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2021/12/24

ウィズコロナのスポーツ界に広がるDX。NFT活用やZ世代メディアの台頭がスポーツコンテンツを変える

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スポーツは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けた業界の1つであるといえます。多くのスポーツイベントが中止または無観客開催となり、スポーツビジネスの根幹そのものが揺らぎ、アスリートの活躍の場が失われるといった事態に陥りました。そして、TOKYO2020オリンピック・パラリンピックの1年延期という、史上初めての状況を私たちは経験しました。一方でコロナ禍の影響は、スポーツコンテンツにおけるDXを後押しした面もあります。今回の記事では、テクノロジーを取り入れることで進化したスポーツコンテンツの楽しみ方に注目します。

デジタルテクノロジーが、観戦体験をアップデートする

2020年から続くコロナ禍の影響で、スポーツコンテンツは大きな打撃を受けました。イベントや大会を実施できないという時期が続き、その後は無観客開催、もしくは観客数を絞っての開催など、苦しい状況は2021年末の今も続いています。そんな中で、デジタルテクノロジーを取り入れることでスポーツ観戦を進化させよう、とする動きも進んでいます。

多くのスポーツイベントが無観客での開催になったことに加え、技術革新や通信インフラの高速化、動画配信メディアの躍進などさまざまな要因によってネット配信が広がりました。その結果、以前はテレビ放送やインターネット配信が行われなかったようなスポーツイベントも配信されるようになり、パソコンやスマートフォンなどを通じて観戦できるチャンスが広がりました。スポーツイベントを観るという行為だけを取り上げれば、むしろ以前よりも「観る回数が増えた」という人もいるかもしれません。

しかし一方で、「スポーツイベントを会場で観る」ということには、配信映像を観るだけでは味わえない、リアルな場ならではの楽しみがあるのも事実です。会場の盛り上がり、ファン同士の一体感、一緒に観戦した人と感想を言い合う楽しさ、選手を直接応援できる喜び、近距離だから聞こえる音や、生のプレイから伝わる迫力など、枚挙にいとまがありません。スポーツを観ること自体も楽しいけれど、それ以上に「会場の雰囲気が楽しい」とか、「ビール片手に友人と観戦したい」という人も多いのではないでしょうか。

そのような声に応えるべく、スポーツコンテンツ業界では、「リアルならではの楽しさを、デジタル上で再現・フォローアップする」、さらには「デジタルだからこそできる、リアルを超えた観戦体験を提供する」ことを目指して、さまざまな取り組みを始めています。まだテスト段階のものも多いですが、実際に現在取り組まれている観戦体験のアップデート事例を3つ紹介します。

 1.ファン同士のつながりを生み出す

スポーツ観戦のライブ配信を観ながら、ファン同士のつながりを再現・可視化するサービスです。例えば、チャット機能やアバター機能を活用して会話しながら観戦することで、まるで友人と一緒に会場で楽しんでいるような気分を味わうことが可能になります。無観客試合であっても、視聴している観客数が表示されることで、「大人数で応援している」という感覚が得られ、より気分が盛り上がります。あるいは、アバターに応援しているチームのユニフォームを着せてバーチャル空間で同時に観戦することで、会場の一体感を再現するといった新しい観戦スタイルも生まれています。

2.アスリートとのつながりを生み出す

好きなアスリートを直接応援できるというのもリアル観戦ならではの楽しみです。しかし、大きな会場であれば、観客席から試合のフィールドまでは距離があり、遠く離れた席から選手に声をかける、手を振るなどが精一杯です。一方でデジタルだからできる、選手とのコミュニケーションもあります。例えば、オンライン配信では、試合はもちろん、試合後のファンミーティングや、ファンから選手へのインタビューなどを含めてパッケージとして配信するというような催しがあり、選手の普段の様子や人柄をより深く知ることができます。そして、いわゆる「投げ銭」機能で、応援するアスリートに直接メッセージやベネフィットを届けることも可能です。

3.多視点・大迫力での観戦

リアル観戦では、スタジアムや体育館の決められた座席からしか観ることができませんが、デジタルであれば自由自在に視点を変えることができます。例えば、野球であれば特等席でもあるバックネット裏からの視点や、選手と同じ目線で楽しめる内野のエキサイトシートなど、さまざまな位置からの観戦が可能に。加えて、会場内のあらゆる場所にカメラを設置すれば、ベンチの中の様子、審判から見た目線、バッターボックスに立つ選手の目線など、より多様な視点が生まれ、一味違った楽しみ方が体験できます。将来的には、家にいながら、トッププロのプレイを至近距離で見る、というような観戦スタイルも可能になるでしょう。

