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2022/06/13

「ウェザーマーチャンダイジング」がビジネスや広告にもたらすもの。気象情報を活用してもっと効果的な戦略を

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皆さんは「ウェザーマーチャンダイジング」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。天候によって商品の売れ行きが変わることは、古くから知られています。そのロジックをもとに発展したのが、気象情報に基づいて販売戦略を立てる「ウェザーマーチャンダイジング」で、最近ではデジタル広告にリアルタイムの気象情報を反映させる仕組みも生まれています。このウェザーマーチャンダイジングの考え方を生かすと、より効果的かつユーザーに寄り添った広告配信が可能になるのではないでしょうか。気象情報に基づいたビジネスや広告戦略について考えてみましょう。

人の消費行動は天候の変化に左右されている

「気温が25℃を超えるとアイスクリームが売れる」と聞いたことはないでしょうか。暑い日には冷たいものを口にしたくなるという、生理的な欲求と消費行動の関連性を示す代表例と言えるでしょう。

アイスクリームのように、体感温度が上がると、それに比例して売り上げが伸びる商品を「昇温商品」と言い、反対に体感温度が下がるほど売れる商品を「降温商品」と言います。例えば、ビールや冷やし中華、アイスコーヒー、カレーライスなどは「昇温商品」、おでん、鍋、熱燗、あんまんなどは「降温商品」。

その一方で、「32℃を超えるとアイスクリームはあまり売れなくなり、売れ筋はかき氷へシフトする」というデータ(ビジネス気象研究所による解析、2014年)も。その理由は、気温が上がるとより食感の冷たいかき氷が好まれることと、暑くなると基礎代謝が下がり、低カロリー・低脂肪の食品をとろうとするためだと考えられています。確かに、真夏になるとひんやり、さっぱりしたものを食べたくなりますよね。体感的にも納得のいくデータと言えるのではないでしょうか。

気温に限らず、天気や降水量によって売れ行きが左右される商品もあります。晴れた日にはキャンプ用品や園芸用品が、雨の日には傘や長靴が、台風や大雪の日には非常事態に備えるために乾電池やろうそく、スコップ、冬用タイヤなどがよく売れます。

このように気象条件とともに変化する消費傾向を予測し、販売戦略につなげるのが「ウェザーマーチャンダイジング」です。

ウェザーマーチャンダイジングによって、利益向上や食品ロス削減を実現

天候に応じて顧客ニーズを先読みするウェザーマーチャンダイジングは、多くの可能性を秘めています。ここからは、その活用例、メリットを見ていきましょう。

・気象情報に基づく需要予測で利益向上

販売数が大きく伸びる「基準温度」を把握しておくと、気象情報をもとに販売促進施策を実施することができ、売り上げ向上につなげられるでしょう。あらかじめ気温が上がることが分かっていれば、昇温商品を多く仕入れたり、店頭の目立つところに並べたり、広告を出したりといった対策を講じることができます。もちろん実際には気温だけではなく、季節や天候、立地などの諸条件によって予測は変動するため、各種データを組み合わせて分析・活用することが重要です。

・食品ロスや過剰在庫の削減

需要予測を立てることは、生産・販売する量の調整にも役立ちます。食品業界なら、フードロス削減の効果も。例えば、雨が降ると野球やサッカーなどの試合に足を運ぶ人が減るため、会場で販売する弁当の製造量を少なくしておけば、売れ残りが少なくなるでしょう。同様にコンビニエンスストアの商品の発注なども、気象情報に基づいて調整すれば、ロスを削減できるかもしれません。それによって、配送コストの削減や過剰在庫の削減も期待できるでしょう。

このように、以前からウェザーマーチャンダイジングはさまざまな分野で活用されてきましたが、昨今ではテクノロジーの発展により分析や予測に活用できるデータ量が増え、精度も向上したため、より多くのケースで気象データを効果的に扱えるようになりました。気象庁も、スーパーやコンビニ、清涼飲料、家電、アパレルなどさまざまな分野における気象の影響について研究しており、調査データや過去の気象データなど、ウェザーマーチャンダイジングに活用できる各種データを提供しています。そのようなデータが豊富になればなるほど、気象予測の精度は上がり、より細かに、よりタイムリーに、販売戦略へ反映させていくことが可能となるのです。

