今注目のサステナビリティビジネスに関する、最新の技術やソリューションはどのようなものか。株式会社 電通において、企業のサステナブルなビジネス創造をサポートする専門組織「サステナビリティコンサルティング室」のメンバーが、次世代のオピニオンリーダーにお話を伺う本シリーズ。第4回は、気候科学を専門とするベンチャー企業の株式会社Gaia Vision 代表取締役 北祐樹氏と共同創業者の出本哲氏に、サステナビリティコンサルティング室の有馬昂志氏がインタビューしました。前後編の2回にわたり、お届けします。
気候変動によるリスクを経営者目線で分析
有馬:近年、台風や豪雨、それによる洪水、猛暑といった気象災害や異常気象に実際に遭遇したり、ニュースなどで見聞きしたりする機会が増えています。Gaia Visionさんは、気候変動による自然災害リスクを軽減するために、最先端のテクノロジーを活用したソリューションを提供しているということで、今注目のスタートアップ企業ではないかと思います。まずは、Gaia Visionさんの具体的な事業内容や研究開発をされている技術について、教えていただけますか。
出本:私たちは東京大学発のスタートアップで、気候変動・洪水シミュレーション技術を用いたリスク分析プラットフォームを企業などに提供しています。究極的には、気候変動による災害リスクを少しでも抑制するのが目標です。例えば、昨今はさまざまな企業がCO2排出量を減らす努力をしていますが、気候科学的にいえば排出量がゼロにならない限りどうしても気温は上がってしまいます。その間も、大規模な自然災害は起こり得るので、リスクを下げるための取り組みが重要になってくるのです。
最近では、ビジネスにおいても、気候変動による影響を自社の経営戦略に織り込む流れが、国際的に大きくなっています。2015年には、主要国の金融関連省庁や中央銀行で構成される金融安定理事会(FSB)によって、「TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)」が設立されました。そこでは、企業は気候変動によるリスクや戦略などについて開示することが推奨されています。すなわち、企業が自分たち自身で気候変動に対するリスク管理を行うことが求められているのですが、各企業単体でリスクを評価していくことや効果的な対策を取ることが難しいケースもあります。私たちは、利用しやすいリスク評価ツールの開発や、専門的な知見を生かした対策検討や情報開示の支援を行っています。
最近では、ビジネスにおいても、気候変動による影響を自社の経営戦略に織り込む流れが、国際的に大きくなっています。2015年には、主要国の金融関連省庁や中央銀行で構成される金融安定理事会(FSB)によって、「TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)」が設立されました。そこでは、企業は気候変動によるリスクや戦略などについて開示することが推奨されています。すなわち、企業が自分たち自身で気候変動に対するリスク管理を行うことが求められているのですが、各企業単体でリスクを評価していくことや効果的な対策を取ることが難しいケースもあります。私たちは、利用しやすいリスク評価ツールの開発や、専門的な知見を生かした対策検討や情報開示の支援を行っています。

有馬:どのような技術を用いて、リスク評価をしているのでしょうか?
出本:コア技術として、東大で研究をしている世界最先端の洪水シミュレーション技術があります。大規模な洪水が起きた場合、どのあたりまでがどのくらい浸水するのかを高精度かつスピーディーに、広域にわたって予測します。自治体のハザードマップとの違いは、将来のリスク評価ができるという点です。今後、温暖化が進んだら、どれだけ洪水被害の範囲が広がって、リスクが上がるのかということも定量的に出せるようになっています。また、もう1つ大きな違いとして、日本だけでなくグローバルに対応しているので、工場などの海外拠点の分析も可能です。
「財務影響評価」という機能で、リスクを金額換算することもできます。工場の生産高や資産高といったデータを入力することで、リスクを金額ベースで算出します。企業にとってどれくらい重要な拠点なのかも踏まえたリスク評価が可能になっています。経営者の方にとっては、「洪水の被害は何メートルです」と言われるより、「被害額は何百億円です」と言われた方が、ピンとくると思うんです。
「財務影響評価」という機能で、リスクを金額換算することもできます。工場の生産高や資産高といったデータを入力することで、リスクを金額ベースで算出します。企業にとってどれくらい重要な拠点なのかも踏まえたリスク評価が可能になっています。経営者の方にとっては、「洪水の被害は何メートルです」と言われるより、「被害額は何百億円です」と言われた方が、ピンとくると思うんです。
有馬:サステナビリティの推進には「自分ごと化」が大事な要素だと思いますが、金額換算されると企業経営者の方にとっても、より気候変動が「自分ごと化」されますね。リスク評価のためだけでなく、気候変動に対する意識変容を促すという点でも意義がありそうです。

