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2022/03/02

統合報告書とサステナビリティの関係。今、統合報告書にダイバーシティ&インクルージョンが求められる理由とは(後編)

INDEX

統合報告書は、「企業の売上や資産などの定量的な財務情報」と、「企業統治やCSR、知的財産、経営理念、人財など、企業の強みを表す定性的な情報」の両方の観点から、その企業の価値についてまとめたものです。前編では、近年日本でもこの統合報告書を発行する企業が増えており、注目度が高まっている背景や、ダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みが投資家の判断材料となっている理由について、株式会社 電通グループ サステナビリティ推進オフィスの木下浩二氏に聞きました。続く後編では、統合報告書を作成する際の具体的なポイントや最近のトレンドについて聞いていきます。

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統合報告書は部署横断で作り、企業としての価値を社会に示す

Q.「統合報告書」の重要性はよく分かりました。ただ、自社のさまざまな側面を捉えて、中長期的な成長性を示していかなければいけないとなると、これを作るのはなかなか大変な作業ではないかという気がします。実際、統合報告書はどのように作られることが多いのでしょうか?

木下:やはり、1人で全部を作るというのはまず無理だと思います。通常のケースであれば、IR、CSRや経営企画担当などが情報を持ち寄って、部署横断的に作成することが多いと思います。自社がどういう企業であるのか、社会的にどのような位置付けなのかをしっかりと意識した上でないと作成はできません。単に事実の羅列だけでは不十分で、企業理念やCEOの示す経営方針を中核に据え、それを全社的にいかに具現化していくのかを示していく必要があります。

Q.部署横断的に進めるということですが、その中でも中心となるのはどういった役割の人が多いのでしょうか?

木下:IR担当が主幹になることが多いと思います。なぜなら、そもそも統合報告書は投資家向けに作られるもので、その投資家と日常的に向き合っているのはIR担当だからです。

IR担当者は主に、四半期ごとの業績や財務状況についてアナリストからの質問に回答するといった役割が中心だったかと思うのですが、今は投資家も「パーパス(企業の存在意義)」とか「企業理念の浸透度」などを確認するようになっています。ですから、細かい数字の話と、目指していく企業像の話と、どちらも見据えて話ができるようにならないといけなくなっています。

統合報告書におけるホットイシューや最近のトレンドは?

Q.ダイバーシティ&インクルージョンにまつわるテーマはさまざまあると思うのですが、特に「統合報告書を作る」という視点で見たときに、これがホットイシューだ、というテーマはありますか?

木下:もちろん、これが全てというわけではないですが、やはり最近よく注目されるのは「女性活躍」についての取り組みではないでしょうか。管理職に占める女性比率を開示した上で、それをどう向上させていくのか、というのはまず間違いなく問われます。加えて、従業員の心身や社会的な健康・幸福を実現する「ウェルビーイング」とか「ワークライフバランス」という領域です。例えば、男性も含めて育児休暇はどのくらい取得されているのかとか。つまりは働きやすく生産性の高まる労働環境をどう提供しているか、というところですね。

女性活躍の取り組みを進める意義は、もちろん「男性だけの集団よりも多様性がある」ということもあるのですが、何より「女性が働きやすい会社=男性が働きやすい会社」でもあるということです。だから、女性が働きやすいように環境を整えるということは、結果としてその企業で働く人のパフォーマンスを向上させ、企業としてのリソースを最大限活用できるような環境を構築しているということかと思います。

Q.最後に伺いたいのですが、前編で、「実は日本の統合報告書発行数は、世界の中でもかなりの数になっている」とのお話をいただきました。数が多いということ以外に、日本企業の統合報告書に関する特徴はあるのでしょうか?

木下:日本企業の統合報告書は、かなりフォーマット化しているところがあります。これについては諸説ありますが、投資家からの評価を意識しすぎて、ある意味でのリスク回避になっているからではないか、と私は思っています。

IIRC(国際統合報告評議会)がフレームワークを提唱した後に、主に監査法人系のコンサル会社などが「これからはESGが重要だ」ということで、企業の統合報告書導入を後押ししていった、という流れがあるのですが、その際にいわゆる「ひな形」としてのフォーマットが広がり、そのまま定着したということもあるかもしれません。

そのため日本企業の統合報告書の全体構成はほぼ同じ、という印象があります。

一例を示すと、

  • 企業概要
  • CEOインタビュー
  • CFOインタビュー
  • 価値創造モデル、ストーリー
  • 各事業部門の説明
  • ESGの取り組み
  • コーポレートガバナンス
  • 財務情報、株式関連情報

というような流れが、典型的なケースです。

しかし海外の企業は、冒頭に延々とグループの構成や事業の話をして、最後にCEOインタビューが出てくるなど、とにかく「自分たちがアピールしたいことを提示するのが大事」というコンセプトで作っているのかな、と思わせるものも数多く存在しています。

ただ最近では日本においても、特にトップの強いリーダーシップが発揮されているような企業では、かなりオリジナリティの高い統合報告書も見られるようになってきています。「独自性を出し過ぎて社外から評価されなくなるのでは」という考えもありますが、そういったところにも企業の性格というのが表れていると言えるかもしれません。

 


 

統合報告書には、企業の成長にまつわる全ての情報が含まれている、と言えます。ですから、それを作る人は、「目の前の数字」はもちろん、「そもそも自社は社会的にどういう存在であろうとしているのか」というコンセプトを核として持った上で、「それをどう実現しようとしているのか」という視点でストーリーを紡いでいく必要があります。そして、その成長のストーリーを語る上では、ダイバーシティ&インクルージョン領域についての取り組みをしっかり示すことが必須となっている、と言えます。なぜなら、人材こそ企業成長の全ての源であり、人材活用についてのビジョンがない企業は成長性を示せないと捉えられる可能性があるからです。

業務で統合報告書と関わりのない方も、一度自社の統合報告書をしっかり読んでおくとよいのではないでしょうか。そこには、自社がこれからどういう価値を社会に提供していこうとしているのかというメッセージが書かれています。今の自分の仕事を見つめ直し、より良い仕事をしていくきっかけとなるかもしれません。

あるいは、気になる企業や、取引先の企業の統合報告書に目を通しておくのも良いでしょう。強い企業はどこにその源泉があるのか。そこにどのような企業理念があるのか。ビジネスを進化させていく上で、重要なヒントを得られるのではないでしょうか。

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株式会社 電通グループ

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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