在宅ワークの浸透と、自宅で食事をとる「内食」の機会増加などを背景に、近年、国内食品のEC化率が上昇しています。また、デジタル化によって消費者と企業の双方向のコミュニケーションが可能になり、より嗜好に合った選択や体験価値を重視する傾向も強まっています。
こうした状況を受け、企業やブランドが自ら企画・製造した商品を直接消費者に販売するD2Cサイトへの注目が高まる中、味の素株式会社は2023年1月、新たなD2Cサイト「GOOOD GOOOD TABLE」(グーグーテーブル)を公開しました。
今回は、このサイトの立ち上げと運用に携わる、株式会社電通デジタルの堀田顕人氏と佐々木大介氏にインタビューを実施。「GOOOD GOOOD TABLE」を事例とした、D2Cサイト運営のポイントやECサイトの在り方について話を聞きました。
大手企業ECの「あるある課題」に対し、D2Cができること
Q.まずは「GOOOD GOOOD TABLE」の概要について、教えていただけますか?
堀田:「GOOOD GOOOD TABLE」は、味の素が提供する食に関するD2Cサイトです。商品の販売はもちろん、製品の開発秘話、プロの料理人によるレシピやフードペアリング情報、ユーザーが投稿したお薦めレシピやSNS投稿、レビューなどを通じ、ユーザーの食に関する好奇心を満たし、新しいおいしさとの出会いを継続的にサポートすることを目的として作られました。
もともと、食品やサプリメント、化粧品などの味の素製品を扱うECサイトは、「味の素ダイレクト」として既に存在していました。ですが、味の素ではよりターゲットニーズに合うものをしっかりとお届けしたい、「ECで買う必然性」をもっとプラスしたいという課題をかねてから抱えていらっしゃいました。また、「必要だから買う」といった形のコミュニケーションがほとんどで、どうすれば長くファンになってもらえるか、という点も課題のポイントでした。
株式会社電通デジタル 堀田 顕人氏佐々木:こうした課題は、大企業のECサイトではよく見られるケースです。売り上げを確保することが最優先ではあるのですが、「本当にこれだけでいいのか?」と考える企業はきっと少なくないのではないでしょうか。そこで、「GOOOD GOOOD TABLE」というD2Cサイトを制作することになりました。
堀田:このサイトは、X世代にあたる40代から50代前半の方をメインターゲットとしています。子育てが一段落して、もう少し味にこだわったものを食べたい、と思い始める人が含まれる層です。ただし「こだわる」と言っても、あまり手間を掛け過ぎずにできるもの、ちょっとした一手間でこだわりの味が楽しめるものを商品として取り扱っています。やはりターゲットニーズを踏まえた商品構成は重要だと思っています。
いずれは試食会のような、お客さまの声を直接、商品開発に生かす取り組みも進めていくつもりです。なるべくお客さまに中に入ってもらい、実際の活動としても継続的なお付き合いができる場にしたいと考えています。
Q.既存の「味の素ダイレクト」をリニューアルした、ということになるのでしょうか。
堀田:いえ、「味の素ダイレクト」は残したまま、そこでできていなかったことを小規模から始めた、ということです。将来的には「GOOOD GOOOD TABLE」で取り組んだことが、「味の素ダイレクト」に影響を与えることもあるでしょうし、より長期的な視点では、「ECサイトの在り方をどうするのか?」といったことを考えるきっかけになるとも思います。現時点では、2つのサイトが共存して運営されています。
ユーザーを巻き込む仕組みを作る難しさ
Q.お2人の役割分担についてもお聞かせください。
堀田:私はプロジェクトマネージャーとして全体の予算やスケジュールを見つつ、どちらかと言えばよりクライアント企業さまサイドに近いところで、プロジェクト全体のマネジメントをしています。
佐々木:私はディレクターとしてEC全体を管理しています。どういうコミュニケーション戦略を描き、実際どのように運用すればいいのか、クライアント企業さまと並走しながらコンサルティングさせていただくという役割です。取材やライティング、撮影などコンテンツ制作は、外部のパートナー企業や電通のクリエーティブチームが担当しています。
Q.2023年1月のローンチから約半年経ちましたが、手応えはいかがですか?
堀田:まだ構想したこと全てができているわけではなく、1つずつトライしながら検証している段階ですが、アンケートなどを通して利用者の声は少しずつ上がってきています。
株式会社電通デジタル 佐々木 大介氏佐々木:デザインはユーザーに評価いただいていると受け止めています。「おしゃれなデザインでとてもワクワクした」「鮮やかで見やすい」「どれもおいしそう」等、見た目の世界観は好評をいただいています。レシピやコンテンツに関しても「どれもできそうだし、商品に対してより興味が湧きました」「参考にしたい」といった肯定的なフィードバックが多いです。
メール配信も実施していますが、どのメールも目標より開封率が高く、情報へのマッチ度は非常に高いです。メッセージアプリでの友達追加も多く、ユーザーとのつながりに関しては順調に達成できています。その結果として、食品通販系で最も厳しいと言われているリピートに関しても、対目標より実績が上回ってきている状態で、今後さらに上を目指していけそうです。
こうして実際にファンの目が集まってきているので、今後はファンの方たちにSNSで発信してもらうとか、口コミレビューを書いてもらうとか、あるいは、そういった人たちにもっと積極的に商品開発に関わっていただくとか、より深くファンの方と関わり、一緒に作って盛り上げていく、そんなフェーズに入っていくことになるのではと考えています。
商品を並べて売るだけでなく、より長いスパンのコミュニケーションを
Q.自社ECとはどうあるべきなのか、少し詳しく聞かせてください。設計のコツも含めてどうお考えですか?
堀田:自社ECとは、単にものを売る場所ではなく、その前後を含めた長いスパンのコミュニケーションができる環境だと思っています。誰に、どのように商品や企業の魅力を伝え、商品を買っていただいた後どのようにお付き合いいただくのか。そうした一連の流れ全部を含めたコミュニケーションの場なので、より長いスパンで見る必要があると考えています。
佐々木:今回で言えば、自社ECとはいえやはりD2Cサイトなので、味の素として考えていることやお伝えしたいことがお客さまに伝わるかどうか、つまり世界観をしっかり共感していただけるかどうかを重要視しています。たとえば、トップページでサイトのコンセプトをきちんと伝えたり、ある程度余白のあるデザインにしたり、シズル感を大事にしていたり。ライフスタイルの提案サイトでもあるので、記事コンテンツでは商品のアレンジレシピや、ターゲットに好まれそうなレシピを紹介しています。全体として味の素のD2Cサイトとしてふさわしいコミュニケーションができているか、を強く意識しました。
近年注目されるD2Cサイト。取り組むにあたって重要な視点は、長いスパンでユーザーとコミュニケーションを取り、共感される世界観を具体的に示すことだと言えるかもしれません。後編では引き続きD2Cサイトの立ち上げ・運営について掘り下げていきます。
電通グループではさまざまなD2Cサイトを設計・運営しており、ECサイトに関する知見や技術も有しています。D2CサイトやECサイトの活用について知りたい企業の方は、ぜひお気軽にCONTACTよりお問い合わせください。
https://transformation-showcase.com/articles/402/index.html
※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。