CX
2023/06/27

「暮らしの変化」を、注目のアイテム・事象からキャッチ。「キザシ発掘ラボ」が捉える消費のキザシ(後編)

INDEX

流通小売業や外食産業など、店舗型事業を展開する企業のマーケティング・プロモーションに対して高い専門性を持つ株式会社 電通tempo。社内プロジェクト「キザシ発掘ラボ」では、生活者の暮らしの変化を把握・分析することで、“消費のキザシ”を発掘しています。

その活動の中でも今回注目するのが、次なるトレンドの芽となる“キザシのたまご”から生活者の暮らしの変化を分析する取り組みです。前編では定例会レポートおよびプロジェクトリーダー・永野薫氏のインタビューをお届けしましたが、後編では、プロジェクトメンバーの太田菜々美氏、杉田智恵氏、中瀬奈津子氏にも話を聞き、今注目している消費動向や、トレンド総括について深掘りしていきます。

生活者に新たな価値を提供する“キザシのたまご”探し

Q.今回は、「キザシ発掘ラボ」で消費志向を分析している皆さんにお集まりいただきました。皆さんが感じるこのプロジェクトの面白さ、最近見つけた“キザシのたまご”について教えてください。

中瀬:“キザシのたまご”を持ち寄る時には、なぜそのアイテムや事象が注目を集めているのか、背景まできちんと説明できる状態でトピックを収集するようにしています。新聞や雑誌、ネット記事を見てちょっと引っ掛かったけれど、その時は背景まで踏み込み切れずに“たまご”にし切れなかったものが、数カ月経って「あ、この消費マインドとひも付くかも」と気付いた時、“キザシのたまご”を生み出す醍醐味を感じますね。

最近取り上げた“キザシのたまご”は、『毒のある笑いへの揺り戻し』。少し前は誰も傷付けない優しいお笑いが人気と言われていましたが、昨年(2022年)末の漫才コンテストから潮目が変わったなと思いました。
株式会社 電通tempo 中瀬 奈津子氏
太田:私も中瀬さんと同じ番組を見ていましたが、中瀬さんのような視点は持てず、悔しい思いをしました(笑)。このように、メンバーそれぞれが違う視点を持っているのが、このプロジェクトの面白さだと思います。

私が気になっているのは、タイパ(時間対効果)、スペパ(空間対効果)のようなパフォーマンス意識です。

スペパでは、「ステルス家電」も注目を集めています。珪藻土入りのバスマットと体重計が一体化し、バスマットに乗るだけで体重測定もできるという商品があり、面白いなと思いました。
杉田:私は、コロナ禍の行動規制が緩和する中、生活者がどのように変化していくのか、そしてコロナ禍で定着した習慣の中からどの行動を継続して、どんな価値が新しく生まれるのかが気になっています。

最近注目しているのは、ある新しい形態のスナックです。幅広い世代の交流を目的としているので、従来のスナックと違って、カラオケなし、深夜営業なしで、若者でも入りやすい雰囲気。あるアーティストのファンが入れたボトルを同じアーティストのファンなら1杯無料で飲めるというお店もあり、共通の趣味などをきっかけに世代を超えた交流が生まれています。人との関わりが制限されてきた反動で、リアルなつながりを持つことへの関心が高まっているのではないかと思います。
株式会社 電通tempo 杉田 智恵氏

Q.“キザシのたまご”は、「今これが売れている」というヒット商品だけではなく、世の中の傾向を表わすものでも取り上げられているんですね。

永野:むしろ既にたくさん売れているとかトレンドになっているものは、みんなスルーすることが多いですね。生活者に新たな価値を提供できているものを持ち寄っています。新しいSNS、対話型AIアプリなどのサービス、エシカル、タイパといったキーワードはよく話題になります。
中瀬:例えば、最近では「配偶者の呼称」も“キザシのたまご”として話題に挙がりました。夫が配偶者を誰かに紹介する時に、「奥さん」「嫁」と呼ぶことは多いのではないでしょうか。でも、現在は6割の女性が「妻」と呼ばれたがっているそうです。これもダイバーシティの普及や家族観の変化が背景にあるのではないかと捉えています。

Q.こうして分析したトレンドを、どのように消費インサイトやクライアントへの提案に結び付けていくのでしょう。

永野:クライアントへのご提案につなげることもあれば、直接結び付かないこともあります。ですが、最新の消費動向を捉えるだけでも大きな意味があります。例えば、先ほど話に挙がった女性配偶者の呼称は、女性の役割、ダイバーシティにもつながってきます。昔のように「家事をするのは母親」と限定するメッセージを打ち出すことは、今はしないですよね。時代に即したメッセージを発信するためにも、こうしたアンテナを張っておくべきだなと思います。

注目は、気持ちを底上げする「“FUN”重視の選別消費」

Q.では、最新の「消費者マインドMAP」をもとに、今の消費志向を表わすキーワードについて、説明をお願いできますか?

