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2021/12/24

効果を生む、小売店舗へのマーケティングアプローチとは。メーカー担当者が押さえるべき売り場づくりの要点

INDEX

新型コロナウイルス感染症の拡大により、今までのように自由に店舗で買い物ができなくなったことで、ECやネット販売の利用者は急増しました。「お店に行けないから、仕方なくネットで買った」けれど、「いざ使ってみたら便利で良かった」と感じ、コロナ禍が落ち着いても引き続きネット販売を利用し続けたいと考えている人も多いのではないでしょうか。

その一方で、コロナ禍によって医療・福祉従事者、食料品や生活消費財を扱う小売業など、私たちの日常生活を支え、お客さまと対面で接触する「エッセンシャルワーカー」が大きく注目されています。そんな現場の1つであるスーパーでも、コロナ禍を受けてさまざまな変化が起こっています 。今回はメーカーのマーケティング担当者に向けて、「小売現場の今」を解説。変わりゆくお客さまニーズに応える自社商品・サービスの売り込み方をご紹介します。

小売サイドのニーズをつかむことが、魅力的な店頭づくりにつながる

メーカーがどんなにブランディングやプロモーションを推進しても、「お店で目立っていたから手に取った」や「特売されていたから購入した」という理由で売り上げが大きく左右されることは往々にしてあるものです。そういった現状をよく知るメーカー担当者の中には、「お客さまとの接点である小売現場 の人々と連携して、狙いを定めたアプローチを展開するにはどうすればいいか?」という問題意識を持っている方も多いでしょう。

この課題解決には、小売現場のニーズや事情を知るのが一番。そうすれば、小売現場の人が実践しやすい、あるいは実践したくなるような提案が可能になります。そのヒントとなる最近の事例をご紹介します。

メーカーと小売、双方のwin-winを目指す「夏至カレーフェア」

2019年6月に、いくつかのスーパーで「夏至カレーフェア」と銘打った企画棚が作られ、買い物に訪れたお客さまにアピールしました。夏至カレーとはもともと、「1年が切り替わる夏至というタイミングにカレーを食べると、元気になれる」というメッセージがSNSで話題となり、その動きをとある大手流通がキャッチして企画にしたものです。この企画が成立した背景には、以下のような流通サイドの思惑もあったと考えられます。

・1年の中でも6月は歳時が少なく、売りを強化するフックやネタが欲しかった

・カレーには多くの食材が入れられるので、さまざまな生鮮品を同時にアピールしやすい

・企画テーマで括ることでカレーだけでなく、飲料酒類、スパイスなどメーカーがカテゴリー横断で棚作りができ、バリエーションも多数打ち出せる

このように、小売店舗にとっても多くのメリットを享受できた夏至カレーフェア。メーカーから提案を受ける小売店舗の人々が、「なるほど。そういう売り場であればお客さまにも喜んでもらえるし、イベント感も出て売り上げが伸びそうだ」「この文脈だったらいろいろな商品をまとめて陳列できそうだ」と思える企画は、採用確率が高くなると言えるでしょう。

新型コロナウイルス感染症は、お客さまの買い方に変化をもたらした

「安さ」よりも「安心感」を求めるお客さま

感染症の影響で、流通現場にもいくつか変化が見られています。例えば、「夕方にお客さまが集中しなくなった」。これは「密」を避けたいという思いと、在宅ワークなどライフスタイルの変化で買物する時間が調整しやすくなった影響が出ていると思われます。

また、「在宅ワークの影響で男性客が増えた」という店舗もあります。それまであまりスーパーで買い物をしなかった男性客は、一般的に主婦層よりも単価の高い商品を買う傾向が見られるそう。男性の方が、「せっかく来たのだから少し質の良いものを買おう」と思う傾向が強いようです。

こうした変化から導き出せる仮説として、特売などこれまで重視されてきた「価格競争力」以外の要素が問われるようになっている、と言えるのではないでしょうか。今までの小売店舗の多くは、目玉となるような特売商品をそろえ、タイムセールスでさらにおトク感を出して大量に集客するという手法を重視していました。ところが、過大な集客はコロナ対策の面で難しくなった今、「“安さ”よりも“安心”できる商品や買い方を」と考えるお客さまが増えているのです。

「選ぶ楽しみ」を奪われたお客さま

コロナ禍で外食できなくなったにもかかわらず、「総菜の売り上げが伸びない」と悩んでいる小売店舗もありました。巣ごもり消費が増えているはずなのに、なぜ総菜の売り上げが伸びないのか?調べてみると、コロナ前の総菜売り場はバイキング形式になっていて、コロッケや焼き鳥、唐揚げ、サラダなど、多種多様なメニューが並び、そこからお客さまが自由に好きなものをチョイスしていました。それがコロナ禍によってできなくなり、総菜を1種類ずつパックに詰めて並べるスタイルへと売り場が変化。その結果、「バリエーション豊富なメニューから、好きなものを好きなだけを取る」という楽しみがなくなってしまい、総菜に手が伸びなくなったことが分かりました。

つまり、今までの売り場には「選ぶ楽しみ」があったのに、感染症の拡大でそれが失われてしまった。そこで、感染対策に配慮しながら「選ぶ楽しみ」をどう取り戻していくのかが、今後の課題になってきます。

このような「小売店舗の変化」をしっかり捉え、小売現場の悩みに目線を合わせることが何より大切です。それができれば、ともに課題を解決するためにどういう取り組みができるかという発想で提案ができ、新たな施策につながっていくのではないでしょうか。

チラシは効かない?古くさい?ただの集客装置にとどまらない、チラシの役割

小売店舗対策において、もう1つ注目しておきたいのが「チラシ」の存在です。昨今、新聞の購読率が減ったという理由で、あるいは好きな時間とタイミングに広告を打てる、お客さまによって情報を出し分けできるという理由から、チラシをやめてデジタルアプローチに切り替える店舗がかなり増えているようです。「チラシなんてもう古くさい」「若い人はチラシなんて見ない」と思っている方も多いのではないでしょうか。

しかし店舗によっては、「集客装置」以上の役割をチラシが担っているところもあります。例えば、「店舗運営」の側面で重要な機能を果たしているケース。そもそもチラシは、「今日はこれがイチオシです」という店舗づくりの要点が凝縮しているツールです。それを受けて小売現場は、「チラシ掲載商品は、分かりやすい場所に置こう」「このチラシを手に訪れるお客さまから質問されたときに、店員がすぐに答えられるようにしよう」と、しかるべき準備をします。言い換えると、そういった店舗ではチラシが店員に対する説明資料の役目も果たしています。つまり「今日はこの商品を打ち出します。それを期待して訪れるお客さまにきちんと対応しましょう」というディレクション機能も担っているのです。

このようにチラシは、単に「お客さまに届くかどうか」だけではない、その店舗の「サービス力を下支えする機能」も備えています。そういった小売現場の事情を押さえておくと、小売店舗サイドと交わす会話が的を得た内容に変わっていくかもしれません。

EC利用率が向上したとはいえ、これからも小売現場は重要な「消費の場」であり続けるでしょう。むしろ「お店で買い物ができない」という経験をして、「リアルな場での買い物の楽しさ」を再認識した人が増えたことで、人々の店舗に対する期待が今後いっそう高まるかもしれません。そうした状況を受け、メーカーのマーケティング担当者は小売店舗の事情やニーズをうまく汲み取りながら、ともに「今の時代に合った魅力的な売り場づくり」を推進する姿勢が求められています。ぜひこの視点に立って、自社商品・サービスのプロモーションを検討してみてください。

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株式会社 電通グループ

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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