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2024/01/25

「ブルーカーボン」で地球沸騰化に対策を。人工礁「リーフボール」が持つ可能性とは(前編)

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環境破壊とそれに伴う地球温暖化は、いまや世界規模ですぐにでも対応しなければならない課題となっています。2023年7月の世界の平均気温が観測史上最高を記録したことから、もはや地球温暖化(Global Warming)ではなく「地球沸騰化(Global Boiling)」とまで言われるようになりました。
世界の取り組みに倣い、日本でもカーボンニュートラルのためのさまざまな取り組みが行われています。その中でも注目されているのが、海洋生態系によって炭素を取り込んでいく「ブルーカーボン」です。地球温暖化対策と海の豊かさを保全することを同時に行える対策として、世界的に関心が高まっています。

Transformation SHOWCASEでは、この「ブルーカーボン」に注目。今回、特別企画として、ブルーカーボン領域において大きな効果が期待される、人工礁「リーフボール」の普及拡大に尽力している方々、そしてSDGsに積極的に取り組む自治体の担当者に話を伺いました。第1回は、長崎市でリーフボールの普及活動を行っている株式会社朝日テックの代表取締役 池田修氏の元を訪問。聞き手は、株式会社 電通でカーボンニュートラルやブルーカーボン領域に取り組んでいる藤孝司氏です。前後編にわたってお届けします。

サンゴ礁復活の救世主「リーフボール」との出会い

藤:池田さんは、長崎でリーフボールを扱うようになる前は、長い間アメリカでお仕事をしていた、と伺ったことがあります。そもそも池田さんがリーフボールと出会ったきっかけは、どのようなものなのでしょうか?
株式会社朝日テック 池田修氏
池田:私はもともと、コンピューターに関する末端機器を輸出する商社に勤めていました。その関係で26歳の時にニューヨークに赴任し、結果的にそのまま38年間、ニューヨークに住んで仕事をしていました。赴任して5年後に現地法人を立ち上げ、そこの代表になって仕事を続け、20年目に独立。その時に立ち上げたのが風力発電の会社で、「垂直軸型」といわれる、いわゆる縦型の風車を取り扱っていました。

いろんな仕事を通じて、国連にも関わるようになっていました。ニューヨーク国連本部に「日本の平和の鐘」というのがあるのを知っていますか?この鐘は、まだ日本が国連に加盟する前の1954年に、日本国連協会から寄贈されたものです。そのきっかけは、元愛媛県宇和島市市長の中川千代治さんという方が、「国を越え宗教の違いを越えて、平和を願う世界の人々のコインを入れた平和の鐘を造りたい」という思いを当時の国連加盟国に訴えたこと。趣旨に賛同した65カ国の代表者と、当時のローマ法王からコインを集め、高松市の多田鋳造所の協力で製造されたそうです。今でもこの鐘は、春分の日と9月21日の国際平和デーに合わせて、国連の開催時に鳴らされています。このような活動に私もボランティアのような形で関わっていて、国連の方々ともさまざまなつながりがありました。

国連でボランティア的にいろんな活動をする中で、リーフボールに出会ったのは2003年くらいだったかと記憶しています。「ブルーカーボン」という言葉は、2009年に国連環境計画(UNEP)が初めて作り出した言葉だと言われていますが、そのずっと前から、当時既にアメリカでは、サンゴ礁が失われつつあることが大きな問題となっていました。サンゴは二酸化炭素を吸収して光合成を行い、多くの酸素を生み出してくれるだけでなく、多くの魚の産卵場や生活の場にもなっていますし、地震による高波や津波を止める働きがあるとも言われています。ですから、サンゴ礁が絶滅などしたらとんでもないことになる、ということで、サンゴ礁を復活させるための手段として、アメリカの「リーフボール財団」が開発したのがリーフボールです。

アメリカから地元・長崎にリーフボールを「輸入」

藤:リーフボールとは、具体的にどのようなものですか?
池田:初めてリーフボールを見た時、「これはすごい」と思いました。まず何よりも特徴的なのがこの形です。横と上に穴が空いていますが、これによって大きな波が来ても上に水が逃げていく。ですから、そのまま砂地に置いても流されることがありません。さらに、このリーフボールはコンクリートでできているのですが、コンクリートの問題は、水酸化カルシウムでできているため、長いこと海に置いておくと、生物が生息するのに適していない強いアルカリ性の水が出ていってしまう。しかしリーフボール財団は、強アルカリ水の出ないコンクリートを開発することに成功していました。他にも、サンゴが付きやすいような表面加工もされており、とにかく技術が優れていると驚きました。そして実際にこれを使うことで、サンゴ礁が復活している例が各地で見られていたのです。ちなみに、これらの成果から、リーフボール財団は、2020年に「持続可能性のノーベル賞」とも言われる「Katerva Award(カテラヴァ賞)」を、エネルギー・環境部門で受賞しています。

「これはいつか自分でもリーフボールを取り扱いたい」と思い、財団と話をして技術契約を交わし、「リーフボールジャパン」を商標登録しました。その後、縁あって故郷の長崎に帰ってくることになり、本格的にリーフボールの展開に取り組み始めたのが2013年になります。
藤:なぜ、故郷の長崎に戻っていらっしゃったのでしょう?
池田:もともと私の実家は小さな造船所で、船の部品などをつくる工場をやっていたのですが、私の兄が会社を継いでいました。しかし、その兄が病気になってしまい、私が会社を引き継ぐことになったのです。故郷に戻ってきて、最初は造船関係の仕事を続けていたのですが、長崎でも海藻が少なくなり、元に戻らなくなる「磯焼け」が大きな問題になっている、昔のように魚介類が取れず、漁師が困っている、という話を耳にしました。なんとか藻場を取り戻し、昔の豊かな海を取り戻したい。そこで、造船関係の事業は全てやめ、「リーフボール1本でやっていこう」と決意したのです。

 


 

地球温暖化対策として期待が高まる「リーフボール」。前編では、朝日テックの池田氏がアメリカでリーフボールに出会い、地元・長崎で事業を展開するまでのストーリーを伺いました。後編では、日本での普及活動についてのインタビューと、朝日テック本社工場のレポートをお届けします。

ビジネスにサステナビリティの視点が求められる昨今、自社の事業が環境にどのような影響を与えるのか、あらためて見つめ直すことは重要です。サステナビリティにまつわる企業変革や事業変革に課題を感じている方は、CONTACTよりお気軽にお問い合わせください。

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株式会社 電通

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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