永野:メインキーワードは、「“FUN”重視の選別消費」。心のマイナスをプラスにし、“キモチを底上げ”する消費が活発化していると分析しました。

サブキーワードは5つあります。第一に「“アガる”エシカル消費」。今、どの企業もエシカルに注目しています。そこから一歩進み、その商品に共感できる、気分がアガるといった情緒的な価値がないと選んでもらえなくなっている傾向があります。消費欲求の原点回帰が始まっているように思いますね。

第二に「ポジティブ生活防衛」。長引くデフレや物価高で、今や節約するのは当たり前。でも、節約をネガティブに捉えず、野菜をより安く買うために詰め放題を行うなど、よりエンタメ性が求められるようになっています。

第三に「気分の安定志向」。コロナ禍が続いた上、物価高、ウクライナ情勢など、世の中は重いニュースにあふれています。こうした中で気持ちを安定させるために、あえて暗い情報を排除し、気分が楽しくなるものを選別し、そこに価値を見いだしているように感じます。

第四に、「人の魅力への原点回帰」。コロナ禍でリモートワークやDXが加速・浸透しましたが、その反動で人の感情、ぬくもりなどの価値があらためて見直されています。今後は、五感を刺激する体験やホスピタリティのある接客が改めて見直されるなど、リアル店舗の重要性も高まるのではないかと思います。

最後に「アイデンティティ消費」。Z世代を中心に、堅実的な自分らしさの追求、手堅く手軽に自己表現したいというニーズが拡大しています。自分らしい世界観を表現する“自分映え”、パーソナルカラー診断や骨格診断などの診断ブームもその表れではないかと思います。

Q.どれも納得度が高いですね。では、最後に皆さんが今後注目したい事象について教えてください。

中瀬:タイパを細分化し、もっと掘り下げていきたいと思います。例えば、両手をふさぐハンドウォーマーが注目されましたが、これは「忙しすぎるので、あえて何もせずにゆっくり過ごしたい」という意識なのか、「あえて何もしない時間を作ると、その後の効率が上がる」という戦略的な考えなのか。タイパの加速や浸透度によって意識も変わるので、どう進化していくのか注目したいです。
太田:私は、ウェルビーイングに注目しています。多くの企業がウェルビーイングを目指していますが、体の健康、心の健康などいろいろな要素が入ってきて、それぞれ定義が違うんですよね。今後はより解像度高く捉えていきたいです。
株式会社 電通tempo 太田 菜々美氏
杉田:私はZ世代の動向に注目しています。Z世代は、他の世代とは違う価値観を持ち、消費意識の移り変わりも速い傾向があります。その上、高校・大学時代はコロナ禍で行動が制限されていたので、今後どう弾けていくのか、価値観をどのように維持し、どう変化させていくのか、これからも追いかけていきたいですね。

 


 

ただ流行りものを先取りするのではなく、生活者意識を読み解き、時代の風向きまでキャッチする「キザシ発掘ラボ」。クライアント企業さまへのマーケティング・プロモーション提案に結び付けるだけでなく、企業が今の時代に発するべきメッセージ、ブランディング戦略にも関わるプロジェクトと言えるのではないでしょうか。

電通グループでは、流通小売業に限らず、さまざまな領域のプロフェッショナルが消費インサイトを捉えたマーケティング施策を提案しています。ぜひCONTACTからお問い合わせください。

この記事の企業サイトを見る
株式会社 電通tempo

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

RELATED CONTENTSあわせて読みたい
CX
「タイパ」はコンテンツをどう変える?Z世代の実態から考える、これからのクリエーティブ(前編)
株式会社 電通 サステナビリティコンサルティング室 / Future Creative Center用丸 雅也 Masaya Yomaru
BX
Z世代起点のインクルージョンが、DEI&B推進のドライバーに(前編)
株式会社電通デジタル デジタルネイティブルーム / YNGpot.™ 共同代表、ビジネストランスフォーメーション部門 マーケティングイノベーションデザイン事業部 / コンサルタント松崎 裕太 Yuta Matsuzaki , 株式会社電通デジタル ビジネストランスフォーメーション部門 マーケティングイノベーションデザイン事業部永田 雅宗 Masamune Nagata , 株式会社 電通 サステナビリティコンサルティング室 / ディレクター田中 理絵 Rie Tanaka
DX
ESG経営の効果を可視化する。複雑な問題をAIで読み解く試みとは(前編)
株式会社電通国際情報サービス X(クロス)イノベーション本部 / テクノロジー&イノベーションユニット長兼オープンイノベーションラボ所長坂井 邦治 Kuniharu Sakai , 株式会社電通国際情報サービス X(クロス)イノベーション本部 オープンイノベーションラボ / シニアコンサルタント松山 普一 Hirokazu Matsuyama , 株式会社アイティアイディ R&CDユニット ユニットディレクター蟹江 淳  Jun Kanie
AX
サステナビリティ・ネイティブなZ世代。キーワードは「意味」と「透明性」
株式会社電通 第2クリエーティブプランニング局 Future Creative Center / ブランディングディレクター用丸 雅也 Masaya Yomaru
BX
BNPLはZ世代になぜ人気?後払いの新しい決済スタイルとは。魅力的なCXのヒントにも
DX
DIで進化するB2Cグロース戦略を、コロナ禍の「鉄道業界」を例に考える(前編)
株式会社ギックス 執行役員、Data-Informed事業副本部長、Design & Science Div. Leader山田 洋 Hiroshi Yamada , 株式会社電通コンサルティング 専務執行役員、シニアパートナー杉本 将隆 Masataka Sugimoto
VIEW MORE POSTSCLOSE
RECOMMEND CONTENTSTSCからのおすすめ
VIEW MORE POSTSCLOSE