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2022/02/09

コロナ禍で、小売業はどんな変化を経験したのか?ウィズコロナの先に見える、小売店舗の新潮流(前編)

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言うまでもなく、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を大きく受けた業種の1つが、スーパーをはじめとした小売店舗です。コロナ禍が始まって以来、多くの人が「自由に買い物に出かけられない」という経験をしました。それはつまり、小売業の視点から言えば、「商売が成り立たなくなるかもしれない」という経験をしたことと同義かもしれません。

そんな経験を乗り越え、今小売業はどのような変革に取り組んでいるのか?そして、メーカーなど小売業と関係のある立場にいる人間は、変化著しい小売の世界とどう向き合っていけばいいのか?今回は、そんなテーマでインタビューをお届けします。

この記事を読んでいらっしゃる方の中には、ご自身が小売業でお仕事をされている方もいれば、メーカーでお仕事をされていて小売業と向き合っているという方も多いのではないでしょうか。「小売業の人々と、どう関係を築いたらよいのか分からない」「どうすれば自社の商品を優先的に扱ってくれるか、道筋を探りたい」という課題を持つ方々へのヒントを、株式会社電通tempoの市川敦子氏、永野薫氏、田野愛理氏に聞きました。

もともと流通・小売業の販促支援に専門性を持つ電通tempoは、今では小売業だけではなく、小売業と向き合うメーカーの支援も行っています。まさに流通ビジネスの最前線で豊富な経験値を持つ3人に、ウィズコロナにおける小売業とお客さまの変化のほか、今後どのようなテーマが重要になりそうかといった予測に至るまで、じっくりと迫りました。前編・中編後編の3回にわたってお届けします。

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コロナ禍は、小売業にどのような変化をもたらしたのか

Q.さて、まずは皆さんが今、主にどんなお仕事を手がけているか、簡単に教えていただけますか?

市川:はい。私はもともと、小売店舗のチラシ制作からはじめて、販促企画に15年以上携わっていました。チラシというのは、小売店舗各社が実践している「52週マーケティング」が、そのままダイレクトに表れるものなんですね。そんなことから、この52週マーケティングに対するアプローチが体に染みついているんです。その上で、今は小売店舗を持つクライアントに対して、毎週の販促企画を提案しています。そういった意味では、「売り場の変化」には敏感かもしれません。

永野:私も10年ほど小売業、メーカークライアントの担当をしています。加えて現在は、電通tempoが持っている「流通知見」をベースにして、むしろメーカーに対して小売企画をご提案する取り組みも進めています。その際、「お客さま視点」を大切にして、お客さまの側ではこんなニーズの変化があるよというような資料をまとめて、メーカーにご提案するということもやっています。

田野:私は、商圏分析と、その分析結果を踏まえた折り込みのプランニングが主業務でした。3年ほど前からは、小売店舗を持つクライアントの公式LINEアカウントの立ち上げと運用支援も担当させていただいています。

Q.2020年に新型コロナウイルス感染症が拡大し、人々は自由にお出かけして買い物することができなくなりました。小売業にとっては、営業継続そのものが揺らぐような、過去にない体験をしたのではないかと思うのですが、皆さんから見て、小売業はどんな変化を遂げたと感じていますか?

市川:これはもう一言で言うと、「お客さまを見るようになった」のだと思います。もちろん今までも見ていなかったわけではないのですが、企画の作り方のベースにある課題意識は、「前年比でどういう売り上げを立てるか」でした。そのため、基本的には毎年同じことをやっていたわけです。その中で「お買い得」という価値を提供していた。ところがコロナ禍以降、「お客さまの生活の変化に合わせた企画」を実践するようになったんです。とある小売業のクライアントが、「コロナ禍が始まって、20年分の変化を一気に体験したようだ」とおっしゃっていたのが印象的でした。

例えば、店舗で「北海道フェア」をやったとします。その場合、今まではよくある商品ばかり並んでいたわけですが、最近は「あの観光地の人気土産」などが並ぶようになりました。そういった商品は専門店やアンテナショップにはあるんですが、日常的な買い物の場であるスーパーには、そもそも仕入れがありませんでした。

ところがコロナ禍になって、かつての売り場を失ってしまった名物商品を、スーパーなどでも仕入れられるようになった。それはチャンスと言えばチャンスでもありました。緊急事態宣言の発令中、百貨店の化粧品売り場が閉まってしまった間、そこで売られていたのと同じ商品がスーパーで買えたなんてケースもあります。そうやって売り場が変わり、お客さまもそれに慣れてきたところだと思います。

「お買い得」の追求から、「この店にしかない商品」による差別化へ

永野:ある小売企業のマネージャーがこうおっしゃっていました。「今までは同じ業態であるいろいろなスーパーを競合だと思っていたけどコロナ禍になってからは、外食業態が競合だったと気づいた。外食に行かなくなったことによって、内食が増える。そのときに、おうちの食卓を盛り上げたい、楽しいものにしたいという人々のニーズに応えられるかどうかが重要なんだ」と。

確かにその店舗では、コロナ禍が始まってから普段よりも高級なお肉やスパイスなどの売り上げが上がったとのことです。おうちの中でも「非日常」を楽しめるような商品が、人気を集めるようになったんですね。

田野:私はとある小売クライアントのLINE運用を支援しています。そのクライアントは、コロナ禍になる前からLINEでの発信に対するお客さまの反応を見て、真摯にそれに返していく姿勢を大切にしていました。ですから、コロナ禍になって急に対応を変えなきゃいけないということにはならなかったな、という印象です。やはりLINEでつながっているお客さまほど、来店頻度も高いですし。

そんな中でそのクライアントは、2021年の頭からお総菜をフックにした施策を実施しています。そこで、恵方巻の人気投票を実施したり、アンケートを取って回答者にはポイントを差し上げたりといったさまざまな取り組みに挑戦しています。

「この店にしかないもの」を強化しようという流れは、恐らく多くの小売業が始めています。やはり「お得」だけで差別化するのは大変です。そこで、目玉商品を日替わりで展開しながらも、お総菜やプライベートブランドなどを強化して、「ここにしかない商品」を充実させ、差別化を図る。そんな傾向が強まっていますね。

 


 

コロナ禍をきっかけに、20年分に相当する変化を一気に体験したと語るある小売店舗。「いかに売り上げを上げるか」という従来の意識から脱却し、お客さまの生活の変化に合わせたアプローチを実践するようになったと言います。お客さまを起点とするそうした価値観の変化により、「お客さまの食卓を豊かにする施策」や「その店にしかない商品」が店頭を賑わせるようになりました。

営業継続自体が危ぶまれるほどの困難を経た今、小売業は今までにない挑戦へと乗り出し、新たな局面が広がり始めています。次回中編では、お客さまのニーズの変化やメーカーが直面している変化についてじっくりと掘り下げていきます。

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株式会社 電通tempo

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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