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2022/08/29

国際的AIコンペで1位を獲得。トップエンジニアが語る電通グループ×AIの未来(前編)

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2022年5月、株式会社電通デジタル アドバンストクリエイティブセンター(ACRC)のAIエンジニア・石川隆一氏と村田秀樹氏が、国際的なAIコンペティションプラットフォーム「Kaggle(カグル)」で開催された「NBME - Score Clinical Patient Notes」において、1471チーム中1位を獲得しました。

今回の金メダル受賞により、村田氏はKaggle最高位である「Kaggle Grandmaster」の称号を獲得。このランクのエンジニアは世界でわずか約250名、日本国内では約30名しかいません(2022年5月18日時点)。電通デジタルには、「Kaggle Grandmaster」の村田氏、「Kaggle Master」の石川氏が在籍することとなります。

Transformation SHOWCASEでは、世界トップレベルのAIエンジニアとしての技能を、仕事にどう生かしているのかインタビュー。2回に分けてお届けする前編では、AIコンペの話やAIエンジニアになった経緯などについて聞きました。

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互いの得意領域を生かして結果を残し、AI開発への本気度を示す

Q.お2人は国際的AIコンペ「Kaggle」の「NBME - Score Clinical Patient Notes」で1位に輝きましたが、そもそもこれは、どのようなものでしょうか。

石川:「Kaggle」は、企業や行政機関から依頼された課題に対し、AIで解決するコンペティションプラットフォームです。その中でも「NBME - Score Clinical Patient Notes」は、米国医師免許試験で受験者が記載したカルテの採点作業を自動化するためのコンペティションで、カルテから重要なキーワードを見つけるAIを作成し、その正確性を競い合うというものです。

Q.お2人は、これまで何度も「Kaggle」で金メダルを受賞しています。いつもペアで出場しているのでしょうか。どんな方と組むと真価を発揮できるのか、チームを組む上でのポイントを教えてください。

石川:僕の場合、ソロでコンペに参加することもあれば、村田と2人で参加することもあります。村田とのチームでは、得意領域によって役割分担をはっきりさせている点がポイントでしょうか。僕は「どういうAIを使えばいいんだろう」「どういう手法を試せばいいだろう」とリサーチしながらAIを作り始める入り口部分が得意。そこからAIの精度を上げていくのが、村田の得意領域。今回のコンペでも、最初の走り出しは僕が1人でいろいろチャレンジし、ある程度目星が付いたところで村田が一気に精度を高め、優勝に至りました。

村田:「Kaggle」では最大5人でチームを組めますが、同じ能力を持つメンバーを5人そろえても意味がありません。それぞれ尖っている部分が違うと、良いチームになるのではないかと思います。私と石川は得意領域が違うので、お互いの強みを発揮できるからこそ、結果につながっているのだと思います。

Q.お2人のような優秀なAIエンジニアが在籍していることは、電通デジタルの評価にもつながりますよね。技術力を対外的にアピールしたいという理由もあって、「Kaggle」のコンペに参加しているのでしょうか。

石川:確かにそういう側面もありますが、別の理由の方が大きいかもしれません。電通グループは広告会社というイメージが強いため、「電通がAI開発?何のために?」とピンとこない方もまだまだ多いのが現状です。僕らが大会で結果を残すことで、そもそも、「電通グループが本格的にAI開発を行っているんだ」と知っていただきたいと思っています。また、AIは技術の進歩が非常に速いので、常に最新の論文を読み、情報をキャッチアップしていかないと取り残されてしまいます。大会に参加することで、学習環境を担保し、自分自身をアップデートしてゆくという意味合いもあります。

クリエーティビティのあるAI開発を求め、異業種から電通デジタルへ

Q.お2人は電通デジタルに入社する前、どんな仕事をしていたのでしょうか。電通デジタルにどんな期待を抱いて入社しましたか?

