改正個人情報保護法が施行され、データ規制の厳格化が進んだことで、個人情報および個人関連情報の取得、利用、第三者提供の際には本人の同意取得義務が生じるようになりました。そのため、第三者機関が提供するサードパーティデータ(3rd Party Data)を活用したマーケティング施策が難しくなっています。
こうした中、注目を集めているのが、生活者がきちんと意思をもって企業と共有するゼロパーティデータ(Zero Party Data)です。このデータにはどのような特徴があり、どのような価値があるのでしょうか。今回は、株式会社電通デジタルでゼロパーティデータの活用提案を行う白髭良氏に2回にわたりインタビューを実施。前編では、ゼロパーティデータに注目が集まるようになった背景などについて話を聞きました。
マーケティングツールの進化に伴い、データ活用プロセスが変化
Q.昨今、「ゼロパーティデータ」がマーケティングのホットワードになっています。白髭さんは現在、電通デジタルでゼロパーティデータの活用提案を行っていますが、これまでどのような仕事をされてきたのでしょうか。
ですが、ビッグデータをフル活用するには、CDPで扱うデータだけでは足りません。CDPで使うのは、企業が保有するお客さまデータから、目的に応じて必要なものだけを抽出、加工した「データマート(Data Mart)」です。それだけではなく、加工されていないローデータを格納する「データレイク(Data Lake)」、データを活用できるようにある程度整理した「データウェアハウス(DWH:Data Ware House)」も使わなければなりません。そこで、私のキャリアもデータマートを中心に扱うCDPから、データレイク、データウェアハウス領域へと移っていき、現在は、データレイク、データウェアハウスの領域もカバーするツールの提案やサポート、さらにはそこに含まれるゼロパーティデータの活用提案もするのがメインミッションです。

Q.データマートだけでなく、データレイク、データウェアハウスのデータも扱うようになったのはなぜでしょう。
データ保護規制の厳格化に伴い、ゼロパーティデータの注目度が急上昇
Q.そもそもゼロパーティデータとは、具体的にどのようなデータのことを指すのでしょうか。
1.ユーザーが企業に対して意図的に共有するデータ。例えば、家電メーカーに機器をレコメンドしてもらうために、「こんな家電が好きです」とユーザー側から提供するデータを指します。
2.ファーストパーティデータよりも、もう少し個人の趣味や好みの傾向などに踏み込んだ嗜好性が強いデータ。
3.ユーザーが個人情報を守りたいと考える一方で、企業に「自分のことを分かってもらう」ためにあえて提供するデータ。
Q.ゼロパーティデータはまるで新しい概念であるかのように語られることも多いですが、「ユーザーが意図的・積極的に企業と共有する嗜好性の高いファーストパーティデータ」と考えられるのですね。このようなデータは、以前から収集されていたと思うのですが、今、ゼロパーティデータに注目が集まっている背景について、教えてください。
Q.私たちは以前から、アプリをインストールする時や商品購入時に企業へ嗜好性の高いデータを提供していましたが、テクノロジーの発達により活用度が上がったということでしょうか。それとも、ゼロパーティデータにはいろいろな活用法があったにもかかわらず、これまでは生かしきれていなかっただけなのでしょうか。
最近は、ロイヤルティマーケティング(企業・ブランドに対して愛着を抱き、利益貢献してくれる顧客を育成・維持するマーケティング手法)という言葉が使われるようになってきましたよね。まさにそういったことを実現するためのデータだと思います。
ユーザー心理を捉えたマーケティングには、ゼロパーティデータが不可欠
Q.白髭さんはゼロパーティデータの活用提案を行っていますが、企業からの相談案件はどのようなものが多いですか?
それは、第三者機関でのデータ収集が難しくなってきたということもありますが、それに加えて、今まで取り組んできたCRMの効果が薄れてきたからだと思います。これまで多くの企業では、お客さまとの関係性を維持する施策として、ポイントプログラムや会員ランクに応じたインセンティブの付与などが行われてきました。しかし、どの企業も同じような施策を行っているため、効果が表れにくくなっている面もあります。そのため、企業に愛着を抱き、リピーターになってもらうロイヤルティマーケティングの重要性が高まっているのではないでしょうか。

Q.自社に愛着を抱いてもらうには、何がカギになってくるのでしょうか。
お客さまの行動データ、SNSでの動向、感情、心理まで捉えないと「よく分かってるじゃん」というタイミングは分かりません。だからこそ、そのタイミングを知るために、お客さまの趣味嗜好を把握するゼロパーティデータとそのデータを取得する仕組みが必要になるのです。つまり、企業がお客さまを“おもてなし”するために、ゼロパーティデータが必要だと考えています。
Q.おもてなしというのは、非常に重要な視点ですね。データを収集するときに、「マーケティングを行うためです」というのと「おもてなしをするためです」というのとでは、ユーザーの受け止め方も大きく変わるような気がします。何のためにデータを収集するのか明確にすると、企業のスタンスやデータ設計自体も変わってきそうですが、いかがでしょう。
最近は、従来型のポイントプログラムを導入するだけでは、お客さまの心をつなぎとめるのが難しくなっています。企業に愛着と信頼を抱き、リピーターになってもらうには、1人ひとりに最適な体験を提供する必要があります。そのためには、お客さまの趣味嗜好を反映し、企業に対して積極的に提示するゼロパーティデータの取得が第一歩だということが分かってきました。
後編では、CRMやロイヤルティマーケティングを実践する上で欠かせないゼロパーティデータの取得方法、データを活用する上で大切な考え方について話を深めていきます。
デジタルマーケティングツールのプリセールスや活用コンサルティングを経験後、全チャネルの運用支援がしたいと電通デジタルに入社した白髭氏。電通グループには白髭氏のようなデータの分析や活用に経験と熱意のある人材が揃っており、改正個人情報保護法に対するさまざまなソリューションも提案しています。データの扱いにお困りの企業・団体の方は、ぜひお気軽にCONTACTよりお問い合わせください。