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2022/02/14

コロナ禍で、小売業はどんな変化を経験したのか?ウィズコロナの先に見える、小売店舗の新潮流(後編)

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ウィズコロナ時代の今、激変を続けるスーパーなどの小売現場。さまざまな業界のオンライン化が急速に進む中、小売店舗は数少ないリアルの接点として、あらためてその価値を見直されています。変化し続けるお客さまの気持ちに寄り添うには、小売業と商品を扱うメーカーが知恵を出し合い、次なる一手をきめ細かく打つ姿勢が欠かせません。では、具体的にどのような点を心がければよいのでしょうか?

日々、新たな試みを模索する小売現場の「今」に迫るため、流通・小売業の販促支援に高い専門性を持つ株式会社電通tempoの市川敦子氏、永野薫氏、田野愛理氏にインタビューした今回。最終回となる後編は、店舗作りに欠かせない「チラシ」の役割に触れると同時に、2022年の小売現場の注目テーマを予測します。今回も、小売現場と関わりを持つ方にとって、ヒントになる話題が目白押しです。

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今、あらためて考える「チラシ」の意義とは

Q.少し話は変わりますが、市川さんは10年以上チラシの仕事をしていたとおっしゃいました。一方で、チラシや折り込みは閲読率が落ちているとかリーチが減ってきているというような話もあり、そこでLINEの活用みたいな話も出てきているのでしょう。そんな今、チラシにまだパワーはあるのでしょうか?

市川:チラシを展開する意味の1つは、当然「集客」です。首都圏では、折り込みの到達率が落ちているというような話は確かにあります。ただ、実はチラシにはもう1つ大きな意味があるんです。それは、チラシは「店舗のマニュアルになっている」ということ。ある意味、チラシにおける「商品の扱いの大きさ」と「店舗の売り場の作り方」は、同じになっているんですね。

例えば店舗で「北海道フェア」を企画しているなら、このフェアがチラシの中でどれだけ大きく扱われるかを見ながら店頭作りを進めていきます。つまり、「チラシ=店頭の設計図」のようなものなのです。「今日のお買い得商品」がデジタル上で羅列されていても、チラシがなければ、お買い得商品の中で特にどれに力を入れているのかが分からないので、店頭作りができなくなってしまう。

逆にメーカーサイドからすれば、「自社商品の棚を作ってもらうために、チラシに商品を入れよう」という発想で、チラシの意義を捉えることができます。ここでもお客さまへのリーチだけではなく、小売店舗にとってのチラシの意味を考えていただくことが大事かなと思います。

田野:LINEでの取り組みを実施したときの経験なのですが、ある月初めのセールがありました。最初はセールタイトルだけのクリエーティブを配信していましたが、それよりもセール対象となっている目玉商品を数点ピックアップして掲載したものを配信したらいいのでは、という話が出て、実際にやってみたんです。すると、セールタイトルだけ配信していたときよりも、なんとタップ率も来店率も低くなってしまいました。

どうやら具体的に商品数点を見せるよりも、「セールでいろいろな商品が安くそろっている」という全体像を見せる方が、効果が高かったことが分かりました。そういう意味では、チラシの一覧性というのは非常に意味がある。だからデジタル施策を打つ場合でも、チラシならではの「一覧性によるワクワク感」をどうクリエーティブに反映できるかが大事なんだなと学習した事例でした。いっそのこと、商品が見切れるようなクリエーティブの方が、さらに力があるかもしれませんね。

永野:「チラシ=価格訴求メディア」と思っている人も多いとは思いますが、中にはチラシを楽しみにしているお客さまもいます。「3日間のセール」があったとしたら、「1日目はこれ、2日目はこれ……」というふうに、日替わりで目玉商品を変えていきます。すると、「明日は何だろう?」と期待してくださる方も出てくる。チラシだって重要なエンゲージメントツールだと思います。小売店舗の担当者の中には、「デジタル上のバナーとチラシは違うんだ」とおっしゃっている方もいますよ。

