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2022/02/07

今、マーケターに求められる力とは。クリエーティブ・プロデューサーから見た、「オン・オフ統合」時代に求められるディレクション

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今や、マーケティングの世界は、オンラインでも、オフラインでもあらゆるチャネルを使ってお客さまにアプローチする「オン・オフ統合」時代を迎えています。その中で、マーケターに求められる役割も変わりつつあるのかもしれません。

今回は、「カスタマージャーニーは本当に古いのか?「オン・オフ統合」時代に求められる、マーケティングのキーポイント」でも登場した、株式会社電通デジタル・宮川政寛氏にインタビュー。テレビCMなどのマス広告も、デジタルも、イベントなどのオフラインメディアも手掛け、まさに「オン・オフ統合型プロデューサー」として活躍する宮川氏に、今の時代にマーケターに求められるスキルや姿勢について語ってもらいます。

クリエーティブ・プロデューサーから見た「良いマーケター」とは?

Q.さまざまなクリエーティブ・チームをマネジメントする立場にある宮川さんから見て、「良いマーケター」とはどのような人だと思いますか?

宮川:まずは、当たり前ですが、データに基づいて、基本戦略やカスタマージャーニーをしっかり描くことができる人。さらにターゲットの心の動きを詳細に描く力が「良いマーケター」として基本的な能力ではないかと思います。ただ、ターゲットを描く、といっても、年齢とか家族構成などの表面的な情報にとらわれすぎない。例えば、収入も、もちろんターゲットを理解するための大きな特徴の1つですし、「高収入でハイクラスな人」というのもターゲットを絞りやすい条件ではあるのですが、そういうくくり方だけではあまりうまくいかないことも多いです。それよりも「こういう行動特性がある」とか「こういう価値観・習慣を大切にしている」といった部分を捉えられることが重要。そういう情報があると、クリエーティブ・スタッフが企画を考える時も、「ターゲット・インサイト」から考えることができるので、とてもやりやすくなることが多いですね。

Q.なるほど。宮川さんの場合、クリエーティブを制作するにあたって、クライアントからオリエンを受ける、あるいは同じチームのマーケターやプランナーからオリエンを受ける、という立場にあることが多いと思いますが、「良いオリエン」とはどのようなオリエンだと思いますか。

宮川:あくまでも個人的な意見ですが、私はとにかくデータをもらえるなら多い方がいい、と思っています。過去にお仕事を一緒にやったマーケターで、Aさんという人がいるのですが、その人はとにかく「調査の鬼」という感じで、対象サービスについて、定量調査も定性調査も徹底的に、かつクイックにやる、ということが得意な方でした。その時は、「予約アプリ」についてのお仕事だったのですが、Aさんが大量の調査をしながら、多くのペルソナを具現化した上で、「この人はターゲットだけど、この人はターゲットではない」ということを一気に整理してくれた。その結果、クリエーティブ・チームとしては、企画出しに無駄がなくなりますし、そういった情報をもとに提案を進めていけば、結果的にクライアントとも一体感が生まれ、ワンチームになりやすいな、と感じています。

もちろん、うまくデータが揃わない時もあります。クライアントがきちんとデータを持っているか、持っていてもこちらに共有していただけるのか。あるいは、こちら側で自主的に調査をして十分に集められるのか。調査に費やせる時間だって限られますし、むしろ思ったように揃えられないことの方が普通かもしれない。でも、そんな状況でも粒度は粗くてもできることはあります。ターゲットイメージに近い人に軽くヒアリングをするとか、ソーシャルリスニング的な手法でユーザーボイスを集めてくるとか。データを集める手法や精度は柔軟に、それでいて「手掛かり」をしっかり集めてくれる。そんなマーケターやプランナーからのオリエンであれば、クリエーティブ・チームから出す企画の精度も上がりますね。

結果が見えやすい時代だからこそ、データを収集し、活用する力が重要になる

Q.宮川さんは、かなりデータを重視していらっしゃるようですが、それは最近のクリエーティブ・スタッフに共通する傾向なのでしょうか?少し前のイメージだと、どちらかと言えばクリエーティブ・スタッフは、あまりデータに縛られたくない、という人も多かった気がします。極端に言えば、「調査に回答する人なんて、特殊な人だ」なんて言って、それよりも自分の感覚を大事にする、という人も結構いましたよね。

