費やした時間に対してそれ相応の満足や成果を得たい、という「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する価値観は、Z世代の大きな特徴の1つだと言われています。株式会社 電通 サステナビリティコンサルティング室/Future Creative Centerの用丸雅也氏へのインタビュー後編では、タイパ時代に求められるクリエーティビティや、フォーカスすべきZ世代の性質について聞きました。
ネタバレを前提に「それでも見たい」コンテンツを作る
Q.前編では、タイパの概念と、Z世代の消費行動についてお聞きしました。昨今、コンテンツは供給過多で「一生懸命制作しても、なかなか見てもらえない」といった文脈で語られることも多いですが、用丸さんはどのようにお考えですか?
タイパの意識が高まっているといっても、皆、好きなことには時間を割くじゃないですか。つまり、タイパの時代だからといって、時間効率の良いコンテンツばかり作って届ければいいわけではないのではない。むしろ、タイパの時代だからこそ、クリエーターやマーケターは「時間をかけてもいいから見たい」と思われるコンテンツを作る意識を持たなければいけないのではないか、と私は思います。
Q.最近では、マーケティング界隈でも「早送りされるのが前提」「冒頭3秒が勝負」みたいなこともよく言われますが、用丸さんがおっしゃる通り、長くても見たいと思えるものを作ろうという考え方は健全だと思いますし、その方が持続性がある気がします。
例えば、「話題のあの作品を10分で説明します」みたいな短い動画を投稿する人がいて、「ファスト映画」と呼ばれ、問題になっていますよね。著作権上問題があるのはもちろん、ネタバレが広まることは興行収入にも影響を与えかねません。しかし、SNS全盛の時代にネタバレを完全に防ぐのは難しいというのも現実です。そうなると、ネタバレが起きることを前提にして、結末が分かっていても観に行きたくなる作品を作ることが、今、コンテンツ供給側に課されていることではないでしょうか。タイパの時代だからこそ、本腰を据えて、コンテンツを作り込むことが大切だと思います。

どんな時代も人の心を動かすのは「グッとくるかどうか」
Q.ここ数年、タイパを含め、これまでの世代にはなかった新しい概念が次々と登場しています。用丸さんも「Z世代向けのアイデアが欲しい」といった依頼を受けることが増えているのではないでしょうか?
ただ、どんな時代も人を動かすのは感情で、商品やサービスが心にグッとくるものでなければ、生活者やユーザーから選んでもらえません。いくら世代や価値観が変化しても、そこは変わらない。だから、クライアントさまにも「最後に大事なのは、クリエーティビティ」とお伝えしています。
Q.さまざまな相談や依頼を受ける中で「Z世代について勘違いされている」と感じることはありますか?
また、「タイパ」も含め、Z世代を象徴するキーワードはたくさんあります。ただし、これらはあくまで「キーワード」であって、「インサイト」ではない。どうしても「Z世代は‥‥‥」というふうに大きく括って、マジョリティーをターゲットに話を進めがちですが、マイノリティー、もっと言うなら1人ひとりと向き合わなければ、良いものは生まれないと思っています。

Z世代のアイデアを生かす、ビジネスの新しい生態系
Q.これからのZ世代はどのようになっていくでしょうか?注目しているトレンドや、Z世代の特性が生かされそうな取り組みなどがあれば教えてください。
今、日本でベンチャーキャピタルやエンジェル投資家が増えていますが、これも行動力ある若者の情熱に投資しようと考える人が増えた結果だと思います。「イノベーションは、“若者”と“バカ者”と“よそ者”から始まる」とも言われていますが、そういった存在を阻害しない社会になっていけばいいですね。
Q.「若者の意見を聞こう」ではなく、Z世代が活躍できる環境をつくることを考え始めると、企業や組織の在り方そのものが変わっていく気がしますね。
選択肢が多いタイパ重視の時代だからこそ、クリエーティブにこだわり「時間をかけてでも見たい」と思われる良質なコンテンツを作ることが重要。このことは、コンテンツ産業に限らず、さまざまな商品・サービスの開発やマーケティング施策においても求められていくのではないでしょうか。さらに、Z世代の価値観や特性を知り、それを生かせる組織をつくることは、新しい時代を切り開くためのファクターとなるでしょう。
電通若者研究部をはじめ、電通グループではZ世代の価値観や消費行動について、さまざまな角度から調査・研究を行っています。「Z世代のトレンドを知りたい」「若い世代に刺さるクリエーティブを追求したい」といった思いをお持ちの方、お気軽にCONTACTよりご相談ください。