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2022/03/09

D2CからP2Cへ。個人ブランドの強みを国内の成功事例から考える

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自社の製品を売ろうとするとき、アンバサダーやインフルエンサーの力を借りながら、D2Cによって利益の最大化を目指す。そうした戦略は、既に多くの企業内で行われている手法かもしれません。そうした中、最近ではそこからさらに発展した「P2C」という手法が注目を集めています。P2Cの強みや注目される理由について、代表的な国内の成功例を交えながら考察します。

SNS時代のプロモーションはインフルエンサー活用が主流

D2C(Direct to Consumer)とは、メーカーから消費者へ、小売店や流通を通さず、自社のECサイトやSNSなどを通じて直接商品を販売するビジネスモデルのことです。特にアパレルや美容などの業界で、D2Cブランドは増えてきています。D2Cが広まった背景として、ECサイトの普及やコロナ禍などにより、オンラインで買い物をする人が増えてきたことが挙げられます。

また、SNSの利用が一般的になったことで、消費者とのコミュニケーションが取りやすくなったこともD2Cが拡大する下地となりました。SNSによって、ユーザーがどのようなものを求めているのか、ニーズをくみ取り、商品やサービスの開発に役立てることができます。さらに、SNSをうまく活用すれば、マスメディアなどで広告を打たなくても、ブランドの知名度アップ、購買意欲促進を図ることも可能に。特に、大量のフォロワーを持つインフルエンサーの影響力は大きく、インフルエンサーに自分のSNSを使って自社の商品やサービスを紹介してもらう「インフルエンサーマーケティング」は、D2Cと相性の良い手法だと言われています。

一方、P2C(Person to Consumer)は、D2Cから派生したビジネスモデルと言われており、インフルエンサーが企業から依頼を受けて商品を紹介するのではなく、自ら製作・プロデュースした、オリジナルの商品やサービスを発信し、直接販売します。つまり、企業から消費者へ直接販売する「D2C」に対し、個人から消費者へ直接販売するのが「P2C」。特にD2Cが浸透していたアパレルや美容業界では、商品とモデルのイメージが直結し、購買につながりやすいP2Cの事例が増えてきています。

P2Cブランドのインフルエンサーが主導する「イミ消費時代」

D2CからP2Cへと変化してきた一端にSNSの浸透があることは、前章でご紹介しました。SNSの台頭により、インフルエンサーと呼ばれる情報発信力の強い個人アカウントが生まれ、時として企業やマスメディアよりも高い影響力を持つようになったのです。

さらに、近年はかつての「モノ・コト消費」を経て「イミ消費」へと消費動向が変化したことも、P2Cブランドが支持を集める一因になったと言われています。

イミ消費とは、単にモノを所有する、所有によって体験(コト)を得ることにとどまらず、商品やサービスを購入して得た体験が自分にとってどんな「イミ」をもたらすかが消費動向を決めるというものです。イミ消費の時代を生きる若い世代にとって、インフルエンサーの思想がダイレクトに反映された個人ブランドは、購入することでその思想に共鳴する、応援するといったイミをもたらします。また、今の若い世代は「作られすぎた」広告への嫌悪感を持ち、作り手のリアルなストーリーに共感しやすい傾向があるとも言われているため、SNSを活用して作り手の想いを伝えることは、彼らの信頼感を獲得することにもつながります。

例えば、商品の企画から製造に至る一連の過程をSNSで発信することで、商品の持つ意味やストーリーを伝えることができます。インフルエンサーの活動全てがブランドのプロモーションとなるわけです。また、SNSを使ったプロモーションが主体となるため広告費が抑えられることや、フォロワー数から見込み顧客や販売数を推測・確保しやすいことなどもメリットとして挙げられます。

それでは、P2Cの成功事例として、国内インフルエンサーの事例を3つご紹介しましょう。

YouTuberが発信するアパレルブランドの事例

子どもの「将来なりたい職業」の上位にもランクインするようになったYouTuber。中でもチャンネル登録者数400万人を超える人気YouTuberが2019年に立ち上げたアパレルブランドは、P2Cの成功事例として挙げられます。最近では大手ECモールとコラボし、1週間で約6億円もの売上を達成しました。
これほどまでの売上を記録した理由は、単にチャンネル登録者数が多いことだけでなく、ブランドのコンセプトや製品開発におけるこだわりなどを、YouTuber本人が自身のチャンネルで直接フォロワーに訴えかけてきたことが大きいと考えられます。

ファッションインフルエンサーによるオリジナルブランドの事例

自身のブログやYouTube、有料メルマガ、オンラインサロンなどを使ってメンズファッションの解説を行うファッションインフルエンサーが、自社のオリジナルブランドを展開したことも有名な事例の1つです。
当該ブランドの特徴は、インフルエンサーとしての活動内容がそのままブランドイメージ作りにも、商品の宣伝にもなっているということです。ファッションのポイントを解説し、おすすめアイテムとしてオリジナルブランドを紹介することが、商品の訴求につながっています。

