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2022/09/09

「メタバース」との向き合い方 ~仮想空間が実現する、新たなビジネスチャンスを模索する~

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最近、テクノロジー・キーワードとして一気に普及したように思える「メタバース」ですが、それがどういうものなのか、実はよく分かっていない、というビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。「定期的にメタバース空間を楽しんでいる」という人はさらに少ないかもしれません。

本記事では、株式会社 電通の金林真氏に、メタバースとはいったい何なのか、それによって私たちの生活やビジネスにどのような変化が起こり得るのかをインタビュー。普段はよく企業向けの勉強会も実践しているという金林氏ですが、教科書的な情報にとどまらない、まさにビジネスの現場で向き合っている「メタバースのこれから」について語ってもらいました。

「メタバース」は、他人とのコミュニケーションがあるのを前提とした仮想空間

Q.2022年5月、電通ジャパンネットワーク内の横断組織である「XRX STUDIO」が、メタバース関連のナレッジを企業支援に生かしていくための専門チームを組成し、「インテグレーテッド メタバース ソリューション」の提供を開始(リリース記事はこちら)しました。金林さんはこの「XRX STUDIO」の中心メンバーの1人であり、メタバース関連の実績を多く持っていますよね。まずは金林さんと「メタバース」との関わりについて、教えていただけますか。

金林:私が今メタバースと呼ばれるようになったものと関わるようになったのは、2013年頃からです。その頃から「AR(Augmented Reality:拡張現実)」「VR(Virtual Reality:仮想現実)」に関わり始めて、世界最大の広告・コミュニケーションアワードであるカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(旧称:カンヌライオンズ国際広告祭)のメディア部門での受賞経験もあります。2016年からは、電通の中で「Dentsu VR Plus」という横断組織組成に関わり、部署を超えてVRの仕事を担当させていただくようになりました。その後、コロナ禍になり、あらためてARやVRに対する注目が高まり、さらには「メタバース」というバズワードも生まれました。そこで2021年に、国内の電通グループ5社などと共同で「XRX STUDIO」という電通ジャパンネットワーク内横断の組織を立ち上げることになったのです。

この「XRX STUDIO」は、XRテクノロジー(VR・AR・MRなど、仮想と現実を融合させる技術の総称)を活用して、事業構想からマーケティングソリューション開発、UI/UX開発、運用、PDCAまでをワンストップで統合的に提供するチームとしてつくられています。つまり「メタバースを活用してどのようなお客さま体験を創出するか」を考え、それを事業構想にして、かつその構想を具現化し、ローンチ後の運用からPDCAまでを一貫して対応する。そのメンバーの一員としてさまざまな仕事に関わる中で、メタバース領域に対応するノウハウがかなり蓄積されてきています。同時に、世の中にメタバースという言葉も広まってきて、電通への問い合わせも増えてきました。

Q.あらためて、基本的なことから伺いたいのですが、メタバースとは何なのでしょうか?

金林:メタバースとは何か。私は今、企業向けの勉強会をたくさんやらせていただいていますので、その質問が最初の入口になります。

メタバースとは、一般的な説明ですと「リアルと重なる複数の現実」であり、「現実世界がデジタルトランスフォーメーションされている空間」ということになり、その分かりやすい例が「仮想空間」と言えます。そして自分自身もアバターを通じて、その中に入っていく。定義としては、投資家のマシュー・ボール氏が2020年にブログで語った「メタバースの7つの要件」が有名です。

仮想空間ということで言えば、ゲームなどで以前から使われているもので、決して「未来の技術」というわけではありません。例えば、コロナ禍で大ヒット商品となったプレイヤー同士で交流しながら無人島を開拓するゲームや、プレイヤーが構築した世界の中でバトルロイヤルを楽しめるゲームなどは、もう「メタバース空間」になっていると言えます。おそらく人間には、どこかで「現実逃避したい」という根源的な欲求があって、コロナ禍で旅行やライブイベントに行けなくなったときの「現実逃避先」として、これらのゲームが一気に広がったという側面もあるのではないか、と個人的には考えています。ゲームなどでは既に定着しているこれらの技術が、一気に「これからの技術」として注目されるようになった背景には、Facebook社が2021年10月28日に「Meta」への社名変更を発表し、「これからはメタバースの会社になる」と表明したことも、大きく影響したのではないでしょうか。

そんなメタバースですが、「Z世代がメタバースをどう使っているか」という視点から見ると、「ARやVRなどの技術を用いた空間共有サービス」であることが重要だと思っています。つまり、単なる「デジタル上の楽しい空間」ではない、ということです。

ポイントは、「その中で誰かとコミュニケーションできる」ということ。空間に入ったら、そこには他人のアバターがいて、そのアバターといろんなコミュニケーションが取れることが重要なのです。人によっては、メタバースを「3Dのインターネット」という人もいます。これは正確な表現ではないのですが、その言葉が意図するところはよく分かります。つまり「コミュニケーション・プラットフォームであることが重要」ということです。

コミュニケーションが生まれる場所には、新たなビジネスも生まれる

Q.多くの企業からメタバースについての問い合わせが増えているとのことですが、なぜメタバースは注目を集めているのでしょうか?

