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2023/01/25

お客さま1人ひとりを“おもてなし”。ゼロパーティデータからCRMを考え直す(前編)

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改正個人情報保護法が施行され、データ規制の厳格化が進んだことで、個人情報および個人関連情報の取得、利用、第三者提供の際には本人の同意取得義務が生じるようになりました。そのため、第三者機関が提供するサードパーティデータ(3rd Party Data)を活用したマーケティング施策が難しくなっています。

こうした中、注目を集めているのが、生活者がきちんと意思をもって企業と共有するゼロパーティデータ(Zero Party Data)です。このデータにはどのような特徴があり、どのような価値があるのでしょうか。今回は、株式会社電通デジタルでゼロパーティデータの活用提案を行う白髭良氏に2回にわたりインタビューを実施。前編では、ゼロパーティデータに注目が集まるようになった背景などについて話を聞きました。

マーケティングツールの進化に伴い、データ活用プロセスが変化

Q.昨今、「ゼロパーティデータ」がマーケティングのホットワードになっています。白髭さんは現在、電通デジタルでゼロパーティデータの活用提案を行っていますが、これまでどのような仕事をされてきたのでしょうか。

白髭: 2017年に電通デジタル入社後は、まずDMP(Data Management Platform/第三者から提供される匿名の顧客情報を一元管理するシステム)やCDP(Customer Data Platform/自社で取得した顧客情報を一元管理するシステム)の導入・運用支援に取り組みました。

ですが、ビッグデータをフル活用するには、CDPで扱うデータだけでは足りません。CDPで使うのは、企業が保有するお客さまデータから、目的に応じて必要なものだけを抽出、加工した「データマート(Data Mart)」です。それだけではなく、加工されていないローデータを格納する「データレイク(Data Lake)」、データを活用できるようにある程度整理した「データウェアハウス(DWH:Data Ware House)」も使わなければなりません。そこで、私のキャリアもデータマートを中心に扱うCDPから、データレイク、データウェアハウス領域へと移っていき、現在は、データレイク、データウェアハウスの領域もカバーするツールの提案やサポート、さらにはそこに含まれるゼロパーティデータの活用提案もするのがメインミッションです。
株式会社電通デジタル 白髭 良氏

Q.データマートだけでなく、データレイク、データウェアハウスのデータも扱うようになったのはなぜでしょう。

白髭:データ分析や分析に基づく施策を行う際、これまではクライアント企業の基幹システムから必要なデータだけを引き出し、データマートを作るという作業がメインでした。ですが、その方法では時間が掛かります。あらゆるデータをデータレイクに入れておき、その中から活用できそうなデータを探して使える状態にして、データウェアハウスに格納する。その際にビッグデータの分析も行い、いつでもデータマートに持っていけるようにする。そういったベースの基盤作りから手掛けるようになり、これまでSIerが行っていた領域も担えるようになりました。今まではSIerと広告会社、コンサルティング会社で仕事が分かれていましたが、現在はそれらが徐々に融合されつつあるイメージです。

データ保護規制の厳格化に伴い、ゼロパーティデータの注目度が急上昇

Q.そもそもゼロパーティデータとは、具体的にどのようなデータのことを指すのでしょうか。

白髭:データには、自社が収集・保有するファーストパーティデータ(1st Party Data)、特定のパートナー企業から提供してもらうセカンドパーティデータ(2nd Party Data)、第三者機関が提供するサードパーティデータ(3rd Party Data)があります。ゼロパーティデータは、ファーストパーティデータの一種であり、以下の3つの定義を満たすデータです。

1.ユーザーが企業に対して意図的に共有するデータ。例えば、家電メーカーに機器をレコメンドしてもらうために、「こんな家電が好きです」とユーザー側から提供するデータを指します。

2.ファーストパーティデータよりも、もう少し個人の趣味や好みの傾向などに踏み込んだ嗜好性が強いデータ。

3.ユーザーが個人情報を守りたいと考える一方で、企業に「自分のことを分かってもらう」ためにあえて提供するデータ。

Q.ゼロパーティデータはまるで新しい概念であるかのように語られることも多いですが、「ユーザーが意図的・積極的に企業と共有する嗜好性の高いファーストパーティデータ」と考えられるのですね。このようなデータは、以前から収集されていたと思うのですが、今、ゼロパーティデータに注目が集まっている背景について、教えてください。

白髭:背景としては、やはりデータ保護規制の厳格化ですね。プライバシー保護の観点から改正個人情報保護法が施行され、サードパーティデータの収集に使われるCookieの利用廃止、IDFA取得オプトイン化(iOS端末で個人情報などのデータ提供可否をユーザー側が選択すること)、プラットフォーマーによる規制強化などが進み、データ収集に関する規制が強まっています。これまでのようにデータを収集できなくなっているため、あらためてファーストパーティデータの分析、施策が重要視されるようになりました。こうした流れの中でCRM(顧客関係管理)に取り組むために、ゼロパーティデータが注目されているのだと思います。