2022年、小売現場ではどのようなテーマが注目を集めそうか

Q.ありがとうございます。では最後に、私たちはウィズコロナを2年近く経験しているわけですが、2022年は小売現場ではどのようなことがテーマになると思いますか。

市川:コロナ禍になって思ったのは、ニュース性というか、世の中の動きや変化にどう対応するのかが大事だなということです。世の中の変化に対して、自分たちも一緒に変化しないといけない。コロナのような大きな変化もありますが、「長雨」とか「梅雨」とか、そういう小さな変化は日常にあふれています。もともと、「梅雨明け」のニュースが出たら突然アイスが売れるといった現象はありましたが、世の中全体がそういった日々のさまざまなニュースに敏感になっている気がします。そういった人々の心の変化に応じた提案が、どれだけできるかが大事なのかなと思います。

コロナ禍以降、EC利用は進みましたが、どちらかといえばECは目的買いで、自分で買いたいと思うものを探して買うことが多いのかなと。今までにない提案をした結果、新しい商品との出逢いが起こるのはリアル店頭ならではです。そういう意味では、店頭にはまだまだ大きなチャンスが存在していると思います。

永野:コロナ禍で、いかにおうちの食卓を楽しくできるか、ということは、非常に注目されているトピックです。仮にコロナ禍が落ち着いてきて、また外食できるようになったとしても、「良かったな」「おいしかったな」と感じた商品にまつわる経験は、今後も続くでしょう。そういう意味で、いつもの食卓にプラスαの楽しみを広げていく提案が必要なのではないでしょうか。

緊急事態宣言中に比べれば、テレワーク率が下がってきたという話も聞く上、働く女性も増え続けています。となると、「簡便さ」や「楽しい食卓」へのニーズはますます高くなるはず。これを小売視点で言えば、「プラスもう一品を買っていただく提案」ができるかということになります。今までなかった意外な組み合わせ、楽しい組み合わせを提案して、新たな「ついで買い」「コンビ買い」を誘発する。その辺の可能性を考えていきたいですね。

市川:意外な提案というのは、本当に可能性があるんじゃないかと思っています。冬になると鍋フェアが始まる。ここまでは例年通りですが、例えば「鍋とアイスがおいしい」という組み合わせを提案してみよう、といったアイデアも面白いですよね。実際に、「『雪見だいふく』を鍋素材にする」というレシピは意外と世の中にあったりしますし、外食で鍋のコースを頼んだら、最後のデザートにシャーベットが出たりしますから。

また最近の例では、ご存じの方も多いかもしれませんが、「台風コロッケ」というテーマが話題になりました。「台風だから外に出られない、そんなときに家でコロッケを食べよう」という話で、もともとはSNSから広まったと言われています。いつの間にかネタみたいになって、本当に「台風コロッケ」をうたう店頭も出てきたりして、台風が近づくとコロッケが売れるという現象が定着し始めました。

これも始まりや拡散したきっかけは諸説あるのですが、個人的には「台風に備える」という災害・避難的なイメージと、「おうちの食卓で、家族でコロッケをつつく」というほんわかしたイメージのギャップが面白かったり、安心感を呼んだりした面もあるのかなと思います。買う理由は「食べたい」だけじゃないんだな、という気付きをくれた好事例ですね。

ほかにも、とあるスーパーが節分の日に日本酒の『鬼ころし』を山のように積み上げて陳列したら、面白がられてTwitterでバズったという例がありました。売れるかどうかは、お客さまがどう受け取るかなんだなということを、あらためて教えてくれた事例でしたね。こういうネタ的なセンスも含めて、リアル店舗ならではの出逢いや提案をどう作っていけるか。世の中の変化に敏感になりながら、意外性や面白さのあるテーマ設定をいかに生み出していくかが、私たちに求められていることだと思います。

 


 

コロナの影響を強く受けた業界の代表が小売であるとすると、これをきっかけに「今まで以上にお客さまを見るようになった」のは、ある意味ではポジティブな変化が起こっているということかもしれません。あらためて今、「価格訴求」ではなく「価値訴求」が主流となってきている。そうした変化は、商品を納入するメーカーサイドからすれば、「お客さまにどういう価値を届けられるか」というコンセプトにおいて小売現場と利害が一致し、自社にとってもメリットが高まる原動力になると言えるのではないでしょうか。

「お買い物=エンターテインメント」だと捉えれば、いつものお買い物の中にちょっとした出逢いや発見を提供することで、手に取ってもらえる可能性は高まります。そのことは、新商品はもちろん、定番商品においても同様でしょう。自社商品はお客さまにどんな価値と楽しさをお届けできるか――。皆さんも、あらためてその可能性を見直してみてはいかがでしょうか。

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株式会社 電通tempo

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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