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2022/08/31

国際的AIコンペで1位を獲得。トップエンジニアが語る電通グループ×AIの未来(後編)

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2022年5月に行われた、国際的なAIコンペティションプラットフォーム「Kaggle(カグル)」のAIコンペ「NBME - Score Clinical Patient Notes」において、1471チーム中1位を獲得したAIエンジニア・石川隆一氏と村田秀樹氏。

2人が所属する株式会社電通デジタル アドバンストクリエイティブセンター(ACRC)は、広告代理店のイメージが強い電通グループの中にあって、データ/AI(人工知能)とクリエーティビティの融合を目指す組織です。

世界トップレベルのAIエンジニアとしての技能を、電通デジタルでの仕事にどう生かしているのか、2人にインタビューした後編。電通グループならではのAI活用や、AI×クリエーティブの可能性、そして企業がAI活用に乗り出すための最初の一歩について話を聞きました。

>>前編はこちら

表現の幅が狭いデジタル広告を、いかにクリエーティブにするかがカギ

Q.では、お2人が今後、さらに強化したい領域にはどんなものが挙げられるでしょうか。

石川:マス広告に比べると、デジタル広告は表現の幅が狭いと言われていて、僕自身も、デジタル広告は面白みが足りないと感じる部分もあります。そのためAIを活用して、デジタル広告をもっとクリエーティブにしたいと考えています。

例えば、マス広告では1本のコピーで消費者の心を動かすことを目指してきました。しかしデジタル広告は、100点満点中60点のコピーを100本作ります。その上で、効率の悪いものは淘汰され、効率の良いものだけが残っていくという考え方なんです。この部分だけ切り取ると、最高のコピー1本で勝負するマス広告の方が、よりクリエーティブと言えると思います。

ですが、これだけデジタル広告の比重が高まれば、マスではなく1人ひとりに最適化した広告を打っていかなければならない、という考え方になってきます。万人に響くコピーよりも、「今なら送料無料」とアピールした方が、バナー広告を見た人の購入につながることもあるでしょう。広告の在り方もシフトしているので、こうした現状を踏まえた上で、クリエーティブに携わっていかなければならないと思っています。

村田:私は、AIを活用したバナー広告の性能予測に携わっていますが、まだまだ道半ばです。AIによるバナーの自動生成もまだ手を付け始めたばかりなので、1社でも多くの企業に「使いたい」と思っていただけるよう、さらにブラッシュアップしていきたいと考えています。

クリエーティブの文脈に乗せた、電通ならではのAI活用を考える

Q.石川さんは、AIとクリエーティビティを結び付け、面白い表現を生み出したいという意向をお持ちのようですが、AIは予測や統計に強く、効率化を推し進める技術でもあります。効率化が進めば、面白さからは遠ざかってしまうのではないでしょうか。AIならではのクリエーティビティとはどのようなものか、見解を聞かせてください。

石川:確かにAIが最適化されていくと、最終的に同じゴールにたどりついてしまうという側面はありますね。例えば、YouTubeなどのレコメンドエンジンにしたがって動画を再生していくと、最終的にいつも同じ動画にたどり着いていることがありませんか?僕自身、AIによって視野が狭くなっていると感じることはあります。

そこで今、僕が提案しているのが、あえて自分から距離が遠いものに出会わせてくれるAIです。レンタルショップでパッと目についたDVDを手に取ったところ、思いがけず良い作品に出会えたという経験はありませんか?そういうセレンディピティをAIで再現できたら面白いはず。レコメンドエンジンをただ最適化するのではなく、そこにクリエーティブの要素を挟むことで、今までにない体験を提供できるのではないでしょうか。そういったAI×クリエーティブが、電通グループならではの表現だと思っています。

村田:私は逆に、AIそのものはクリエーティブでなくてもいいのかなと思っています。弊社には多くのプランナーが在籍していますが、AIによって業務を効率化すれば、彼らはその分、クリエーティブな仕事に時間を使えます。それもクリエーティブなAI活用の1つですよね。そういった方向性も目指していきたいと思います。

Q.今の石川さんの話とも重なりますが、AIソリューションを突き詰めていくと、同じゴールにたどり着くことになりそうです。そうした中、差別化を図り、電通グループらしいAIソリューションを提供するとしたら、どのようなベクトルになると思いますか?

石川:やはりクリエーティブの文脈に乗せたAI活用が、電通グループらしさではないかと思います。例えば、国際広告賞「クリオ賞」のプロダクトイノベーション部門で銅賞を受賞した「TUNA SCOPE」は、とても電通らしいですよね。目利き職人の技をディープラーニングによって継承し、マグロの品質判定をするAIという発想にワクワクしました。業務効率化のためのAIも必要ですが、ご指摘の通り、性能で差別化を図るのは難しい。それ以外の一風変わったAI活用事例も徐々に増えているのが、電通グループらしさだと思います。

既存のシステムを活用すれば、低コストでAIを導入できる

Q.「AIを使ってみたいけれど、どうすればいいのか分からない」という企業は、非常に多いのではないかと思います。こうした企業に向けた効果的なアプローチについて、AIエンジニアの視点から教えていただけますか?

石川:人間の感覚を頼りにするより、テクノロジーに頼った方が良い結果が生まれることもあります。とはいえ、AIは必ずしも万能ではありません。「AIを使えば何でもできる」と期待を高めすぎると、何か1つでも予測や分析を間違えたときに「AIって使えないな」と思い、以降はAI活用を敬遠してしまうこともあるでしょう。ですから「10回中、7回は当たる」「人間よりは精度が高い」と認識していただいた上で、継続的にAIを使い続けていただくのがいいのではないかと思います。

Q.AI活用事例のないクライアントの中には、スケジュールや費用も、どれくらいかかるのか全く分からないという企業も多いでしょう。その尺度が分かれば、クライアントも導入を検討しやすいのではないでしょうか。例えば「既存のシステムを使えば、これくらいの予算でAIを活用できる」といった目安を教えていただけますか?

石川:AIソリューションと聞くと、コストがかさむのではないかと考える方も多いと思います。確かに、全く新しいシステムをゼロから開発するには、3カ月~半年くらいかかり、費用も高額になります。しかし、電通グループで開発しているAIソリューションはたくさんあり、数十万円から導入できるものもあります。

例えば、AIを活用してバナー広告の自動生成・効果予測・分析を行うツール「ADVANCED CREATIVE MAKER®︎」、SNSとマスメディアの情報をAIで解析して次に流行しそうなキーワードを予測するシステム「TREND SENSOR」などは、それほどコストをかけずに活用できます。まずは、こうしたシステムを通して「AIってこんなことができるんだ」「AIって面白いね」と感じていただき、継続的にテクノロジーを使っていただける文化が生まれればうれしいです。

 


 

AI活用において企業が最も期待するのは、おそらく「業務の効率化」でしょう。電通デジタルでは、そこにクリエーティブを掛け合わせることで独自性を持たせ、さらにAIの可能性を広げようと試みています。偶然性を持たせたレコメンドエンジンなど、ユニークな発想からAIに向き合ってみると、業務効率化の観点からだけでは見えてこないAI活用や、競争優位性の確立を実現できるかもしれません。AI活用に二の足を踏んでいる企業も、まずは既存のAIソリューションを活用するところから、AIの可能性を感じていただければと思います。

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株式会社電通デジタル

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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