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2022/07/08

「生活者視点」を取り入れた中長期戦略とは。急激な社会変化の中で、組織の未来を描くために(後編)

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コロナ禍で目まぐるしく世の中が変わり、以前に描いていた青写真のまま事業を展開していくことが困難になった企業は多いことでしょう。いつどんなことが起こるのか予測しづらい昨今、中長期戦略をどのように立てていけば良いのでしょうか。前編に引き続き、株式会社電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門の中溝由里絵氏に話を聞き、電通デジタルと株式会社電通コンサルティングが開発した発想支援ツール「未来曼荼羅」についても紹介しながら、より具体的に掘り下げていきます。

>>前編はこちら

「未来トレンド」をつかみ、自社と社会全体の関わり方という視点でトピックを掘り下げていく

Q.クライアントと共に中長期戦略を立てていく際、どのような材料を基に検討していくのか、教えていただけますか?

中溝:さまざまな方法がありますが、代表的なものの1つとして、電通デジタルと電通コンサルティングが共同でリリースした、「未来曼荼羅2022」というツールがあります。それを例にお話ししますね。

「未来曼荼羅2022」表紙

「未来曼荼羅2022」とは、近未来に起こることが予想される「未来トレンド」をまとめた発想支援ツール。中長期(3~5年)の期間において、確実に変化していくトレンド、変化する可能性が高い72のトレンドを「未来トレンド」として選定して、「①人口・世帯」「②社会・経済」「③科学・技術」「④まち・自然」の4つの領域に分けて1つのマップにまとめたものです。

「未来曼荼羅2022」未来トレンド72テーマと未来へのヒント・視点一覧

このツールは、「生活者の行動や気持ちがどのように変わっていくのか」というところにフォーカスを置いているのですが、その理由は、中長期にわたる新規事業やサービスを考えるためには、自社が得意とする領域だけではなく、社会全体とどう関わっていくか、という視点から検討する必要があるからです。また、「曼荼羅」という名称の通り、幅広いトピックを網羅していて、「未来曼荼羅2022」にざっと目を通すだけで、近未来に起こると予想されるトレンドを網羅的、かつ、クイックに把握できることが特長となっています。このツールを通じたコンサルティングサービスは、これまでも多くの顧客企業の経営戦略立案や事業シナリオの策定、商品開発に活用されており、いずれも高い評価をいただいています。

Q.「未来曼荼羅2022」を使って、具体的にクライアントとどのように話を進めていくのでしょうか?

中溝:まずは、クライアントに「未来曼荼羅2022」を閲覧していただき、自社への影響や、社会的な取り組み意義、個人的な興味などの視点で気になったトピックをピックアップしていただくところから始まります。それが、事業構想や新規サービスを検討していく最初の一手ですね。「未来曼荼羅2022」と年数が付いているところからも分かる通り、トレンドのトピックは、毎年1度見直してアップデートをしています。今年はサステナビリティ、ウェルビーイング、富裕層、貧困ビジネスなど7個のトピックを追加しました。メタバースやNFTにまつわる項目も増えていますね。特にメタバースは、2030年、2040年と先々の事業構想を見据える上で欠かせないキーワードです。代わりに、生涯現役、複業、創造教育など、もはや社会の認識として当たり前になっているようなトピックは統廃合し、改定しています。

ただ、「未来曼荼羅2022」は、3~5年先の未来をメインに見ていくツールなので、それより先の部分は網羅しにくい。ですので、これに加えて、私たちが事業環境変化をリサーチしたり、有識者にインタビューをしたりして、未来の予測を立てて事業構想の立案をサポートしています。

「未来曼荼羅2022」 Z世代の新しい価値観と消費行動

顧客接点と全社的に取り組む姿勢が、中長期戦略のカギとなる

Q.業種や事業内容、会社によって中長期戦略は当然変わってくると思います。しかし、それでも会社として先々生き残っていくために、どのクライアントにも当てはまる共通のテーマというのはあるのでしょうか?

中溝:「いかに顧客とつながるか」は共通する課題だと思います。例えば、これまでBtoBtoCで事業展開していた会社が、間に企業を挟まず直接、BtoCでやっていこうとしたときに、間にいた企業しか顧客データを持っていないとか、データを持っていても古くて顧客の解像度が上がらないという相談を受けることは多いですね。顧客を理解するには、適切な顧客接点を増やすことが重要です。

Q.中溝さんはメーカーへの出向経験もあると伺いましたが、事業会社で仕事をしたことで、気付いたことなどはありますか?

中溝:そうですね。前編でお話しした通り、私は某トイレタリーメーカーへの出向経験があります。その時に感じたのが、販売価格が200円ほどの洗剤を作るのにも、どれだけたくさんの人が、どれだけ年月をかけて、どれだけの熱意を持って関わっているかということです。そうしてようやく消費者に届けることができる。大企業はスタートアップのような熱意がないと言われることも多いですが、実は他社に負けないこだわりや熱意がある。なのに、顧客や社会にそれがうまく伝わっていないし、伝えようとしていない。この気付きは、今の仕事に生きていると感じています。

Q.そうした経験を踏まえ、事業会社において新規事業の立ち上げや新しい取り組みを成功させるためにはどのようなことがポイントになると感じましたか?

中溝:重要なのは全社一丸となった変革ではないでしょうか。うまくいっている企業はトップがしっかりコミットし、変革の意思が全社に伝わる施策を打ち出しているケースが多いのではないかと思います。あるクライアントから「D2C事業を始めたいけれど、実現につながらない」という相談を受けたことがあるのですが、その企業は事業環境分析を十分に行っていて、顧客へのリサーチを踏まえて具体的なアイデアも出している。では何がスタックしている要因だったかというと、「経営層を納得させることができない」という点が課題だったのです。なので、私たちがさせていただいたのは、経営層にも分かりやすく未来の展望や先々の事業環境を丁寧に説明していくようアドバイスする、ということでした。

ただもちろん、経営層だけにアプローチするのではなく、「全社を挙げて行う姿勢」も重要だと思います。どうしたら大きな企業を中から変えていくことができるのか。そんなことを出向から戻って考えて、企業の経営に近い部分に携わりたいと思い、私は今の部署に異動したんですが、いざやってみると、トップの方とお話しするだけでは組織は変わらない。社内のさまざまな立場の人の話を聞き、巻き込んでいくことが必要だと感じるようになりました。

部署を横断して、みんなで1つの未来を見据える。それが、中長期戦略を立て、実現していくためには不可欠なのではないでしょうか。

 


 

常に軌道修正を繰り返していく必要がある、事業の中長期戦略。先が読みづらい情勢だからこそ、数字だけにとらわれず、商品やサービスを購入する生活者の視点を軸に構想することも必要です。会社の存続、業界の展望、消費者の変化などについて、担当もトップも同じ未来を見据え、10年後、20年後、そしてその先の戦略を考えるべきなのではないでしょうか。

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株式会社電通デジタル

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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