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2022/03/04

今、あらためて「ダイバーシティ」について考える。企業が押さえておくべき、ダイバーシティ最前線

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企業において「ダイバーシティを担保する」ことは、もはや常識の時代になっています。近年、急速に普及しているSDGsにおいても、ダイバーシティの担保はあらゆる価値観の源泉になっていると言っても過言ではありません。

一方で、「ダイバーシティ」と一口に言っても、その内容やトピックは本当に多種多様で、しかも日々進化しています。むしろトピックが多様で、かつ変化し続けるからこその「ダイバーシティ」だと言えるのかもしれません。「ダイバーシティ」というキーワードはもちろん知っているけれど、その中身や最新トピックを本当に理解しているかと聞かれれば、実はあまり自信がないという方も多いのではないでしょうか。

そこで今回の記事では、あらためて「ダイバーシティの最前線」や「これからホットになりそうなトピック」をお届けします。お話を聞く相手は、2013年よりスタートし、今年で10年目を迎えるダイバーシティWebマガジン「cococolor(ココカラー)」の編集長である半澤絵里奈氏。ダイバーシティの現在をよく知る立場から、「ダイバーシティとビジネス」の関係について語ってもらいました。

なぜ企業に「ダイバーシティ」が必要なのか?

Q.半澤さんが「ダイバーシティ」をテーマに仕事に取り組み、Webマガジン「cococolor」を運営するようになってから9年が経ちます。この9年間の変化をざっと振り返っていただけますか。

半澤:これはもう本当に冗談か、という話ですが、この取り組みを始めて最初の2年くらいは、「ダイバーシティ」と言ったら「お台場ですか?」と本当に言われました。もちろん「インクルージョン」という言葉も当時はまだほとんど耳にしませんでした。それを思うと、随分変わったなと実感します。

そして最近は、「エクイティって何ですか?」というのがよく聞かれる質問ですね。「エクイティ(equity)」と「イコーリティ(equality)」の違いを説明する機会が非常に増えていますし、そこから先の議論をするためにも、まずはそこの理解が重要になっています。つまり「平等」をうたうだけでは、本当の意味でさまざまな差異や来歴を持った人々に、同じ機会に対して同じアクセシビリティを確保することができない。だからこそ、合理的配慮のなされた「公平」性を担保することが必要だ、ということですね。

Q.そもそもの問いになってしまうのですが、なぜ今、企業に「ダイバーシティ」という概念が必要なのでしょうか?

半澤:もちろん、ダイバーシティの重要性や必要性を説明しようとすれば、いろいろな点が挙げられると思います。「人としての基本的な責務だ」という「人として、生き方としてのあるべき論」から、「多様な能力が企業の可能性を広げる」といった観点、「欧米企業と向き合う上では、ダイバーシティに配慮していないと取引ができない」とか「取り組まないと社会的なレピュテーションの低下につながる」という、どちらかといえばネガティブ対応という視点。

それこそ多様な視点があると思うのですが、私個人がどう考えているかと言えば、「人々の違いがたくさん担保できている環境の方が、しなやかな糸のように耐久性を持って組織を強くすることができる」ということ。私たちの元には、日々本当にさまざまなご相談やお仕事が入ってきます。多くの企業にとって、「毎日同じ課題が起こる」ことなどほとんどないと思いますが、そのような環境において、画一的・同調的な空気ではもう戦うことはできません。

これからはますます「社会課題解決」にどう貢献していくか、ということが重要になってくるわけですが、そのために「コレクティブ・インパクト(collective impact)」が強調されるようになりました。これは、「社会課題を解決するために、自治体・企業・NPO・政府・財団などさまざまなプレイヤーが個別に取り組むのではなく、Collective(集合的)にインパクトを起こすこと」を重視するスキームですが、この「コレクティブ・インパクト」を起こすためにも、大前提として自分たちがダイバーシティを担保していく必要があるんですよね。

