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2022/01/24

カスタマージャーニーは本当に古いのか?「オン・オフ統合」時代に求められる、マーケティングのキーポイント(後編)

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お客さまの消費行動が多様化・複雑化し、「オンライン・オフライン統合」が叫ばれる中、「本当に効果的なマーケティングを展開できているのだろうか?」と暗中模索するマーケティング担当者も多いのではないでしょうか。

今回はWebディレクターやテレビCMなどマス広告のプロデューサーを経験後、「マスも、デジタルも、イベントなどのオフラインメディアも手掛ける、まさに“オン・オフ統合型”プロデューサー」としてジャンルを横断して活躍する株式会社電通デジタルの宮川氏に、「購買行動が複雑化する現代におけるカスタマージャーニーの重要性」を解説してもらうインタビューの後編をお届けします。

>>前編はこちら

「カスタマージャーニー」という全体地図があれば、統一感のある施策が可能になる

Q.前編では、「カスタマージャーニーはもう古い」とその重要性が疑われている最近の状況を受け、購買行動が多様化している今だからこそ、カスタマージャーニーが効果を発揮すると伺いました。

宮川:はい、前編では「カスタマージャーニーが重要な理由」として「マーケティング施策の範囲を決められる」ということをお話しました。実は重要な理由はほかにもあります。

2つ目の理由は、「カスタマージャーニーがあれば、スタッフの目線を合わせられる」ということです。オン・オフ統合といった大きなマーケティングプランになれば、例えばテレビCMとWebのスタッフが違うとか、メディアによってスタッフが違うとか、そういうことはどうしても起こります。そのときに、担当者ごとにイメージしているカスタマージャーニーが少しずつ食い違っている、ということはよくあるんですよ。「どういう状態のお客さまに対して、どんな影響を与えるのか」というミッションがずれると、1つひとつの施策を組み上げたときに、全体としてちぐはぐなマーケティングプランになってしまいます。

そして3つ目の理由は、「カスタマージャーニーによって、効率化を促進できる」ということです。これはかなり限定的な話になりますが、例えばテレビCMの企画で、著名人をセレブリティ起用するようなケース。本来なら、最初からデジタルとか他の施策でもそのセレブリティを起用した方が明らかに効果的なんですが、施策ごとに企画を考えると、そういう全体を見通す目線を忘れがち。

「この施策に触れた後にここに来る」というシナリオがあれば、「それぞれがつながっていた方がいい」と考えるのは当然なわけで、だったら最初から全体設計の中でセレブリティの起用を踏まえた契約を結ぼう、という話になる。こうすれば、無駄のないお金の遣い方ができるようになります。

でも実際には、例えばテレビCMではAというセレブリティを起用しているのに、SNSでは別のインフルエンサーをわざわざ出している、なんていう企業は多いのではないかと思います。そこにはいろいろな事情があるのでしょうが、最初から全体像を見ていれば効果が最大化できたのに…というパターンも、少なからずあるのではないでしょうか。

「何がゴールなのか」から見直すことで、マーケティングプランの全体像が変わる

Q.前編で触れた、そもそも「購買」がゴールなのか?という視点は面白いですね。確かに、「パルス型消費」=「購買を起こす接点が多様に存在すること」だとすると、そもそも「購買」をゴールにしたマーケティング施策を考えること自体が、時代に合っていないのかもしれない。むしろ、「ノリで一度買ったけど、その先買い続けようとは思っていない人」のカスタマージャーニーを描くことが必要かもしれない。そう考えたら、今やろうとしている施策が本当に正しいのか?という確認にもなりますね。

宮川:これは私自身の例なのですが、先日、冷蔵庫を買いました。ですが、前から「買おう買おう」と思っていたわけではなくて、ある日、家の冷蔵庫が壊れてしまって、急いで買わざるを得なくなった。そのときに、「じゃあ、週末に家電量販店に行って、いろいろ比べよう」なんていう余裕も時間もないから、とにかく早くネットで買ってしまいたい。「そういえば、こういう商品が人気だって聞いたな…」という刷り込みみたいなものがあって、それで決めてしまいました。

こんなことは結構よくあるんじゃないかと思うのですが、となると、実は「ブランドの刷り込み」が重要な施策なんだな、ということになる。ですが一方で、この「刷り込み施策」は、いつ購買に結び付くか分からないから、費用をかけた分、短期的に結果が欲しいと考えるKPIマネジメントの観点からは、そもそも刷り込み施策自体が是とはならないわけです。

しかし、この私の例のようなカスタマージャーニーが描けていれば、「本当にブランド刷り込み施策はいらないのか?」という議論になりますよね。そこが大事なんじゃないかと思うんです。もちろん、今回の予算ではそこに投資せず、すぐに刈り取れる施策に集中するという判断もある。大事なのは、お客さまの物語を前提とした上で目的に即した判断をしているのかどうか、という視点だと思っています。

多様なメディアそれぞれに対する理解を深めることで、打つべき手が見えてくる

Q.宮川さんが携わるチームでは、カスタマージャーニーを踏まえた上で、実際の施策に落とし込んでいく際に、重視していることはありますか。

宮川:これは非常に基本的なことなのですが、あらためて「メディアに対する理解を深める」ことを重視しています。パソコンで見ているのとスマートフォンで見ているのとでは、同じ情報でも受ける印象が違います。TikTokを見ているときとTwitterを見ているとき、LINEニュースを見ているときで、人の気持ちは同じなのでしょうか?仮に気持ちは同じだとしても、見ている人が違うかもしれない。

例えば、屋外ビジョンの企画を考えるとします。「これは面白い!!」という企画を考えたとしても、屋外メディアは2秒しか見られないとも言われます。となると、しっかりとしたストーリーのものを作っても、結局は見てもらえないかもしれません。それがどこにあって、どのような状況で人々の目に入るのか。それによって、期待も効果も変わってきます。今は本当に日々新しいメディアが出ているような状況ですから、それぞれの特性をしっかり把握して、それをスタッフに共有するということは最低限やらなきゃいけないなと思っています。

 


 

購買行動が多様化し、オンライン・オフライン関係なくマーケティング施策が無数に考えられる今だからこそ、マーケティングプランの全体地図にあたるカスタマージャーニーが重要だと宮川氏は語りました。その理由として、「マーケティング施策の範囲を決められる」「スタッフの目線を合わせられる」「効率化を促進できる」という3点を解説。さらに、「パルス型消費」が浸透してきている状況を受け、そもそも「購買がゴールなのか?」という問題提起も。直感的に購入したお客さまに向けて、ロイヤルカスタマーになってもらうための道筋を描くことの重要性についても示唆しました。

メディアが乱立し、筋道立ったプランを描きづらい今。状況に惑わされることなく「ストーリーのあるマーケティングプラン」を実現するために、カスタマージャーニーの役割を見直してみてはいかがでしょうか。

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株式会社電通デジタル

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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