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2022/12/14

DIで進化するB2Cグロース戦略を、コロナ禍の「鉄道業界」を例に考える(前編)

INDEX

データに基づき人が適切な判断をする「データインフォームド(Data-informed/DI)」を掲げたコンサルティングやソリューションを提供する株式会社ギックス。「右脳×左脳×異能」によるグロース支援の豊富な知見をもつ株式会社電通コンサルティング。両者が業務提携して行うクライアント支援の意義やそのコンセプトについては、第1回目の対談で紹介しました。

第2回目の対談となる今回は、より具体的なデータ活用やB2Cグロース戦略について、鉄道業界にフォーカスし、電通コンサルティング専務執行役員の杉本将隆氏とギックス執行役員 Data-Informed事業副本部長の山田洋氏が議論しました。

人口減少とコロナ禍で移動需要が減り、鉄道・バス事業がダメージを受ける中、B2C事業のトランスフォーメーションが急務

杉本:この度、ギックスさんと電通コンサルティングが業務提携しましたが、どのようなB2Cグロース支援を行っていけるでしょうか。今回は、1つの参考事例として具体的な業界を取り上げることで、より議論を深めていきたいと思います。交通・流通・不動産・ホテル・レジャーと、幅広くB2C事業を展開している鉄道業界では、どんなグロース戦略を実現し得るでしょうか。

鉄道業界は阪急電鉄の創始者である小林一三氏がつくり上げた私鉄経営モデルが、戦後の多角化モデルのモデルケースとなっています。鉄道網を引いた沿線上に劇場や百貨店を建て、沿線の宅地を開発・販売し、小売や飲食を含めた生活シーンの中でさまざまな事業を展開する、というものです。

さらに2000年頃から事業間のシナジーを高め、相互送客によるグループ収益の最大化を図る動きが加速化しました。加えて交通系ICカードの技術革新により、グループカード事業、データ活用によるCRM強化の動きが広がってきました。
山田:さまざまな関連事業を展開されている中で、いかに鉄道グループ全体の視点でデータを活用するか。それが今、問われているわけですね。ここはまだまだ手が付いていない状況でもあり、私も大きな可能性があると思っています。
株式会社ギックス 執行役員 Data-Informed事業副本部長 兼 Design & Science Div. Leader 山田 洋氏
杉本:そうですね。特に2020年からのコロナ禍で人が移動しなくなったことにより、鉄道グループのB2C事業は大打撃を受けました。そのため、今後はデータの取得活用を強化し、「売り上げを伸ばす攻めのDI戦略」、「業務を改善する守りのDI戦略」の両方を進めていくことが急務だと考えられます。
山田:コロナ禍で人々が移動しなくなり、リモートワークが広がる中、鉄道の役割や存在意義が一義的ではなくなってきていますよね。これからはオンラインの各種サービスの発展や人口減に備えて、「移動する目的」を創出すること、それとセットで「移動する手段」すなわち交通事業に関する施策を実施することが、鉄道事業の価値を高めていくでしょう。でも、それをこれまでの勘と経験だけに頼って検討するのは難しい。鉄道をはじめとする「移動手段側が持つデータ」だけではなく、流通や、レジャーなどの「移動目的に関するデータ」も組み合わせて活用し、データから世の中のトレンドを把握しながら打ち手を検討することで、より効果的な展開が期待できると思います。
杉本:そうですね。また、そもそも少子高齢化が進む中、鉄道会社には中長期的な需要減少に対応した費用構造への転換という大きな経営課題が内在していました。鉄道インフラの維持が困難だと言われるような過疎地域では、その打開策として、「BRT(Bus Rapid Transit)」と言われる次世代バスシステムや予約制の乗り合いバスのような、「デマンド交通」への転換が進み、そこに鉄道会社も参画しています。これは、利用者の移動需要に応じて運行する公共交通です。また、コロナ禍を機に大都市においてもデマンド交通のような発想が広がりつつあります。つまり、公共交通の利用者が減ったために、利用者の需要に応じて運行コストや運賃を変動させる考え方です。例えば、定期券や運賃を時間帯別、曜日別に変動値化するような取り組みの検討も始まっています。
山田:時間や曜日に応じた変動価格を実現するには、データを活用した需要予測が不可欠です。今後は、交通データから空いている列車や路線が見えてきたら、それを「空きアセット」として活用するために、どのような移動目的を創出できるかを考える、といった発想も必要です。交通データと流通データをIDでひも付けて分析すれば、さまざまな気付きがあり、移動手段と目的とを組み合わせた施策が打てるのではないでしょうか。

24時間365日地域全体のB2Cデータを一元管理することで、生活者に寄り添ったCX、UXを追求

杉本:コロナ禍は鉄道事業とともに、系列の百貨店・専門店などの業績も一気に悪化させました。ただ一方で、小売業にとっては、このコロナ禍による危機は、むしろデジタルシフトを進める契機であり、データ活用による経営革新を進めていくチャンスにもなるのではないかと思います。