一般財団法人日本気象協会と株式会社 電通は、1日の平均気温・日照時間・降水時間・湿度など、日々更新される全国の気象予報情報を常時反映し、エリア別・品目別に商品の需要を予測できる「ウレビヨリ」というツールを共同開発しました。最長2週間前に需要の変化を捉えることができるため、販売機会を逃さずマーケティング施策を打ち出すことが可能となります。「ウレビヨリ」をはじめとする需要予測モデルについては、こちらの記事で詳述しています。

ウェザーマーチャンダイジングのロジックで、ユーザーの「今」に最適な広告を届ける

ここまで、ウェザーマーチャンダイジングについて解説してきましたが、こうした気象データに基づいた分析・予測はデジタル広告にも応用されています。

気象予測に基づいて配信されるデジタル広告は以前から展開されていました。大手検索エンジンなどのプラットフォームでも、エリアごとの気象データをもとにターゲティング配信を行い、訴求効果を高めています。テレビや新聞などのいわゆる「マス広告」においては、その日の天候などによって柔軟に内容を変えるということは難しい面がありましたが、リアルタイムの情報に即対応できるデジタル広告は、気象データと結びつけた施策とは相性が良いと言えるでしょう。以下に、天候と連動した広告サービスの事例を紹介します。

・天気予報アプリ×広告配信サービス

スマートフォンの天気予報アプリに広告を配信するサービスです。気象情報会社による高解像度気象データとユーザーの位置情報を掛け合わせ、現在地の気象状況に応じた広告を自動配信。毎日欠かさず気象情報を閲覧しにくるユーザーに、商品・サービスをタイムリーに働きかけることができます。

・動画配信サービス×天気連動広告

ある動画配信プラットフォームでは、ユーザーが登録した年齢・性別・居住地などをもとに、ターゲティングした動画広告を配信していますが、特定の天候や気温を条件に、広告を出し分けることも可能となっています。

こうしたサービスを使うことで、暑い日には冷たい飲み物の広告を表示するなど、より効果の高いアプローチをすることができるでしょう。晴れた日は実店舗へ誘導し、雨の日にはオンラインショッピングサイトへ誘導するといった施策も可能です。

街や交通機関のデジタルサイネージでも気象データに基づく広告配信サービスが始まっています。あるデジタルサイネージ向けのコンテンツ配信サービスでは、気象連動型の広告配信システムと連携し、その時の気象条件にマッチした広告をデジタルサイネージに配信する仕組みを提供。ショッピングモールで天候に応じたお薦め商品や店舗を表示したり、ホテルや交通機関で天気に合わせた観光プランを提案したりすることが可能になります。

「風が吹けば桶屋がもうかる」ということわざは、「ある出来事により、意外なところに影響が出る」という意味ですが、ウェザーマーチャンダイジングのロジックを生かせば「風が吹いたら“広告を出す”と桶屋がもうかる」とすることもできるのです。適切な戦略を立てることで、広告効果はさらに高まるでしょう。

 

ウェザーマーチャンダイジングの手法は以前から存在していたものの、気象予測の精度が向上したことで、より緻密な販売計画が可能に。さらにはデジタル技術の進化によって、デジタル広告にも気象データを効果的に活用できるようになりました。そもそもデジタル広告は、ユーザーの属性、検索ワードや閲覧履歴などによってパーソナライズされた情報を表示できるのが強みです。そこに気象データを組み合わせれば、天気や気温、湿度などによるニーズの変化をくみ取り、ユーザーの「今」の気持ちに寄り添う広告を配信できるようになります。ウェザーマーチャンダイジングの考え方を生かせば、広告のパフォーマンスをさらに高めることが期待できるでしょう。

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Transformation SHOWCASE 編集部

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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