デジタルデバイスの普及にコロナ禍の影響も重なり、年々高まり続けているEC需要。その影響として昨今、問題視されているのが宅配業者の負担増大です。特に、顧客との最後の接点である「ラストワンマイル」において、荷物の受け取りを巡るトラブルがたびたび取り沙汰されています。その状況を改善する一手として期待されるのが、商品を店舗で受け取る「BOPIS」と呼ばれる商品提供スタイルです。今回は、「ラストワンマイル問題の解決策としても注目されるBOPISは、企業と顧客、それぞれにどのような価値をもたらすか?」というテーマのもと、BOPISが秘めるビジネス活性化のヒントを探ります。
ECの活況が引き起こした、「ラストワンマイル問題」
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、オンラインショッピングやインターネットでの動画視聴など、自宅に居ながら商品・サービスを購入する「巣ごもり消費」が急速に伸長しています。総務省統計局が2人以上の世帯を対象に実施した「家計消費状況調査」によると、2020年3月頃からインターネットショッピングの利用世帯の割合が急速に増加。同年5月以降、およそ半数以上の世帯が利用する状況が続いていることが明らかになっています。
また、外出自粛で大きな影響を受けた飲食分野においても、オンラインで注文した食事を、宅配業者に自宅まで配達してもらうフードデリバリーサービスの利用者が、大都市を中心に増えています。コロナ禍によって需要が増大したECビジネスについては、こちらの記事でも解説しています。
こうした状況の中でよく取り上げられるようになったのが、物流における「ラストワンマイル」問題です。ラストワンマイルは、もともと通信業界で使われていた用語で、「各世帯や企業に通信接続を提供する、基地局からの最終区間」を指すものでした。それが物流の分野において「商品やサービスを顧客の元に届ける最後の接点」を表す言葉として転用され、主にそこで生じる問題を扱うために使われるようになりました。
現在、生産拠点からの荷物の発送や倉庫での管理はロボットなどによる自動化が進んでいますが、顧客の元に届けるラストワンマイルの配送は人の力に頼らざるを得ない状況です。そこへEC需要の拡大が加わり、配達物が増えたことによって、配達員に大きな負担がかかっています。
このラストワンマイル問題をより深刻にしている原因の1つが、EC市場の熾烈な価格競争だと言われています。販促における競争力強化の一環として、多くのECサイトが「配送料無料」を打ち出しています。配送コストの削減が行われ、運送会社への支払いもコストカットの対象となることで、運送会社の利益率は低下。その結果、ドライバーの待遇悪化や人手不足を招き、増え続ける配達量から生じる負担に追い打ちをかけているのです。さらには、再配達を依頼した依頼主(受け取り主)が不在というケースも多く、困惑する配達員も少なくないといいます。
「BOPIS」はECと顧客の両者にメリットをもたらす、新たな買い物の形

深刻化するラストワンマイル問題を解決するには、再配達をはじめとする「不要な配達」をいかに減らせるかが重要と考えられます。そのアプローチの1つとして、最近注目を浴びているのが「BOPIS(ボピス)」です。
BOPISは「Buy Online Pick up In Store」の頭文字をとった略語で、ECサイトやアプリなどを使ってオンラインで注文した商品を、実店舗で受け取るサービスを指します。飲食店に対してオンラインで事前にオーダーし、作りたてのタイミングで店頭からピックアップするモバイルオーダーもBOPISの1つ。顧客が自ら受け取りに行くので、配達のコストをかけずに、確実に商品を手渡すことができ、再配達などの手間がかかることもありません。
BOPISが注目されるのは、運送業者の負担軽減だけでなく、販売業者や飲食店側にもさまざまなメリットがあるためです。BOPISを利用した顧客は、必ず実店舗を訪れます。普段は店舗に足を運ばない人も店頭の品揃えや対面でのサービスを気に入れば、日頃から訪れてくれるようになるかもしれません。こうした集客面の効果の他にも、実例を参考にしながら、販売業者側のメリットを見ていきましょう。
販売業者側のメリット:某衣料品チェーンストアの場合
1. 店舗の売り上げの向上
この衣料品チェーンストアでは、BOPISを利用すると配送料がかからないため、EC利用客の9割が店舗受け取りを選択しているといいます。その顧客の多くが、受け取りで店舗を訪れたついでに店頭の商品を2〜3点追加で購入するため、店舗の売り上げ向上につながっているようです。
2. 配送コストの削減
このチェーンストアが掲げている「ローコストEC」を実現する上でも、BOPISはカギを握っています。BOPISであれば、実店舗用の物流や配送網を使って顧客へ商品を提供することが可能なため、宅配業者への委託が必要な個人宅への配送よりも配送コストを削減できているそうです。
