ユーザーの生の声をマーケティングや会社運営などに生かそうと、各方面で導入が進んでいる「ソーシャルリスニング」。これは、ソーシャルメディア上の投稿を収集し、ユーザーの特徴などを分析する手法です。投稿を見ること自体は誰にでもできますが、それを正しく分析し、効果的に活用するためにはどうすればいいのでしょうか。株式会社電通デジタルのソーシャルメディア事業部で、ソーシャルリスニング業務を担う大村麻理枝氏にインタビューしました。
後編では、ソーシャルリスニングに使用するツールや、業界や商材による傾向などについて、具体的な事例を交えながらお届けします。
ソーシャルリスニングに使用するツールや分析の段取りは、目的によって異なる

Q.前編で、SNS上の膨大な投稿をプロの視点で切り口を定めた上で見ていく、というお話がありました。すると使用するツールも重要になってきますよね?どのようなものをどのように使っているのでしょうか?
大村:ソーシャルリスニングのツールはさまざまなものがありますが、大きく分けると2種類だと思います。リスニングだけに特化しているものと、マーケティングに関する機能などもあって全て一括で行えるもの。さらに、リスニングに特化したツールの中には、全量データが取れるものと、一部のデータをサンプリングするタイプのものがあります。
全量データが取れるツールの場合、例えば、商品名や企業名などをキーワードとして設定すると、そのキーワードに関連した話題が一定期間内にどれくらい投稿され、どれくらいの人にリーチしたか、どういった発言をしていたのかなどのデータを全量で取得することができます。対象ユーザーを徹底的に分析する、いわゆる「n1分析」を行う場合は、そのユーザーに関するデータが多く集められる方がいいので全量データが取れるツールの方が良いかもしれません。
一方で、「新型コロナウイルス」や「オリンピック」など、ビッグモーメントに関して、全体の傾向をざっと把握したい、というようなケースでは、全量データは不要なこともあります。むしろ、サンプリングで10%程度のデータを取るようなツールの方が、ざっくりとした傾向を簡単に把握できるかもしれません。このように、分析する内容によって、どんなツールを使うかを決めているのです。
ですが、ただツールを導入してダッシュボードを作って終わり、という状況に陥って、ツールを使って何を見たらいいのかわからない、と悩んでいる企業も少なくないようです。私たちは、そういった企業に対して「このツールであれば、こういう機能があるからこんな分析ができますよ」とお伝えしており、その点も評価していただいているポイントだと思います。
Q.では、ツールを使ってどのようにソーシャルリスニングを行うのでしょうか。例えば、あるキャンペーンに関してソーシャルリスニングを行うとして、データを収集し、分析し、その結果を踏まえて、何らかの評価をする。この一連の流れをだいたいどのくらいのスピード感で進めるのでしょうか。
大村:内容にもよりますが、基本的な内容であれば2週間くらいで、おおよそ完了できると思います。長いキャンペーンだと、中間報告のようなものを途中で入れさせていただいて、何らかの示唆を出すケースもありますね。
例えば、2020年、新型コロナウイルスの感染が広がり始めたばかりの頃に、SNS上で新型コロナウイルスについてどのように語られているのかをリスニングするという案件がありました。当初は、ある特定の話題が盛り上がっていてそればかりが見えてきていたのですが、これを報告してもあまり意味がない(打ち手につながらない)・発見がないかなと判断し、途中からは、当初はそれほど盛り上がっていなかった別の話題にも目を配るようにして、「新型コロナウイルスについて生活者が求めている情報は何か」というところに当たりをつけ、結果的に「時期とともに変化していく生活者のニーズ」を追いかけていくことができました。このように、一度ざっとリスニングしてみて、話題の傾向を見てから切り口を変えていくというパターンもあります。常に、クライアントが「何をみたいのか」に立ち返りつつも、生活者の発信を追いかける過程で、分析の方向性も変えていくことが重要です。事前に用意した質問を消費者に投げかける「アスキング」の手法だと、すぐに切り替えることは難しいですが、ソーシャルリスニングならばカバーできる。そうしたリアルタイム性もソーシャルリスニングの魅力ではないでしょうか。
商材ごとに大きく違うユーザーの行動や反応を、いかにつかむかがカギ
Q.業界や商材、キャンペーンによって、こういうケースは分析が難しいとか、いい成果が出づらいという傾向はあるのでしょうか?
大村:そうですね。ソーシャルリスニングは商材によって向き不向きがはっきりしていると思います。なかなか自分からソーシャルメディアで発信しづらい話題ってありますよね。例えば、育毛剤などのいわゆる「コンプレックス商材」について、SNSで個人が投稿するケースは少ない。そうしたユーザーの声が表面に出てきにくいものに関しては分析のしようがないので、アスキングの方が適しているかもしれません。一方でソーシャルリスニングの需要が多いのは、飲料メーカーやファストフード、コスメなど。低価格で多くの人が日常的に接する商材で、なおかつSNSでの話題量が多そうなものですね。
Q.ソーシャルリスニングは、世の中の流れをつかむやりがいのある仕事だと思います。大村さんが仕事の中で手ごたえを感じるのはどのような時ですか?
大村:1つ例を挙げるとするなら、現在も携わっている、某飲食店チェーンの案件でしょうか。キャンペーンの評価をして、自社の公式アカウントからの発信のエンゲージメントを高めていくために分析を行っています。例えば、クーポンを発行するキャンペーンでも、「100名に1,000円分当たります」と言うのと、「50名に2,000円分当たります」と言うのでは、クライアントが使う金額は同じですが、ユーザーの反応は全く変わる。このような反応を丁寧に見ながらPDCAを回していくことで、エンゲージメントがどんどん上がる、フォロワー数がぐんぐん伸びる。そういう様子を目の当たりするとうれしくなりますね。そうしてクライアントの信頼を得ていくことで、ソーシャルリスニングのデータを活用して商品開発をしよう、といった話に発展することもあります。
今はものの売れ方が変わってきていて、テレビよりもSNS起点で話題化することが増えているので、クライアントもSNSの声を積極的に取り入れていこうとしてくださっています。トレンドをどうやって見つけるか、どのプラットフォームからデータを集めるのがいいかなど、世の中の流れやその時の状況を見つつ、クライアントと相談しながら戦略を立てています。ソーシャルリスニングでできることの幅はこんなにも広いのだなと、あらためて可能性を感じています。
客層の把握やファンづくりはもちろんのこと、トレンドをつかんだ新たな商品開発にまで生かすことができるソーシャルリスニング。ソーシャルメディアを使ったマーケティングは、より消費者に求められる商品やサービスを生み出すために、もはや欠かすことができないものになっていると言えるでしょう。
コロナ禍でますますSNSの利用が増えているこのタイミングに、これからのビジネスにソーシャルメディアの声を生かすことを検討してみてはいかがでしょうか。