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2023/04/07

社会・環境貢献のその先へ。世界最大規模のテクノロジーショー「CES 2023」レポート(後編)

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2023年1月5~8日、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大規模のテクノロジーショー「CES(シーイーエス)2023」。今年のテーマは「Human Security for all(人間の安全保障)」。基調講演には大手農機メーカー・ジョンディア社のCEOが登壇し、「環境貢献と事業成長の両立」をアピールしました。

2011年以降、毎年CESを定点観測してきた株式会社 電通 未来事業創研ファウンダーの吉田健太郎氏は、今年の「CES」をどう見たのでしょうか。後編では、吉田氏が注目したテック領域や、マーケターへのアドバイスをお届けします。

注目はメディカルソリューションとフードテック

Q.吉田さんが「CES 2023」で気になったテクノロジーや先見性を感じた製品・サービスはありますか?

吉田:私が興味を引かれたのは、メディカル系のソリューションデバイスです。昨年の「CES 2022」の話になりますが、アメリカの老舗ヘルステック企業・アボット社が基調講演で「ヘルスケアの民主化」をアピールしました。例えば、健康診断で血液検査を受けると、いろいろな数値が出ますよね。判定結果を見れば基準範囲か異常値かどうかは分かりますが、大半の人はそれらの数字が何を意味するかまでは分からないのではないでしょうか。そこでアボット社が提案したのが、データのトラッキングの重要性です。大事なのは、数値そのものではなく、自分の生体データに異常が生じたときに「いつもと違う状態だ」と知ること。それこそが「ヘルスケアの民主化」だと主張していました。

そのため、彼らのソリューションデバイスは、血糖値の変化がリアルタイムで分かるセンサーや、脂肪燃焼時に生成されるケトン体を測定して運動のパフォーマンスを管理するセンサーなど、ヘルスケアデータのトラッキングに主眼を置いています。このようなヘルステックは今年もアボット社に限らず大きく伸びていると感じました。しかも眉唾ものではなく、アメリカ食品医薬品局(FDA)が認証する機器もたくさんあるんです。特に面白かったのは、脳を刺激し腸に影響を与えるヘッドバンド。脳と腸は互いに影響を及ぼし合うため、脳に刺激を与えることで腸が活性化するんですね。例えばストレスで食欲がないときに、脳に電気信号を送ると食欲が湧いてくるそうです。こうした作用により健康と長寿を実現するヘッドバンドが、治療器具としてFDAの認証を得ているのですからすごいですよね。
株式会社 電通 吉田 健太郎氏
吉田:また、近年話題のフードテック領域でも、面白いテクノロジーが見られました。昨年、日本の飲料メーカーが電気信号によって減塩食品の塩味を増強させるスプーンなどのデバイスを開発しましたが、その進化形とも言える商品が出展されていました。塩分や糖分を控えめにしても、電気信号により舌で旨味を感じられるスプーンは非常に興味深かったですね。

食品で言うと、かつては培養肉や植物性の大豆で作った代替肉が数多く見られましたが、実用化段階に進んだせいか、近年は出展社数が減っています。今年目立ったのは、植物性ミルクに関するソリューションで、その中でも面白かったのは、植物性ミルクからアイスクリームやヨーグルトを作るテクノロジーです。植物性ミルクは、動物性ミルクに含まれるカゼイン(凝固するたんぱく質)が含まれていません。そのため、これまで植物性ミルクからはアイスクリームやヨーグルトなどが作れませんでした。そんな中、スタートアップ企業AFT社が、植物性ミルクから作ったソフトクリームを展示していたんです。彼らは植物性たんぱく質をカゼインのように替えるテクノロジーの開発に成功したんですね。こういった技術が世の中を変えるのではないかと期待しています。

ワクワクする未来を作る第一歩は、ビジョンの可視化

Q.今年の「CES」をご覧になった吉田さんから、企業のマーケターにアドバイスはありますか?「これからはこういう視点を持った方がいい」というお考えがあれば、お聞かせください。

吉田:私が「未来事業創研」という電通グループの横断組織を作ったことにも通じますが、まず「どんな未来をつくりたいか」をベースに事業を考えていただきたいです。企業で働く方は、「売り上げを〇%上げなければならない」「この製品をこれだけ売らなければならない」という役割を背負っていますよね。しかし、「何のために売るのか」「誰が喜ぶのか」という視点は意外と抜け落ちてしまうことがあります。

私はもともと理系のパソコンオタクですから、技術のもたらす価値を信じていますし、今はできないことも技術の力で大抵はできるようになると思っています。もちろんタイムマシンのように実現が難しいものもありますが、恐竜がいる時代に行きたいと思えばVRで行けるわけです。「叶えたいのはこういうことですよね」とクリエーティビティをもって変換すれば、ほとんどのことは実現できるんです。

だからこそ、まずは技術がどうこうではなく「自分はどんな人にどう喜んでもらいたいのか」を考えてほしい。それが具体的にイメージできれば、「こうすれば実現できますよ」と声を掛けてくれる人たちが必ず見つかります。「誰にどう喜んでほしいのか」という在るべき未来の姿を考えてほしいですね。

Q.今、吉田さんが所属している「未来事業創研」では、どういったプロジェクトを得意としているのでしょうか。

吉田:私の高校3年生の息子は、よく「昭和に生まれたかった」と言うんです。アンケート調査でも、日本や世界の将来、自分の将来を不安視する10代が多くを占めています。私自身はオタクでしたから、10代のころはパソコンの進化が楽しみで仕方がありませんでした。でも、今の10代は学習段階で社会や環境、経済について課題ばかり教えられます。そうなると、未来が良くなるなんて思えず期待を持てなくなってしまうこともあり得ます。その点に大きな問題があると感じています。

そこで私は「未来事業創研」をつくることで、あるべき未来を可視化したいと思いました。「本当は未来をどうしたいか」というビジョンを絵や映像で可視化すると、「ここはちょっと違うな」と、より具体的に考えられるようになっていきます。そして、絵や映像で未来像を明らかにしていくと、今度は「こんな未来をつくりたい」と多くの人と共有できるようになります。そうなると、今度は「確かにそれはいいね」と共感してくれる仲間ができ、目指す未来をつくるためにどうすればいいか具体的なアイデアが出てくるんです。例えば、「こういうテクノロジーを使えば、こういったことを実現できるんじゃないか」という提案もそうです。

つまり、皆さんが抱えるモヤモヤした思いを「こうしたい」という未来の形にビジュアライズして、実現に向けて手段をご提案したりプロデュースしたりするのが「未来事業創研」の役割です。ビジョンやパーパスの設定、ブランディングなども得意とする領域です。次世代のために、少しでもワクワクする未来をつくりたいという方は、ぜひお声掛けください。

 


 

2020年ごろから、社会や環境に資するテクノロジーの見本市へと大きく舵を切った「CES」。その背景には、もちろん2030年に向けたSDGs達成というミッションもありますが、テクノロジーによってより良い未来をつくりたいという企業の強い思いも感じられます。現代のテクノロジーがあれば、人間の発想力で可能性はさまざまに広がるでしょう。「どんな未来にしたいか」をぜひ想像してみてはいかがでしょうか。

吉田氏が立ち上げた電通グループの横断組織「未来事業総研」も、目指す未来の創出をバックアップするチームです。事業の変革、新規事業の創出を検討する企業の方は、ぜひCONTACTからお問い合わせください。

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株式会社 電通

※引用されたデータや状況、人物の所属・役職等は本記事執筆当時のものです。

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