金林:先ほども言ったように、メタバースは仮想空間の中で新たなコミュニケーションが展開される場所です。ですから、そこで企業はいったいどんなことができるのかを探っていかなければならない。メタバース空間で生まれる新たなビジネスを模索したい、というご要望を多くいただいています。

メタバースに関連するデバイスの技術進化も進んでいます。今はパソコンやスマートフォンでも体験できますが、これが全てヘッドマウントディスプレイに取って代わられる日が来るかもしれません。中には、今見ている景色に映像を載せる、というタイプのものも出てきています。こういったハードの進化によっても、できることは広がっていくと思いますので、ハードの進化も見据えながら、可能性を探っていくことが重要です。

既に動き始めている企業もたくさんあり、アパレルブランドは積極的な展開が目立っています。あるスポーツ系ブランドは、メタバースの中にミニゲームパークとも言えるような空間を展開。そこでは、誰でも自分でゲームをつくってアップロードして遊ぶことができますし、そこでゲームを楽しんでポイントをためると、そのブランドのグッズがもらえます。加えて、デジタルのグッズの販売もその空間の中で行っています。

アバターはまさに自分の分身ですから、ユーザーとしては、友達と遊ぶときに自分のアバターの見た目がリッチであることはかなり重要な要素。ですから、ファッションはメタバース上においてもビジネスが成立するのです。

同時に、このブランドにとっては、ゲームを通じて多くの人に空間に来て遊んでもらうこと、時間を使ってもらうことで、エンゲージメントの強化につながっていきます。また、その空間でユーザーが作ったゲームが話題になれば、「スタークリエーター」がそこから生まれる可能性もあるわけです。そうなると、クリエーター育成をブランドがサポートしている、というブランディングも自然とできますし、世間からの「やっぱりあのブランドはCOOLだね」というレピュテーションも高まっていきます。

あるいは、「メタバースだからこそ」という展開もあります。例えばラグジュアリーブランドであれば、リアル空間においては、誰もがお店に行って、その世界観を体験することは簡単ではありません。しかし、メタバースであれば、そのブランドならではのスーパーラグジュアリーな世界観をつくって、それを誰でも体験できる、という展開ができます。さらには、「宇宙空間で何かを味わう」とか、「圧倒的に美しい花畑の中にいて、その先に絶景を見る」といった、現実にはあり得ないけれど、理想的にはこういう空間を提供したい、というブランドコンセプトそのものを具現化して体験してもらう、といったことも可能。空想の世界ですら現実のようになる、ということもメタバースでは起こり得るのです。

メタバースでどのような新しい体験が生み出せるかを考える

Q.なるほど、「仮想空間」にどれだけの可能性があるのだろうか、と思っていたのですが、シチュエーションや目的によっては、リアル以上の体験が提供できることもあり得るのですね。

金林:そうです。繰り返しになりますが、重要なのは、メタバースでは「他者とのコミュニケーションがある」ということ。ただ自分が見て楽しいとか、行って楽しい、というだけではなく、そこでいろんなコミュニケーションが生まれる。だから個々人の趣味に閉じることなく、さまざまな可能性が生じるのです。

先ほど、メタバース内で「スタークリエーターが生まれる」という話をしました。つまりメタバースで「新たな職業」が生まれ始めているんです。実際、メタバース内で使うファッションアイテムや家具を作って売る、究極的にはアバターそのものを売る、というビジネスが成立し始めています。現実においても、おしゃれをしたりメイクをしたりと、「なりたい自分になる努力」は皆さんいろいろとやっていると思います。それが仮想空間内であれば、なおさら現実とは違う「理想の自分」になりたい、という思いは増大するのではないでしょうか。

他にも、最近出てきた例で言うと、「メタバースフォトグラファー」とか、「メタバース旅行代理店」「メタバース演出家」という存在も。ひょっとしたら、リアル空間に存在する職業のほとんどは、メタバースでもニーズがあるのかもしれません。ですから、今のうちにメタバース空間でどんなことが起こり得るか、可能性をしっかりつかんで、その中で何ができるのかを先回りして準備しておくことが重要ではないかと思います。特にZ世代を考えると、もはやリアル空間よりも、人気ゲームなどを通じてメタバースに進出した方が接点をつくりやすくなる可能性もありますね。

一方で、忘れたくないのは「メタバースは単なる手段でしかない」ということです。確かに、これからの時代のコミュニケーション・プラットフォームの1つになる可能性があり、そこでお客さまと新たな関係を結んでいかなければいけない。しかし、企業にとってはさまざまな取り組みの1つに過ぎない、という側面もあるわけです。自分たちはお客さまに何を提供したいのか、という本質的な価値と、それをメタバースにおいてどう実現するのかを考えることが重要なのです。私を含めた「XRX STUDIO」の人間は、そのためのお手伝いをするべく、企業の皆さまと伴走しながら、メタバースをどうこれからのビジネスや企業活動に取り入れていくべきかを共に考えていきます。

 


 

「メタバース=ゲームのような立体空間」と捉えていた人も多いかもしれませんが、「他人とのコミュニケーションがあってこそのメタバース」という話は、メタバースを理解する上で大きなヒントを与えてくれます。つまり、メタバースを活用することは、リアルではできない新たなコミュニケーションやお客さま体験を提供できるということであり、そこから新たなリレーションを構築できるということでもあります。(メタバースがもたらす顧客体験については、こちらの記事でも解説しています)。

それは企業にとっては、ターゲットを大きく広げることにもつながりますし、特にZ世代との接点を考えれば、メタバースを活用しない手はない、という時代がすぐそこまで来ているのかもしれません。ぜひ、自社のビジネスがメタバースによってどう広がっていくのかを考えてみてはいかがでしょうか。

この記事の企業サイトを見る
株式会社 電通

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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