一方で、顧客側のメリットはどうでしょうか。例えば、都市部に住む人にとっては、移動の途中で品物を受け取るなど、任意のタイミングで効率的に受け取りができるのは大きな利点と言えるでしょう。家電量販店などでは24時間いつでも受け取れる窓口を設けているところもあるようです。こちらも、具体的な事例を見ていきましょう。
顧客側のメリット:生活雑貨・衣料品・食品などを扱う某ブランドの場合
1. 決済選択肢の広がり
このブランドでは、BOPISを利用した場合、オンラインでの注文時・店舗受け取り時どちらでも支払いが可能なため、決済方法の選択肢が広がるというメリットがあります。
2. 待ち時間の短縮
受け取り先として指定した店舗に注文した商品の在庫があった場合、その店舗在庫が取り置かれる仕組みのため、配送日数を待たずに短期間で受け取ることもできます。
3. 返品作業の回避
BOPISを利用して衣料品を注文した場合、店舗で試着した上で購入するかどうかを決められます。もし合わなかった場合はその場でキャンセルできる(店舗支払いの場合)ので、後から返品する手間がかかりません。
加えて、BOPISが普及した要因としては、コロナ禍における「混雑を避けたい」というニーズも影響していると考えられるでしょう。あらかじめオンラインで注文しておけば、並んだり、待ったりする時間を減らし、混雑する店舗での滞在時間を短縮して買い物をすることができるためです。主に飲食店で利用できる事前オーダーシステムも、店舗の混雑度合いにかかわらず、注文から受け取りまでを円滑に行うことができるので、活用する人が増えてきています。
このように、企業と顧客双方にとってメリットがある仕組みだからこそ、BOPISの導入や利用が進んでいると言えるでしょう。
BOPISがビジネスの「オンオフ統合」を加速させる

前章で述べたように、BOPISはラストワンマイル問題の解決だけでなく、企業と顧客の双方に多くのメリットをもたらす仕組みです。では、BOPISの導入が今後のビジネスの活性化にどのようにつながっていくのかを、最後に考察してみたいと思います。
データ活用の観点からも、BOPISには利点があると考えられます。BOPISではECを通じて商品を購入した顧客が実店舗に来店するため、オフラインで得られる顧客データと、オンラインで得られる顧客データのひも付けを促進し得るでしょう。
これは、オンラインとオフラインの融合を目指す「OMO(Online Merges with Offline)」戦略と結び付けて考えることができます。インターネット広告やSNSで情報発信し、店舗へ誘導するなど、オンラインからオフラインへ一方向的に顧客を誘導する手法を「O2O(Online to Offline)」と呼びますが、これに対して、OMOは実店舗や自社サイト、カタログ、SNS、コールセンターなど顧客との全ての接点を総合的に活用し、顧客にオンオフの区別を感じさせることなく、商品やサービスを購入・体験してもらうことを目指すマーケティング戦略です。
OMOにおいては、オンラインとオフラインのデータを統合してその精度を高めることで、顧客とのコミュニケーションをより効果的に行うことが可能になりますが、そのデータの統合にBOPISが寄与すると考えられます。具体的には、オフライン(店舗)で得られるのは、顧客が「いつ」「どこで」「何を」「幾らで」購入したのかという「POSデータ」です。一方、オンライン(EC)では、ECサイトを利用する際に顧客が登録する名前や住所などの情報が得られます。顧客がBOPISを利用し、実店舗へと足を運ぶことによって、それぞれで取得したデータをひも付けることができます。そして、統合したデータを一元的に管理・分析していけば、店舗で購入した商品にマッチする商品をECでお薦めするといったコミュニケーションも可能となり、レコメンドの精度やサービスの質向上につながっていくでしょう。なお、POSデータに関しては、こちらの記事でも解説しています。
このように、ラストワンマイル問題を解決する糸口として期待を寄せられてきたBOPISは、今後、オンオフ統合型の戦略の1つとして、企業にOMO化の流れを促す一助となるかもしれません。
BOPISの普及から見えてくるのは、社会の変化やそれによって生じたさまざまな課題が、新しい商習慣や消費行動を広めることがあるということです。それをうまく活用すれば、当初の課題解決にとどまらず、売り上げアップや顧客体験の向上といったプラスの成果にもつながっていくかもしれません。こうした一連の取り組みは、物流や小売業界に限らず、さまざまなビジネスにおけるヒントとなるのではないでしょうか。
「BOPISの具体事例をもっと知りたい」「オンラインとオフラインを融合して、顧客との接点を統合したい」。そんな課題を持つ皆さん、今の時代に求められる顧客アプローチを私たちと一緒に探っていきませんか?ご相談はCONTACTから。