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2025/02/14

5万人の気候危機インサイトから考える、今後日本が起こすべきアクションとは(後編)

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株式会社 電通では、dentsu Japan(国内電通グループ)でサステナビリティに関するプロジェクトを推進する組織「dentsu carbon neutral solutions」を調査主体として、「カーボンニュートラルに関する生活者調査」を定期的に実施しています。

本記事では第14回の調査結果について、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり氏、一般社団法人SWiTCH代表理事の佐座マナ氏、株式会社 電通グループの荒木丈志氏が語り合います。後編では、2024年11月にアゼルバイジャンで開催された「COP29」(国連気候変動枠組条約第29回締約国会議)での考察を基に今後の課題について議論を深めました。

「COP29」で実感した気候危機の切迫感

荒木:私たち3人は、「COP29」を現地で視察してきました。各国の参加者と対話し、新たな気付きはありましたか?
佐座:“適応”(気候変動の影響による被害を回避・軽減させる対策)という単語が頻出していたのが印象的でした。前回までは気候変動を緩和するための対策が主な議題でしたが、自然災害の影響を直接受けている国の方々からすると、もはや“緩和”(気候変動の原因となる温室効果ガス排出量の削減につながる施策)では対策が間に合いません。科学者からも「都市部がどのように気候変動に適応するか」という話を多く聞きましたし、各国の若手リーダーもこれまで以上に危機感を表明していました。例えばパキスタンでは、ヒマラヤ山脈の氷河が解け、雨が降っていないのに洪水が起きています。イラクの若者はチグリス川の干ばつで漁師の父親が仕事を失ったため、引っ越し先で新たな生活を始めなければならないと話していました。既に、この状況(気候変動の影響)の責任を誰が負うべきかについての議論が始まっていますし、途上国からは金銭的な支援を求める声も上がっています。日本企業がCOPに積極的に参加することで、気候変動対策における国際社会と日本の認識の違いを理解し、また日本に対する国際社会からの期待をより具体的に把握できると思います。
高村:「COP29」では、途上国の気候変動対策を支援する気候資金の長期目標が重要議題でした。先進国は公的資金を含む幅広い資金源を通じて、途上国に向けた資金拠出の目標額を2035年までに少なくとも年3,000億米ドルに増加させることが合意されました。その背景には、佐座さんがおっしゃったように、気候変動の悪影響に対する強い懸念があります。途上国や、先住人民や女性、若者といった、より影響を受けやすいグループから特に強い声が上がっていました。

また、「カーボンニュートラルに関する生活者調査」に関連して、COPに参加することは私たちの認識や行動を再考する良いきっかけになるとも感じました。COPには国も立場も違う人たちが集まります。日本はインフラがしっかりしていて、気候変動の影響を受けても被害はある程度抑えられますが、途上国や社会的に脆弱な立場にある人たちは、影響へのレジリエンスを確保できません。こうした実態を見聞きするためにも、COPは重要な場だと思います。
東京大学未来ビジョン研究センター 高村 ゆかり氏

2035年目標に向けて、官民の議論が必要

荒木:「COP29」を受けた日本政府の動きを、高村先生はどうご覧になっていますか?
高村:今、各国が2035年目標の提出に向けて準備を進めています。既にイギリスは温室効果ガスの排出量を1990年比で81%削減、ブラジルは2005年比で59~67%削減、UAEが2019年比で47%削減という目標を提示しました。

日本も、まだ目標値を策定中の各国も「1.5℃目標」との整合性を重視しています。ただ、「1.5℃目標」を達成しようとすると、2050年頃に排出を全体としてゼロにするだけでなく、2030年頃までの短期でも温室効果ガス排出量を大幅に削減しなければなりません。

