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2023/06/15

人生100年時代をより良く暮らすために。人と生活研究所が進める「これからのウェルビーイング」(前編)

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株式会社 電通マクロミルインサイト(以下、DMI)は、市場調査やユーザー調査、それに基づいたマーケティング戦略の立案などを手掛ける、マーケティングリサーチ会社です。同社内の組織である「人と生活研究所」では、ビジネスポテンシャルのある多様な研究テーマを設け、生活者インサイトやトレンドといった研究成果をリリースしてきました。生活者インサイトに基づく数年先の未来予測をまとめた調査結果については、こちらの記事でも紹介しています。

2020年からは、「どのような状態を人は幸せと思うか」を解き明かす「ウェルビーイング研究」を重要なテーマの1つとして、企業活動のヒントとなる取り組みをしています。なぜウェルビーイングに着目したのか、調査の結果から見えてきた幸せの形とは何なのか。「人と生活研究所」工藤陽子氏へインタビューしました。

人が幸せと感じる状態をさらに踏み込んで捉えていく

Q.はじめに、工藤さんの経歴や仕事内容について教えてください。

工藤:新卒でDMI(旧:株式会社電通リサーチ)に入社して、10年ほど、定性調査の多いクライアントに伴走してきました。今振り返ると、その頃から生活者インサイトを探るような仕事を多くしていたような気がします。

その後、定量・定性・解析力をベースに、“人”を基点とした新しいソリューション手法を提供するほか、インサイトやトレンドに関する多角的なメソッドの開発、情報発信を行う「人と生活研究所」に異動しました。

10年少し前は、デザイン思考やエスノグラフィ(訪問観察調査)といった手法が注目されており、ホームビジット(家庭訪問観察調査)をして消費者の生活を文脈から見ることもしていました。その頃から生活者インサイトを探る際には、その人がどういう状態をより良い状態と望んでいるか、行動の背景や生活文脈から考えることを意識するようになりました。
株式会社 電通マクロミルインサイト 工藤 陽子氏
工藤:人と生活研究所の柱は2つあり、1つはマーケット理解・予測を目的とした「トレンド予測」「未来予測」です。もう1つは、生活インサイト理解を目的とした「ウェルビーイング研究」「欲求研究」で、私は研究では主にこちらに携わっています。人が幸せと感じる状態をもう一歩踏み込んで捉えていくために、専門家の方にインタビューしたり、DDD(Dentsu Desire Design)チームと消費・欲求の研究を進めたり、クライアントとワークセッションを行ったりしていますね。

コロナ禍で「良い生き方」を模索する人が増えた

Q.人と生活研究所は、なぜ「トレンド予測」と「ウェルビーイング研究」を2大柱に据えたのでしょうか?

工藤:価値観が多様化する時代において、「何が課題か分からない」「消費者のニーズが分からない」というふうに、課題自体がぼんやりとしている不安を抱えている企業は少なくないと思うのです。そのような企業に対して、未来予測(世の中がどうなるか)と、生活者視点(人の理解)を軸にしたソリューションを提供すると良いのではないかということで、「トレンド予測」と「ウェルビーイング研究」を中心に据えることになりました。

中心テーマの1つにウェルビーイングを選んだきっかけは、コロナ禍でした。あの時期、リモートワークが増えたことで組織内のつながりが弱まったり、家にいる時間が長くなったことで家族との関係が深まったりするなど、当たり前が変わり、価値観が揺らいだ人が多かったと思います。社会全体としても、「良い生き方ってなんだろう」と、それまでの生き方を問い直すような動きが出てきました。そこで、企業成長支援においてウェルビーイングの要素を入れるようなアクションやサポートができないだろうかと考えたのです。

Q.では、実際にどのような研究をされているか、詳しく教えていただけますか。

工藤:生活者調査や専門家へのインタビューを行い、定期的に研究発表を行っています。現在、当社のホームページでは、第1段から第4弾までの研究成果を掲載しています。

第1弾研究発表である「コロナ以降のメンタルの良い変化分析」では、新型コロナウイルス流行以降「メンタルに良い変化が起きた」と回答した26%の人に着目しました。そこから、なぜ良い変化が起きたのかを掘り下げ、コロナ禍を踏まえたウェルビーイングにつながるヒントを探りました。