「ダイバーシティ」にまつわる相談が、どのように変化してきたか

Q.半澤さんには、日々いろいろな企業からダイバーシティ関連の相談が寄せられていると思いますが、その相談内容や相談相手に変化はありますか。

半澤:私が本格的にダイバーシティを掲げて仕事を始めた当初は、外資系企業からのご相談が多かった印象があります。やはりダイバーシティというのは日本企業より外資系の方が取り組みが早かったからだと思いますね。「既に本国の本社が推進している取り組みを、日本支社にも展開するにはどうすればいいか」とか、「LGBTやダイバーシティの象徴となっているレインボーのロゴを作りたいが、他の企業はどうやっているか教えてほしい」などですね。その中で研修をやってほしいとか、講師をやってほしいというようなご要望をいただいて対応していました。

同時にcococolorの運営も行っていましたが、これについては、始めた当初は厳しい声もいろいろ頂きました。私たち自身、走りながら考えるところが多かったので、発信することでご指摘を受け、それをもとに学び直すということを繰り返していきました。

その後、企業の方にも変化が起こってきました。それまではダイバーシティというと「CSR担当」の方が担当されていることが多い印象でしたが、企業の人事部の中にダイバーシティ担当が組織されたり、「チーフ・ダイバーシティ・オフィサー」というポジションが置かれたりして、各企業におけるダイバーシティの位置付けがそれまでとは異なってきたように感じました。その多くの変化を目撃したのは2017年から2018年頃です。

今では研修に加えて、企画開発や社内施策の提案まで求められるようになっています。相談数は増えていますし、その内容も多様化していますね。

この1年すごく顕著なのは、「ダイバーシティについての取り組みを統合報告書に入れたい」という動きです。つまり、企業の成長戦略の中にダイバーシティがどうマッチングしているか、その企業にふさわしい取り組みをしているのか、そしてそれがどれだけ社会に影響を与えているのかというようなことを、KPIをしっかりと設定して評価し、投資家にも公開して説明したいという流れです。そのような意味では「ダイバーシティ担当」に第二の変化が訪れていると感じます。より経営に近い部署や担当者の方との会話が増えています。これも外資系企業で先に感じ始めた流れです。

ダイバーシティにおいて、今後ますます注目が高まりそうなトピックは?

Q.ダイバーシティと一口に言っても、その中には本当にいろいろなテーマがあると思いますが、中でも今ホットなトピック、あるいは今年ますます注目が高まりそうなトピックは何だとお考えでしょうか?

半澤:はい、本当にさまざまなテーマがありますので、いくつか挙げてみますね。まず「ジェンダー」についてですが、特にその中でも「女性のヘルスケア」というトピックがさらに注目されるようになると思います。例えば、ピルの服用や中絶の問題について。こうした領域において日本ではまだまだあるはずの選択肢を選べない状況があり、結果として女性への負担が大きい状況が続いています。

キーワードで言えば、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」になりますね。妊娠や出産、中絶の問題だけではなく、思春期の問題から月経の問題、あるいは正しい性の問題や女性ならではの病気への対応、更年期も含めて、いかに女性の生涯にわたる健康に配慮し、それを守っていくことができるかというテーマが、ますます議論の対象になるのではないでしょうか。その中で、女性だけではなく「男性学」にも目を向ける流れが来ると思いますし、「フェムテック」と呼ばれる領域が注目を浴びると思います。ただここで重要なのは、「男性か女性か」といった2項対立にならないように進めていくことです。

続いて、「性的マイノリティ」について。最近は「LGBT」よりも「LGBTQ+」と呼ぶことが多くなっています。かつて6色で構成されていたレインボーフラッグも多様化して最近は5色追加されたようなフラッグも存在します。

また、LGBTの方々の活動を理解・支持する人たちを「アライ(Ally)」と呼ぶ動きもあります。ただ、アライという言葉が必ずしも好意的に受け入れられているとは限りません。「マジョリティがマイノリティを理解・支援するという姿勢が上から目線」と感じる人もいます。個人的には「フレンドリー」という表現が好きですが、ここも感じ方は多様だと思います。

賛否両論あると思いますが、議論が起こるのは良いことだと感じます。何も議論が起こらずに人々が関心を示さないよりも、互いに敬意を持ちつつ関心を集めることが前に進む重要な一歩となります。東京都の小池百合子都知事は「同性パートナーシップ制度」について導入する方針を示しましたし、教育現場においては、性別による縛りをなくして制服の選択肢を広げる学校も出てきました。のようにセクシュアリティについては、当事者の権利に関わることに加えて、もっと身近な領域でも議論が求められるようになると感じます。