日本政府は、2013年度比で、2035年度に60%削減、2040年度に73%削減を目標とすることを提案していますが、直近では2013年度比23%の削減にとどまります。2030年度目標(46-50%削減)をいかに着実に達成するか、2030年度よりも先のさらなる削減をどう実現するのか。本格的に政策を検討しなければ目標は絵に描いた餅になってしまいます。目標に向けてにじり寄っていく具体的な政策・措置について、国も市民社会も積極的に議論を進めることが重要と考えます。
佐座:国による政策立案後の地域への継続的支援も不可欠だと思います。自治体からは、具体的な実行支援がないまま数値目標だけが示されるケースが多いとの声が聞かれます。脱炭素化目標の達成には、地域社会の主体的な参画と、企業数の99%以上を占める中小企業への実効性のある支援体制の構築が重要な課題だと思います。
一般社団法人SWiTCH 佐座 マナ氏

「1.5℃目標」の達成には、中小企業と地方自治体の連携が不可欠

荒木:“地域”“中小企業”というキーワードが上がりましたが、この2つを動かすドライバーは何だと思いますか?
高村:2020年に日本政府がカーボンニュートラルの目標を表明したことを契機に、気候変動問題への対応は、企業の経営課題に位置付けられるようになりました。上場企業の場合、投資家・株主も動向を注視しています。自社だけでなく、サプライチェーン・バリューチェーンの温室効果ガス排出量対策も求められています。気候変動対策に対する企業の認識は大きく変わったと思います。

その影響は中小企業にも及んでいます。特に大手企業のサプライチェーン・バリューチェーン対策の影響で、少なからぬ中小企業が排出量の報告や削減対策を求められるようになっています。中小企業からは、人手も資金も不足しており、脱炭素に取り組まねばならないと認識しつつも、どうやって進めていいかも分からないという声も伺っています。

また、大都市圏以外の地域では、気候変動問題に対する認知度が低くなる傾向にあります。大手企業が先導し、サプライヤーである中小企業とどのように連携していくか、自治体や地域の金融機関と共にどのように取り組みを進めていくかが課題になっています。国のGX(グリーントランスフォーメーション)政策も、脱炭素に取り組む地域や中小企業への積極的支援を織り込むべきだと思います。
佐座:高村先生がおっしゃったことは、本当に重要だと思います。自治体には地域性を生かして頑張っていただきたいですね。また、企業側にも力強いメッセージを発信していただきたいと思っています。今後、新たな働き手となる若い世代が関心を持つよう、企業側にも自社の取り組みや、環境課題に関する人材のアピールをしていただけたらなと思います。
荒木:私たちが行う「カーボンニュートラルに関する生活者調査」も、さらに多角的にデータを取り、情報発信を通して意識変革や行動変容に結び付けていきたいですね。
株式会社 電通グループ 荒木 丈志氏
高村:変化する国際情勢の中で、企業の方々から「今後脱炭素に向けた動きはどうなるのか」と質問を受けることがあります。「1.5℃目標」に向けた対策が容易に後戻りするとは考えられません。金融機関を含め企業の経営課題に気候変動対策が組み込まれてきていますし、特に対策を先導する企業は、脱炭素を新たなビジネスを創出・展開するチャンスと位置付けています。むしろ、情勢の変化の中でも「企業としていかに対応するのか」、中長期的な視点を持った企業の経営と戦略が各社に問われていると考えます。カーボンニュートラルを実際に推進・実現できるのは企業や自治体です。そういう認識を持って取り組みを進めていただけたらと思います。

 


 

再生エネルギーで電力を賄うデータセンターを誘致した自治体もあり、企業と自治体が連携して気候変動対策に取り組む事例も注目されています。大企業に限らず、地域や中小企業とも連携した包括的な施策が、今後ますます求められるのではないでしょうか。

電通では、引き続き「カーボンニュートラルに関する生活者調査」を実施し、行動変容に向けた情報発信を行っていきます。カーボンニュートラル推進に課題をお持ちの企業の方は、ぜひCONTACTからお問い合わせください。

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株式会社 電通グループ

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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