での活用が進んでおり、アーティストが自身のデジタル作品の所有権を、NFTを使ってファンに直接販売する動きが盛り上がりを見せています。スポーツ業界でも、選手の写真や映像などのデジタルデータにNFTを付与したサービスが広がっています。ファンはそれらをコレクションして好きな時に視聴したり、見せ合ったり、お互いに売買したりすることができ、いわばデジタル上のトレーディングカードのような楽しみ方ができるのです。このように、NFTはユーザーがコンテンツを一方的に消費するのではなく、デジタル資産として所有することで、より能動的にコンテンツに関わることができる新たな枠組みを可能にしました。NFTとはまさに、みんなで価値を共有・所有できる、フラットなオーナーシップモデルと言えます。

DAOは、NFTと同じ思想から生まれた意思決定手法


フラットな所有モデルであるNFTと同じ思想から生まれたのが、「DAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)」です。DAOは、一般的には暗号資産(仮想通貨)に関わる人々が、共同で資産を保有・管理するコミュニティを指す言葉として知られています。

通常、組織がプロジェクトを動かすには、階層的な構造のトップにいるリーダー(管理者)が意思決定を行う、中央集権的な支配構造になっています。これに対してDAOは、中央集権的な指揮系統を持たず、誰でも自由に参加することができ、参加者全員の共同管理によって成り立つフラットな組織構成であることが特徴です。先述のボウイ債の債権者たちも、誰か1人が作品に対する権利を持つのではなく、多くの人が参加し、全員共同で権利を所有するという点においては通ずるものがあるのではないでしょうか。

では、具体的にどのように意思決定を行うのか。ユーザーはDAOが発行する「ガバナンストークン」と呼ばれる仮想通貨を購入・所有することで、DAOに参加できます。このトークンを使って投票を行い、参加者全員で意思決定を行うことで、組織やプロジェクトの方向性を決めていきます。株主総会のような組織の在り方と捉えると分かりやすいでしょう。

この非常に民主的な意思決定手法を支えているのが、ブロックチェーン技術です。DAO内の取引履歴はすべてブロックチェーン上に記録され、誰もがそれを確認できます。さらにDAOにおけるルールも、ブロックチェーン上で自動的に実行されるようになっているため、管理者がいなくても、外部からの介入や不正などの心配がなく、自律的にプロジェクトを遂行できるといわれています。

DAOのプロジェクトで利益が生じれば、参加者はその一部を報酬として受け取れますし、DAOが成功を収めて保有資産の価値が上がれば、それを売って差益を得ることも可能。それが、ユーザーがDAOに参加するインセンティブにもなっています。

DAOとNFTを読み解くカギは、「開かれた場」と「みんなが主役」

ここまで、DAOとNFTの概要を解説してきました。ここからは、両者の共通点をより詳しく見ていきましょう。

DAOとNFTを支えているのは、先にも触れたブロックチェーン技術。ブロックごとに小分けにした暗号化データを1本のチェーンのようにつなぎ、世界中で分散管理する仕組みです。運営管理の中心となるサーバーを持たず、ネットワーク参加者が全員で最新のデータや更新履歴を共有し、整合性を監視するため、データの書き換えは困難で消去される心配もないといわれています。NFTで発行される固有IDも、この特性を生かして信頼性を確保。DAOにおいても、ブロックチェーンによって全ての情報が開示・共有されるからこそ、投票による全員参加型の意思決定が可能となるのです。

このブロックチェーンが生まれた背景には、現在テック業界を賑わせている「Web3.0」への流れがあります。「Web1.0」では、ユーザーはWebサイトの情報を閲覧するのみ、発信者と受信者が固定された「一方通行」が主流でした。続く「Web2.0」では、SNSなどが普及し、ユーザー同士がより自由に、双方向で情報交換できるように。とはいえWeb2.0は、代表的なSNSやプラットフォームが多くのサービスを掌握する、中央集権的な面が濃厚です。Web3.0ではそうした中央集権的なサービスを脱却し、特定企業に依存しない、インターネットの民主化を目指しています。それを可能にするのが、ブロックチェーンという分散型テクノロジーなのです。

つまり、DAOやNFTの根底にあるのは「非中央集権的」な考え方であり、「開かれた場であること」「みんなが主役であること」を共通の特徴にしています。管理者不在でも信頼できる安心なデジタル空間を実現し、インターネットが本来目指していた民主性に限りなく近づいていくという点で、従来型モデルとは大きく異なると言えるでしょう。