宮川:確かに、ちょっと前まではそういうスタッフもいましたね(笑)。でも昨今は、データが企画をする上でのヒントになりますし、何よりクリエーティブとして世の中に展開した結果、どのような効果があったのか、その施策の良し悪しがすぐにデータとして明らかになってしまう、という状況になっているのも非常に大きいかな、と思います。従来のテレビCMのようなオフラインの施策しかなかった時代であれば、クリエーティブが世の中にどう評価されたのか、それほどダイレクトにはデータを出せなかった。でも今は、特に「オン・オフ統合型」の施策であればなおさらなのですが、テレビCMであってもクリエーティブを展開した翌日のサイトアクセス数とかコンバージョン率などですぐに評価され、うまくいかなかった場合にはその場で「ダメ」のレッテルを貼られてしまう。クリエーティブ・スタッフもそういう状況に追い込まれているので、「外したくないからこそデータをしっかり見よう」という気持ちは高まっているのではないでしょうか。

もちろん、クライアントの皆さんも、デジタル・マーケティングについての知見をどんどん深めていらっしゃるので、「データで評価する」という姿勢が当たり前になってきています。単純に「面白そうだからやってみよう」というケースはかなり減ってきたかな、と。かつては「クリエーティブ・ジャンプが必要だ」なんて言って、あえてデータやオリエンの内容を疑ってかかる、無視するなんていうやり方も、場合によっては受け入れられていましたが、これだけ行動データがしっかり取れるようになった今は、根拠の弱いジャンプが受け入れられる余地も少ないですし、何よりそれが正しいジャンプかどうか疑わしい、と判断されてしまうと思います。

Q.広告・販促領域に関して言えば、かつては「名物宣伝部長」とか「クリエーティブと向き合える担当者」がいて、経験に基づく直感で判断する、というような世界もありましたよね。そういったやり方はもう厳しいということでしょうか?

宮川:いえ、もちろんその世界を否定するつもりはありません。

ですが、今は分析ツールのダッシュボードを見れば、経験があるかないかに関わらず、誰でも同じ結果、同じ数字を共有できる。もちろん、同じ数字を見たら誰もが同じ結論を出す、ということはあり得ないわけですが、それでも昔に比べれば、みんなが同じ土俵で議論したり評価したりできるようになった。ポジティブに考えれば、外さない可能性が高くなったということですし、そのための材料がたくさん手に入るようになった、ということではないでしょうか。

その土俵の上で、「熟練の達人」的な領域や、あるいは「センスの良い人ならではのディレクション」というものが必要になってきているということだと感じています。

Q.そうなってくると、やはり今まで以上に「マーケター」の役割は重要になってくると言えますね。

宮川:そうですね。マーケターが手掛かりとなるデータ・情報をどれだけ集められるか。もちろん、データというのは定量情報だけではありません。定性情報も含めて、ターゲット・インサイトがつかめるようなデータという意味ですが、実行した施策の結果がダイレクトに分かってしまうからこそ、成功率を上げるための材料は多ければ多い方がいい。そしてその中から何をつかむか。どう「勝ちポイント」を絞り込んでいけるか。そういう議論をしっかりできるマーケターは、クリエーティブ・スタッフからも、クライアントからもリスペクトされますし、結果的に「無駄を減らす」こともできるので、時代の流れにも合っているのかな、と思います。

 


 

オン・オフ統合型プロモーションが当たり前になる、ということは、単に「デジタル領域も含めた企画ができることが必要」というだけではなく、「瞬時に結果が判断される環境において、効果的な企画を出し続けること」が求められる、というのも重要なポイントではないでしょうか。だからこそ、外さないための情報やデータをどれだけ集められるか、という能力が、マーケターやプランナーには求められるようです。手段も多様化している中で、改めて「情報収集力」が重要な要素になっているのかもしれません。

 

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株式会社電通デジタル

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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