続く第2弾研究発表では、「コロナ以降のメンタルの良い変化分析」の結果に対して、神経科学の専門家である青砥瑞人さんにインタビューし、専門的知見から「これからのウェルビーイング」についてお話しいただきました。

第3弾研究発表では、ウェルビーイングな商品・事業開発を促進するための「Happy Brain Card」を開発しました。これは、「人がポジティブに感じる時、脳の中では何が起きているか」といったニューロサイエンス観点から作成したカードで、商品・事業・サービスなどのアイデアを発想するためのヒントとしてお使いいただけます。

最新となる第4弾研究発表では、「生活者の主観的幸せの方向性分析」を行い、生活者はどのような瞬間に幸せを感じるのか、という具体的な「幸せ」の方向性を9因子にまとめました。

新しいアイデアのカギになる、生活者の「幸せの方向性」

Q.どの研究も気になりますが、まずは最新の研究成果である「幸せの方向性9因子」について教えてください。

工藤:世の中には「人はこういうときに幸せを感じる」と言われていることがいろいろあると思います。例えば「自分に自信が持てた時」とか「何かにハマって夢中になっている時」などですね。そのように、ポジティブ心理学など過去の研究で幸せに関係があると考えられている項目を洗い出して、生活者にアンケートを行いました。それぞれの項目に対して幸せと感じるか否かを聞き、その結果を因子分析にかけてまとめたものが「幸せの方向性9因子」です。
工藤:具体的には、自己肯定する幸せ/志す幸せ/はまる幸せ/持つ幸せ/愛の幸せ/つながりの幸せ/利他の幸せ/解き放たれる幸せ/笑う幸せの9つ。ボリュームとしては、「愛の幸せ」と「自己肯定する幸せ」が多く、「愛の幸せ」を感じる人は男性より女性の方が多いといった傾向も見えてきました。

Q.「幸せ」とひと口に言っても、どのようなタイプの幸せがあるかについて方向性を可視化したということですね。

工藤:リサーチ会社として、幸せの在り方を、専門家が言うのではなく、生活者視点で「幸せと感じるかどうか」を捉えること、そしてその方向性を可視化することが大事だと思いました。実際に幸せと感じるかどうかは生活者の主観なので。

そうすることで、商品がどんな幸せなら提供できるかその親和性が測れたり、商品のターゲットはどういう時に幸せを感じるだろうという問いの1つの手がかりになったりします。

プロモーションのアイデアを考える際にも役立つでしょう。プロモーションはシーズンに合わせて実施されることが多く、まずは「お正月」や「クリスマス」など、提供するシチュエーションがありますよね。

その「お正月」と「自己肯定する幸せ」を掛け合わせたら、どんなコンテクストが生まれるだろう、というふうに、より幸せな経験をアシストするアイデアの手がかりになるのが「幸せの方向性9因子」なんです。

Q.コストパフォーマンスや便利さではなく、ターゲットの「幸せ」や「ウェルビーイング」を軸にして、商品やサービスを開発するんですね。

工藤:そのような考え方が主流になりつつありますね。ウェルビーイングを軸に考えることで「ありたい未来」に近づく気がするんです。人を幸せな方向に導くような商品・サービスが増えると、未来が明るくなっていくのではないかと思っています。

 


 

人が幸せを感じる状態の法則を解き明かし、それをさらに深掘りしていくことで、ウェルビーイングという視点から企業活動を支援している「人と生活研究所」。続く後編では、同研究所が開発した「Happy Brain Card」と、ニューロサイエンスの観点から考える「幸せ」について深掘りしていきます。

コロナ禍をきっかけに、社会全体でこれまでの価値観や生き方を問い直す動きが出てきています。電通グループでは、「人と生活研究所」をはじめ、そうした生活者の動きや変化を分析し、そこから得られるマーケティングのヒントを提供しています。価値観が複雑に多様化している現在、消費者のニーズをどうくみ取れば良いか分からないという課題を抱えている担当者の方は、CONTACTよりお問い合わせください。

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株式会社 電通マクロミルインサイト

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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