CX
2022/02/22

コロナ禍でますます重要度が高まるECビジネス。ファンを増やし、成功させる秘訣とは?(前編)

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新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、多くの企業がECに参入したり、今までの取り組みをさらに強化したりする動きが起こっています。一方で、「参入したけれどなかなかうまくいかない」、あるいは「既に取り組んでいるが、さらにライバルが増えてきた状況の中、どう強化すればいいのか分からない」といった悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、「ECの最新トレンドや成功のポイント」についてお届けします。国内有数のデジタルマーケティング企業として知られる株式会社CARTA COMMUNICATIONSにおいて、企業のEC参入や強化を専門的に支援するチームに所属する加藤潤一氏と西奈津紀氏に、ECビジネスのリアルな状況について話を聞きました。

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EC成功の第一歩は、どれだけお客さまに寄り添った対応ができるか

Q.いきなりズバリと聞いてしまいますが、「今、ECで成功するために重要なポイント」は何だとお考えですか?

加藤:一言でいうのは難しいですね(笑)。もちろんいろいろなケースがありますが、大きく分けると、「新しいECの立ち上げ」と「既存のECのテコ入れ」という2つのケースがあります。そのうち「立ち上げ」というのは、つまり新しいD2Cブランドを作ることになるわけですが、ここでの取り組みを一言でいうと、「ブランドの世界観をしっかり構築し、それによってファンを作り、エンゲージメントを強化してお客さまのLTV(ライフタイムバリュー)を高める」ということに尽きます。

もう1つの「既存のECのテコ入れ」というのは、今まで自社でECを運営してきたけれどあまりうまくいっていないとか、Amazonなどのモールに出店しているけれどなかなか伸びないというようなケース。そうした状況を打破するため、私たちの知見を活用して改善していきます。ただ、ここでやっていくべきは本当に細かいことで、例えば商品の画像を変えるとか、ギフト対応をきちんとやるとか、配送時間を変えるとか、そういった地道なことの積み重ねが本当に大事なんです。

西:何より重要なのは、「ブランド・コンセプト」「物流」「カスタマーサービス」だと思いますね。つまり「どれだけお客さまに寄り添った対応ができるか」がとても重要だと思います。

例えば、メーカーがECを始めるというようなケースがあります。多くのメーカーは、ECを始めるまではお客さま接点を小売や流通に任せていることが多いので、「お客さまに商品が届くところから先」については考えていないというパターンが結構多いんですね。ECで重要なのは、商品を注文してから届くまでの時間とか、届いたときに箱から開けたときの印象とか、そういうところなんです。せっかく商品が届いたのに、箱が汚かったらすごく悲しい気持ちになりますし、もしその中に1通のメッセージカードが入っていたら、グッとうれしさが増すかもしれない。

これがギフトとなると、この重要性はもっと高まります。熨斗(のし)がきちんと入っているか、きれいに包装されているかといったことが非常に大事で、それができていれば満足度が高まって、リピート率も上がります。逆にそれができていなければ、どんなにサイトがカッコよくても意味がないんじゃないかと思います。むしろギフトボックスや梱包材を作り直す方が先決だったりしますね。

ブランドの世界観を大切にしながら、「分かりやすさ」にも配慮する

Q.お客さまの気持ちに寄り添うためには、ほかにどんなアプローチがありますか?

加藤:D2Cブランドによくある取り組みとしては、配送の箱を開けたら裏側にメッセージが書いてある、というようなことがあると思いますが、やはり重要なのは「いかにしてファンにするか」ということです。最近は、インフルエンサーが自らECを運営するというケースも多くなってきましたが、そこでは「プロセス自体をファンと共有する」ような取り組みも行われています。例えば、商品開発をするプロセスで「A案とB案、どっちがいいでしょう?」みたいに、ファンに問いかけるようなアプローチですね。Instagramがあればグループインタビューも不要で、ターゲットの声を集めることができてしまう。まさに「スモールマス」の最上級と言えるのではないでしょうか。