動画コンテンツやNFTが実現する、アスリートとファンの新たなエンゲージメント

次に、デジタルテクノロジーを活用して、アスリートとファンとの新たなつながりを生み出す、面白いサービスを1つ紹介します。

皆さんは、テニスの試合で勝った選手が最後にテレビカメラにサインをするというシーンをご覧になったことはあるでしょうか?勝利直後の記念のサイン、ということになるのですが、この「サイン」をデジタルコンテンツ化するサービスが、「LIVE Sign.」です。「LIVE Sign.」は、動画に直筆でサインを書けるというサービス。これを使うと、アプリ上に書いた「サイン描画」と、サインを書く「セレブリティの様子」が瞬時に合成され、サイン動画をデータ化することができます。コロナ禍の影響で、アスリートとファンが直接触れ合ったり、サインをもらったりすることが難しくなっている中で、この「LIVE Sign.」を使えば、アスリートがサインを書く様子やメッセージを動画コンテンツとしてファンに届けることが可能になるのです。サインは「いつ書いたか」ということや、書いてもらう時のコミュニケーションも重要な価値となります。「LIVE Sign.」では大切な試合に勝った直後の選手のうれしそうな表情や、会場の祝福ムードも含めて動画コンテンツとして提供される点がファンに喜ばれています。

さらに、この「LIVE Sign.」に、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)という技術を掛け合わせると、サインデータに資産的価値が付与されます。デジタルデータでありながら、「あのトップアスリートが、あの試合に勝った直後に書いたサイン」という唯一無二の価値が保証されるのです。「LIVE Sign.」は1つの例ですが、このようにデジタルテクノロジーの向上によって、アスリートとファンの新たなエンゲージメントが可能になります。そしてそこには、スポーツコンテンツに関わるビジネスをさらに広げるチャンスも生まれています。

Z世代メディア「Overtime」に見る、スポーツの楽しみ方の多様化

さまざまなスポーツコンテンツが登場する中で、もう1つ現代の価値観にマッチした特長的なスポーツメディアを取り上げたいと思います。ニューヨークで生まれた「Overtime」というコンテンツ配信プラットフォームをご存じでしょうか。既にさまざまなメディアから取り上げられているため、耳にしたことがあるかもしれませんが、主に高校サッカーや高校バスケなど、学生スポーツの総合メディアプラットフォームであり、若いアスリートたちに焦点を当てています。フォロワーは4,000万人を超えており、そのほとんどが34歳以下という、まさに「Z世代メディア」の代表として取り上げられることも多いようです。

この「Overtime」には、世界に約7,000人のクリエーターが所属しており、それぞれの地域のアマチュアスポーツの試合に密着し、撮影・編集したかっこいい動画を日々アップしています。フォロワーも大学生や高校生などのZ世代がコアで、自分と同世代の選手の様子を観て楽しむという構造になっています。「Overtime」で取り上げられた高校生アスリートの中から、次世代のスーパースターが誕生するケースもあり、今若い世代の間で非常に人気のあるスポーツメディアの1つになっています。

また、最近ではスケートボードやBMXなどのいわゆる「アーバンスポーツ(都市型スポーツ)」の人気が一気に高まりましたが、これらのスポーツでは「自分の技をスマホで撮ってSNSにアップする」「上手な人のテクニックの動画を見て真似できるように練習する」といったことが日常的に行われています。SNSや動画コンテンツは彼らの表現の場であり、コミュニケーションツールとなっているのです。このことからも分かるように、今後のスポーツの楽しみ方は、試合中継を観たり結果を調べたりするだけではなく、選手のオフショットなども含めた等身大の姿を知ったり、自分のプレイやテクニックを世の中にアピールしたりといったより幅広い可能性が広がっています。若い世代の多様な楽しみ方にいかに対応できるかということも、今後のスポーツコンテンツを進化させる上で重要な視点となるでしょう。

新型コロナウイルスの感染拡大で、スポーツコンテンツは大きなピンチを経験しました。しかし、今まで当たり前のように楽しめていたものがなくなったことで、改めてスポーツコンテンツの価値や魅力を再認識した人も多かったのではないでしょうか。そうした流れも受けて、今スポーツコンテンツは、デジタルテクノロジーを取り入れて、新たな進化を遂げようとしています。なにより、スポーツが与えてくれる感動は、私たちの生活を豊かにしてくれる「なくてはならないもの」です。今後スポーツコンテンツがどう進化していくのか、さまざまな取り組みに注目してみてはいかがでしょうか。

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株式会社 電通グループ

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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