続いて「障がい」の領域ですね。障がい領域で発達しているテクノロジーやアート分野への関心が高まっていると感じます。この領域により多くの方々や企業を巻き込んで大きな変化が生まれてくると、違う景色を見ることができるのではないかなと思います。福祉に関わる方々や障がい者の家族の方々が一生懸命向き合っているところに丁寧に関わりを見出し、私たちが一緒にできることは何か?ということを考えるところから進めていけたらと思います。また、日本は高齢化社会です。年を重ねれば身体能力は落ちていきます。私たちにとって障がいというのは誰かのことではなく、身近なことです。既に関わりのある方々から学ぶことはたくさんあるのではないでしょうか。

いくつかテーマごとにホットになりそうなトピックを挙げましたが、さらに大きな視点で見ると、これまでダイバーシティと関係あるの?と思えるようなテーマが盛り上がりを見せていると感じています。例えば「医療」×「ダイバーシティ」。人生100年時代と言われるようになって、生き方とか死に方も大きな論点になってきていますよね。どう生きるかはもちろんのこと、果たして「生きている」とはどういう状態を言うのか?そして、どう死にたいか?について話せる世の中になっていくのか。

逆にちょっと懸念しているのは、「多文化」という領域について。新型コロナウイルス感染症の影響で、海外から日本に入国する方が減った状況もあり一時期よく話題に上がっていたグローバル化の話題などが少なくなっているように感じます。多文化やグローバル、地域活性化というトピックがさらに大きく盛り上がるのではないかと思っていたのですが、実際はちょっと停滞してしまっているかな、と。

しかし日本のこれからを考えると、就労人口が足りなくなっていくわけで、コロナ禍の影響が一時的にあるにせよ、外国籍の流入は広がっていくのではないでしょうか。コロナ禍においても困っている外国籍、あるいは母語を日本語としない方々もいますし、そうなると必然的に、宗教・思想、食などの文化的トピックは丁寧に広げていかなければならないはずです。そして、日本に多様な文化的バックグラウンドを持つ方々が増えるということは、日本市場が「グローバル」になるわけですから、今まで売れなかったものが売れるというビジネスチャンスや人々の生活が多様化するきっかけにもつながるのではないかと思います。

多文化になるということは、いろいろなことにつながっていきます。例えば多くの小学校では給食がありますが、多文化になれば宗教上や文化の問題で、みんなで同じ給食を食べることができなくなる。この学校給食というのは、実は「共体験」を生み出す重要な機会にもなっているのですが、食を通じた共体験が作れなくなるのです。考え方によっては、より素晴らしい「共体験」ができるはずですが、実際は教育現場はとても忙しくなかなか余裕がないかもしれません。この課題も、教育現場だけではなく社会全体で向き合うことでより良いソリューションを生み出すチャンスにもなりそうですね。

そういった変化は人々の新しいニーズに向き合いビジネスチャンスでもあるはずで、「この先起こるべき変化」をしっかり予測して先んじて手を打っておくことが、これからの全ての企業に必要なことだと思います。これも、「ダイバーシティ」の理解や受け入れなしにはできないことですよね。あらためて企業が変化の時代に生き残り、かつ成長し続けていくためには、やはり「強くしなやかな組織であること」が不可欠でしょうし、そのためにもダイバーシティの担保は大前提になるのではないでしょうか。

 


 

今でこそ、当たり前のように浸透している「ダイバーシティ」ですが、わずか数年前はまだまだ普及していなかったという現実があります。そして今も、ダイバーシティという大きなくくりの中でさまざまな課題が発見され、解決に向けた動きが生まれています。

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、「今日の当たり前が、一瞬にして当たり前でなくなる」という経験をした方も多いのではないでしょうか。そして、そのような大きな変化があったとき、多様性を有している企業と、画一的なベクトルしか持たない企業のどちらが強くあり続けられるでしょうか。これからも私たちは、さまざまな変化に直面していくことは間違いありません。未来を完全に予測することはできないけれど、可能性をしっかり見つめ、尊重することは誰にでもできることです。あらためて、ダイバーシティを「自分ごと」「自社ごと」として捉えてみてはいかがでしょうか。

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※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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