研究者としての知見を生かし、社会の架け橋に
有馬:気候データについては、北さんが元々東大で研究されていたということですが、研究から会社設立に至る背景には、どのような思いがあったのでしょうか?
北:私は1992年生まれの現在31歳なのですが、小中学生のころ、地球温暖化や環境破壊が大きな問題となり始めて、子どもながらに「これは良くないな」と思うようになりました。そのうち、日本でも自然災害が多発するようになり、「災害を防いで美しい自然を守りたい」という強い気持ちが芽生え、災害研究の道へ。ただ、日本は台風などの自然災害が多いこともあり、気候の研究は既にかなり進んでいました。研究よりも、もっと現実的な災害対策に取り組みたいと考え、民間企業に就職し、自然災害のリスク分析などを行っていました。そうした中で、海外ではTCFDのような金融化ルールを用いて、研究者がビジネスでも活躍していると知り、私も自分の知識や研究成果によって、社会に貢献していきたいと考え、2021年9月にGaia Visionを立ち上げました。最新のデータや知見をプロダクトに反映させるために今も研究は続けていて、東大の生産技術研究所で特任研究員を務めています。

有馬:出本さんは14歳の時に、当時史上最年少で気象予報士の資格を取得され、大学卒業後は、戦略コンサルティングやAIスタートアップの経営などもされていたそうですね。どういった経緯で、Gaia Visionに加わったのでしょうか?
出本:北とは研究室も学年も少し違いますが、私も元々東大で気候変動をテーマにした研究をしていて、当時から関連したビジネスをやりたいという思いはありました。TCFDなどで気候変動がビジネスへのインパクトを持つようになり、マーケットトレンドになっているというのを感じていた頃、ちょうど北の起業を知り、一緒にやろうとジョインしました。
私は研究者とコンサルの経験から、金融やビジネスと気候変動をつなぐ役割というのは、非常に重要だと思っています。例えば、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のCOPのような国際的な会議の場でも資金の流れについての議論がありますが、気候科学の専門家から知見が加わることで、より良い仕組みができるのではないかと思うことがよくあります。金融やビジネスと気候変動の両方について、十分な知見があることには、大きな価値があると思っています。
私は研究者とコンサルの経験から、金融やビジネスと気候変動をつなぐ役割というのは、非常に重要だと思っています。例えば、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のCOPのような国際的な会議の場でも資金の流れについての議論がありますが、気候科学の専門家から知見が加わることで、より良い仕組みができるのではないかと思うことがよくあります。金融やビジネスと気候変動の両方について、十分な知見があることには、大きな価値があると思っています。
前編では、Gaia Visionの事業内容や技術についてお話を伺いました。また、自然災害を減らして、「美しい自然を守っていきたい」というGaia Vision設立にかける思いや、気候変動とビジネスのつながりの大切さについても語っていただきました。後編では、気候変動を中心とした日本のサステナビリティの現状や課題、サステナブルな事業に取り組む民間企業へのアドバイスなどにも触れていきます。
TCFDによるルールづくりなどによって、日本でも多くの企業で気候変動によるリスク管理への意識が高まってきました。気候変動をはじめ、企業のサステナビリティに関する取り組みについて課題をお持ちの方や興味を持たれた方は、お気軽にCONTACTよりお問い合わせください。