DAO・NFTをヴァーチャル×リアルで展開することで、真にフラットな社会へ

では、「非中央集権的」を特徴とするDAOとNFTが生み出す未来には、どのような可能性が広がっているのでしょうか。DAOやNFTから着想を得て、新しいサービスの在り方や組織の関係性を見つめることが、新たな時代の扉を開くかもしれません。

先述した通り、DAOはもともと暗号資産に関わるコミュニティを指すものとして生まれました。しかし今後は、DAOのような「管理者がいない自律的な組織」という形は、その他の分野でも広がっていくのではないでしょうか。例えば、投資や新商品開発といったビジネスを管理者のいない組織で共同運用する、あるいはインターネットを通じて集まった不特定多数のメンバーでスタートアップを立ち上げるといった例も増えてくるかもしれません。

NFTに関しても、今後はもっと多面的に展開できるかもしれません。例えば、中古品に関するビジネス。従来は、本やDVDなどの作品が中古で販売された場合、もともとその作品を作ったクリエイターに売り上げが入ることは基本的にありませんでした。むしろ、中古品が市場に出回るほど、新品を買う人が少なくなるかもしれないという点ではネガティブに捉えられていたと思います。しかし、ブロックチェーン技術を使えば、デジタル作品にNFTを付与して販売することで、それがユーザー同士で売買されたとしても、一連のやりとりを記録し、販売されるたびに売り上げの一部を著作権者であるクリエイターに還元するような仕組みを作ることも可能になるでしょう。つまり、以前は著作権者にメリットがなかった中古品の販売も、NFTを活用することによって、前向きなビジネスとして浸透する可能性を秘めているのです。

 

商習慣や人々の関係構築において、「中央集権からの脱却」という根本的な変化をもたらし得るDAOとNFT。今後、ヴァーチャル空間でDAOやNFTが当たり前になれば、インターネット世界にとどまらず、リアルな場においても同様の発想による技術・サービスが浸透する可能性が開けるはずです。DAOとNFTは、ヴァーチャル×リアルにおいて社会構造をフラットに変革するための「希望の芽」となるかもしれません。

テクノロジーの進化と共に、ビジネスシーンでは、さまざまな新しいスキームやソリューションが生まれています。本記事を読んで、DAOやNFTの未来の可能性をもっと知りたい、あるいはブロックチェーンを活用した事業展開に興味を持った、などありましたら、ぜひページ下部「CONTACT」から私たちにお声がけください。 

この記事の企業サイトを見る
Transformation SHOWCASE 編集部

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

RELATED CONTENTSあわせて読みたい
BX
Web3.0時代の到来で何が変わる?デジタル社会の変革で生まれる新たなビジネススタイルとは
CX
D2CからP2Cへ。個人ブランドの強みを国内の成功事例から考える
AX
Z世代の就活事情~「就職」に対するZ世代の考え方とは?そしてコロナ禍での就活はどう変化したのか?~
株式会社電通 第2クリエーティブプランニング局 Future Creative Center / ブランディングディレクター用丸 雅也 Masaya Yomaru
DX
お客さまのお買い物行動をつかむカギとなる「ID-POS」活用の可能性とは(前編)
株式会社電通プロモーションプラス リテール&コマース事業部 リテールメディア&ソリューション部 / 部長小沼 淳 Jun Onuma , 株式会社電通リテールマーケティング データソリューション事業部 / 事業部長杉本 秀樹 Hideki Sugimoto , 株式会社電通リテールマーケティング  リテールプロモーション部浅野 晋伍 Shingo Asano
CX
デジタルヘルスケア×D2Cモデルが切り開く未来とは?個人のデータから将来の健康を予測し備える時代へ
CX
「デジタルネイティブ世代の消費・価値観調査 ’21」を読み解く~コロナ禍で変化した、デジタルネイティブ世代の購買行動〜(前編)
株式会社電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門 デジタルネイティブルーム / サブリーダー松崎 裕太 Yuta Matsuzaki , 株式会社電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門 デジタルネイティブルーム / プランナー安部 茜 Akane Abe
VIEW MORE POSTSCLOSE
RECOMMEND CONTENTSTSCからのおすすめ
VIEW MORE POSTSCLOSE