人の処理能力を超え、爆発的に増え続ける情報量の中で育ってきたZ世代。彼らはどのような価値観に基づいて情報を取捨選択しているのでしょうか。Z世代を象徴するキーワード「タイパ(タイムパフォーマンス)」を軸に、Z世代の価値観や消費行動について、電通若者研究部としても活動する、株式会社 電通 サステナビリティコンサルティング室/Future Creative Centerの用丸雅也氏に話を聞きました。前編と後編の2回に分けてお届けします。
五感をフルに使う「タイパ」時代のコンテンツ受容
Q.まずは、用丸さんの仕事内容や専門領域について教えてください。
加えて、「電通若者研究部」としても活動しています。電通若者研究部は、10〜20代の若者の実態を調査し、若者と社会がより良い関係性を築くためのヒントを探るプランニング&クリエーティブユニットです。

Q.電通若者研究部の活動などを通じて、Z世代と接することも多いそうですね。Z世代の間では、映画を倍速視聴したり、作業をしながら動画を見たりすることが当たり前になりつつあり、「タイパ(タイムパフォーマンス:時間対効果)」といったトレンドワードも生まれていますよね。「タイパ」がここまで注目されるようになった背景について、どのように分析されていますか。
数十秒から1分程度のショート動画のようなファストコンテンツが増えていますし、CMもWebを中心に数秒程度の短いものに変わってきていますよね。
また、今ではテレビを見ながらスマートフォンやタブレットなど複数の端末を操作するのは当たり前。ここにも、タイパの時代らしい消費の在り方が表れていると思います。さらに、効率良く情報を得るためには五感をフルに使います。目と手が埋まっていても、耳が空いていれば、音声を聴く。「ながら聴き」できる音声配信サービスが伸びているのはこのためではないでしょうか。タイパの意識が高まると同時に、家事や作業をしながら聴ける「耳市場」も伸びているというのが現状です。
Q.Z世代は、YouTubeの20〜30分の動画すら長いと感じるようですね。
今や、映画は非常にリッチな体験になりました。1コンテンツに2〜3時間費やすという、ハードルが高いものになってしまったんです。Web動画の場合、時間経過を示すバーがあるだけでなく、特によく再生されているシーン、つまりコンテンツの“山場”が分かる機能も備えているようなものもあります。「ここだけ見ればいい」というのは、タイパの時代ならではの価値観ですね。
直感型のコンテンツがヒットする理由とは?
Q.映画や動画以外のコンテンツでは、どのような価値観の変動が起きていると感じますか?
最近、TikTokなどをきっかけに若者の間でブームになる曲には、共感性やメッセージ性のある歌詞よりも、思わず耳を傾けてしまうような語感の良い言葉をリズムに乗せて繰り返す、中毒性があるものが多いと感じています。コンテンツが溢れる中でも埋もれない強度を持つ響きとリズムでヒットするというのが、タイパの時代らしさかもしれません。
そもそもTikTokのすごいところは、アプリを開いた瞬間に映像が出てくること。それまでのメディアは、自分で観たい動画を選ぶなど、何らかのアクションをする必要がありましたが、起動した瞬間からどんどん動画が流れてくる仕組みは革新的だったと思います。効率良く情報を表示するという点で、タイパの時代にマッチしたんですね。

Q.情報の選び方などに変化はありますか?
そのような変化を経て、今は「アルゴる」の時代に移り変わりつつある。これは「アルゴリズム」に「る」を足したもので、私の造語です。要は、意思決定すらせず、アルゴリズムに任せるということですね。人気の動画プラットフォームは、自分が見てきたコンテンツに応じて、アルゴリズムが判断して、「おすすめ」を提示してくれるじゃないですか。自分の好きなものをAIに把握させておき、お任せした方が、求める情報にスピーディーにたどり着きやすくなっているという状況が起きていると言えます。
情報過多の時代になり、限られた時間の中でなるべく効率的に情報を処理したい、そんな考えから生まれた「タイパ」。こうした若い世代の価値観の変化は、映画や音楽などのコンテンツをはじめ、生活やビジネスのさまざまなシーンに影響を与えていることが分かりました。後編では、タイパ時代に求められるクリエーティビティやビジネスの在り方についても深掘りしていきます。
これからの消費トレンドを考える上で、Z世代の価値観やライフスタイルを理解することは重要です。電通グループには、Z世代のインサイトを読み解き、ビジネスやマーケティング施策につなげるための豊富な知見、ノウハウがあります。ぜひCONTACTよりお問い合わせください。
※ J-クレジット: CO2の排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。企業などが省エネ設備の導入や再生エネルギーの利用などによってCO2を削減した際に、その削減価値を「クレジット」として売却することができる。