誰もが瞬時に意見を発信することができる昨今。「検索するだけでさまざまな意見を簡単に集められる」という理由からソーシャルリスニングを導入し、商品開発やマーケティング、ブランディングに生かそうとしている方も多いのではないでしょうか。
しかし一方で、「いろんな意見を見ていたらよく分からなくなった」や「ネットに上がっているさまざまな意見を、ただただ追いかけていてもきりがない」といった思いを抱いている方、またはかつて抱いた方も少なくないのではないでしょうか。
そこで今回は、ソーシャルメディア上で交わされるユーザーの自然な会話を収集・分析し、リスク管理や商品開発などのビジネスプロセスで活用し、数多くのソーシャルリスニングプロジェクトを担当してきた株式会社電通デジタル ソーシャルメディア事業部 大村麻理枝氏にインタビュー。事業に役立てるための、ソーシャルメディアにおけるユーザーの声の集め方や効果的な活用方法について、話を聞きました。前後編にわたりお届けします。
SNSで声を集めて何を得たいのか?目的を定めないと意味がない
Q.マーケティングの世界で「ソーシャルリスニング」という言葉が浸透して久しいですが、どのようなものか、あらためて教えていただけますか?
大村:「アスキング」との違いを説明すると分かりやすいかもしれません。アスキングというのは、アンケートやインタビューなど、こちらが用意した質問に対して消費者に答えてもらい意見を集めるもの。一方でソーシャルリスニングは、ユーザーがSNSで自発的に語っていることを、「聞きにいく」(=“リスニング”の由来)形で見に行ってリアルな声を集めるものです。アスキングは「こちらが用意した質問に答える」という形式のため、回答に対する驚きや新鮮さが多くないこともありますが、一方ソーシャルリスニングは、こちらが全く予想してないことを主張していたり、消費者のインサイトを捉えたことをズバッと言っていたりするので、そこに価値があると考えています。
「いいね」をしたり、シェアしたりするのに比べて、自分から意見や感想を発信する行為は、結構ハードルが高いですよね。それにもかかわらず自ら発信している人は、そのブランドや企業、商品に対しての「LOVE度」、つまりファンである可能性が高い。ファン心理を捉えていくという点で、ソーシャルリスニングはとても有用な手段なのではないでしょうか。
Q.多くの企業がSNSを使って消費者の声を集めようと、ソーシャルリスニングを取り入れていますが、うまく活用できていないケースもあるようです。それにはどんな理由があると考えますか?
大村:SNS上には膨大なデータがあるので、「何に活用するのか」という目的をきちんと設定しないと、どこを見るのか、どんな人のどんな声を拾うのかが定まらず、中途半端な状態に陥りがちです。
最近では、リスクアラートを目的にSNSを活用する企業が増えていますね。ソーシャルリスニングはユーザーの発言がポジティブなのか、ネガティブなのかという基準で見るケースが多いのですが、ネガティブな意見の場合、それが会社や社員に対する個人的な中傷なのか、会社の事業テーマに向いているものなのか、文脈をきちんと捉える必要があります。私たちがサポートをする場合、「この意見は見過ごして構わない」、「この意見には耳を傾けるべき」というように、会社に有益となり得る声をピックアップしています。
中には、経営陣自らが積極的に、自分の名前や会社の名前でエゴサーチをしている企業もありますね。特に株主総会後などはソーシャルメディア上での投稿が増えますので、ネガティブな意見がないか、どういった発言に関心が集まっていたのかを注意深くチェックしています。そういった際、ご本人や広報部のメンバーだけでそれを行うと時間も労力もかかってしまうので、私たちがサポートしています。
数より人。ユーザーを徹底的に掘り下げて、ターゲティングに生かす
Q.先ほども少しお話しいただきましたが、ソーシャルリスニングのプロジェクトに、大村さんのようなプロが介入するメリットはどんな点ですか?クライアントからの要望に対して、どのようにアプローチしているのでしょうか?
大村:プロが介入することによってどう変わるかというと、「必要なデータを絞る切り口」をしっかり設計できるという点が大きいと思います。あまり経験のない人が行うと、全体の話題量やどのくらい拡散されているかなど、定量的な視点だけで見ることが多くなりがちです。実際は定量的視点だけでなく、1人のユーザーがどれくらい発信してくれたのか、発信したくなる要素がどこにあったのか、意図して仕掛けていないところでどのように話題になっているのか、などを見た方がマーケティング施策に役立つ場合もあります。SNS上の膨大なコメントを数だけで見るのではなく、「どういった軸を設定して見れば良いのか」を考える。また、それを目的によって使い分けられるという点が、プロが介入する価値なのだと思います。
特に私たち電通デジタルのソーシャルメディア事業部は、ユーザーの「掘り下げ」を得意としています。一般的なソーシャルリスニングでは投稿している内容やエンゲージメント数を見る“What”の視点での分析がメインになることも多いと思いますが、私たちは“Who”の視点での分析を精緻に行うことができます。特定製品を言及していたユーザーが、他にどんなアカウントをフォローしているのか、自己紹介文にどんなキーワードを含んでいるのか、というような細かな部分も見ていきます。そうすることで、対象ユーザーがどのくらいの年代でどういったものに興味があるのか、というところまで深く掘り下げて分析することができます。ソーシャルリスニングを通じて、ターゲットのペルソナや行動特性、カスタマージャーニーが浮かんでくることもあるのです。
Q.数よりも、どんな人が発信しているのかを知ることの方が大切なのですね。具体的にはそれをどのように活用できるのでしょうか?
大村:マーケティング施策におけるターゲティングを、よりシャープにするために活用できます。例えば、もともとのターゲットは30〜40代の男性だったけれど、ソーシャルリスニングで分析をしてみたら実は10〜20代の女性からの反応が多いことが分かったとします。その情報を踏まえて、今後どのように戦略を改善していけばいいか、より鮮明なユーザー像を設定した上で検討していくことができます。またそれによって、効果的にPDCAを回せるようになることも期待できるでしょう。
目的を明確にすることで初めて効果を発揮するソーシャルリスニング。大村氏が所属する電通デジタルのソーシャルメディア事業部では、緻密なユーザー分析の下、1人ひとりの声を鮮明に切り取ることを通じ、企業のマーケティングをサポートしています。続く後編では、いくつか事例を挙げながら、使用するツールや、業界や商材による傾向などについて、詳しく聞きます。