またEC展開とはいっても、並行してオフラインで認知されるとか、リアル店舗で露出しているといったことも、実は重要です。「店頭で見かけて、モールで検索して購入する」というお客さまはもちろんいらっしゃいますし、「陳列されている商品」を直接目にすると、やっぱり気持ちが一気に高まるという効果がありますよね。その上で、リアル店舗で得られる「N=1」のお客さまの生きた声を、ECでの満足度向上につなげていくことも、大切な取り組みだと言えます。

Q.なるほど。先ほど西さんが、「ECで成功するためのポイント」として「ブランド・コンセプト」を挙げていましたが、それについてもう少し詳しく教えていただけますか。

西:何というか、「自己満足コンセプト」はあまりうまくいかないのではないかと思います。オシャレな世界観を売りにしているようなブランドは多くあるのですが、それで集客はできても、もう一歩商品への理解が深まらないと離脱してしまうことが多いかな、と。

私が運営する場合は、ブランド・コンセプトについての理解を補足するようなコンテンツや商品説明を、そのサイトの中にきちんと入れるようにしています。見た目はオシャレでカッコいいけれど、いろいろ並んでいる商品の違いがよく分からないから、結局のところ何を買ったらいいのか分からない、みたいなケースが結構あるんです。世界観を崩さないようにしながらも、お客さまに寄り添っていくための「分かりやすさ」とか「押し付けのなさ」という要素を大事に考えています。

加藤:さまざまな商品がこれだけ世の中にあふれかえっている現在は、1つのテーマだけでコンセプトを作っても弱いということも言えますね。パッケージがステキだというようなものは本当にたくさんあるので、例えば「パッケージがステキ」×「このインフルエンサーが手掛けている」というような、複数要素の組み合わせでコンセプトを尖らせていくというやり方もあるのではないでしょうか。

コロナ禍は、ECビジネスにどのような変化をもたらしたのか?

Q.新型コロナウイルス感染症の拡大は、ECへの取り組みを大きく加速させたのではないでしょうか。コロナ禍が始まって以来、ECにはどんな変化が起こりましたか。

西:それまでECに興味のなかったメーカーが、ものすごく変化したなと感じています。コロナ前はオフラインでの売り上げ規模が大きいのでそこに注力していたメーカーが、モールに出店して売り上げを作りたい、と動くようになりました。

具体的には、大手企業がECにどんどん進出してきた印象ですね。ECの世界においては、オフラインでは無名のブランドでも、Amazonではランキング上位に来るようなことがありますが、オフラインで実績とシェアを持つ大手企業が参入してきています。

そういう意味では、これまで「一般的には無名だったけれど、D2Cブランドとしては強かった」というようなスモールブランドが勝ち続けるのは難しくなってくるかもしれません。ですが一方で、現段階においては、まだ「ECならではの商品が売れている」のも事実です。大手メーカーの方からは、「オフラインでは売り上げ1位なのに、オンラインで1位になれないのはなぜか?」という相談を頂いたりもします。

通販から出発して、物流やカスタマーサービスを含めECに特化してきた企業はたくさん存在していますし、彼らは彼らで全身全霊でECを展開してきているわけです。そこと比べると、大手メーカーとはいえ、そもそも保有している顧客データの数が違いますし、ECにおけるカスタマーサービスやギフト対応がまだ整備されていないところも少なくありません。そのため「有名ブランドだから、ECでもすぐにたくさん売れる」という状況には、そう簡単にはならないのではないかと思います。

 


 

コロナ禍をきっかけに、オフラインで強い実績を持つ大手企業が多く参入してきたEC市場。とはいえ、「名が知られているのだから、ECでもすぐに売れる」ほど状況は簡単ではないようです。新しくECを立ち上げるにせよ、既存のECをテコ入れするにせよ、大切なのは「ブランドの世界観を構築し、ファンを作り、エンゲージメントを強化してお客さまのLTVを高める」という長期目線に立った姿勢。特にECにおいては「物流」や「カスタマーサービス」が重要で、商品を注文してから箱を開けるまで、お客さまの気持ちにいかに寄り添った対応ができるかが勝負の分かれ目になるとのことでした。

では、ECビジネスにおいてお客さまの心をつかみ、確実に売り上げを上げるためのさらなる秘訣とは? 次回はそのあたりを重点的に掘り下げていきます。

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株式会社CARTA COMMUNICATIONS

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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