ファッションモデルによるコスメブランドの事例

美容分野の例としては、若年層女性から人気の高いYouTuberであり、ファッションモデルとしても活躍するインフルエンサーがプロデュースしたコスメブランドがあります。インフルエンサー自身がブランドコンセプトを策定し、商品パッケージのデザインや質感なども全面的にプロデュースした当該ブランドは、本人の投稿だけではなく、その友人や知人に商品を体験してもらい、その使用感をSNSで発信。SNSから商品やブランドの認知度を高めていったP2Cの理想的な成功事例の1つと言えます。

上記は代表的な例となりますが、いずれも商品の単価が100円単位などではなく、各商品がある程度の利益を積み上げられる販売価格に設定されていることは注目すべき点です。インフルエンサーは、年代や性別、好みなどがセグメントされた一定の層に強く訴求できることが強みなので、それを考慮した販売戦略が成功の秘訣であると考えられます。どんな商品でもP2Cによって成功するのではなく、売れるであろう数量を見越した上で、販売価格や開発費、製造費を設定することが重要です。

P2Cで、企業に求められる役割とは

これまでのインフルエンサーを軸としたビジネスは、D2Cブランドのように、既に影響力を持っているインフルエンサーに対して、企業が自社商品のプロモーションを依頼するという形が主流でした。しかし、P2Cが台頭してくると、これまでとは逆に、インフルエンサー自身が持つブランドや商品のプロモーション・販売を企業がサポートする形も増えてくるのではないでしょうか。

実際、D2C事業を手がけてきた企業が、これまで培ってきた知見やノウハウを活かして、ブランドを持ちたいというインフルエンサーを立ち上げからサポートするビジネスなども生まれています。インフルエンサーが持つ発信力を活かしながら、企画開発・製造、ブランディング、販売、物流までトータルで支援することで、収益化を目指します。

また、大手ECサイトが、自分の個人ブランドを持ちたいインフルエンサーを公募するオーディションを行った例もあります。人気ブランドなどとコラボし、経験や知識がゼロでも理想の商品を製造・販売できるようにサポートを受けることができるというプロジェクトは、大きな話題を集めました。

つまり、個人がそれぞれの理念や世界観を持ってブランディングを行い、企業はそれに基づいた商品やサービスの開発をサポートする。このようなP2Cビジネスの流れが、当たり前になる時代が来るかもしれません。

コロナ禍を経て、P2Cはより広く、より発展的に進化

これまでのP2Cビジネスは「インスタグラマーやYouTuberを中心に行うもの」というイメージが強かったかもしれません。しかし、個人がプロデュース・発信して消費者に直接届けるというこのビジネスモデルは、限られた人たちだけのものというわけではなく、身近なところにも見つけることができます。

例えば近年では、コロナ禍によって全国の飲食店が一斉に休業する中、行き場を失った出荷予定の農作物、魚介類などを生産者や販売業者が安価で直販する「コロナ支援・訳あり商品情報グループ」というFacebookグループが話題になりました。フードロスを削減し、コロナ禍で困っている生産者を支援するだけでなく、安価に良質な商品を買うことができるため、生活者にとってもメリットが大きい仕組みです。

こうした事例は、生産者が商品を直接消費者に届けることができ、「社会貢献」という点でイミ消費にもつながる、広義のP2Cと考えることができるかもしれません。P2Cの考え方を取り入れた新たなビジネスモデルは、これからも時勢やテクノロジーの進化によって幅広い分野で生まれていくでしょう。

そもそも、個人を起点とした価値訴求は、普遍的な手法とも考えられます。例えば子どものころ、友達が持っていた手作りポーチがかわいくて欲しくなってしまったり、クラスのファッションリーダーが愛用しているブランドが流行ったりといったことは、多くの人が経験しているのではないでしょうか。P2Cはそうした欲求の延長上にあるとも言えそうです。「インフルエンサーによるブランドの立ち上げ」という表面的な手法だけに注目するのではなく、その手法の根幹にある本質的な部分に目を向けることが、D2CやP2Cをより発展させた、新たな「〇2〇モデル」を生むヒントになるかもしれません。

 

P2Cは、小売や流通を通さず、売り手と買い手がダイレクトに接触して商品を販売する点ではD2Cと似ていますが、D2Cの主体が企業なのに対し、P2Cの主体は個人です。そのため、その中心にいるインフルエンサーの世界観や発信力がより重要なものとなります。イミ消費時代と呼ばれる現代の消費者に響く、P2Cのビジネスモデルは、今後も勢いを増していくことでしょう。さらに個人ブランドに注目することは、今後の新たな「〇2〇モデル」を予見する上で有用であると考えられます。

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Transformation SHOWCASE 編集部

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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