AX
2021/12/24

イベント体験の効果を可視化するには。ユーザーの心理・行動変容を把握し、利益につなげる取り組み

INDEX

イベントに代表される「出展型プロモーション」は、ファンとのエンゲージメントを生み出し、強化するために非常に重要な施策です。大切なお客さまに直接メッセージを届け、その場でしかできない体験を提供することで、ファンとの強い絆が生まれます。

一方で、ビジネスの視点から見ると「イベントは、投下コストに対して本当に効果をもたらしているのか?」が分かりにくいという指摘があるのも事実です。そこで今回は、マーケティング視点から見て、イベント効果を可視化するための取り組みを紹介します。

コロナ禍で明らかになった、リアルイベントの課題とオンラインイベントの価値

イベントはこれまでも、ファンを育成しエンゲージメントを強化するための重要な施策の1つでした。テレビCMのようなマスマーケティングと比べるとリーチは限られますが、それでもリアルイベントならではの体験創出は、人々の心に大きなインパクトを与え、ブランドや商品・サービスに対する愛着を大きく高めることができます。メディアの力で幅広くメッセージを発信し、イベントではターゲットを絞って深い体験を提供するというマーケティング施策の組み合わせは、1つの「王道パターン」として定着していたといっても過言ではないでしょう。

しかし一方で、体験の「深さ」やその効果をどう可視化し検証するか、という点は以前から課題となっていました。「イベントを開催して、〇〇人が来場してくれて、その場はとても盛り上がったけれど、本当にそれがビジネス上の利益につながったのかよく分からない」という声は多く聞かれていました。また、「イベント実施効果をしっかり可視化したい」「費用対効果を考える上での参考情報が欲しい」といった思いは、多くのマーケティング担当者が抱えているのではないでしょうか。

利便性が高く、マーケティング上のベネフィットも期待できるオンラインイベント

折しも、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、多くのイベントが中止となり、それを補うかのようにオンラインイベントが数多く開催されるようになりました。当初は、イベントの良さはユーザーと直接コミュニケーションを取れることなので、それがオンラインになって大丈夫なのか?と、その効果を疑問視する声も多く見られました。それでも、リアルでのイベント実施が難しい以上、まずはオンラインでやってみるしかないと、「チャレンジ」のようなつもりで、オンラインイベントを始めた企業も少なくなかったでしょう。

しかし、いざ実施してみると、リアルイベントと違ってどこにいても参加できる、好きな時間に参加できる、混雑する中で長時間並ぶ必要もなくコンテンツがすぐに見られる、といったメリットがあることが分かってきました。さらに、デジタルテクノロジーを活用することで、オンラインでも参加者同士がやり取することができたり、リアルイベントさながらの盛り上がりを演出によって再現したり、オンラインイベントの弱点を補うような取り組みも生まれています。加えて、オンラインであればアクセス数が把握でき、そこで獲得したユーザーデータをイベント後にも活用しやすい、というマーケティング上のベネフィットがあることも見えてきました。

このように、オンラインイベントのメリットが明らかになったことで、改めてリアルイベントを行う意味を見直し、「むしろオンラインイベントのほうがいいのではないか」と考えるようになったマーケティング担当者も増えたのではないでしょうか。

一方で、オンラインイベントに取り組んだことで、改めてリアルイベントならではの「参加者に与える心理的インパクト」の魅力を再認識した、というケースもあると思います。オンラインイベントもいいけれど、やはりエンゲージメントという点からはリアルイベントの効果は高いと肌感覚で感じる。しかし、リアルイベントが実際に参加者にどのような影響を与えているか、可視化するのは難しい。そんなもどかしい思いを感じている担当者も多いかもしれません。

「表情解析」技術が広げる、イベント効果測定の可能性

そんな中で、テクノロジーの力でリアルイベントの効果を定量的に把握しよう、という取り組みが始まっています。これまで、イベントの効果を定量化するための方法としては、来場者にアンケートを取るのが一般的でした。来場者アンケートによって、満足度や心理変容がどのくらいあったかを測り、そこに推定来場者数のデータを重ねることで、「量×質」の効果測定を行う方法です。しかし、イベントによっては、来場者数を正確に把握するのが難しい場合もありますし、満足度アンケートにしても、イベントのどの要素に満足したのか、どの要素が効果的に働いたのかといった深い分析までは踏み込めないことも多く、「イベント効果の定量化」という点ではやや不十分というケースも少なくありません。

AIによる表情解析が来場者の心理変容を明らかにする

そうした課題を解決する取り組みの1つが、「AI表情解析による満足度調査」です。イベント会場に設置したカメラで来場者の顔を認識し、来場者の匿名性は守りながらも、その表情をAI解析することで満足度を計測できるというもの。既に実証実験も始まっています。この方法であれば、来場者がイベントスペース内のどこでどういう体験をして、どんな感情を持ったのか、詳細に把握することができます。例えば、ステージでプレゼンテーションやショーを行っている際に、ステージを見ている人たちの表情をAI解析することで、どのタイミングで心が動いているかを測定することができます。これによって、ステージで派手な演出があった時などは、観客のポジティブな感情がグッと高まることが確認できます。エンターテインメントとしてこれは当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、興味深いのは、ショーの合間のインターバルに、ちょっとしたつなぎの映像演出があった場合でも、観客のポジティブな気持ちが高まったという結果が出ていることです。このような今まで見落とされていた「細かな演出」が人の感情へのアプローチとしてしっかり効果をもたらしていることが実証されているのです。

