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2021/12/24

ハイブランド・マーケティングのプロに学ぶ、コロナ禍で変化した新富裕層の消費トレンド

INDEX

消費動向やトレンドを考える上で、「富裕層」つまりお金持ちはいつの時代も大きな存在感を発揮しています。もちろん、「富裕層=トレンドリーダー」というわけではありませんが、「欲しいものを気軽に買える余裕がある人たち」が、アーリーアダプターとして新しい商品やサービスを購入し、トレンドを生み出すきっかけとなるケースは少なくありません。この富裕層の消費トレンドがコロナ禍によって変わってきた、という指摘があります。今回は特に、「新富裕層」とも呼ばれる、若い世代の富裕層を中心とした消費トレンドについて取り上げます。

ミレニアル世代の中で、新しいタイプの富裕層が生まれ始めている

「新型コロナウイルス感染症の影響で、人々の消費スタイルがどう変わったか知りたい」と考えるマーケターは非常に多いのではないでしょうか。感染対策のために自由に出歩けなくなったことで、飲食店や店舗型のサービス、イベントなどは大きな打撃を受けました。しかし、その一方でECをはじめとするデジタルサービスの普及は加速しました。このような中で、人々の消費傾向はどう変わったのか。1つの視点として注目したいのが、「新富裕層」と呼ばれる人たちに見られる変化です。「新富裕層」に明確な定義はありませんが、一般的には富裕層の中でも、「ミレニアル世代」と呼ばれる20代から30代前半あたりの若い世代で、親などから財産を譲り受けることなく、自ら富を築いた人などのことを指します。彼ら彼女らにはこれまでの富裕層とは異なる消費スタイルが見られます。

そこで今回、電通ジャパンネットワークの1社であるファッション専門広告会社・株式会社 ザ・ゴールのマーケターにヒアリングを実施しました。ザ・ゴールは、高級ファッションやハイジュエリーなど、いわゆる「ハイブランド」のマーケティングやターゲットインサイトに長けています。富裕層のトレンド分析に優れたマーケターが語る、新富裕層の特徴やその消費トレンドについて紹介します。

「他者からの評価」ではなく、「自分を満たしてくれるもの」を追い求める

新富裕層の消費動向については、まず「ファッション・ラグジュアリーブランドの買い方に変化が表れている」と言います。コロナ禍によって外出の制限や多くの人が集まるイベントの自粛が求められたことにより、結婚式や式典、パーティーなどに出席する機会が大幅に減りました。いわゆる「オケージョン需要」が激減したのです。そのため、かつては「自己演出型消費」、つまり「自分が他の人からどう見られるか」がラグジュアリーブランド購入において重要なポイントであったものが、今は「自己満足消費」、つまり「自分がそのブランドを好きかどうか」「納得して買えるかどうか」に軸足が置かれるようになったということです。

この購入動機の変化によって、ラグジュアリーブランドが直面するのが、「自己満足の多様性」に応えられるか否かです。例えば、他者の目からどう見えるかを購入動機としていた場合は、「人気のアイテムである」「みんなに注目される」という顧客の外側にあるわかりやすい評価基準が大きな意味を持っていました。対して、「自己満足」の基準は1人ひとり異なります。お客さまの内側にある多様な価値観や評価基準を探り、満足度を得られるアプローチを目指すことが必要になったのです。

サステナビリティに対する意識の高まり

では、新富裕層にとっての「自己満足」とは何でしょうか。基準は多様ですが、その1つは、サステナビリティに対する意識であると言われています。ファッションであれば、以前は季節性や流行が重要で、必ず毎年「今のトレンド」というものが発表され、それを持つことが消費のリーダーとしての証にもなっていました。しかし最近は「「長く使える良いものを買う」という流れが生まれ始めています。例えば、100万円以上するようなバッグでも「長く使い続けたいから」という思いで購入する人が増えているそうです。

若い世代の消費行動のキーワード「5つのレス」

加えて、最近の消費動向のキーワードとして、「シーズンレス」「タイムレス」「エイジレス」「ジェンダーレス」「プライスレス」という「5つのレス」が注目されています。前述の「長く使える良いものとして100万円以上するバッグを購入する」という消費行動は、「タイムレス」や「プライスレス」に当てはまるでしょう。また、この中で「ジェンダーレス」は特に大きなトレンドワードとなっており、日経MJによる「2021年上半期ヒット商品番付」でも「ジェンダーレスファッション」が取り上げられています。ファッション業界では、これまで「メンズコレクション」「レディースコレクション」という明確な区切りがあることが当たり前でした。しかし近年はジェンダーレスの商品が増え、ファッションショーでも、メンズとレディース合同で行うケースがあります。これも今までにはなかった新しい動きと言えるでしょう。

新富裕層の消費動向から読み解く、消費トレンド

前述の通り、コロナ禍においてはパーティーなどの特別な場に出向く機会が減ってしまったために、ハイブランドのファッションアイテムやラグジュアリー製品の消費は減少傾向にあります。では、その分、新富裕層の消費がどこに向いているかを探ると、2つのトレンドが浮かび上がりました。

自分を喜ばせるための消費

1つ目は、パーソナルトレーニングや美容、車、別荘といった自分を喜ばせる「ご自愛消費」「自分磨き消費」というトレンドです。「ご自愛消費」の例としては、高級車メーカーのフェラーリが、2019年以降、コロナ禍にあっても売り上げを伸ばし続けているというデータがあります。また、日本の代表的な別荘地である軽井沢では、これまで50~60代の会社経営層や重役クラスが購入者層の中心でしたが、リモートワークの普及などもあり、若い世代が「2拠点生活」をするために購入するというケースが増えてきているようです。

うんちくやストーリーを重視した消費

2つ目は、「理系消費」「オタク消費」というトレンドです。イメージとしては、スティーブ・ジョブスに憧れて、服はユニクロなどでシンプルなものを購入する一方で、オーデマ・ピゲの2,000万円以上する高級時計を買いに出かけるなど、特定のアイテムには強いこだわりを示すような若者です。購入動機としては「中の構造に興味がある」や「歴史や伝統がある」「知的好奇心が満たされる」など。商品に魅力を感じると同時に、自分のコミュニティ内でアピールできるようなうんちくやストーリーがある点も重視されます。こうした若者の興味関心が向かう商品として、時計、家電、不動産、ワイン、現代アートなどが挙げられます。

コロナ禍によって人々のライフスタイルは大きく変わりました。その変化を捉える1つの指標として、富裕層に注目すると、そこには「トレンドの最先端」が見えてきます。また、新富裕層をファンとして獲得することは、今後長期にわたって優良顧客を獲得することと同義です。したがってこの「新富裕層」のニーズを捉えることを重要なマーケティングテーマとしている企業も多く存在しています。この機会に、彼らが今何を求めているのか注目してみてはいかがでしょうか。

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株式会社 電通グループ

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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