「ゼブラ企業」とは、企業として利益を上げながら、より良い社会づくりに寄与することを目指して事業を展開する企業のことです。近年、こうした企業が増えてきている背景を基本的な部分から解説するとともに、ゼブラ企業に限らず、社会貢献と利益追求の両立を目指すためのポイントについても考えてみましょう。
「ゼブラ企業」は社会貢献と利益追求の両立を目指す

ゼブラ企業は、社会課題の解決と、持続可能な経営との両立を目指す企業のことです。以前は短期間で莫大な利益を上げ、急拡大する「ユニコーン企業」と呼ばれるスタートアップが世間の注目を集めてきました。企業にとって自社のビジネスを拡大させていこうとするのは当然のことですが、利益追求に偏ってしまうことで問題が生じることもあります。そうした中で、ユニコーン企業が無条件で称賛されるような社会的流れに危機感を覚え、アメリカの4人の女性起業家が2017年に提唱したのが「ゼブラ企業」です。ゼブラ企業のコミュニティ「Zebras Unite」は世界各国で展開され、日本でも2019年に「Tokyo Zebras Unite」が設立されました。
ゼブラ企業は、集団や群れとしての助け合いや共存を大切にすることを特徴とし、自社の利益だけでなく、社会貢献や持続可能な範囲での成長を重視しています。「企業利益」と「社会貢献」という、相反する2つの課題を両立させることから白と黒を併せ持つ「ゼブラ(シマウマ)」にたとえられました。
ユニコーン企業は自社の利益を追求し急成長する
ゼブラ企業はユニコーン企業に対抗する新しい概念として生まれたものですが、そもそもユニコーン企業とは、2013年にアメリカのベンチャーキャピタリストであるアイリーン・リー氏が発案した呼び方で、10億ドル以上の価値を持つなど、急成長を遂げたベンチャー企業を、その希少性の高さから幻獣に例えて表現したものです。当時はユニコーン企業と呼ばれる企業はわずかでしたが、2021年10月にアメリカの調査会社CBインサイツが発表したデータでは、世界のユニコーン企業数はこれまでに800社以上に達したとされています。
一般的には「創業10年以内」「評価額10億ドル以上」「未上場」という条件を満たした企業を指すユニコーン企業。評価額100億ドル以上の企業を「デカコーン企業」、1,000億ドル以上の企業を「ヘクトコーン企業」と呼ぶ場合もあります。ユニコーン企業が利益を追求し、急速に事業を拡大させるのに対し、社会に対して企業が果たす役割を慎重に見つめ、持続的に繁栄していこうという考え方から誕生したのがゼブラ企業です。
ユニコーン企業は基本的に独占・寡占を目指し、事業規模を拡大するためにさまざまな手段を講じますが、ゼブラ企業は他社と競合するよりも、顧客や従業員、株主といったステークホルダーと自社が得た利益や資源を共有することを重視しています。まるでゼブラが群れをつくって暮らすように、お互いに助け合い・共存する存在。「相利共生」を目指すそのありかたも、ゼブラ企業と呼ばれる理由となっています。
国内外の「ゼブラ企業」が目指す、新しいビジネスの形

それでは、ゼブラ企業のビジネスとは実際にどのようなものなのでしょうか。
クリエイターを支援するプラットフォームを運営
例えば、海外でゼブラ企業の代表例と言われているクラウドファンディングの運営会社は、動画製作者やミュージシャンなどのクリエイターを支援する人を集め、投げ銭を受け取れるようにすることで、クリエイターが自由に創作活動を行うことができる仕組みをつくり上げています。
途上国の魅力を発信するアパレル・雑貨の販売
日本では、途上国の発展を叶えるため、現地の工場で製造したアパレル・雑貨を販売している企業があります。現地で雇用を生むだけでなく、その国・地域にあった素材や生産方法を最大限尊重したものづくりを目指すことで、途上国の魅力を発信しています。
ウニを有効活用することで環境保全と地域の発展を目指す
海の環境保全と、地域の経済発展を同時に実現しようとする日本企業もあります。海藻を食い荒らしてしまう痩せ細ったウニを蓄養し、高級食材として活用することで、海の生態系を健全に保つだけでなく、地域の漁業や経済発展にも貢献しています。
社会課題の解決を目指す起業家のサポート
貧困や環境問題などの社会課題の解決を目指すソーシャルビジネスに取り組む企業は、「ソーシャルビジネスで世界を変える」をテーマとし、環境問題、差別や偏見、貧困など世界のあらゆる問題を解決するために奔走する起業家のサポートをしています。さらに、自然エネルギーを使って事業を運営したり、再生パソコンを使用したりするなど、地球温暖化への取り組みを積極的に行っています。
これらの企業に共通するのは、社会課題の解決を目指しながらも、寄付などに頼るのではなく、持続可能なビジネスとして成立させ、利益を生み出しているという点です。また、短期的な売り上げアップのために安易に流行に乗ったり、社会の流れに振り回されたりするのではなく、事業が社会にどのような影響を与えるのか、じっくりと見つめ、長期的な視野に立って商品・サービスを開発していくことができます。さらには、自社の利益を追求するだけではなく、他社や地域住民などとコラボレーションすることで新た価値を生み、その姿勢が顧客や株主などからの評価につながっています。
猛スピードで突き進むユニコーンが脚光を浴びがちですが、群れで暮らすゼブラだからこそ、共生し、お互いの持つスキルや資源を生かして新たなビジネスを創出することも可能です。今後も、さまざまな分野でゼブラ企業の存在感が増していくことでしょう。
企業に社会貢献が求められるようになった今、ゼブラ企業への注目度が高まっている
ゼブラ企業が注目されるようになった背景の1つには、近年SDGsをはじめ、社会の持続的な発展を求める声が高まっていることがあるでしょう。企業に対しても、単に便利な商品・サービスを送り出すことだけでなく、社会に貢献する役割を求める傾向が強くなっています。実際に、企業の理念や社会に対する姿勢を商品選びの基準にするという消費者も増えてきていると言われています。また、企業の財務状況だけではなく、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮しているかどうかも重視して行う投資活動「ESG投資」も広がっています。
こうした状況を踏まえると、ゼブラ企業に限らず、あらゆるビジネスにおいて、事業規模の拡大や経済的なリターンだけを求めるのではなく、どうしたら事業を通して社会に貢献できるか、関係者との相利共生ができるかを考えていく必要があるのではないでしょうか。ゼブラ企業的な考え方・経営スタイルは今後ますます注目されていくことでしょう。
新型コロナウイルス感染症拡大や度重なる自然災害などの影響もあり、世界中でこれまでの価値観や常識が見直されています。そんな中で、自分たちの事業が目指しているものは何か、自分たちが担うべき社会的な使命や与えたい影響は何か、改めて考えていく必要があるのかもしれません。さまざまな社会課題と向き合い、企業の立場から実践しているゼブラ企業の理念やビジネスモデルは、それを考える糸口になるでしょう。
企業にとって、自社の利益を追求することが重要であることは間違いありませんが、ゼブラ企業のような社会に対する姿勢や共存・共生という考え方は、今後さまざまな分野で求められていくことが予想されます。ゼブラ企業の取り組みはそのヒントになるかもしれません。