Q.私たちは以前から、アプリをインストールする時や商品購入時に企業へ嗜好性の高いデータを提供していましたが、テクノロジーの発達により活用度が上がったということでしょうか。それとも、ゼロパーティデータにはいろいろな活用法があったにもかかわらず、これまでは生かしきれていなかっただけなのでしょうか。

白髭:以前から、CRMに注力する企業はゼロパーティデータを活用していました。例えば、あるアパレル系EC企業が、お客さまの体型サイズデータを収集し、最適なサイズの洋服をレコメンドするという取り組みを行ったことがありましたよね。あの施策で収集したのが、今で言うゼロパーティデータです。つまり、ゼロパーティデータ自体は以前からあったものの、それを基にお客さまにサービスを展開できる企業が少なかったのではないかと思います。

最近は、ロイヤルティマーケティング(企業・ブランドに対して愛着を抱き、利益貢献してくれる顧客を育成・維持するマーケティング手法)という言葉が使われるようになってきましたよね。まさにそういったことを実現するためのデータだと思います。

ユーザー心理を捉えたマーケティングには、ゼロパーティデータが不可欠

Q.白髭さんはゼロパーティデータの活用提案を行っていますが、企業からの相談案件はどのようなものが多いですか?

白髭:ゼロパーティデータを主題に置いたご相談が来るケースはあまり多くありません。どちらかというと、「CRMに力を入れたい」「あらためてファーストパーティデータを収集したい」「今注目のロイヤルティマーケティングにトライしたい」といったご相談を受け、それにはゼロパーティデータが必要だと提案するケースが多いですね。ロイヤルティマーケティングに関するお問い合わせは、目に見えて増えています。

それは、第三者機関でのデータ収集が難しくなってきたということもありますが、それに加えて、今まで取り組んできたCRMの効果が薄れてきたからだと思います。これまで多くの企業では、お客さまとの関係性を維持する施策として、ポイントプログラムや会員ランクに応じたインセンティブの付与などが行われてきました。しかし、どの企業も同じような施策を行っているため、効果が表れにくくなっている面もあります。そのため、企業に愛着を抱き、リピーターになってもらうロイヤルティマーケティングの重要性が高まっているのではないでしょうか。

Q.自社に愛着を抱いてもらうには、何がカギになってくるのでしょうか。

白髭:ポイントなどによるお得感だけでなく、お客さまとその企業の接点、ステータスに応じたお客さまの優越感・特別感を感じてもらうことが重要だと思います。分かりやすく言うと、お客さまに「私のこと、よく分かってるじゃん」と思ってもらえるタイミングを逃さないということです。

お客さまの行動データ、SNSでの動向、感情、心理まで捉えないと「よく分かってるじゃん」というタイミングは分かりません。だからこそ、そのタイミングを知るために、お客さまの趣味嗜好を把握するゼロパーティデータとそのデータを取得する仕組みが必要になるのです。つまり、企業がお客さまを“おもてなし”するために、ゼロパーティデータが必要だと考えています。

Q.おもてなしというのは、非常に重要な視点ですね。データを収集するときに、「マーケティングを行うためです」というのと「おもてなしをするためです」というのとでは、ユーザーの受け止め方も大きく変わるような気がします。何のためにデータを収集するのか明確にすると、企業のスタンスやデータ設計自体も変わってきそうですが、いかがでしょう。

白髭:そうですね。ユーザーに対して、「こういうお客さま体験を提供するために、データを集めています」と分かりやすく伝え、その意図を理解していただく必要があると考えます。まずは、「このデータを送れば、あなたにとってこんなにいいことがあります」とユーザーにきちんと示すことが重要ではないでしょうか。

 


 

最近は、従来型のポイントプログラムを導入するだけでは、お客さまの心をつなぎとめるのが難しくなっています。企業に愛着と信頼を抱き、リピーターになってもらうには、1人ひとりに最適な体験を提供する必要があります。そのためには、お客さまの趣味嗜好を反映し、企業に対して積極的に提示するゼロパーティデータの取得が第一歩だということが分かってきました。

後編では、CRMやロイヤルティマーケティングを実践する上で欠かせないゼロパーティデータの取得方法、データを活用する上で大切な考え方について話を深めていきます。

デジタルマーケティングツールのプリセールスや活用コンサルティングを経験後、全チャネルの運用支援がしたいと電通デジタルに入社した白髭氏。電通グループには白髭氏のようなデータの分析や活用に経験と熱意のある人材が揃っており、改正個人情報保護法に対するさまざまなソリューションも提案しています。データの扱いにお困りの企業・団体の方は、ぜひお気軽にCONTACTよりお問い合わせください。

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株式会社電通デジタル

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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