石川:僕は経歴が少し変わっていて、ミュージシャンとして活動後、レコード会社でアーティストマネージャーをしていました。その後、音楽業界から離れたのですが、次は世の中が変わるようなことをしたいと思うようになったんです。そんな中、可能性を感じたのがAIでした。AIを使ってクリエーティブな表現ができる会社がないかと探していたところ、候補に挙がったのが電通で、ちょうどその頃、電通デジタルが立ち上がるタイミングでもあり、ここなら僕が目指す表現ができそうだと思い入社しました。

村田:私の場合は、前職は公務員でした。AIの勉強を始めて、「Kaggle」で何度か金メダルを受賞したあたりで、「そろそろデータサイエンスやAIと関わる企業に就職したい」と思うようになっていたんです。そんな時、石川から電通デジタルに誘われました。電通デジタルがAIを開発していることは全く知りませんでしたが、他のAI企業ではできないようなクリエーティビティのある面白い仕事ができると聞き、入社を決めました。

Q.お2人とも、全く違う職種からの転職だったんですね。ただ、「これからはAIだ」と思ったとしても、AIエンジニアになるのはそう簡単ではありません。「やってみよう」と思い立って、すぐに始められるものなのでしょうか。

石川:僕は、もともとパソコンが好きで、小さい頃からプログラムを組んでいました。それに、将棋も大好きなんです。一時期、AIがプロ棋士に勝利したという話題で、世の中が沸き立ちましたよね。それを見た時に、これから一気に時代が変わっていくんじゃないかと思ったんです。数学も嫌いではなかったので、AI開発にチャレンジしてみたいと思い、この道に進みました。

村田:私はプログラミングの経験はほとんどありませんでしたが、もともと楽観的な性格なんです。興味があることにチャレンジしてみると、意外とすんなりいけてしまうタイプ。日中の公務員の仕事を終えた後にAIの勉強を始めたのですが、すっとなじめました。

Q.電通デジタルは、期待していたようなAI×クリエーティブが実現できる環境でしたか?

石川:そう感じています。AIをクリエーティブな表現に使った「TEHAI」(AIにより指名手配被疑者の過去の写真を老化させ、現在の姿を予想するクリエーティブプロジェクト)や「“名画になった”海 展」(プラスチックゴミによる海洋汚染問題を、AI技術を用いたアートで表現する展示)などで広告賞もいただきました。

村田:私もいろいろな試みにチャレンジできています。例えば、先日はAI大喜利対決「ボケて電笑戦」に出場し、画像に合わせてひと言ボケるAI同士を競わせました。AIの活用法としてはとてもユニークで、他ではできない体験をさせていただいています。

グループ内で連携し、多様なAI開発プロジェクトに参画

Q.電通デジタルの主な業務は、デジタルマーケティングの戦略策定、ITプラットフォームの設計・構築、顧客企業のDXコンサルティングなどですが、普段どういった仕事をしているのでしょうか。

村田:私が主に担当しているのは、バナー広告の効率化です。バナー広告のデータを分析し、新しく作ったバナーについて、どれが効率的か効果を予測するAIを開発しています。

石川:村田は、ビジネス成長に貢献するAIソリューション業務にコミットしていますが、僕はプランナーとして新しいことや突飛なことばかり考えています(笑)。また、顧客企業に対して「弊社からはこの優秀なAIエンジニアをアサインし、御社にカスタマイズしたAIを提供します」と、競争優位性を示したプレゼンを行うこともあります。

Q.今、電通デジタルで働いていて、仲間が増えている実感や、AI開発事業が伸びている実感はありますか?

石川:まだ途上ですが、会社全体としてAI事業を広げようという気運は高まっています。電通グループ内での連携も深く、特にデータアーティスト株式会社とは多くのプロジェクトで協業しています。2022年6月に京都で開催された「2022年度 人工知能学会全国大会(第36回)」では、株式会社 電通、株式会社電通国際情報サービス、電通デジタルの3社が協賛社として参加し、AIソリューション事例の展示を行いました。

村田:AI開発事業においても、企業の多様なニーズの高まりを感じますし、そこに応えていくためには、チームとしてできることを、もっと増やしていく必要があると感じています。そのためにも、AIエンジニアは増やしていきたいですね。

 


 

世界的AIコンペで多くの結果を残し続けている2人。電通グループ各社とも連携を深め、AI開発で確かな実績を残しています。後編では、電通グループならではのAI×クリエーティブの可能性や、企業がAI活用に乗り出すための最初の一歩について聞いていきます。

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株式会社電通デジタル

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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