これまでこのようなつなぎの演出は、「イベントプロデューサーや演出家の経験やこだわりとして、細かいところまでしっかりやる」という捉えられ方だったのが、「そういう細かいところまでしっかり演出をすることが、来場者とのエンゲージメントに効果をもたらす」ということを実証してくれる。このような形でイベント効果を実証するような取り組みが始まっています。

しかし、まだ技術的な課題も多く、効果測定の精度は、今後もっと高めていく必要があるでしょう。例えば、「AIによる表情解析」という領域においては、欧米人の表情に比べると、日本人などアジア人の表情の変化は分かりにくいとされており、「日本人に最適な表情解析」のデータ蓄積が本格化するのはこれからだと言われています。また、イベントの内容によっても課題は存在します。美術展のように、興味のあるジャンルのコンテンツをじっくり楽しんでもらうイベントの場合にはどうでしょうか。アート作品を真剣に鑑賞するとき、人は真顔になります。この状態の人の顔は、表情解析上は「ニュートラル」な表情と判断されるので、心の動きを読み解くことは難しくなります。

このように、まだ課題も多くあるものの、「どの瞬間、どのエリアで人の心が動いているか」をつかむことは、イベントの効果を科学的に分析し、かつストーリーとして掴む重要な情報を得ることにほかなりません。

心理変容から行動変容のデータ化がマーケティング精度の向上につながる

「リアルイベントの場で表情解析をすることで効果を定量化する」という試みは、今後さまざまな領域に広がっていく可能性を秘めています。そもそもは、リアルイベントでの効果計測という課題意識から出てきた取り組みですが、これをオンラインイベントで活用することも可能です。オンラインイベントの参加者は、パソコンやスマートフォンなどを通じてイベントに参加するので、その際にカメラに映る表情を解析すれば、オンラインイベントでどのようにコンテンツを楽しんだか、効果を測ることができるでしょう。それが分かれば、コンテンツの作り方も、より工夫することができるはずです。

例えば、映像などのコンテンツの長さはどのくらいが適正なのか。多くの場合は、経験則によって「だいたい3分くらい」などと、設定されてきたかもしれません。「映像は3分がいいよね、それ以上は長いよね」というような会話をした経験がある方も多いのではないでしょうか。しかし、実際は適正な長さは状況やターゲットによって異なるはずです。そこで、今後は映像から離脱するまでの時間や、見ている時の表情などから心理変容を分析することで、「その場・状況に最適な長さ」を検討できるのではないでしょうか。

さらには、スマートフォンなどのデバイスやアプリケーションと連動することで、イベント来場者のその後の行動を追跡することもできます。もちろん個人情報の問題があるため、匿名性をしっかりと守るためのテクノロジーとセットで運用する必要はあります。その上で、来場者のデータに基づいて、イベントがどのような効果をもたらしたのか、より長期的な視点で分析していくような流れは今後ますます加速していくと考えられます。

コロナ禍の影響は、改めてイベントの効果や魅力を見直し、そして現代に合う形で進化させていく良いきっかけとなった面があります。イベントと言えば、アナログのマーケティング施策の代表例のように扱われることもありますが、実はデジタルとの融合によって多くの可能性が広がる領域です。イベントの持つ「深い体験を、限定感・特別感と共に届ける」という強みは、デジタルとの融合でさらに際立ち、磨かれるでしょう。これを機に、イベントの新たな可能性を探ってみてはいかがでしょうか。

この記事の企業サイトを見る
株式会社 電通グループ

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

RELATED CONTENTSあわせて読みたい
DX
医療・ヘルスケアビジネスのDXには、ヒューマニズムの視点を
株式会社 電通メディカルコミュニケーションズ 執行役員尾方圭司 Keiji Ogata
BX
デザイン思考で顧客価値を実装する!顧客に選ばれるサービス創出の重要ポイントとは
株式会社電通 電通ビシネスデザインスクエア デザインストラテジスト岡 智之 Satoshi Oka
CX
SDGs推進のカギとなる「環境対応素材」をどう取り入れる?新素材「PLANEO™」を例に考える
CX
ビッグデータ分析をマーケティングに生かす。効果的な施策につなげるためのポイントを解説
AX
検索エンジンの進化とSNSの普及から考える2022年SEO次の一手~
株式会社電通デジタル プラットフォーム・データ本部森 有人 Yujin Mori
CX
ハイブランド・マーケティングのプロに学ぶ、コロナ禍で変化した新富裕層の消費トレンド
DX
店舗×デジタルで実現する、ワンランク上の顧客体験。店舗の体験価値を向上させるDXとは
株式会社電通デジタル プラットフォームコンサルティング部 エグゼクティブ プランニングディレクター口脇 啓司 Keishi Kuchiwaki , 株式会社電通ライブ 空間プロデューサー/一級建築士浜本 悟史 Satoshi Hamamoto
AX
企業価値を高める「広報」の提案〜「企業広報」の強化と広報力診断〜
CX
SF世界を現実に!「脳波」で想いを伝える、新しいコミュニケーションの可能性
AX
「需要予測」でマーケティングを進化させる!広告販促にとどまらない、計り知れない可能性を成果につなげる
VIEW MORE POSTSCLOSE
RECOMMEND CONTENTSTSCからのおすすめ
VIEW MORE POSTSCLOSE