例えば、アメリカの大手小売チェーンはコロナ禍で「EDLP(Everyday Low Price:いつでも低価格で商品を提供する戦略)」から「CX(Customer Experience)」の先進企業へ脱皮しましたよね。コンシェルジュ的な機能を持つアプリを提供してタッチポイントを増やし、より顧客に寄り添ったサービスを提供しています。小売業においては、リアルで接点を持っていることで得られるデータを活用し、顧客中心のサービスや業務改善を行うことが何より重要です。
株式会社電通コンサルティング 専務執行役員 シニアパートナー 杉本 将隆氏
山田:そうですね。リアル店舗がオンラインショップと対抗するには、ユーザーがわざわざ外出して買い物に行くメリットやモチベーションといったプラスアルファが求められるようなケースも増えています。そういった意味では今、オンラインの世界がレコメンドによる最適化が行き過ぎることによって、自分の興味関心があるものにしか触れられず、新しいものと出会いにくい、といった意見も聞かれるようになっていることは、リアル店舗にとってはむしろチャンスなのではないでしょうか。データを有効に活用することで、オンラインでは体験できない、リアル店舗ならではの発見や買い物の楽しさをいかに提供できるかが、小売業の最大のテーマではないかと思います。
杉本:私もそう思います。鉄道系に限らずこれまでの小売業は、供給者起点で生活者に負担を強いていた部分が少なからずあります。今後は、生活者×データ起点でオペレーションを改革していくことで、今までにないショッピング体験を提供することが可能になっていくのではないでしょうか。

鉄道グループ全体としても、いかに生活者に寄り添ったサービスや商品を提供できるかが重要です。そのためにはお客さま中心のブランディングと一貫したCXデザインを前提として、お客さまの反応をデータでトラッキングしながら、お客さまのステータスとニーズを予測していく。そして、それを基にPDCAサイクルを回しながら、業務オペレーションやサービスを改善していく。そんな取り組みを進めていけば、お客さまに今まで以上の利便性や感動体験をお届けできる世界が広がっていきます。
山田:それを実現するための組織風土や人材スキルが今、まさに求められているのだと思います。これまでとパラダイムが大きく変わっていることを前提とすると、これは組織としての大胆な改革を進めるチャンスとも言えるわけです。
杉本:今は技術革新によって、鉄道グループが交通や流通、不動産、旅行などの各事業をトータルで扱えるCRM基盤が実現しています。「電車に乗ってくれた人にはポイントを10倍付ける」「特定の日に買い物をしてくれた人には帰りの運賃をタダにする」といったことも技術的には可能ですし、既にポイントプログラムはいろんなところで手掛けられていますよね。

ですから、IC乗車券に電子マネーやポイント、クレジット機能を付加することで、データの幅や質は大きく広がり、さらにはグループ外の移動や消費データも活用できるでしょう。それをいかにお客さまのために、地域のために活用できるか。そういった全体設計の経営思想を持って、生活者起点で革新していくことがWell-being時代の鉄道会社の役割として重要ではないでしょうか。
山田:その点で、私たちギックスがお役に立てることがたくさんあると考えています。いずれにしろこれからの鉄道会社は、移動中だけではなく、仕事や買い物、旅行などでのお出かけ先、さらにはお出かけ前後の家の中までも含んだ24時間365日全体をUXとして捉えることで、フィールドが大きく広がっていくのではないかと思います。そういう視点でデータをうまく組み合わせ、連携して使うことが求められていくのではないでしょうか。

移動手段の鉄道と、移動目的となる施設、地域の各事業者を巻き込んで施策を展開できることは、鉄道会社の最大の強みだと思います。このような業界ならではの価値を生かすような支援を、鉄道業界以外の領域も含めて、電通コンサルティングさんとともに行っていけたらうれしいですね。

 


 

前編では現在、鉄道会社グループにおけるさまざまなアジェンダを取り上げるとともに、グループ全体のデータを統合的に活用することで、地域の生活者に寄り添った、新たなビジネス創造のチャンスがあることが議論されました。後編では、さらに具体的に鉄道会社による街づくりや、地域活性化のためのDI戦略の可能性について掘り下げます。

データに基づく判断は今後あらゆる業界で求められていくでしょう。有機化学分野の研究者でもあるギックスの山田氏いわく、「データ分析と化学の実験はとても似ている」。トライアンドエラーでPoC(Proof of Concept:概念実証)サイクルにつなげていく化学実験と同様、データ分析を繰り返してPDCAサイクルを回し業務改善を行っていくギックスの「DI(データインフォームド)」は、電通コンサルティングの「グロースコンサルティング」を掛け合わせることで、より大きな価値を提供していきます。DIやデータ活用による業務改善に興味のある方は、CONTACTよりお気軽にお問い合わせください。

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株式会社電通コンサルティング

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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